6話
大通りから少し奥まった通り、その三番目に「呪」と一文字の漢字が刻まれた看板。ここが俺の店、呪い屋だ。
数点のマジックアイテムと利剣がカウンターの奥に飾られ、店側の棚には迷宮の地図と自作の魔法薬が並べられている。
石造りのカウンターの上には、安物の皮の首輪が数点と、同数の純度の低い魔石、それから先日露店で手に入れたマジックアイテムを並べてある。
というわけで、今日はマジックアイテムを作ろうと思います。
手本にするマジックアイテムは《隷属の首輪》という、首輪を締めた者の命令に逆らうと着用者に激痛が走るというアイテムだ。試したことはないのでどのくらいの痛みかは知らんがね。
王侯貴族をはじめとした上流階級垂涎のアイテムだが、呪いのせいで存外に安く買えた。
呪いは二つ。「死ぬまで外れない」呪いと、「極々ゆっくりと首が絞まっていく」という呪いだ。装着すればあら不思議、自動的に死体ができる。
日産死体製造機というわけではないが、どのくらいで外れるのかはちょっと予測できない。首が千切れたり骨が折れたりする時間は見当がついても、その前に窒息なり餓死なりをするからだ。
これだけだとただの趣味の悪い装飾の首輪だが、趣味が悪くともマジックアイテムとしては本物だ。現物を見本にすれば一から作るよりはマシな模造品ができるだろう。以前にイメージだけで似たようなものを作ろうとした時は盛大に失敗したことだし。
幸いにして、今の俺には創作意欲が溢れている。けっして客がいない暇潰しではない。暇潰しではない。
「さあ、やるか――」
「店主、私が来たぞ」
はい。楽しいアイテムクラフトの時間終了。アイテムを作る時は静かで、豊かで、孤独で……とか語る気はないが、面倒な客の相手をしながら作れるほど俺は器用ではない。
せっかくの俺のやる気を削ぎきった客を睨み付ける。
相も変わらず、無駄に綺麗なくせに表情筋の絶滅したヤク中森エルフだった。
「なんだ目を細めて? 我々森エルフの美貌を直視すれば、人間如きでは余りの眩さに目が潰れるのが道理とはいえ、そろそろ慣れてもいいのではないか?」
「……イラッシャイ」
おそらくは本気で言っているであろうエルフィンスカヤの戯言を聞き流しつつ、最低限の愛想で歓迎する。
見たところ、少し息が上がっている。どうせクスリが欲しくて走ってきたのだろう。
前に購入してから一週間と経たないのにもう使い切りやがったか……と、呆れつつもコイツからの収入は馬鹿にならない。人間としては最低の部類でも、お客様としては上客の部類なのだ。
記憶している在庫にはまだ余裕がある。せっかくの創作意欲を削いでくれた礼に稼がせてもらおうではないか。
「そんなに慌ててこなくても、多少は取り置きをしてある」
「いや、これは少ししつこい奴を撒いてきたのだ。言いよってきた男がうるさくてな」
この女は見た目だけなら極上だからな。今回のように、男や一部の女から言い寄られることは珍しくない。
それでも十分も話せばその評価も変わるのだろうが。
「今日のは妙にしつこい奴でな。気分転換がしたい。エりクサーを一回分頼む」
「ウチはそういう店じゃあないんだがな」
言っても聞かない奴なのはわかっているので、耐熱紙に乗せた粉薬と《発火》のマジックアイテムを渡す。
エりクサーは、とある果実の汁と俺の魔力から作られた粉薬で、燃やしたときに発生する煙をゆっくりと吸い込んで精神を落ち着かせることで精神力――平たく言うならMPを回復させる。即効性こそないものの、精神力を回復させる手段は少ないので冒険者からの人気は高い。
店に煙の臭いが漂ってくると、わずかに口を開いて目が虚ろになったエルフィンスカヤが笑い声をあげていた。ほぼ真顔でケタケタ笑っている姿というのは不気味が過ぎる。
そっと目を背け、材料に柑橘系の果物の皮でも加えればもう少しマシな匂いの煙が出るか考えてみるのだった。