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月銀のイゾルティア  作者: 禾常
再生のイゾルファ
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再びの生

 実は、『魂』を『魄』へと作用させる事に専念し長らく本能任せにしていた弊害で、俺ってば家族以外の周囲の人達から『人形みたいな赤ん坊』と思われてしまって、陰では気味悪がられているらしい。ちょうど、日本にあった『赤ちゃんのお世話ごっこに使う人形』のような状態だったのだ。お世辞にも、普通の赤ん坊とは言え無いのは、自分でも解る。なので、あまり強くは非難できない。

 だが、歓迎しかねる事態ではあるのだし、目覚めたら早急に改善したい。

 産んでくれた母がいびられているのが、実に申し訳無いのだ

 

 

 

 

 ずるりと押し出された。暗い内側から、光り溢れる外側へ。


 本能に従い胸いっぱいに空気を吸い込み、あらん限りの声を上げて、泣き叫んだ。

 産声だ。


 暖かで心地よかった場所から追い出されたのが、悲しいのか。閉じたまぶた越しにも感じる眩しさが、辛いのか。産まれ落ちたこの身体は、泣き声を上げる。

 自発呼吸の為の本能的な反射行動なだけかも知れないが。

 ただ、それらの朧気ながら身体から伝わる感覚とは違い、今、己の内から強く湧き上がる思いが有る。再び意識を取り戻せた、喜びである。


 けれどまだ、油断はできない。

 結論から言えば、無理をして『魄』を破損してしまい修復中なのだ。やはり生前のままの『魂』をそのままとは行かず、中の『識魂』と『人魂』の大きく影響が出ない部分は削ったのだが、足りなかった様だ。

 その際、なぜか付いて来ていた【イナンナ】さんが色々と教えてくれたのだ。これからの『魄』の修復と調整作業も、彼女がサポートしてくれるとの事。誠にありがとうございます。

 【イナンナ】さんが居なければ、今こうして無事に産まれては居なかっただろう。いや、全くの無事でも無いか。

 とにかく、実に【イナンナ】様様である。


 しばらくは、身体は本能に任せて、余裕があれば周囲の情報を集めながら修復作業を続ける、と言った具合になるだろう。


 早く精神を顕在化させて生の実感を得たいが、今はまだ、焦らず慎重に作業を進めよう。

 正直に言うと、麻酔無しで自分で自分の脳ミソや内臓を手術している様な苦行で常に死にたくなるし後悔も常にしてるが、まぁ、ここまで来たら、やるしかないだろ。

 

 

 

 

 

 季節が一巡りしたようだ。

 『魄』の修復は順調だが、もうしばらく掛かるだろう。

 けれど最近は、『魂』の扱いにも慣れ、『魄』の仕組みも大分理解が進んだ。痛みや不快感には慣れはしないが。

 あと、副産物として、周囲の人々が用いている道の言語をタイムラグ無く俺の知る言語へと翻訳出来る機能を得てしまった。【イナンナ】さんのアドバイスで。

 他にも有効そうな機能は積極的に構築して行く方針だ。


 こんな事をしていると、我が事ながら人の領分を大幅に逸脱しているとは思う。

 ただまあ、俺の目的からすると必要そうではあるし、便利なので今更止めたりはしないが。

 

 

 

 

 

 

 また季節が一巡りした。

 『魄』の修復は殆ど終わり、このまま行けば、予想よりも早く作業は終わる見込みだ。

 ただ、何と言うか、この地に生きる生物としては中々に歪になってしまった感が否めない。少し拙いかも知れない。

 ここからは、外の情報をなるべく取り入れて、それを参考に調整をして行こう。

 初めての事なので自信は無いが、せめて日常生活に支障のない程度に……最低限の目標として、隠蔽だけでも可能にしたいと思う。

 

 

 

 

 

 季節が一巡りする前に、『魄』の修復と調整が終了した。

 今は、産まれてから二年目の夏。静かな夜だ。

 長かった。辛かった。今だから言うが、何万回も投げ出したくなった。もうこんな事は、二度としないと固く誓う。振りじゃ無いからな。本気でカンベンだっての。


 次の冬で、もう三歳だ。そう考えると、ずいぶんと『肉体』を放ったらかしにしてしまった。

 だが、ようやく『魂魄』を本来の用途に使える。つまり、自分の人格を表層に出して、『肉体』を使って生きれると言う事だ。

 そうなってようやく、本当の意味で〝俺が生まれた〟と言えるのかも知れない。


 早速だが、今生の魂魄(たましい)(うつわ)たる『肉体』と、調整が済んだ『魄』との同調を開始するとしよう。

 人目の無い夜の内に済ませてしまいたいのだ。


 今までの俺は、『肉体』と『魄』が仮接続がされた、生命維持に必要な最低限を賄うだけの状態だった。家電で例えると、コンセントは刺さっているが、電源ボタンは入っていない待機状態だろうか。

 そして、『肉体』と『魄』を同調すると言う事は、その電源ボタンを入れる行為に近いだろう。


 『魄』を機能させて、同調率が徐々に上がり始めると、『肉体』から齎される感覚がはっきりと伝わり始める。

 肌に触れる綿製の寝巻きの柔らかさ。呼気に混じる活けられた花の匂い。部屋の外で風に揺れる枝葉の音。動物や鳥の鳴き声。

 『魂魄』と『肉体』が、一つになって行くのが解る。


 生物が健康に生きていると、『魂魄』から湧き出るものがある。

 これが、活力とか生命力と言われるものの元になっている様なのだが、周囲を観察していた結果、彼等はこれを『魔力』と呼んでいるようで、この『魔力』を生活の中に取り入れた暮らしを営んでいる。

 この『魂魄』から湧き出る『魔力』が『肉体』に不足無く行き渡っているのが〝生きている状態〟となるらしい。

 今の俺は、その状態へと向かっているのだ。


 余談だが、どうも俺の場合、湧き出るものが周囲にいる人達の『魔力』と比べると、おかしいようだ。

 違いを言葉で表すのは難しいが、無理矢理にでも例えるとするなら、他の人達の魔力が〝静電気〟とすると、俺のは〝縮退炉から得られるエネルギー〟位の違いが有りそうなのだが。大丈夫か? もはや似て非なる物な気が自分でもしてる。

 【イナンナ】さんに聞けば、答えをくれる気はするが、嫌な予感がするので、俺の精神衛生の為に聞かないでおこう。

 そうだな。仮に『理力(りりょく)』とでもしておくか。


 同調率が五割を超えた辺りで、『肉体』に変化が起き始めた。普通とは言い難い『魂魄』の影響が『肉体』に出始めたのだろう。


 俺の『魂魄』は、言ってしまえば『改造魂魄』だ。いや、程度からすると『魔改造魂魄』か。であるから、実の所、正常に機能する保証が乏しかったりする。具体的には、【イナンナ】さんから貰った「大丈夫」の言葉だけだ。

 あれだ。取扱説明書に〝この商品を使用した場合に発生した不具合の保証は致しかねます〟って書かれた、非メーカー純正のカスタムパーツを取り付けた時と似てる。車とかだと、最悪の場合には意図せぬ自爆テロにもなりかねないし、うん、実に良く似てるわ。

 あ。違うか。テストも無しにぶっつけ本番な分、今の俺の方が酷いな。


 自分の行いの酷さに慄いている内にも、変化は進む。

 骨や筋肉や神経等の『肉体』を構成する要素を一時的に補強。代謝時には、細胞単位で新造強化。

 聴覚や嗅覚等の感知機能が人のそれを超える領域になる様、脳の機能を拡大。それに合わせ、アストラル領域帯やエーテル領域帯を知覚可能な新たな感覚器官を増設。

 

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