帰らぬ友を、還す為に
14日過ぎてしもうた、申し訳ない!
リアルが忙しくて(⌒-⌒; )
これは、数時間前の迷いの竹林での出来事。
──ガッ!!
「ぐぬっ…!」
「むぅっ…!」
妹紅と慧音が、激闘を繰り広げていた。
お互いの拳を当て、競り合っている。
慧音は白沢化している状態である。
ガッ!
二人が一旦距離を置いた。
「知らなかったな……そんなに力があったなんて」
「侮ってもらっては困るなぁ、妹紅?私だって妖怪だと言うのに」
「確かにその通りだね。……ただ、一つ教えて欲しいんだけどさ」
妹紅は、慧音から感じていた言い知れぬオーラの正体を既に悟っていた。
「先生……あんた、何か"飲んだ"?」
そう言われるや否や、不気味な笑みを浮かべていた慧音の顔がさらに不気味に歪む。
「察しがいい。さすがは妹紅」
「……先生がそんなになるまで、あいつらが許せないのかい。
『不死身』なんて、なっても良いことなんてないって言っただろ」
そう、慧音は不死身となっていた。
目は少しだけ深い紅みを帯び出しており、体からは赤黒い靄のようなものが溢れ出ている。即ち──
───吸血鬼の血を、拝領したのだ。
「そうでもないさ……おかげで私はかつてない力を手に入れられた。この体は存外、心地良いものだと私は感じているよ」
慧音は歪んだ笑顔を見せる。
かつて、慧音がこのような表情を見せたことはなかった。
少なくとも、妹紅と出会ってからは、一度も。
「……何があったか知らないけどさ、もうこんなことやめておいた方がいい。虚しさが残るだけだよ」
「──お前に何がわかる」
「……!」
「ただ長生きをして、"助からぬ命"を見届けてきたお前に、私の何がわかる……!!」
慧音の目には、かつてあった光は消えていた。
ただ深く、酷く濁った紅い澱みを放っていた。
「彼らは"助けられる命"だった……あんなにも近くにいたのに、私は助けることができなかった……!」
「……まさか……
あの街の、人達か……!?」
慧音と共によく訪れた、慧音の自宅の側の街。
あそこの村の人達は皆優しく、とても活気に満ち溢れていた。
とても良くしてもらったし、何より話していて楽しかった。
ここがあるならば、慧音が闇を抱えてしまうことはないだろう。
そう、思っていた。
しかし──それは違った。
「私がもっと早く気付いていれば……
私にもっと!力があればァ!!!」
それを"失った"時の悲しみ──それを乗り越えることはきっとできないだろう。
誰よりも、愛情深いが故に。
「…ッ…!」
(わかっていたはずだ、慧音はとても愛情深いんだ。それ故に……何かを失うことを極端に恐れるのだ。
……やっぱり、幻想郷に何かあったんだ。けど、今はそれよりも……)
「くッフフふはハハははァ゛アッ!!!」
狂気に満ちた笑い声を上げ、世の中の全てを呪うかような恐ろしい表情を浮かべながら、慧音は泣いていた。
その涙は──真っ黒に染まっていた。
「元凶たる奴等を許せるものか!!この私が手ずから引導を渡してやろう!!」
「……何……!?あいつらが、元凶!?」
(永遠亭の連中が……異変の元凶!?)
そんなはずはない。何故なら、今肌に感じていること嫌な魔力は───
「邪魔をするなら妹紅……お前も敵だァ!!」
「!!」
慧音が地面を蹴り、妹紅目掛けて突っ込んでくる。
妹紅は慧音の動向に常に警戒していたため、すぐに臨戦態勢を取ることができた。
ガッ!!
「ちっ…!!」
慧音の右手による殴りを、左手で慧音の右手の手首を掴んで止める。
その時の衝撃は先程までの力とは明らかに別格であった。
(吸血鬼の力が馴染み出しているのか…!)
「慧音、もうこんなことはやめろ!自分を見失うぞ!」
「はっ!!何を言いだすかと思えばァ!!」
妹紅の手を振り払い、その場で高く跳躍する。
右拳を握りしめ、構えを取った。
「!」(急降下してくる!)
「ハァアッ!!」
ドゴオォォォォォォンッ!!!
慧音が妹紅に向かって拳を突き出しながら急降下した。
凄まじい轟音とともに地面が割れる。
妹紅はその場から大きく飛びのいてそれを躱していた。
「ふふはっ!!かつて無い力の漲りを感じる!こんな気分は初めてだ!!」
「先生…!」
「殺してやる……殺してやるぞ妹紅!!お前をォ!!」
慧音が、目にも留まらぬ速さで妹紅へ突撃していく。
妹紅はその場で飛び上がりそれを避けようとする。
「むぅんっ!!」
「!?」
慧音が地面を踏み砕く。
その衝撃で地面からめくれ上がってできた大岩を妹紅に向けて蹴り飛ばした。
「ちっ…!」
妹紅は右手の指でピストルのような形を作り、人差し指の先に炎を纏わせた。
ドンッ!!
指先から大きな火の玉を放ち、大岩を消しとばした。
その直後、慧音が妹紅の背後に現れる。
「なっ!?」
「くらえぇッ!!」
ドゴォッ!!
「ぎっ!!」
気付くのが遅れ、慧音の右拳によるパンチを左側頭部に直撃してしまう。
そのまま、地面へと叩き落とされた。
「クハハハハァ!!どうした妹紅!!そんな程度なのか!?」
二本の竹に捕まり、狂気に染まった笑顔を浮かべながらぶら下がる慧音。
追撃を加えようと、竹に足を掛けた。
地面に叩きつけられた妹紅はそんな慧音を、呆然と眺めていた。
「……」(ああ、先生……
随分、変わっちゃったなぁ……)
慧音の目は完全に紅く変色してしまっていた。
八重歯も獣のような牙と化して、顔付きも以前に比べて鋭くなっているように思う。
(そんなになるまで……あの街の人達が好きだったんだな。
心の底から、愛していたんだな)
「なあ、先生」
「…!?」
慧音は、妹紅の雰囲気の変化を敏感に感じ取っていた。
「あんたはきっと、こんなことを言っても聞く耳を持たないんだろうけどさ」
「!」
妹紅が立ち上がろうとする。
慧音はそれをさせまいと、妹紅へ突撃していった。
「ああ、興味もないな!!」
言葉を遮るように声を上げ、妹紅へ突撃していった。
ドオオオオオオオンッ!!
轟音とともに、妹紅のいた場所が煙で覆われる。
慧音はその場から離れようとするが──しかし。
「…ッ!?」
「人の話は最後まで聞くものだと思うよ。今はあんた、日本文学の先生だろう?」
慧音の攻撃は、右手首を右手で掴んで止められていた。
引き剥がそうとしても、妹紅の力が強く引き剥がせない。
「くッ……!!」
「話の続きなんだけどさ、先生。
二の舞を演じるのってどう思う?」
「……はっ…?」
質問の意味がわからず、戸惑う。
そんな様子を気にも掛けず、妹紅は続ける。
「私は正直、見ててイライラする。同じ失敗を何度も繰り返さないで欲しいと思うな、私は。
だからかな……先生のその行動は、確実に失敗する行動だってわかるんだよね」
手首を握る力が強まり始めた。
慧音はそれに気付き、左手から攻撃を放とうとするが……。
「ッ!?」
妹紅の右手が炎を発し、慧音の右手首を燃やす。
「グアアアアアアアアアッ!!!」
咄嗟に左手で右手を切り落とし、その場から大きく後退する。
「でもさ、一つ私からも言わせてほしいことがあるんだ」
「…ッ…!?」
妹紅はゆっくりと立ち上がると、笑みを浮かべてこう続けた。
「ムカつくな、今のあんたは」
「ッ…!!」
妹紅のその言葉と表情を見た時、慧音は思わず後退りをしてしまう。
未だかつて妹紅から、一度たりとも向けられたことのない敵意の眼差し。
それを初めて目の当たりにした慧音は………目の前にいるのが、『人間』でないことを思い出した。
「慧音……今のあんたを先生とは呼べないな。それにもう、『人』でもなくなってしまった。
私からあんたにやれることは一つ」
妹紅が両拳を合わせる。
「"死"を以て、この地獄から解放することだけだ」
「……なら、私も同じだ。
お前を"生"という牢獄から、解放してやろう」
二人がそれぞれ構えを取った。
互いを見合い、様子を伺っている。
────。
ダッ!!
少しの間を置いて、二人が同時に目を見開き、互いに向かって突撃していく。
ドッ!!
お互いの右拳がぶつかり合う。
妹紅はすぐさま左手で追撃を放つ。
慧音はそれを左腕で受け止め、右足の回し蹴りで反撃する。
それをしゃがんで躱し、妹紅は右足で足払いをする。
慧音はその場で軽く跳ね、それをやり過ごした。そのまま振り上げた右足を地面に向けて振り下ろす。
ドゴォォォンッ!!
轟音と共に地面が割れた。
妹紅はそれを飛び下がって躱していた。
慧音はその後を追いかける。
二人が互角の攻防を繰り広げる。
防いでは反撃、防いでは反撃の繰り返し。
激しい拳と蹴りの応酬は、さらに激しさを増していく。
妹紅が右手で殴りかかる。
慧音は左手でそれを抑え、そのまま右手を押しのける。
今度は左手で殴りかかってきたところを顔を右に逸らして躱し、懐に入り込み右手で攻撃を加える。
妹紅はそれを右足の膝で受け止め、左足で慧音を蹴り飛ばす。
慧音はすぐさま体勢を立て直し、地面を蹴って妹紅へ突撃していく。
「!」
その時妹紅が、竹に飛び移った。
彼女の両手が炎を発し、今にも放たれようとしている。
「ふっ!!」
短い吐息と共に、炎の拳が放たれた。
慧音の正面を覆い尽くすほどの火炎、彼女はその中へ笑みを浮かべて突っ込んでいく。
「オオォッ!!」
咆哮と共に全身から魔力を放出し、炎を内側から搔き消した。
「ッ!」
刹那、妹紅が竹を蹴って飛び降り、猛スピードで迫る。
空中から、蹴りで三連撃を放った。慧音はそれを、両手を交差させて防ぐ。
妹紅は慧音の手を踏み台にし、彼女の背後へと降り立った。
その際、炎を短刀のような形状にして魔力で固める。
それを右手で逆手に持ち、慧音の腹部に向けて振るう。
慧音は体を仰け反らせて躱し、右手で妹紅の短刀を持つ手を抑える。
妹紅は素早く左手に短刀を持ち替え、慧音の首目掛けて一閃する。
慧音は顔を仰け反らせて躱し、右足の膝で妹紅の腹部を蹴った。
さらに、左手で妹紅の短刀を斜め上に弾き飛ばす。
「シッ」
「っ!」
しかし妹紅はそれに怯むことなく攻撃を続ける。
一瞬の怯みも無かったことに驚き、慧音は少しだけ体勢を崩す。
妹紅の連撃を防いでいるものの、少しずつ押され始めている。
慧音は、足元にあった先の爆発で手頃な長さに折れた竹を蹴り上げ右手で掴み、妹紅に向けて振るった。
「むっ!」
「ッ…!!」
妹紅はそれをしゃがんで躱した後、落下してきていた短刀をその場で宙返りをしながら右足で蹴り飛ばした。
勢いよく飛ばされた短刀は慧音の持っていた竹を切り裂き、彼女の右頬を掠めた。
その際、右に倒れかけるように体勢を崩す。
妹紅がそのまま追撃を入れようと殴りかかる。
「せぃッ!!」
ドゴォッ!!
しかし、慧音が素早く切り返して右手の拳で反撃する。体勢を崩したように見せかけていたのだ。
その攻撃は顔に直撃してしまい、なす術なく殴り飛ばされた。
「ぐっ…!」
妹紅が即座に地面に両手を付けて勢いを弱める。
何とか背後の竹に叩きつけられることなく止まった。
慧音はそれを見て笑みを浮かべる。
右手の掌から、魔力でナイフのようなものを作り出した。
「ふッ」
狂気の笑みを浮かべ、地面を蹴り勢いよく妹紅へと突撃していく。
妹紅は両手に炎の短刀を作り出し、それを迎え撃つ。
(……慧音……覚えてる?)
『それっ!』
『よっ!』
慧音が木でできた短刀のようなもので、妹紅に斬りかかっている。
妹紅はポケットに両手を入れ、遇らうようにして全て躱していた。
『ははっ、そんなんじゃ虫も殺せないんじゃない?』
『な、何をー!?』
『先生は優しすぎるからなー、攻撃にイマイチ鋭さが無い。だから簡単に遇らうことができるし、相手からしても隙だらけなんだ。
まあ、今やってるのは模擬戦なんだから殺意なんかはいらないんだけどさ』
軽快にステップを踏みながら、慧音の攻撃を躱し切った。
『ハァ……ハァ……くっそー、何で当たらないんだ?』
『あれ、今私が言ったこと聞いてなかった?』
『攻撃に鋭さが足りない、だろう?でもそれを聞いたからって何か変わるわけでもないよ。
ワガママなのはわかるが、できれば具体的にどこが悪いかを言って欲しい。良いかな?』
慧音が遠慮がちにそう言った後、短刀を妹紅へと翳した。
『……じゃあ、もう一回斬りかかってきてよ。次は私も反撃する』
『!……わかった、行くぞ!』
ガキィンッ!!
慧音の勢い任せのナイフによる一閃で、妹紅の右手に持つ短刀が弾き飛ばされる。
今度は上にではなく、妹紅の後方へ。
「ふんっ!!」
慧音はそのまま体勢を少し崩した妹紅の首目掛けてナイフを振るう。
妹紅はそれをしゃがんで躱し、右足で足払いをして慧音を転倒させる。
さらに左手に持つ短刀で薙ぎ払うように転倒しかけた慧音の腹部を狙うが、地面に左手をつき、体を縦に回転させて素早く体勢を立て直しそれを躱す。
「ッ!?」
慧音は妹紅の背後に回り込み、右手で妹紅の右肩を掴む。
妹紅が振り払おうと左手の短刀を構えながら振り返ろうとすると同時に、慧音は妹紅の頭を掴む。
そのまま妹紅を土台にして正面に回り込むように飛び越えた。
掴まれていた右肩と顔が解放され、即座に慧音に反撃を加えようとする。
「ッ!!」ドガッ!
しかし慧音は着地と同時に体を捻らせ、右足による回し蹴りを放っていた。
妹紅はそれを顔にモロにくらってしまう。
そのまま追撃を入れようとナイフを振るうが、瞬時に体勢を立て直し短刀でそれを防いだ。
今度は妹紅が慧音に斬りかかっていく。
ガキィンッ!!
慧音はその攻撃を往なすように躱し、空中で横に回転しながらナイフを妹紅へ向けて投げ飛ばす。
そのナイフを短刀で弾き、再び慧音へと斬りかかる。
慧音は着地後すぐにナイフを作り、妹紅の攻撃を防いだ。
ガキィンッ キィンッ
ガキィンッ!!
金属がぶつかり合う音は耐えず。
静まり返った竹林の中を、木霊していた。
『うおぉ!』
『!』(へえ、なかなか動きが良くなってきた)
妹紅が反撃をするうちに、攻撃方法を真似たのか、徐々に慧音の攻撃は鋭さを増していっていた。
『ははっ、やるね先生!なかなか筋があると思うよ』
『それはどうも!』
慧音が再び妹紅へと斬りかかっていく。
ガキィンッ!!
慧音の一閃を防ぎ、反撃する。
妹紅のその反撃を躱し、妹紅の懐へ潜り込む。
慧音はナイフで攻撃するが、短刀で防がれる。
しかしその隙に左手で妹紅の右肩を掴む。
「ッ!」
その際、妹紅が体勢を保とうと左膝を曲げて耐える。
その膝を踏み台にして妹紅に被さるように飛び付いた。
そのまま妹紅の頭を両足で挟み込むと、遠心力を利用して妹紅を地面へ投げ伏せる。
「ぎっ!!」
「ふんッ!!」
追撃にナイフを妹紅に突き立てるが、後方に転がって躱される。
即座に体勢を立て直した妹紅は、そのまま慧音へと斬りかかった。
ガキィンッ ガキィンッ!!
二人の攻防は、さらに激しさを増していく。
親友との戦いは、もはや止めることは叶わない。
しかし、こんな中。
妹紅は少なからず、高揚を感じていた。
「うおぉっ!!」(ああ、慧音。
お前は、こんなに強くなったんだな)
「オォオオッ!!」
ガキィンッ!!!
両者の得物が折れてしまう。
それでも、二人は止まらない。
ガッ!!
「ッ…ぐぬっ……!」
「くっ……ッふふ…」
二人が両手を掴み合い、押し合っている。
お互い一歩も引かず、力は均衡していた。
妹紅は険しい表情に対し、慧音は愉快そうに笑みを浮かべていた。
しかしこれは、余裕があるから来ている笑みではない。
「むんっ!!」
ドガァッ!!
「うぎっ!!」
慧音が一瞬の隙をつき、妹紅の顎に強烈な蹴りをくらわせた。
そのまま右手で殴り飛ばす。
「くらえぇえッ!!」
片手にエネルギーを集中させ、それをビームのように放出させた。
凄まじい魔力の奔流が、妹紅へと襲いかかる。
「くっ…!」
妹紅は瞬時に両手を地面に落とし、炎を放出させる。
魔力を帯びた炎の壁が出来上がり、エネルギー波を防いだ。
ザッ!
「!!」
エネルギー波が止んだと同時に壁の右側から足音が聞こえ、咄嗟に振り返る。
しかしそこに慧音はおらず、代わりに折れた竹が転がってきた。
その竹に気を取られた直後───
ドガァッ!!
「がっ!?」
背後から慧音が現れ、思い切り背中を蹴られた。
そのまま大きく吹き飛ばされ、竹を一五本程折った後、竹に打ち付けられて倒れる。
「ハハハッ!!無様なもの───」
慧音が追撃を入れようと足に力を入れたその瞬間。
ドンッ!!
「ッ!?」
地面から炎が湧き上がり、その中から妹紅が現れた。
蹴り飛ばされたのは、炎の分身だった。
「なッ!?」
「オラァッ!!」
慧音の腹部を思い切り殴った。
鈍い音と共に、腹部から血が吹き出す。
「ぐぶッ!!」
妹紅の拳は慧音の腹を突き破り、体内へと侵入する。
そして───
「……さよなら、慧音」
「なッ───」
ドオオオオォォォォォォォンッ!!!
慧音が体の内側から大爆発が起こす。
慧音の体内に炎を送り込み、それを爆発させたのだ。
「……こんなやり方で、悪いね。一瞬で意識を失わせるつもりだったんだけど……
───!!」
爆煙が晴れ、爆心地が見え出す。
そこには……
「……まだ……
生きてるんだな、慧音」
「ハーッ…!!ハーッ…!!」
全身に焼け傷を負った、慧音が立っていた。
「……私は、まだ……!…死ぬわけには、いかない」
慧音の傷が、不完全ながら治癒された。
吸血鬼の、再生能力だ。
吸血鬼としての機能はまだ不完全なため、完璧には再生はしないようだった。
「……もう、いいよ。充分だよ、慧音。
あんたは充分頑張った。これ以上頑張る必要はないんだ。だから、もう安らかに……」
「いいや」
食い気味にそういうと、慧音は右手を妹紅へと翳す。
その時に妹紅は、気付いた。
慧音から……先程まで感じていた異様な雰囲気を感じなくなったことに。
「私にも私なりに……考えがあったんだ。
お前のところに寄ったのは……本来はこの為だった」
そう言った後、慧音が掌を広げた。
すると───
ドシュッ
「……!?」
慧音の右手から、刀の切っ先のようなものが生えてくる。
彼女はそれを掴むと、思い切り腕から引き抜いた。
「見よ……これは不死なる者を還す刀。
"不死ノ太刀"と呼ばれる、妖刀の一振り」
慧音の血を浴びたその刀は、異様な雰囲気を醸し出していた。
禍々しい気とでも言おうか……黒い靄のようなものが、刀から溢れ出ているのだ。
「これならば、お前を斬ることができるぞ……妹紅。
永遠に続く不死の時間を、終わらせることができるんだ」
表情こそ先と同じ不気味な笑みを浮かべているものの、その声には少しの『哀しみ』があった。
「……不死ノ太刀……」
「そうだ。かつて妹紅は言っていただろう?
不死身なんてなるもんじゃない、一人残されるのは苦しいと。
だから終わらせる。そして私の目的も果たされる。一石二鳥じゃないか?そうだろう?」
慧音は、妹紅を死なせてやりたいとずっと思っていたのだろう。
それも、自らの手で。
不死身の体という監獄から、妹紅を出してやりたいと……ずっと思っていたのだろう。
「……慧音……あんた、その刀どこで……」
「言えない。それに、私も分からない。
どうして"あいつ"がこの刀を持っていて……それを私にくれたのか」
あいつというのが誰なのか、妹紅にはわからない。
だが一つ、別にわかったことがある。
「……なあ、"先生"。あんた、永遠亭の場所は把握していたんだろう?
わざわざ私のところに来たのは……私を殺そうと思ったからなんだろう?」
慧音は、何も答えなかった。
だが……答えとしては充分だった。
「───ありがとう」
優しく微笑んだ後に。
妹紅は、右手に魔力と炎を集中させた。
「けど……私を殺した後は、永遠亭に行くんだろ?」
「ああ」
妹紅の問いに慧音は、短くそう答えた。
妹紅は覚悟を決めるかのように、両目を一度瞑った。
「……終わらせよう、慧音」
妹紅の右手には、炎の刀が握られていた。
「……ああ……すぐ、終わらせてやる」
二人が刀を抜刀術のように構える。
──────。
しばらくの間、竹が風に揺られる音だけが過ぎていった。
そして………
ザッ!!
『いやー凄いな!この短期間で一気に成長したね』
『はははっ……妹紅のおかげだよ』
『……なあ、先生』
『ん?』
『できれば、あんたが戦わないで済むような……楽しくて明るい、そんな生活になるようにしてあげるよ』
『な、なんだ急に』
『あんたのことは、これから先は私が守るよってことさ!だから……
どうか、私を頼ってくれよ!』
「これは、不死を嫌った人間と。
それを救おうとひた走った、二人の友情のお話。
この話の結末は、はたして絶望か希望か……
それは、来月までのお楽しみということで♪」
紅い月を背景に、金髪赤眼の幼い悪魔が、誰かにそう、呟いた。
最後の方少し雑になってるような…?
慧音の途中の投げ技はヘッドシザースホイップというものを調べていただくとわかりやすいかも…
自分の描写の下手さ加減にムカつきますねぇ!




