それぞれの時間
今回かなり内容薄いっす…
許しておくれ
地霊殿のとある一室。
命蓮寺の面々がそこに集まり、のんびりと過ごしていた。
「てことは、雲山は大丈夫なんだね?」
「うん。というか、案外傷は深くなかったんだって。やられてたのは表面の魔力で構想された防壁?だけで」
「へえ〜、フランドールはそれを本体だと思って殴ってたってことかな?案外マヌケなのかもね」
「……うん、そうなのかもね」
一輪はそうは思わなかった。
何故なら、フランは狙うようにそこを攻撃していたように見えたから。
朦朧とする意識の中、一輪はしっかりと雲山とフランの戦いを見ていたようだ。
ただ、先の話は雲山が身を翻して躱しているようにも見えたので、一輪には真実はわからない。
(もしかしたら、殺す気は無かったのかな……)
「そういえば一輪はもう大丈夫なの?いくら手当てしてもらってるからって全くの無事ってわけでは……」
「うぅん、もうばっちり。あの赤髪の人の治療魔法、凄くてさー。白蓮さんに引けを取ってないんじゃないかな」
「へぇ……そりゃあ凄いな」
赤髪の人、というのは小悪魔のこと。
一輪が意識を失わずに雲山達の勝負を最後まで見届けられたのは彼女のおかげだ。
しかし、あんな情けない姿を晒した挙句、自分が起きたところで役立てる場面は無いと判断し、狸寝入りをしていた。
といっても、雲山が敵を殴り飛ばした辺りで凄まじいほどの睡魔に苛まれた為、そこから先は知らないのだが。
(あの場面で寝ちゃうなんてなかなか薄情な気もするけど、あの眠気はほんと凄かったから仕方ないよね………
でも、何だったんだろあの眠気。逆らう逆らわないどころの話じゃなかった……)
「ふぅ……」
場面は変わり……
ここは、さとりの寝室。穏やかな寝息を立てながら、さとりはぐっすりと眠っている。
その隣で看病を続けているのは、聖 白蓮。
「……傷自体はもう大丈夫。妖怪だからということもあるでしょうが、全く凄まじい回復力ですね」
(常人であれば死んでいてもおかしくはないのですが。
……それにしても気になるのは、何故急所に傷が無かったのかということ。殺す気なら一番狙いそうなものなのですが……)
外傷こそ酷いものの、それは妖怪であれば命に関わるほどのものではなかったのだ。
白蓮はそのことがずっと気になっていた。何故急所を狙わなかったのか。
そして何故わざわざ、"目覚めを妨げている"のか。
さとりを厄介だと感じているのなら、その場で殺してしまうのが敵にとっては最善のはずだ。
それをしないということは……殺す気はなかったということなのだろうか。
「うーむ……」
「何か深刻なことでも?」
「いや、そういうわけではないのですが……」
「そっか、よかった。白蓮さん、少し休憩したら?ずっとここにいるんでしょ?」
「ですがさとりさんを放ってはおけな……へ?」
自然とその声を受け入れていたが、これまでこの部屋のドアを開く音は全くしなかったはず。
ましてや人の気配など全く感じなかったし、足音など以ての外。
つまり……
「……こいしさんですか。ちょっと驚きましたよ」
「ありゃ、わかる?さすが白蓮さん」
こんなことができる者は白蓮が知り得る中で一人しかいないのだから、わかるのは当然とも言えるだろう。
「心配しないでください、確実に回復には向かっていますよ。あとは目覚めを妨げている魔法をどうにかするだけです」
「そっかー」
そう言いながら彼女は笑顔を浮かべているが、目は全く笑ってはいなかった。
気を遣ったつもりだったが、もしかすると却って追い詰めてしまったのかもしれない。
そんなことを考えていると、突然こいしが話しかけてきた。
「ねえ、白蓮さん」
「はい?」
「白蓮さんって、魔法について詳しかったよね」
「ええまあ、ある程度は……」
「もし出来たらなんだけどさ。
魔力を奪い取ったり保管したりする魔法って、ある?」
そんなことを聞いてどうするつもりなのだろうか。
そもそも、目的は何なのだろうか。
白蓮の脳裏に様々な思考が渦巻くが、彼女の考えることなど考えたってわからないだろう。
何せ、これまで彼女のことを理解しようとして、成功したことなどないのだから。
少し冷たいような気はするが、事実なので仕方がない。彼女にはそれくらい、ミステリアスなところがあるということだ。
「あるにはありますが……何のために?」
「いやー、今後のためにちょこっと知識を得たいなと思ってねー。私にも魔法の才能あったりしたら面白いじゃん?」
「ふふ、それは確かに面白そう。……ですが、魔法とはそう簡単にできるものではありませんよ?私だってここまで来るのに何年かかったことか……」
「別に白蓮さんほどの凄い魔法使いになるつもりはないけど、私がさっき言ったみたいな魔法って難易度高い?」
「まあ、そこそこって感じですかね。難しくはないけど簡単でもない、というか」
「なるほどなるほど、じゃあさ」
そう言って軽い足取りで彼女の姉が眠るベッドの横へと移動すると、白蓮に見せつけるように右手を開いた。
すると……
「えっ!」
彼女の右手のひらから、小さな花──青い薔薇が出現した。
それを掴み、顔の横まで持っていく。
「これくらいの魔法が使えるなら、マスターすることは可能かな?」
「……驚きました。それは"錬金術"ですね?」
「正解!さすが、一瞬でわかっちゃうなんて」
「物を創り出す魔法の代表的なものですからね……それに、魔力の動きも錬金術のものでしたし」
「魔力の動きまで見てるんだ、凄いね」
「凄いのは貴女ですよ、こいしさん。誰かに教わったわけでもないのでしょう?独学で魔法をマスターしたのですよね」
「まあね」
自慢げな表情を浮かべ、こいしは薔薇を持った右手でピースを作る。
「大したものですよ、本当に……身近に魔法使いでもいたのですか?」
「………うん、いた。それも結構レベルの高い魔法使いがいたよ。
今はもう、随分遠くへいっちゃったけど」
こいしの発したその言葉は、とても重苦しげだった。
それもそのはずだ、何故ならその『結構レベルの高い魔法使い』というのはおそらく………
「すみません、至らないことを聞きました」
「うん?私なんか暗い顔でもしてた?」
「いえ、そういうわけではありませんが……わかります。
……絶対、いつもの日常に戻りましょうね。こいしさん」
紅魔の城、その城下町にて。
ドオオオオオオオオオオオンッ!!
突然、町中で爆発が起こった。
凄まじい轟音と共に、爆心地である居酒屋が炎に包まれる。
「うわぁ!!な、何だ!?」
「いきなり爆発したぞ!!」
この非常事態に町の住人達が驚かないはずもなく、居酒屋の付近は騒然とし始める。
炎に包まれた居酒屋はみるみる崩壊していき、その原型を失っていく。
そんな崩れゆく建物の裏の炎の中から、人知れずその場を去っていく銀髪の少年が一人。
「つまんねえな、ここは。
どいつもこいつも腐ってやがる」
まるでこの町のすべてを見下すかのように冷たく言い放ったのち、彼は夜の闇へと消えていった。
 




