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東方学園の怪談話  作者: アブナ
束の間の休息
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束の間の休息 その2




「は〜疲れた。何だってこんな戦いに巻き込まれにゃならないんですか……」


「仕方がありません、幻想郷全域で異変が起こってしまったのですからな!」


「でも神子様は割とノリノリではありませんでしたか?」


「聞こえませんよ屠自古」


「嘘をつけ嘘を」


地霊殿のとある一室。


神子は普段羽織っているマントを乱雑に地面に投げ捨て、ベッドに寝転びながらアイスを口にくわえている。

その隣に布都が椅子に座りながらけん玉で遊んでいて、屠自古はベッドの端に座って天井を眺めている。

豪族の面々は、束の間の休息を優雅(?)に楽しんでいた。



「しっかし毎度思うのは、太子様はオフの時……周りに我々しかいない時の方が口調が丁寧なのは何故なにゆえですかな?」


「さあ、もうこれが癖になってしまっているので私自身にも分かりかねますね……あ、やば、溶けてきた」


「しかし何故かそっちの方が親しみやすいと……あ、神子様、頬にアイスが……私が拭いてあげますね」


「鼻息を荒くしながら舌を出すんじゃありません」


「あいたっ」


神子が体を起こし屠自古に軽いチョップをくらわせる。


「それにしても布都、けん玉なんて面白いです?」


「何を言いますか!けん玉は一生遊んでいられるほどに愉快な娯楽ではありませんか!見てください、こんなにも楽しい!!」


そう言ってけん玉を続行する布都。

ただし、最初から最後まで上手くできていない。


「そ、そうですか」(なるほど、上手くできないのが悔しいのか……)


「私は貴女の食べているアイスというものの方が理解しかねます。水を固めて味付けした食べ物の何が美味しいのです?」


「おや、屠自古。貴女はアイスを食べたことはあるのですか?」


「いえ、無いですが……」


「ふふふ、そういうのを"食わず嫌い"というのです。ほら」


そう言って屠自古にアイスを差し出す。

屠自子はどういう意味がわからず、思わずきょとんとしてしまう。


「試しに食べてみなさい。きっと驚きますよ」


「……はぁ……」(私は幽霊だし、食べる必要はないんだけどな)


そう思いつつ、味は気にはなっていたので口へと運んでみる。






「……こ、これは──!」






「……どうです?」


「……美味しい……


口に入れた瞬間に広がるあっさりとした苺の甘さ、そして食欲を増進させるような甘い香り……氷のような冷たさがよりその味を際立てているような……


何、なのですかこれは。ただの水を固めたものではないのですか!?」


目を輝かせて神子の方へと視線を向ける。

その様子を見て、神子は思わずくすっと笑いが溢れた。


「だから言ったでしょう?」


「も、もう一口!もう一口ください!」


「そんなに慌てなくても、ちゃんと三人分のアイスを買ってきていますよ。ほら、机の上にある袋に入ってます」


「承知!!」


ベッドから跳ね起きて机の上の袋に手を入れる。

突然の行動に布都は驚き、椅子から転げ落ちてしまった。


「あいたぁ!と、屠自古ォ!?突然どうしたのだ!?」


「布都もアイスを食べるべきだ!!さあ早く!!」


「あいすとな?ああ、あの甘い氷菓子か!あれは真に美味であった!我の分もあるのか?」


「何!?お前は食べたことがあったのか!?」


(あ、お互い呼び捨てにし合ってる。気が抜けてるんだなぁ)


二人の関係は少し特殊で、普段はお互い丁寧な言葉遣いをするようにしているらしい。『親しい仲にも礼儀あり』だとか何とか。

というのも、布都はともかくとして屠自古はあまり敬語を流暢に使えるタイプではないらしく、その練習とのこと。

ただ気が抜けたり完全にオフの時はこんな風に呼び捨てにし合ったり敬語が抜けたりする。


「まあまあ、そんなに慌てなくてもアイスは逃げませんよ。ちゃんと保冷剤も一緒に入れてあるんだから」


「?」


「"ほれいざい"とは?」


「え!?二人ともそんなに現代のこと知らなかったっけ……!?」










場面は変わり、地霊殿の別の一室。


「っかぁ〜〜〜〜っ!!大仕事の後のお酒ってのはうまいねえ!」


「全くだ!しかし勇儀と呑むのは随分久しぶりかも。何だか懐かしいね」


「確かに。最後に呑んだのっていつだったかな」


「う〜〜む、覚えちゃいないな。ま、別にいいでしょ気にしなくて。言い出しっぺが言うのも何だけど」


「ははっ、違いない!さー呑も呑も!かんぱーい!」


「かんぱ〜い!」


鬼の二人が豪快に酒を呑み散らかしている。

その隣に、不満気な顔でその様子を見つめる者が一人。


「……ねえ。


何で私も一緒なのよ……」


「何でって、呑みたそうな顔してたから」


「誰がよ!というか、私今禁酒中なんだけど!?」


「まーまー華扇!いーじゃないのたまにはさ!修行中がどうだとか関係無い無い」


「そーそー!」


「……あんたらねぇ……!」


その時、突然萃香の表情が変化する。

先程まではどこか気の抜けたものだったが、今は真剣な表情に変わっていた。


「なあ、華扇」


「……何?」


突然の変化に驚いたが、ふざけた話ではないらしいことを察し、華扇も真剣に答えた。


「今回の戦いさ、なんか変だと思わない?」


「……変ってのいうのは?」


「何というかこう……流暢に事が起きすぎてるというかさ。それも幻想郷にとって悪いことが。言葉で表すとするなら……


『すべてがシナリオ通り』って感じ」


「シナリオ通り、ねえ」


(……確かに、私も違和感は感じてたな)


これまで起こってきたことを思い返すと確かに、すべてがスムーズに進みすぎているようにも思う。

幻想郷に異変が起こってから今日までは、約2日と立っていないくらいなのだ。

なのに、幻想郷はほぼ壊滅と言ってもいいほどに追い詰められている。


(連中が予め計画を企てていたってことかしらね……だとしたら何で誰も気付かないんだって話ではあるんだけど)


「連中が予め流れを考えてたにしても」


勇儀に自分の考えていることを言い当てられ、思わずビクッと体を震わせた。

ただ、勇儀は意識的に華扇の考えを当てたわけではないようだ。


「あまりにも上手く進みすぎてる。そういうことだね」


「うん、端的に言えばそんな感じ」


「まあ、それはちょっとわからなくもないけど……実際に起こってしまったものはしょうがないでしょう。相手の戦略勝ちってところじゃないの?」


「戦略勝ちで済ませられるほどの展開かな、これ?私はそうは思わないけどな」


萃香のもったいぶった物言いに、華扇は少しだけ腹をたてる。

つい強い口調で言ってしまう。


「だったら、何だっていうのよ」


「……まあ、あくまで私の推論にすぎないんだけどさ。






裏で、誰か手を回してるんじゃないかなーって……」




そう言いながら、萃香は盃を口へと運んでいった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「……」ズズズズズ……


紅魔の城の、地下牢へと続く階段。

その階段の入り口の隣に、椅子に腰かけた鈴蘭が一人、お茶を啜っていた。


(見張っていろ、とのことだったけれど……王女様は一体何から見張るように仰ったのだろうか。……そもそも、ここに見張りって要るのだろうか)


主人からの命令でここの見張りをしているわけだが、どういう意図で見張りをつけたのかがわからない。

地下牢にいるのは囚人で、その囚人一人を助けるためにこの城に敵が侵入してくることもないはず。……確証はないにせよ、その可能性は低いはずだ。


(……暇だ……)


「王女様、早く帰ってこないかなー……


……ハッ」


と、声に出してしまっていたことに驚くと同時に、鈴蘭は何かの気配を感じ取る。

廊下の角から、話し声が聞こえてきたのだ。





「さーて、3日もすりゃあ嫌でもあいつの傷も回復してんだろ」


「頑なに表情を変えねえあの姿勢は逆に俺らにとってはどストライクなんだけどな!あいつ、気付いてねえみたいだしやりたい放題だよ」


「しかも王女様と同じ姿と来た。くくっ、最高だよな」


「今日はどうやって遊んでやるかなー!はははっ」







「……なるほど」


(確かに、見張る必要はあったみたいだ)


二人の妖怪達が角を曲がって姿を現した。

一人は乱雑な服を着た黒髪の大柄な男で、もう一人は執事姿で金髪の少し細身の男だった。

鈴蘭はそれでも、依然としてお茶を啜っている。


「はははっ……ん?」


「……なんだぁ?」


鈴蘭の姿を目に入れた妖怪二人は、疑問の表情と言葉を露わにし、鈴蘭を睨む。

鈴蘭は表情を変えず、また妖怪達に目もくれず、ティーカップにお茶を注ぐ。


「ここに何か用でしょうか」


ある程度注いだ後、再びお茶を口へと運んだ。


「あー……あんた、確か王女様の召使いだっけか?それが何でここにいるんだ?」


細身の男が尋ねる。


「今質問をしているのは私ですよ。質問に質問で返すのはどうかと」


「…あ?」


若干煽るように言った鈴蘭の言葉に、大柄な男が不機嫌そうな声をあげた。

それを塞きとめるように、細身の男が右手を上げた。


「ごもっともだ。俺たちは地下牢に捕縛されてる囚人の監視に行くところなんだが……」


そこまで言うと右手を下ろし、大柄な男の背後に回す。


「あんたは何でここにいるんだ?」


「私は王女様に監視を頼まれています。『何人も近付けるな』とのことです」


「そうか。だが俺たちもまた、王女様に『見張っておけ』と頼まれてたな。王女様の許可があるなら通っても構わないだろう?」


細身の男がそう言うと、二人がゆっくりと近付いてくる。


「なりません。王女様の命令は『何人も近付けるな』。であれば、あなた方もその対象です」


そこまで言ったところで漸くティーカップを置き、男二人に視線を当てる。


「あーそうかい。……あんた、頑固って言われたことはないかい?」


「いいえ、一度も」


「そうかよ。





じゃあ死ね」





二人の男が背中から其々の得物を取り出し、鈴蘭に斬りかかった。















ゴトッ


キンッ


と、重いものが地面に落ちるような鈍い音と、鞘に刀を収めるような音が、静かな廊下に鳴り響いた。






「やめておきなさい。


あなた方では私に、指一本触れることすらできないでしょう」


鈴蘭の手に、一本の刀が握られていた。


妖怪二人の手は、得物とともに地面に落ちていた。




「んなっ…!!」


「ぎッ…!!


ぎゃああぁあああぁ!!!」


大柄な男が地面に転がりのたうちまわる。

小柄な男は冷静にその場から離れ、鈴蘭と距離を取った。


「くっ…!てめえ!!」


「案外、冷静ですね。驚きましたよ」


そう言いながら、大柄な男の首を刎ねてとどめを刺した。


「…!!」


(こいつ……ただの小娘じゃねえってことか……そりゃそうだ、何せ王女様の召使いなんだからな)


細身の男が右手を再生させる。

そして、鈴蘭に向けて掌を開いて翳す。

すると、掌から黒い靄のようなものが発生し、剣が生えてくる。

それを強引に引き抜いた。


「面白い、王女様の側近の実力、見せてもらおうじゃないか。

俺の名はトライン……一応、この城の"副執事長"をやらせてもらってる男だ。


冥土の土産に聞かせてくれ、あんたの名は?」


笑みを浮かべながらそういうと、剣を鈴蘭に向けて翳す。


「鈴蘭。


王女様をお守りする者です」


刀を鞘から引き抜きながら、鈴蘭はそう答えた。




















「……あらら」


フランは不死ノ太刀を回収した後、イザベルの様子を見に地下牢への入り口まで来ていた。

そこで見た光景は……


始末するつもりでいた部下二人を、鈴蘭が先に始末しているところだった。


「おかえりなさいませ、王女様。指示通りここは守らせていただきました」


「ああ、ご苦労様。……それにしても仕事が早いね、私もこいつらは殺す気だったんだけど」


「でしたら丁度良かった、と言った感じでしょうか。廊下が汚れてしまったので、後で掃除をしておきますね」


「あーいいよいいよ、ここを守ってくれたお礼に私がする」


「そんな……!王女様の手を煩わせるわけには……むぐっ」


フランが鈴蘭の口を右手で塞ぐ。


「たまにはこっちにもご奉仕させろ!」


ウインクをしながらそう言うと、鈴蘭の口から手を離す。

鈴蘭は不服そうに目を細め、フランを見つめている。

その様子を面白がるようにフランがはにかんだ。


「ははっ、掃除終わった後二人でお茶しようね」


「……もちろんです」


照れ臭くなり、思わずフランから目をそらす。

フランが歩き出したため、鈴蘭はその後についていく。


「あーこっちも仕事は終えたし、しばらくはのんびりできるかなー!」


「これまでの激務、お疲れ様でした、王女様。ごゆっくりお休みください」


「そうさせてもらうよ〜。あ、そうだ鈴蘭。今度将棋のリベンジさせてよ。あれからちょっと勉強したんだぜ。今やったら私が勝つから」


「ふふっ、いいでしょう。そう簡単には負けませんよ」

















数時間後


玉座の間にて。




ギィィィィ……


鈍い音を立て、玉座の間の大きな扉が開かれる。

フランは、フリーダの呼び出しを受け、玉座の間へときていた。


玉座の間には明かりが灯されておらず、暗闇に包まれていた。


「お呼びでしょうか、陛下」


フランが暗がりに向けて声を掛ける。

しかし、返事が返ってこない。


「……陛下?」


と、二度目の呼びかけをした、その時だった。










「アァ……フラン……」





酷くか細い声が聞こえてくる。

それは、間違いなくフリーダのものだった。


「……そうか」


(そういえば、そろそろだったか)


何かを察したらしいフランは、玉座の方へと歩みを進める。


「フラン……フラン……そコに、イるの……?」


「うん、いるよ。すぐそばに」


「アぁ……フラン……





アナたの…………血を……」


「……うん」


フランが羽織っていたローブを脱ぎ捨て、胸元のリボンを解いた。

そして、右肩を裸させる。


「どうぞ、お母様」


「あァ……フラン……ありが、とう……」





「…んっ…ッぅ…んぐっ…」


フリーダがフランの右肩にかぶりつく。

はしたない声を上げて、夢中で血を飲んでいた。

フランはそれを、声を上げるわけでもなく、ただ黙って受け入れていた。
















「…っはぁ……」


しばらくすると、フリーダが血を吸うのをやめ、顔を上げる。

恍惚な表情を浮かべ、蕩けているように見える。


「なんて、美味しい血……ありがとう、フラン。ごめんね……」


「ん、もう終わりで良かった?」


「ええ……充分だわ」


フリーダがそういうと、フランは服装を整える。

そして、ポケットから水筒のようなものを取り出し、それを飲み始めた。


「ねえ、フラン」


「ん?」


「私達の理想……必ず、叶えようね」


「……うん。




……必ず」
















投稿した後に気付いたけど

「屠自子」じゃなくて「屠自古」でしたね…

変換でそのまま出てきた方でやってた

修正修正

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