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第二十九話「三年越しの復讐」

 巨大迷路の遥か彼方で氷の魔法が炸裂した。氷の槍を対象に放つ攻撃魔法、アイスジャベリン。あの魔法は間違いなくヴィルヘルムさんだ。それから天井付近には巨大な光の球が浮かんでいる。この強烈な聖属性は忘れもしない。アーセナルのギルドマスター、グレゴール・バラックさんの魔法だろう。


 ティファニーと共に迷路を進むと、七体のファイアゴブリンを見つけた。よくもティファニーを襲い続けてくれたな。俺はロングソードを構えると、全力で地面を蹴った。瞬間、俺の体が制御不能の速度で空を切った。体があまりにも早く動くから、ファイアゴブリンの群れを通り過ぎてしまった。


 俺の下半身は大きな怪我を負う事で以前よりも逞しく成長を遂げたのか、移動速度が大幅に強化されている。それに、ティファニーは俺に風のエンチャントを掛けてくれているのか、体が羽根の様に軽い。暫く忘れていた戦闘の感覚を取り戻すべく、ロングソードを振り上げてファイアゴブリンの群れ切り掛かった。


 敵は防御すら間に合わずに顔面の俺の剣を受けた。ファイアゴブリンの体はまるでバターでも切る様に真っ二つに切れた。手応えがあまりにも軽い。七日間の休息で肉体に力が漲っているからだろうか、戦闘を行っても体が少しも疲労を感じない。今なら何日間でも戦い続けていられるだろう。


 悪魔化した俺は既に人間ではない。人間とは異なる次元の強さを手に入れた。この力は愛する仲間を守るため、忌まわしきデーモンを仕留めるために使う……。


 次々とファイアゴブリンの群れを叩き切ると、魔力強奪の効果で体内には爆発的に魔力が流れ込んできた。ティファニーが俺の戦いぶりを愕然とした表情で見つめている。久しぶりでも体は良く動くのだな。今の俺なら、仲間達と力を合わせればゴブリンロードを仕留められるかもしれない。


 ティファニーと共にヴィルヘルムさんの魔力を探しながら迷路を走ると、通路の先にはゴブリンロードと、無数のファイアゴブリン。それからバイエルが作り上げたゴーレムの群れと、アウリール・バイエル本人が居た。


 通路の反対側には、ヴィルヘルムさんとバラックさんが居る。ヴィルヘルムさんは遂にゴブリンロードと再会出来た事が嬉しいのか、不敵な笑みを浮かべて俺に合図した。


「クラウス! ティファニー! 力を貸してくれ!」


 ヴィルヘルムさんが遥か遠くで叫ぶと、俺は静かに頷いてから、左手に炎の球を作り上げた。当時十五歳のヴィルヘルムさんから恋人のローゼさんを奪った忌まわしき幻獣に引導を渡してやる。バイエルはヴィルヘルムさん杖を向けると、人型のゴーレムが一斉に襲い掛かった。


 瞬間、バラックさんがブロードソードを引き抜き、目にも留まらぬ速度でゴーレムの群れを粉砕した。今、この空間でバラックさんの攻撃の軌道が見えたのは俺とゴブリンロードのみだろう、ゴーレム達は自分の死にやっと気が付いたのか、体が崩れ落ちると、狼狽しながらバラックさんを見つめた。バラックさんはゴーレムの頭部を踏みつけると、鬼の様な表情を浮かべてバイエルに剣を向けた。


「アウリール・バイエル! 盗賊団、シルバーフォックスのアントニウス・バイエルの家族か? よくも私のギルドのクラウスとティファニーを罠に嵌めたな!」

「そうだ! 俺はアントニウスの兄だ! たった一人の弟をお前達に殺された! 俺はお前達アーセナルの冒険者を殺すためにゴブリンロードと手を組んだ! これからヴェルナーを崩壊させ、冒険者達を一人残らず切り刻んでやる!」

「試してみるが良い。アーセナルのグレゴール・バラックが相手になろう!」

「同じく、クラウス・ベルンシュタインがお前を討つ!」


 俺は敵の頭上に飛び上がると、全力で炎の球を落とした。巨大な炎の球が一直線にバイエルに向けて落下を始めると、身長二メートル程のゴブリンロードが両刃の剣でファイアボールを叩き切った。


 ゴブリンロードは俺を最初に仕留める必要があると察したのか、俺が着地した瞬間に攻撃を仕掛けてきた。隙きの無い高速の突きが俺の顔面に向けて放たれると、俺は単純な攻撃に戸惑いながらも、瞬時に剣で受け流し、左手を敵の顔面に向けた。


「ファイアボルト!」


 全力で炎の矢を放つと、炎の矢はゴブリンロードの頬を切り裂いた。瞬時に魔法の軌道を予測して回避動作に移れる反射速度は勝算に値するが、俺は敵がどれだけ強くても負ける訳にはいかないのだ……。


 両手でロングソードを握り締めて斬りかかると、ファイアゴブリンの群れが一斉にゴブリンロードを守る様に立ちはだかった、瞬間、ヴィルヘルムさんの魔法が炸裂した。彼が放った氷の槍がファイアゴブリンの群れを串刺しにし、一斉に敵の命を奪ったのだ。


 それからティファニーがファイアゴブリンの群れにナイフで斬りかかると、突然接近戦を行ったティファニーを目にしたヴィルヘルムさんは驚きながらも、すぐにティファニーに加勢した。


 バイエルさんは俺と背中を合わせ、お互いを守りながら永遠と敵を切り裂いている。数百体居たファイアゴブリンが全て命を落とすと、天井付近に巣食っていたガーゴイルの群れが急降下を始めた。ガーゴイル達が一斉に口を開いて炎を吐く準備をすると、バイエルさんが光の球をガーゴイルの群れに投げ、強烈な光で敵の視界を奪った。


 絶好の攻撃の機会を作ったと言わんばかりに俺を見つめるバイエルさんに、俺は小さく頷いてから、全力で地面を蹴った。俺の体は信じられない程の速度で上空まで飛ぶと、ガーゴイルの群れに水平斬りを放った。


 三体のガーゴイルを一度の攻撃で仕留め、視界を失って狼狽えるガーゴイルの背中に飛び乗った。俺はガーゴイルの首根っこ掴んで移動方向を指示し、次々と敵を切り裂いて回った。逃げ回るガーゴイルにはファイアボルトを放って心臓を射抜き、地面で敵と交戦しているヴィルヘルムさんやティファニーを援護するために、上空からファイアボールを落として仲間のために攻撃の機会を作った。


 バイエルは状況が不利だと判断したのか、目に涙を浮かべながらゆっくりと後退を始めると、ゴブリンロードが爆発的な咆哮を上げた。ゴブリンロードは血走った目でバイエルを睨みつけると、巨大な両刃の剣でバイエルを切り裂いた。


 恐らく、ゴブリンロードはバイエルを仲間だとは思っていないだろう。バイエルはゴブリンロードと手を組んだつもりだったのだろうが、人間を殺める幻獣が、自分よりも遥かに弱い存在と手を組む訳がない。一度でも幻獣から襲われた者なら、誰だって幻獣と力を合わせて物事を成し遂げよう等とは考えもしないだろう。


 無数のガーゴイルが一斉に墓地に目掛けて飛ぶと、墓地に巣食っていたスケルトンの群れが移動を始めた。各々が手に武器を持ち、仲間達に襲いかかると、俺はスケルトンの群れの中心に飛び降りた。


 左手で白骨化した体を殴って粉砕し、右手に持ったロングソードで無数の敵を巻き込んで仕留めた。左右の攻撃を永遠と続けてスケルトンの群れを狩り続けると、二百体程敵を仕留めた時に、バラックさん加勢してくれた。


 バラックさんはやはり聖属性の使い手だからか、手に光の球を作り上げて魔力を炸裂させるだけで、数十体のスケルトンを一度に仕留めた。スケルトン達がバラックさんを恐れて逃げ出した瞬間、遥か彼方からティファニーの魔法が炸裂した。


 風の刃がスケルトンを軽々と吹き飛ばし、俺はティファニーの援護を受けながらスケルトンを倒して回った。


 ヴィルヘルムさんとバラックさんは二人でゴブリンロードと戦っている。ゴブリンロードの強烈な一撃をバラックさんが受け、敵に隙きが出来た瞬間にヴィルヘルムさんが氷の槍を放ってゴブリンロードにダメージを与える。


 胴体には黒い鎧を纏っているが、腕や足等の鎧に覆われていない部分には、少しずつダメージが蓄積されている。ヴィルヘルムさんは肌が露出している箇所だけを狙って攻撃を仕掛けているのだ。恋人を殺めた敵が目の前に居るにもかかわらず、敵の弱点を冷静に分析し、次々と魔法攻撃を仕掛ける。まさに理想の魔術師だ。


 怒り狂ったゴブリンロードが口から炎を吐くと、周囲には炎の嵐が発生した。ゴブリンロードの魔法がファイアゴブリンの死骸を焼き尽くすと、俺は圧倒的な魔力高さに胸が高鳴った。こんなに強い相手と剣を交える事が出来るのか……。


 バラックさんはゴブリンロードが放った炎を直撃したのか、地面にのたうち回って炎を消した。それからヒールの魔法を唱えると、一瞬で怪我が完治した。


 ヴィルヘルムさんは俺に目配せをしてから、頭上高く両手を掲げた。天井付近には強烈な冷気が発生している。これはもしかすると、レッサーデーモンの魔法だろうか。確か、魔法の名前はアイシクルレイン。無数の氷柱を一斉に降らせて攻撃する防御が困難な魔法。ゴブリンロードはヴィルヘルムさんの魔法に気が付いていない。


 ティファニーは後方からウィンドショットの魔法をゴブリンロードに放つと、敵は回避が間に合わずに顔面にティファニーの魔法を直撃した。口から血を流してティファニーを睨みつけた瞬間、俺はゴブリンロードと距離を詰めて垂直斬りを放った。


 父から授かったロングソードがゴブリンロードの顔面を切り裂くと、敵は呻き声を上げながら水平切りを放った。俺は敵の早すぎる剣を見切る事が出来ずに、敵の大剣が俺の腹部を深々と切り裂いた。しかし、俺は既に両足を同時に骨折するという激痛に耐えきったのだ。この程度の攻撃で戦意を喪失したりする程、精神が未熟ではない。


 腹部から大量の血が流れているが、俺は傷を無視して何度も敵に攻撃を放った。次第に体力が低下してきたからか、ゴブリンロードは俺の攻撃を軽々と受けながらも、何度も大剣で俺の体を切った。


 悪魔になった俺は、どんな攻撃を受けても即死さえしなければ命を落とす事が無い。しかし、血を失いすぎたからか、次第に脳の動きが悪くなり、思考能力が低下を始め、肉体は言う事を聞かなくなった。こんな場所で諦めてたまるか……。


 力を振り絞って剣を振り上げた瞬間、ゴブリンロードの背後に回っていたバラックさんが敵の腹部にブロードソードを突き刺した。俺はバラックさんの攻撃に合わせてゴブリンロードの手首を切り落とすと、ヴィルヘルムさんの魔法が完成した。


「アイシクルレイン……!」


 ヴィルヘルムさんが涙を流しながら両手を振り下ろすと、ゴブリンロードの脳天には鋭利な氷柱が直撃した。無数の氷柱がゴブリンロードの体を貫くと、俺達は勝利を実感した。四人で力を合わせてゴブリンロードを仕留めたのだ!


「クラウス……ティファニー……バラックさん。ありがとうございました……やっとローゼの仇を討てました……」


 ヴィルヘルムさんは静かに啜り泣くと、俺とティファニーはヴィルヘルムさんを抱きしめた。バラックさんは柔和な表情を浮かべながら、俺達三人の頭を撫でてくれた。


 ついにヴィルヘルムさんは三年越しの復讐を遂げたのだ。これから俺達はヴェルナーを目指して進めば良い。バラックさんはゴブリンロードの体内から魔石を引き抜くと、強烈な炎を秘める魔石を俺にくれた。


「これは火属性を秘めるクラウスが使用するべきだ。ゴブリンロードが得意とするファイアストームを習得出来る」

「ありがとうございます……」


 暫くヴィルヘルムさんは涙を流し続け、俺はそんなヴィルヘルムさんの隣に腰を降ろした……。

遂にヴィルヘルムの復讐が完了しました。

やっとローゼの仇を討たせる事が出来て、作者も何だかすっきりしています。

いつも「復讐の剣鬼」を読んで下さってありがとうございます。

この小説を気に入って頂けましたら、是非ブックマークをお願いします。

これからも完結まで地道に書き続けますので、最後までお付き合い頂けると光栄です。

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