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第四十八話「試験の時」

 ギルドの申請をするために、俺とレベッカさんは中央区にあるギルド協会に向かう事にした。ギルドの設立をするためにはギルド協会で申請をし、ギルドマスターとなる者の実力を測らなければならないのだとか。基準以上の力を持つ者以外はギルドを設立する事は出来ないらしい。


「ギルドの申請って結構手間が掛かるんですか?」

「そんな事は無い筈。一時間以内には終わると思うわ。自分自身の強さを証明して、ギルド名とギルドの活動拠点を伝えるだけだから」

「実力を測るのは、やはりギルドを乱立させないためなんですか?」

「そうね。マスター自身が戦闘や魔法研究等に精通していて、何らかの力でアドリオンに貢献出来ると判断された場合にのみ、ギルドマスターになる事が出来る」

「結構難しそうですね……」

「まぁ、中途半端な人間ではマスターになる事は不可能ね。マスター自身の専門性を評価して貰って、やっと活動が出来るという訳。ギルド設立後のクエストをアドリオンから頂く訳だから、ギルドの活動内容、加入者数や平均レベル、クエスト達成率等を考慮して、徐々に高難易度のクエストを頂けるという訳」

「ギルドがアドリオンの仕事を冒険者に斡旋する訳ですね」

「そう。だから、マスター自身が余裕をもってクエストを達成出来る力が無ければ、メンバーの実力を見極めてクエストを与える事は難しいわね。もし、ギルドマスターが魔物討伐の経験が浅かったら、凶悪な魔物の討伐を駆け出しの冒険者に依頼するというミスも起こりうる訳だから」

「マスター自身の経験が豊富じゃなければ、メンバーをクエストで死なせる可能性もあるという訳ですか」

「そうね。そのあたりは勿論マスターだけではなく、魔物討伐に精通した者を職員として雇用するのが一般的かもしれない。経験豊富な受付が居れば、メンバーに適切なクエストを受けて貰う事が出来るから」


 ギルドマスターと仲間が居るだけではギルドを拡大する事は難しいのだろうか。仲間に受付を頼むのも良いかもしれないが、それでは仲間達が訓練に費やす時間が減ってしまう。仲間以外にも頼れる人物を見つけて受付を任せるのも良いかもしれないな。


「ところで、レベッカさんはギルドに加入しているんですか?」

「いいえ。まだ一度もギルドに加入した事はないわ。アドリオンで生まれて、十五歳まで魔法の訓練を積み、それから国家魔術師に合格して国家魔術師になったから、実は一度も冒険者として活動をした事が無いの」

「そうだったんですね」

「国家魔術師試験に合格後は積極的に魔物討伐をする様になったわ。国家魔術師は活動拠点を自由に選択出来るのだけど、私は王国で最も魔物の襲撃回数が多い、王都アドリオンに決めたの」

「ファステンバーグ王国の国家魔術師だから、王国内の都市ならどこを拠点にしても良いんですよね」

「そういう事。大都市ほど魔物に狙われやすいから、戦闘に積極的な人はアドリオンを拠点にするみたいね。国家魔術師は比較的融通の利く職業だから、拠点に関しては自由なの。ただし、自分が拠点とする地域が魔物の襲撃を受けた場合、必ず戦闘に参加しなければならない。勿論、一般の衛兵で対処出来ない魔物に限るけどね。幻獣、もしくは聖獣が出現した際には、必ず招集されると思っていいわ」

「という事は、一度試験に合格しただけで、死ぬまで魔物討伐に強制参加しなければならないんですか?」

「そんな事はないわ。国家魔術師の称号は破棄する事も出来るから、強制ではないの。勿論、国家魔術師として戦闘に参加すれば、所属する地域から多額の報酬を頂けるから、わざわざ破棄する人は少ないみたいね。肉体が衰えて国家魔術師として魔物と戦う事が難しくなった場合は、勿論戦闘に参加する義務はない。六十歳を迎えた時に名誉国家魔術師の称号を受ける事が出来るの」


 それから詳しく国家魔術師について教えて貰うと、名誉国家魔術師になった時点で、地域の戦闘に参加する事が強制ではなくなる。魔物との戦闘を行うか否かは、自分の意思で選択出来るのだ。現在、アドリオンには二名の名誉国家魔術師が居るらしい。大抵の国家魔術師は、六十歳を迎える事もなく、魔物との戦闘で命を落とすのだとか。


 余程自分の力に自信が無ければ、国家魔術師の称号を持ち続ける事は止めた方が良いと、レベッカさんは言っている。一度称号を得て破棄しても、冒険者としての知名度が上がるから、それ以降は契約金の多いギルドで専属契約を結び、細々と活動した方が遥かに安全で、楽に稼げるらしい。


 一年でたったの五名しか得る事が出来ない、王国で最も合格が困難な称号を一度でも得る事が出来れば、基本的にお金に困る事は決してないのだとか。フェリックスさんの様に、自堕落な生活を送っている国家魔術師はアドリオンに彼一人しか居ないと聞いた。


「フェリックスは確かに強いんだけど、積極的じゃないのよ。酒場の経営を始めたのも、魔物討伐をせずにお金を稼ぐ方法を模索した結果なの。勿論、衛兵の力では太刀打ち出来ない魔物が出現した際には、我々国家魔術師は直ちに出動しなければならないけど……」

「だけど、酒場の経営はあまり上手くいかなかったんですね」

「きっと商才がなかったのね。そのあたりはヴィルヘルムの方が上手く出来そうだけど。ヴィルヘルムは人を魅了する力があるからね。きっと酒場でも宿屋でも上手く経営出来ると思うわ」

「そうですね。以前はヴェルナーの路上でパフォーマンスをしてお金を稼いでいたくらいですから」


 フェリックスさんは国家魔術師試験に合格後、すぐに酒場の経営を始め、半年で経営難になり、泣く泣く店を畳んだのだとか。それからは国家魔術師として出動した際に得たお金でお酒を飲み、酒場に引きこもる様な形で暮らしていたのだとか。


「ところで、ギルド名は考えた? 何も考えてないなら私が決めようか」

「全然思い浮かばないんです。良かったらレベッカさんが決めて下さい」

「それじゃ……ラサラスというのはどうかしら。私の父が運営していたギルドの名前よ」

「レベッカさんのお父さんはギルドマスターだったんですね」

「そう。私の父は冒険者だったの。二十代の頃に国家魔術師の試験に合格してから、すぐに冒険者ギルドを設立して、設立の翌年に国家魔術師の称号を破棄したの。知名度を得てからギルドを設立したから、アドリオンで加入者数が最も多いギルドに成長したのよ。父の死と共にギルドは解体したけど、伝説的な冒険者ギルドだった事は間違いないわ」

「レベッカさんが考えて下さった名前ですから、ギルド名はラサラスにしますね!」

「ええ。何だか嬉しいわ。父のギルドが復活するみたいで」


 レベッカさんが俺を見つめて上機嫌で微笑むと、町の男達がレベッカさんに色目を使っている事に気が付いた。二人で町を歩いていても、時折、無謀な男がレベッカさんを口説こうとするが、レベッカさんは相手のレベルを聞くや否や、『レベル百を超えたら考えてあげる』と言って断るのだ。果たしてアドリオンにレベル百を超える人間が何人居るだろうか。


「そろそろギルド協会よ。ちなみに、協会に入った時点から審査が始まっていると思いなさい。仲間のためにも、必ずギルド設立の許可を勝ち取るのよ」

「何だか緊張してきました……」


 それから暫く中央区を進むと、まるで小さな城の様な建物を見つけた。アドリオンにはファステンバーグ国王が暮らす城があるが、一般の人間は近づく事も出来ないらしい。


 二人の衛兵が入り口を守っており、衛兵はレベッカさんに気が付くと、深々と頭を下げた。やはりレベッカさんは衛兵からの信頼も厚いみたいだ。それから室内に入ると、天井が高く、白を基調とした美しい空間が広がっていた。


 受付に進むと、ギルドの申請をするために羊皮紙に名前とレベル、年齢、ギルド名と活動内容を書き込んだ。年齢の欄に十五歳と書いた時、受付の女性が吹き出しそうになった。俺があまりにも若いからだろう。怪訝そうな目で俺を見つめると、俺の背後に居るレベッカさんに気が付いて愕然とした表情を浮かべた。


「ローゼンベルグ様! 今日はわざわざギルド協会に起こし頂いてありがとうございます!」

「私の弟子がギルドの設立を希望していたので連れて来ました。国家魔術師、レベル百三十、レベッカ・フォン・ローゼンベルグが、剣鬼、クラウス・ベルンシュタインの推薦人になります。私は彼こそ最高の冒険者だと明言出来ます。会長に直接面会をお願いします」

「かしこまりました!」


 さっきまでは俺を馬鹿にした様な目で見ていたが、レベッカさんの存在に気が付いて急に態度を変えた、世の中には称号やレベルでしか相手を判断出来ない人間も多いのだな。


 暫くすると、白銀のメイルに身を包んだ白髪の男性が出てきた。年齢は五十代程だろうか、腰には木製の短い杖を差している。それからレベッカさんと硬い握手を交わすと、静かに俺を見つめた。


「私は国家魔術師のガブリエル・グラーフェだ。レベッカが推薦する人物が居ると聞いたからどんな者かと思えば、この魔力の感じは人間ではないな? お前は悪魔か? それにまだ歳も若いな。十五歳、クラウス・ベルンシュタイン。この名前は何処かで聞いた事があるな……」

「グラーフェさん。彼が噂の剣鬼ですよ。ゲイザーとゴブリンロードの討伐者です」

「幻獣討伐の剣鬼か。私もいつか会ってみたいと思っていたが、人間ですらないとは! こんな者にアドリオンを任せる事は出来ないな」


 随分攻撃的な言葉遣いだが、国家魔術師とはレベッカさんの様に親しみを持てる人物が多いという訳ではないのだな。俺が人間ではない事は自分が一番良く分かっている。それに、好きで悪魔になった訳ではない。デーモンに喰らいついた結果、悪魔の血を飲んで悪魔化したのだ。


「若き冒険者よ。お前に問う。もし、幻獣のサイクロプスが農村を襲撃したとする。そこには戦う力を持たない村人しか居ない。そんな状況で、赤子を抱いた女と、怪我をした少女がサイクロプスに追い詰められていた。お前は村の異変に気が付いて現場に急行し、サイクロプスの前で剣を抜いた。サイクロプスは、一人を差し出せば残りは助けると言っている。さて、お前ならどう答える?」

「俺の命を差し出します。俺ならサイクロプスを仕留める事が出来ますから」

「うむ。それではその言葉を証明してみせよ」


 瞬間、グラーフェさんが杖を引き抜くと、俺の足元には巨大な魔法陣が発生した。俺の意識は次第に遠のき、目の前が真っ白になった。次の瞬間、目の前にはまるでレーヴェの様な農村があった。


 ここは一体どこなんだ? 俺はグラーフェさんの魔法によってアドリオンよりも遥か遠い地域に飛ばされたのか。いや、もしかするとこれはグラーフェさんが作り出した幻影という可能性もある。兎に角、慎重に行動しなければならないな。


 瞬時にクレイモアを引き抜くと、遠くの方から爆発的な咆哮が聞こえた。この感じは幻影などではない。これは現実なんだ。魔物が農村を襲撃しているというグラーフェさんの言葉は事実だったんだ。心臓は大きく高鳴り、全身から汗が吹き出し、手は震え出した。戦う力を持たない者を守りながら、幻獣のサイクロプスを討伐しなければならない。普段なら仲間が居るが、今回はたった一人だ……。


 只ならぬ魔物の魔力に動揺しながらも、俺は全力で走り出した。木の柵に囲まれた閑静な村に入ると、そこには凄惨な光景が広がっていた。大勢の村人達が既に命を落とし、辺りには死体が散乱している。


 血の匂いを吸い込むと、俺の心臓は更に高鳴り、寒気を感じた。冒険者は俺しか居ない。この最悪な状況を、自分一人の力で乗り切らなければならないんだ……。

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