8話・超☆勇者アイスバイン炎の旅立ち
サブタイトルが付いている話は呪い屋以外の視点となります。
俺の気が付いたとき、白い空間の中に立っていた。そして俺の目の前にはDO・GE・ZAしている黒髪の幼女が。
「すまぬのじゃ。天界の不始末でお主の命は失われてしまったのじゃ」
「いや、急にそんなこと言われても何が何だか……」
戸惑っている俺の声を聴いた幼女はがばっと顔を上げる。うほっ、いい美幼女。
「うむじゃ。では一から話すのじゃ。ヤマダ・ジロー、おぬしは死んだのじゃ。
じゃが、本来お主は後25年生きる予定だったのじゃ。じゃので特例として、記憶を持ったまま転生させることにしたのじゃ」
「転生? もしかしてそれは剣と魔法の中世ファンタジー世界に……とか?」
「おおっじゃ! 何故それを知っておるのじゃ!」
それなんてラノベ。
「じゃが(二回目)、そこは魔物やダンジョンが溢れる危険な世界じゃ。
じゃので今回の侘びとしてお主に”ちぃと能力”を授けることにしたのじゃ。これならば二度目の人生も楽しめようのじゃ」
「ふむ……」
俺は所謂オタクをやっていて、異世界転生もののラノベやアニメは大好物だ。
ラノベみたくファンタジー世界に転生できるだけでもありがたいのに、本当にチート能力もくれるなんて……ここはもう少し押してみるかな。
「でも俺は16歳って若さで死んだわけだし、危険な世界ってんなら成長する間もなく死ぬ可能性もあるよな。そうなったらどうすんだよ」
「じゃ、じゃが(三回目)……転生先はそれなりに魔物による被害が少ない場所を選んであるのじゃ。危なくないのじゃ」
お、半泣きになってきた。神様なのにこんなチョろくていいのか。
責めすぎてガチ泣きされても困るしな。ここは少し引いて様子を見てみるか。
「そっか。俺も強く言い過ぎたよ。神様はちゃんと俺のことを考えてくれてたんだな」(ナデナデ
「ふぇぇのじゃ……」(ポッ
ふっ、落ちたな。ナデポは最強。はっきりわかんだね。
これなら少し強請ればチートマシマシアブラカラメ間違いない。
「それじゃ俺行くよ。でも、これからも君が見守ってくれていたら嬉しいな」
「そ、それなら加護も追加で与えるのじゃ。これは特別じゃから「ステータス隠蔽」のスキルも与えるのじゃから見られぬようにするのじゃぞーじゃぞーじゃぞー」
急にジェットコースターのような衝撃を感じると、幼女の声がドップラー効果を響かせながら俺は光り輝く渦の中へと消えていった……。
目が覚めると、俺は田舎の草原で寝っころがっていた。
ここはシュバイネハクセ村という。のどかと言えば聞こえはいいが、現代日本の刺激になれた俺には退屈すぎる村だ。
今のは転生前の空間の夢を見ていたらしい。転生してからも前世の記憶はうっすらと残っていたが、今の夢ではっきりと覚醒した。今の俺はチートの肉体と内政チートもできる前世の記憶を備えた真のチート主人公だ!
「ステータスオープン!」
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NAME:アイスバイン AGE:10 レベル;1
HP:113
MP:646
STR:54(XXX)
DEF:22(SSS)
INT:55(Z)
DEX:24(X)
SPD:31(XX)
RES:62(Z)
スキル:剣術・1、火魔法・3、氷魔法・2、回復魔法・2、魔力操作・8、魔力自動回復・MAX、直感・5、隠密・7、ステータス隠蔽・MAX、成長速度上昇・MAX、成長限界突破・MAX、強欲
称号:創造神の加護、異界の勇者、七大罪の後継者、闇と光を背負う者
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ふっ……。これが俺のステータスだ。
数値としてはまだまだだが、成長途中の10歳故に仕方が無い。それよりも数値の横にある資質が我ながら恐ろしい。
最低でも世界最高のSSSランクだというのに、Sを超えた計測不能を示すX、果ては神レベルであるZランクの資質まである。今はまだ天才の10歳児というレベルだが、これは将来神にすらなれそうだ。
スキルは物心ついたときから魔力を操作する秘密の修行をしていたから魔力操作と回復のスキルが高い。今は血液が体を流れているのを感じるように自分の魔力を感じ取れる程だ……。強欲のスキルはレベルもないしよくわからんが、名前からしてチートスキルだろう。
加護も効果は不明だが……鑑定スキルなしかよあのロリBBAめ。どれも強力そうなものに違いは無い。あの幼女、創造神だったんだな。
やれやれ……俺は今度の人生は静かなスローライフを送りたいだけだったんだがな。
「あーっ! こんなところにいたーっ!」
もう一度眠ろうと目を閉じた時、頭上から聞き慣れたアニメ声優のような声が聞こえてきた。俺の今世の幼馴染、キシュカだ。
彼女はラビエルフという種族で、もふもふのウサ耳とエルフ耳を備えた種族だ。しかも俺と同じ10歳だというのに成長著しく、手で覆えないほどに胸が発達している。
「今日はみんなで鬼ごっこするって言ったでしょ! なんで寝てんのよ!」
「うるさいなぁ……そんなガキみたいな遊びするかよ」
「あんたもわたしも10歳でしょ。まだ子供じゃない」
やれやれだ。大人並のステータスを持つ俺が参加してしまえば勝負にならないというのに……。手加減をし続けるというのもストレスフルなので俺がいない方がお互いの為なのだ。
だが、そんなことを口に出すほど空気が読めないわけではない。俺はキシュカと逆の方へ寝返り、参加しないことを態度で示すことにした。
「むー……なら、わたしも寝るぴょんっ!」
そう言ってキシュカは俺の背中に抱きついてきた。
「なにしてるんだ。お前はみんなと遊べばいいだろ」
「んー、今日はお昼寝の気分なのぴょん!」
「ふぅ……。ま、好きにしたらいいさ」
背中から伝わる柔らかさと温もりを感じながら俺は再び夢の世界へ旅立つのだった。
そして時は流れて16の春――
俺は、血と肉が散乱している村の前で呆然としていた。
最近村の周囲でゴブリンが増えていたため、俺が退治するべく巣穴へと向かっていた。それと入れ替わりにゴブリンの本隊が村を襲撃し、戻ってきた時には手遅れだった……。
「マモレナカッタ……」
ゴブリンはすべて倒したが、村人は皆殺されてしまった。
大切な幼馴染も俺の目の前で無残な姿に成り果ててしまっている。
「さよならキシュカ……たぶん、初恋だった……」
俺は親しかった人を全て埋葬し、誰もいない村に魔法で火を着けた。
これは俺の過去との決別。少年期の終わりを告げるカーニバル。これから俺は前だけを向いて進んでいくよ。
これが超☆勇者アイスバインの旅立ちだ!
劇的な旅立ちから三日……。
俺はまだ別の街を見つけられずにさまよっていた。おいこらロリBBA! マップ機能ぐらい付けろよバーヤバーヤ!
水は魔法で出せるし食料は魔物を狩ればいいが炭水化物が足りない! それに焼肉は味がワンパターンすぎてもう飽きた!
文句を言いつつ藪を剣で払っていると、ようやく道らしき場所に出てこられた。ファンタジーによくある石畳ではないが、轍のような跡が残っているからには使われている道なのだろう。
ようやくの人跡を見つけ小躍りしているところに、絹を引き裂くような黄色い声が俺の勇者イヤーに飛び込んできた。
「テンプレ展開キタ――!」
強化魔法で強化された視力で確認すると、道を塞がれた馬車に何人ものみすぼらしい男達が集まっている。男達は鎌や斧、三つ又の槍で武装しているのでおそらく山賊だろう。
馬車から護衛らしい人間が戦っているが、人数の差で劣勢に見える。ダセェにウゼェってやつだな。
ここは俺が颯爽と登場して「素敵! 抱いて!」ってパターンか商品の奴隷少女を貰えるパティーン。これは本気出すしかないな。
見つからないよう決して走らず急いで歩いてきたが、護衛の何人かは犠牲になったようだ。ここは早く助けないとな。
悪党の技でイメージが悪いが……。
「ファ・イ・ヤー・ボー・ル……」
指先一つ一つに火の魔力が集まっていく。精神の集中が必要だが、効果範囲と威力共に強力な俺の必殺技だ。前世のゲームの記憶がこうして役に立つなんて俺の才能が怖いぜ。
「五指爆炎弾!」
予想もしない背後からのファイヤーボールは無防備な山賊を次々に焼いていく。
「そこの馬車! 助けに来たぞ!」
まだ混乱している山賊の中に飛び込んで剣で切り付けていく。
不意打ちでまだ態勢を直せていないだけか、単に練度が不足しているだけかはわからないが、俺の剣で次々と倒れていった。
乱入してすぐに決着は付き、今は逃げた連中を護衛たちが追っている。馬車のそばにいるのは俺と護衛の女騎士が一人だ。
「大丈夫か。俺はアイスバイン、冒険者になるために街に行く途中なんだ」
剣を収めて敵ではないことをアピールする。女騎士も俺が敵ではないとわかったのか緊張を解いた。
「助かった。仲間に代わって礼を言う。私はマモレ・ナイヨ。詳しくは言えないがこの馬車の護衛をしている」
「……私からもお礼を言わせてください」
「姫様ッ!?」
馬車の中から声が聞こえたかと思うと、黒髪の美少女が現れた。
「私はオサカンヌ・リパブリックのカレーナン県、県知事兼県議書記であるカネニ・メガナインゾーの娘イケメインニです。どうぞよしなに」
「姫様、危険です! 馬車にお戻りください!」
「賊はその者が片付けましたし、残りも時間の問題でしょう。
道を塞いでいる岩や木を片付けるまで進めないのですしお話くらいよいではありませんか」
道を塞いでいるのは簡素なバリケードではあるが、馬車が乗り越えられるほど小さくは無い。馬は落ち着いているものの女二人ではどうしようもないだろう。
しかしわざわざバリケードを用意してあったということは、この馬車を狙っていたのだろうか……。
「なぁ……あんた達は何者かに狙われていたのか?」
「前の街からはこの道を通るしかないからな。おそらくは前の街から狙われていたのだろう。馬車強盗かテロリストかはわからんが……」
「この辺りはアンシュルスから間もない地域ですから……おそらくは彼らに啓蒙の光が届いていなかったのでしょう。
教育を受け模範的な労働者となれれば貧しさ故に狼藉を働くこともなくなるというのに……」
そういうと、お姫様はハンカチで涙をぬぐった。自分が襲われたというのに、犯罪者を悲しめるだなんていい人のようだ。
「そういえば、貴様はなぜこんなところにいる。冒険者志望とはどういう事だ」
「村がモンスターのせいで全滅しちまってな……。腕には自信があるし、冒険者にでもなれば食って行けるかと思ってな」
「そうなのですか……。ですが、先程の魔法は素晴らしいものでした。冒険者などならずに軍へ入隊するのはどうですか? 父に県軍への紹介状を出してもらってもいいですよ」
「気持ちはありがたいが……世界中を旅してみたいしダンジョンにも挑戦してみたいしな。軍人だと勝手にダンジョンに入れないだろ?」
奴隷パーティを作ってダンジョンで財宝ゲットしてウハウハな毎日を夢見る俺にとって、軍隊みたいな男臭い所なんて行ってられるか。奴隷を買うのにもあれこれ言われそうだしな。
「ダンジョン……? それこそ国の管理物だろう? 冒険者などに開放されているものか」
「聞いたことがありますわ。ホウゲーシャン王国には迷宮都市なる場所があって、開拓を冒険者に頼んでいるとか……」
「迷宮都市だと!? どうすればそこに行ける!」
「一番早いのは船ですわね。そうですわ! 護衛として雇われる気はありません?
カレーナンは港町。きっとホウゲーシャン王国まで船を出してくれる者がおりますわよ」
金もそうあるわけでもなし、船旅にはそれなりに運賃が必要なはずなので稼いでおくのは悪くない。
「わかった。よろしく頼むよ」
「ではまず、この道を通れるようにしてくださいね」
やれやれ……さっそくこの扱いか。かなりヘビーな旅になりそうだ、ゼ!
別主人公の別の国の話だけど同じ世界だから同シリーズでいいかなって。