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第三十一話「冒険者達の未来」

 パーティーの生還と幻獣のゴブリンロード討伐を祝う宴は深夜まで続いた。俺はギルドの隅の席に座り、実家に向けて手紙を書く事にした。仲間と協力して幻獣のゴブリンロードに打ち勝った事、アーセナルの専属契約が終わるまではヴェルナーで冒険者を続ける事など。


 エルザの様子が知りたいが、俺はもう二度とレーヴェに戻る事はないだろう。故郷を失った悲しみはあるが、一介の村人が幻獣のデーモンを召喚したなどと考える、まるで思考停止したかの様な人間が暮らす村なんてまっぴら御免だ。


 俺は仲間達と生きてゆくのだ。今回の事件で、ティファニーもヴィルヘルムさんもバラックさんも、俺が命を預けられる程の大切な存在だと認識出来た。レーヴェで失ったものも多いが、ヴェルナーで得たものも多い。俺はこんな生活を求めていたのだ。


 剣と魔法で人生を切り開く。力さえ有れば認めて貰える。冒険者としての人生だ。俺はこれからもティファニーとヴィルヘルムさんと共に冒険者として活動を続けるだろう。


「手紙を書いているの?」

「ああ。実家にね」

「エルザちゃんい会いたくならない?」

「勿論会いたいよ。だけど俺はエルザに掛けられた死の呪いを解く手段を見つけるまでは、決してレーヴェには戻らない……」

「そうね。私も協力するから、一緒にエルザちゃんを救う方法を探しましょうね」

「ありがとう、ティファニー。これからも頼りにしているよ」

「どういたしまして。私はダンジョンでクラウスと過ごした時、決意した事があるの」

「決意……?」

「ええ。私、何が何でも国家魔術師になってみせる。冒険者として暮らすの。クラウスの契約期間が終わったら、王都アドリオンで暮らすのも楽しみだわ。良かったらクラウスも国家魔術師を目指してみない?」


 俺が国家魔術師か。冒険者としての人生を極めた者が試験を受け、年間に五人しか合格する事が出来ない。試験に合格した者は国家魔術師の称号を得て、ファステンバーグ王国の最高戦力となる。国ごとに国家魔術師試験の合格者数は異なるが、王都アドリオンで開催される国家魔術師は、ゼクレス大陸で最も合格者数が少なく、受験者数が多いと聞く。


 国家魔術師の称号を得て、民の生活を脅かす魔物が現れた際には、都市の最高戦力として戦地に赴く。そんな生き方も面白いかもしれないな。何より、通常の冒険者では討伐不可能な、高難易度のクエストを何度も受けられるのだ。剣と魔法の技術研くためには最高の職業とも言える。


 エルザに死の呪いを掛けた幻獣のデーモンの行方は分からない。手がかりが全くないのだ。しかし、国家魔術師になれば幻獣や聖獣の目撃情報等を優先的に知る事が出来る。国家魔術師を目指すのも良いかもしれないな……。


 次の国家魔術師試験は来年の二月一日。今から約九ヶ月間、徹底的に鍛え込めば、国家魔術師試験合格の可能性もあるかもしれない。


「面白そうだね。考えてみるよ」

「ええ。クラウスが一緒に受験してくれたら私もやる気が出るし。折角試験会場がある王都アドリオンで暮らすのだから、受験してみる価値はあると思うんだ」

「ヴィルヘルムさんもやっぱり国家魔術師を目指しているのかな」

「以前は目指していたと言っていたわね。私達二人が受験するなら、きっとヴィルヘルムさんも受験するんじゃないかな?」


 俺達がヴィルヘルムさんの話題を話していると、巨大なゴブレットを持ったヴィルヘルムさんが近づいてきた。


「宴だというのに、こんな隅っこで何をしているんだ。クラウスとティファニーが主役なんだから、こっちに来い!」

「そうですね。今日はとことん飲みましょう!」

「あの……ヴィルヘルムさん」

「どうした? ティファニー」

「私は来年の二月に国家魔術師試験を受けようと思うんですけど、ヴィルヘルムさんも良かったら一緒に受けませんか?」

「そうだな。俺もいつか話そうと思っていたが、ダンジョンで決意が固まったよ。俺は国家魔術師になる。剣鬼、クラウス・ベルンシュタインに追いつくためにも、更に魔法の腕を磨いてファステンバーグ王国の最高戦力になってみせる」

「やっぱりヴィルヘルムさんも国家魔術師を目指すんですね。それでは俺も受験します! 二人が受験するんですから、俺も一緒に試験を受けたいです。三人で国家魔術師になりましょう!」


 俺の言葉を聞いた冒険者達は大いに盛り上がり、俺は二人と熱い抱擁を交わした……。



 ゴブリンロードを討伐してから、俺達の生活は大きく変化した。アーセナルには近隣の地域からの魔物討伐の依頼が増え、ヴェルナーで最強のパーティーと言われている俺達三人が魔物討伐を行う。討伐の難易度が高ければ高いほど充実感を覚え、クエストの報酬も高くなる。


 俺達三人はクエストで得たお金で馬車を購入した。大型のウィンドホースという魔獣クラスの魔物が馬車を牽き、近隣の地域を回って毎日の様に魔物討伐を行っているのだ。王都アドリオンに向けて出発の準備を行いながらも、毎日忙しく働き続けた。


 今日は遂に専属契約の終了日。半年間で数え切れない程の魔物を討伐し、自分達の力で市民達、地域を守り続けたからか、俺達三人はますます自信も付き、王都アドリオンで新たな冒険者ギルドを設立するための資金や実力も整ったのだ。


 俺のレベルは六十まで上昇し、ヴィルヘルムさんは五十、ティファニーはレベル四十五まで上昇した。半年間で徹底的に剣と魔法を学び、討伐実績を積んだ俺達でも、今のままでは国家魔術師試験に合格出来るレベルではないのだ。更なる力を求めて王都アドリオンに向けて旅立つ。


 十月十一日。俺達は新たな生活や出会いに胸を高鳴らせ、ヴェルナーの市民やアーセナルの仲間達に祝福されながら、王都アドリオンを目指して馬車を走らせた……。

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