表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冷え森のラトキア  作者: 左利き
第一章
3/5

そうしていれば、普通の女の子なんだけどな

部屋に戻ったリンは、昼の空き時間に自室で魔法の鍛錬をすることにした。鍛錬と言っても、イストゥリナに所属するものにとって魔法は必須であるから、どちらかと言うと調整と言った方がいいかもしれない。


「…」


空中の微量な魔力を掻き集め、手のひらに集中させる。数秒もすると手がほのかに熱をおびて来る。

その熱をエネルギーに変換するイメージを思い浮かべて、更に氷を思い描く。


「…フリーズ!」


ガキィ!と高い音がして手の平から数百に枝分かれた氷の剣が生まれる。


「…遅い」


数日前よりも、少しだけ魔法の発動が遅かった。使わなければ肉体よりも早いスピードで劣化していくこの感覚だけは未だに慣れることがない。


「へえ、空気中の魔力だけでこのサイズか、まさに氷の獄卒だね」


「…ティナ」


「やあ、朝は嫌な気分にさせて済まなかったね、僕も少し思うところがあってさ」


「…良い、もう気にしてないから」


「それにしても、未だにこんな事してるんだね、ラグがあるなら君の中の魔力を使えばいいだけじゃない」


空中の魔力を掻き集めて発動するよりも、体内の魔力を使って発動する方が遥かに魔法の発動が早い。しかし、体内の魔力は有限であるために、多くの人間はその方法を選ばない。


「…いざと言う時に、困る」


「困る、ねえ…」


「…フリーズ!」


今度はそれをティナに向けて打つ。氷の剣ではなくて、地面とティナ自身を縛り付ける魔法だ。


「っとぉ、危ない危ない」


「…まだ遅い」


「僕を実験台にするのやめてよね」


「…」


「…ていうかさ、そのフリーズとか言う掛け声何なの?めちゃめちゃダサいからね」


「…えっ」


「…びっくりした顔しないでほしいなぁ〜…」


「で、でも…これは魔法のイメージを固めるために…」


「それなしじゃ出来ないわけじゃないでしょ?」


朝と同じく、痛いところを突かれてしまう。確かにリンはイメージを固めるためと言うよりも、格好良いからこの掛け声を使っているのだ。


「17の女の子が「フリーズ!」って…ぷっ…くく…!」


「うるっ…さい…!」


顔を真っ赤にして、リンはティナに枕を投げつける。それをひょいっと避けてティナはお腹を抱えて笑う。

リンはなお一層顔を真っ赤にして、空に浮いているティナを睨みつけた。


「あー…笑った…ごめんごめん、もう言わないから」


「…うぅ」


もう3年ほど共に過ごしているが、この掛け声を突っ込まれたのは初めての事だった。


「…そうしていれば、普通の女の子なんだけどな…」


「…え?」


ティナはリンに聞こえないように、ボソッと呟いた。


「…何でもないよ、リン」


「…変なティナ」


リンとティナは目を合わせて、大きな声で笑いあった。



長く蓄えた白いあごひげを左手で弄びながら、イストゥリナの大幹部はゼンに再度質問をした。


「…もう一度聞く、何故その娘を幹部にさせたくない?」


「…お言葉ですが、大幹部様。させたくないのではなく、させられないのです」


ゼンは緊張を押し殺し、声が震えないように努めながら答えた。


「彼女はまだまだ未熟です、彼女の父親フィードリアの強さは確かに桁違いではありましたが、彼女の父親は彼女がまだ幼い時に亡くなっています」


「ふむ、つまり彼女は父親から何も学んでいないと?」


「…ええ、心構えとやらも、分かっていないでしょう」


年老いた大幹部は酒を口に運ぶ。


「尚更ではないか?やはり優秀な一族のようだ」


もう1人の大幹部が口を挟む。余計なことを言うな!と怒鳴ってやりたかったがとてもそんな度胸はない。


「いくら優秀とは言っても、彼女はまだ17の少女です。あんな事をしていては、きっと身が持たないでしょう」


「誰かも最初はそう言っていたな」


「…!」


嫌な汗が吹き出る。過去のことを思い出してしまいそうになる。吐き気をこらえながらゼンは何とか次の言葉を紡いだ。


「…私のことはどうでもよろしいでしょう…!もう少し待たれよと言っているのです!」


「待つ意味は?」


「奴隷の抑止力となる「獄卒」と、幹部が行う「処理」は全く別の内容です。余りの差に彼女はきっと耐えられない。精神が壊れてしまいます」


「ええい、まどろっこしい、いつまで待てば良いのだ!?」


もう1人の大幹部が声を荒らげる。その語気に負けない様、ゼンも腹の奥から振り絞って声を出す。


「いずれ、彼女がその事実を知ってしまった時、それまではどうにか…待ってはいただけないでしょうか…!」


「…ふむ、その間の処理はお前一人で行うというのだな?」


──逆らうことなど、許さない癖に…俺が処理せざるを得ないことを知っているくせに、よくもぬけぬけと。


「…はい」


「良かろう、その時までは待ってやろう」


「…感謝します」


ほっと息をつく。忌まわしいバッヂが目に入る。


「…なんて、嫌な運命なんだよ」


ゼンは、そのバッヂを引きちぎり投げ捨てたい衝動に駆られたが、勿論そんなことなど出来ずに、その部屋を後にした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ