夜は続く
一ヶ月ぶりの更新ですね(二回目)
もう月一くらいのペースで良いかな…笑
騒然としていた戦場は
いつもの静けさを取り戻し。
空に浮かぶ紅い月は
終わりゆく幻想を見届けるかのように、今尚眩い光を放っている。
長い長いこの悪夢は
まだ、始まったばかり。
そんな終わりゆく世界の街中に
寂しく佇む少女が一人。
「ここで藍先生がそこそこ足止めして、他の連中も集まってきて……」
「そしてそろそろ、あの人達が相討ちになってしまう頃」
「それは防がないとね……ふふっ」
「よし、治りました。行きましょうか」
「うん!ありがとうイザベル」
「礼には及びませんよ、さあ急ぎましょう!」
イザベルとぬえが飛んで行こうとする。一刻も早くフランの元へ行きたいのだろう。
……しかし、妙に嫌な予感がする。
今行ってはいけないような気がしてならない。
「…ちょっと待って!」
思い付いたが吉日、慌てて二人を呼び止めた。
二人は訝しげに首を傾げ、その場にとどまる。
「何故止めるのです?今は一刻を争うでしょう」
「そうだよこいし!急がないとみんなが…!」
「わかってる、ただ一つ気になってることがあるんだ」
「気になってること?」
ぬえが素っ頓狂な声で復唱した。
イザベルはフランが向かっていった方を見つめている。
一応聞く耳は持たせてくれているようだ。
「フランの言ってた『時間が無い』って言うのと……」
正直これから口にしようとしてることは何の関係も無いかもしれない。
ただ、何か……"何か"違う。
今までのフランとは、何かが違うのだ。
「何をもったいぶっているのです。言いたいことがあるのなら言えばいい」
「──フランの背が、前よりも伸びてたこと……」
思い切って打ち明けてみたものの、自分自身これが今のフランから感じる違和感と関係があるかどうかの自信は無い。
イザベルはもったいぶるなと言ってはいたが、『何を呑気な』と笑われるかも──
「……やはり、貴女もそう感じていましたか」
「…え?」
「だよな!?やっぱ伸びてるよねちょっと!」
「私より少しばかり大きくなっていましたね。ほんの1、2センチほどですが」
「……みんなも気付いてたんだ」
違和感を感じていたのは私だけでは無かった。
少し、安心した。この二人はやはり、フランをよく理解しているようだ。
「ええ、もちろん。……吸血鬼の身体の成長速度は遅いのにも関わらず、あのお方は私よりも伸びていた。
重ねた年月で言えば──一年後とはいえ未来から来た私の方が多いはずなのに」
「どういうことなんだろう」
「さあ……今その謎を推理するには情報量が少なすぎますからね。憶測の域を超えることはないでしょう」
「だったら急ごう!その謎を解くためにもフランのところへ行かなくちゃ!」
「……!」
違和感を感じていたのは確かにそこだが、もう一つ。
何故フランは、あんなにも急いでいるのかということだ。
敵に囲まれたくないからだとしたらフランならもっと上手くやるはずだし、先程フランは大勢に囲まれている。そのことから考えて、間違いなく囲まれるのを恐れているわけでは無い。
だとしたら、一体……
「何をぼーっとしているのです?行きますよ」
「早く!こいし!」
二人は既に私よりも数メートル前を走っていた。
違和感の正体は掴めないが……どうやら行くより他にないらしい。
「……仕方ないか」
ガキィンッ!
「やるね、先生」
「何だ、ここにきて生徒面か?」
藍とフランが互角の攻防を繰り広げていた。
両者一歩も譲らず、防いでは反撃を繰り返している。
バキィッ
「!」
「四本目!」
藍の札刀が折られる。
フランは即座に追撃を加えようとする。
「ふん」
「!」
藍が折られた札刀の札を散開させ、フランの周りに漂わせる。
「喝!」
藍が印を結ぶと、漂っていた札が爆発した。
フランは藍の頭上に素早く移動してその爆発を躱している。
「それ!」
フランが藍に向けて三発の光弾を放つ。
藍は袖から札を三つ取り出し、魔力を込めて光弾に投げつけた。
ドオオオオオンッ!
札と光弾が相殺され、爆発を起こす。
直後、爆煙からフランが猛スピードで突進してくる。
藍は即座に札刀を作り、フランの攻撃を防いだ。
「……これも完璧に防いじゃうとは」
「侮ってもらっては困るな」
藍がフランの刀を弾き、後退した。
フランは空中に停滞し、建物に着地した藍を見下ろしている。
「強いね、さすがは九尾の妖狐」
「随分舐められたものだ。何故本気を出さない?」
「体力は温存したいからね。でも、そんなことを言っている場合でもなさそう」
フランが被っていたフードを下ろす。
「悪かったね、藍先生。貴女のことを甘く見ていたわ。そのお詫びとして──
ほんのちょっとだけ、本気で遊んであげるよ」
フランの目が紅く光る。藍はフランの雰囲気の変化を敏感に感じ取っていた。
(さてここからが本番だな)
藍が身構えた、次の瞬間──
「──なっ──」
ほんの一瞬だった。
藍が瞬きをしたその瞬間。
藍の視界から、フランの姿が消えたのだ。
そして……
「お疲れ様」
「に──?」
ザンッ
「──油断していたのは、お前の方だったと言うわけだ」
「……ッ…!」
フランの右手が、切り落とされていた。
さすがのフランも予想外だったようで、驚きを隠せずにいる。
「その程度のスピードに対応できないとでも思ったのか?」
「……はっ、何だ。散々『舐めるな』と言っておいて藍先生も本気出してなかったんじゃん」
「誰も本気でやっているとは言っていないだろう?」
「ごもっとも」
形勢逆転、今度は地面に着地したフランを藍が見下ろしている状態である。
フランの表情は、先程よりも若干強張っていた。
どうやら、藍の強さは完全に想像を超えていたらしい。
「さて、先程お前は『ほんのちょっとだけ本気を出す』と言っていたが……まさかそんなものではあるまいな。
ちなみに私は今ので5割くらいと言ったところだ。お前はどうだ?」
藍は煽るようにそういうと、札刀をフランに向けて翳した。
一方、フランは──
「──ふ、ふふふふふ……」
「…?」
フランが不気味に笑い出した。
その声はとても正気なものとは思えぬ、酷く上擦った笑い声だった。
「フフッ、ハハハハハ……フフッ……」
「気でも触れたのか?」
「ふふふっ……
そうかもね」
「!!」ゾクッ
フランは、とても悍ましい笑みを浮かべて藍を睨みつけていた。
(……私はこれまで、ありとあらゆる敵と対峙し、倒してきたが……
こんなにも底が見えない敵は初めてだ)
フランの紅く光る眼は、無限に広がる深淵のようで。
見つめていると、まるで吸い込まれてしまうかのように美しい目。
それは同時に、底知れぬ未知の『恐怖』を見ているようだった。
(此奴は早めに倒すに越したことはない。奴の中の"スイッチ"が入る前に、倒すしかない)
藍が攻撃を放とうとした、その瞬間である。
バリィーーーーンッ
「ッ!?」
藍の張っていた結界が、突然砕け散った。
まるで破裂するかのように──バラバラに。
「バカな……この結界は魔力による干渉や攻撃を無効化する結界だと言うのに……!」
(奴の能力が結界の力を上回ったということか!?)
藍がフランを進行させまいと攻撃を放とうとした、その瞬間。
「とっても強いよ、藍さんは」
「…!!」
真後ろから、フランの囁き声が聞こえてくる。
「お花の妖怪さんや入道さん達と同じかそれ以上だ。多分今の私が本気でやっても勝てる保証はないと思う。
だから、目的を果たすことを優先させてもらうことにしたよ。決着はまたいつかつけよう」
そこまで言うと、背後に感じていた気配が消える。
咄嗟に背後を振り返るが、やはりフランの姿は無かった。
「くっ……!」(まずい……逃した!私の憶測が正しければ、奴の狙いはおそらくあの赤い髪の悪魔の者……!)
目的を果たすことを優先するというのなら、一直線に小悪魔の元へ向かっていくだろう。
「私が稼げた時間はせいぜい……約10分程か」
(甘く見ていたのは私の方だった……!)
「橙!来なさい!」
「は、はい!」
藍が叫ぶと、橙はそれに即座に呼応した。
藍が全速力で飛んでいく後を追っている。
「間に合え……!」
「藍さんが張ってた結界が壊されたぞ!」
「ってことは……またあいつが来るのか…!?」
「怯むな!藍さんがそう簡単にやられる筈がない、奴に痛手の一つは負わせているはず!」
「ああ、さっきよりも厳戒態勢なんだ。さっきのようにはいかねえさ!」
大勢の妖怪達が臨戦態勢を取り、敵の到着を待ち構えていた。
その中には、妖夢や燐、美鈴や布都達の姿もあった。
「小悪魔殿!妖狐殿曰く敵が狙っているのはそなたのようだ!ご注意なされよ!」
「は、はい!」(どうして……妹様は私を?
まさか、私が狂乱状態を解除できることを知っている……?どうして……一体どうやってその情報を──)
「来たぞ!!」
小悪魔の思考を遮るように、前方の妖怪が声を張り上げて叫んだ。
フランが大勢の妖怪の数メートル手前の空中で停滞する。
妖しい笑みを浮かべて、辺りを見回しているようだ。
「お出ましですね」
妖夢が鞘から楼観剣を抜いた。
「前線は私達がメインだそうですよ」
美鈴は拳を合わせてフランの方を見据えている。
「……大丈夫なんですか?」
妖夢が心配そうな眼差しと声で美鈴に言った。
「何がです?」
それに対し美鈴は素っ頓狂な声で返事をする。
「その、お相手は……」
「……正直、整理はついていません。何故フラン様があんな状態で、私達と敵対しているのか。
ですが、やらなければならないのです。あのお方を止めるのは、私の役目ですから」
覚悟に満ちた目で、フランに目を向ける美鈴。
その様子を見て、妖夢は無用な心配だと悟った。
「失礼しました」
「いえ!」
二人が構えを取った。
「……さて、どこかな」
フランの右腕は既に、服ごと再生されていた。
周りを見渡し、探しているのは──
「──みーつけた」
やはり、小悪魔だった。
ドンッ!!!
瞬間、目にも止まらぬ速さで小悪魔の方に突っ込んでいく。
「ひっ!」
小悪魔は思わず短い悲鳴をあげる。
しかしそこに布都が立ち塞がり……
「我にお任せを!」
そういうと、一つの皿をフランに向けて投げつける。
「ん…?」
フランはその皿を怪訝に見つめたのち、右手で弾き飛ばそうとする。
その瞬間──
「かかったな…!」
カッ
「!?」
皿が凄まじい光を放ち、爆発を起こした。
フランはそれを防ぐことができず、まともに爆発を食らってしまう。
さらに皿が爆散したことにより、その破片が右目に数個刺さってしまっていた。
「ッ…!」
フランが態勢を立て直そうとした直後。
バリィッ!!
「ッ!!?」
フランに落雷が降り注ぐ。
避けられず、直撃してしまった。
「おお!さすがは屠自古殿!」
「このくらい朝飯前です」
屠自古の能力で雷を落としたのだ。
落雷に直撃したフランは、少しの間動きを止める。
「がはっ…!」
「さすがの吸血鬼も雷に直撃すると苦しいんですねぇ!」
「!?」
そこへ、燐が現れる。
フランは体を動かそうとするが、雷で痺れたのか動かせない。
「取り憑かせようと思ったけど、あまりにも強力な力を持ってる奴には取り憑けないみたいでさぁ〜。ま、仕方ない!
──今だよ!」
燐が怨霊を操り、フランの体を縛り付けた。
「何ッ…!?」
振りほどこうとするが、体が痺れて上手く力が出ない様子だった。
そこへ──
「よくやった!」
ドゴォッ!!
「ッ!?」
藍が現れ、フランの脳天に左足による踵落としをくらわせる。
フランは地面に叩き落とされ、地面に大きくめり込んだ。
「おお、やるじゃん!」
「ここまで一方的になるとは思いませんでしたがね」
「……!」(少し、複雑な気分だ)
そこへぬえ、イザベル、こいしの三人も到着する。
「…げほっ」
フランは身動きが取れず、ただ前を見つめることしかできなかった。
「ちょっと、やばいか……
──!」
ふと上を見上げた、その時だった。
突然、フランの視界が暗くなる。
先程まで見えていた地底の灯りが見えなくなったのだ。
「まだ怨霊縛りは継続してるよぉ〜!今のうちに一斉攻撃だ!!」
『了解!!!』
周りの妖怪達が一斉に飛び上がる。
地底の空を覆うほどの凄まじい数の妖怪達が、飛び上がっていたのだ。
「準備はいい!?せーーーのォーーー!
撃てええぇぇぇーーーッ!!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!
凄まじい数の光弾が、フランのいる場所に向けて飛ばされ、爆発する。
フランの姿は見えなくなる程の密度の弾幕が、フランへ向けて落とされていた。
「よーーし!」
「これだけやれば…!」
「油断するな!相手は吸血鬼、どんなことが起こってもおかしくない!
しかし間違いなく我々が優勢だ!このまま押し切るぞ!!」
『オオオオオォォォーーッ!!』
藍の鼓舞に、皆が雄叫びをあげる。
形勢は、圧倒的だった。
「さすが、団結した時の力はやっぱり凄いね」
「それが幻想郷というものでしょう」
「ははっ、新参者が何言ってんの」
しばらくすると爆発は収まり、辺りはさっきと打って変わって静けさが漂っていた。
皆、爆煙が晴れるのをじっと待っている。
もはや幻想郷側に油断はなく、隙もない。
イザベルと藍の結界により、時空間移動も防がれている。
さらに、小悪魔が魔力感知もしている。
ここから逃げ切ることは──不可能だろう。
爆煙が晴れ、フランの姿が見え始める。
フランは───
全身に酷く傷を負い、仰向けに倒れていた。
「はっ……ハァッ……」
荒い息遣いが聞こえてくる。
体力はもはや限界に達しているようだった。
「……よし!
とどめを刺すぞ!!」
『ウオオオオオオ!!』
藍のその一言と同時に、夥しい数の妖怪達が一斉にフランに向けて光弾を放った。
その密度は先程の弾幕に引けをとっておらず、まともにくらえば今のフランならばひとたまりもないだろう。
「よし!」(最後まで油断はできないが……さて、この状況。
彼奴に為す術はあるか──)
藍は、一瞬足りともフランから目を離さなかった。
いつ何が起ころうと、即座に対処できるように。
「さすがにこれなら大丈夫でしょ。いくらフランでももう無理だ」
「……そうでしょうね」
イザベルとこいしは、複雑そうな表情を浮かべていた。
ぬえも同様ではあるが、気丈に振る舞っている。
「これで、敵の大将とも言える存在は倒せた。……我々にとっては、大きな戦果とも言えるのでしょう」
「───嫌な予感がする」
唐突にこいしが言った。
「…え?」
「フランがこのまま……やられっぱなしで終わるとは思えない。
まだ何か……何かある。もう一山越えないと──
フランには、勝てない!」
フランに弾幕が当たる、その直前。
「──!?」
藍は──不気味な笑みを浮かべるフランを見た。
ドオオオオオオオオオオオオンッ!!!
凄まじい大爆発が起こり、爆風が吹き荒ぶ。
「よっしゃあーー!!」
「油断するなって言われたろ!まだ気を抜くなよ!」
「お、おう!そうだな……さっきもこんな感じから一気に巻き返されたしな」
されど妖怪達は気を抜かない。
今の幻想郷側に隙はないのだ。
普通ならば、この状況。
勝ちを確信するほどの状況なのだ。
だが、フランには……それを覆せる程の力がある。
そのことを、この場にいる全員が知っているのだ。
だから油断しない。だから隙は生まれない。
──しかし、それでも。
「さて、藍さんの指示を待つ……!?」
それでもまだ、足りていなかった。
「──やられた……!」
あの悪魔を倒すには──
まだ、力が足りていなかった……
「──ごちそうさま♪」
ヒュッ
「──えっ?」
ドオオオオオオオオオオオオンッ!!!
「!!?」
突然、藍から見て正面方向が大爆発を起こす。
その近くにいた大勢の妖怪達は、その爆発によって消し飛ばされていた。
「な、何だ!?」
「まさかあいつ、まだ……!」
ドオオオオオオオオオオオオンッ!!!
次は、右斜め前方。
「くそっ!!」(やはりか!)
藍が即座に札を空に向けて大量に投げ飛ばし、印を結ぶ。
自身とその半径20mほどの範囲の妖怪達を結界で覆い囲んだ。
その中には、小悪魔も入っている。
「な、何これっ……速すぎる!」
(あまりに速すぎて、一度に複数箇所で魔力を感じる……正確な位置がつかめない!)
「な、何が起こっているのです!?」
布都が状況を飲み込めず、激しく困惑している。
そこへ屠自古が冷静に答えた。
「……おそらくですが……
我々の攻撃を、奴に吸収されたのかもしれません」
「その通りだ」
藍が食い気味に言った。
「奴は弾幕に当たる瞬間、『笑った』のだ。もしかすると奴は最初からこうするつもりだったのかもしれない。
──甘かった……!私達の認識が……!」
悔しそうに歯を食いしばり、険しい表情で前を見据える藍。
その時──
ガキィンッ!!!
「!!」
藍の目の前に、黒い刀を持つフランが現れる。
結界に阻まれそれ以上は近づかない様子だった。
「……貴様ッ…!」
「どんなに油断していないつもりでも、自分達が優位に立つと必ずどこかに"余裕"が生まれる。
その余裕は相手にとっての『チャンス』であり……自分達にとっては"フェイタルなミス"なのさ」
バリィーーーーンッ
「なっ──」
「だから貴女達はここで負ける」
結界を破られた。瞬間、フランが目にも留まらぬ速さで藍に斬りかかる。
藍は思わず、目を瞑ってしまった。
しかし──
ガキィンッ!!
「!」
「もう勝った気でいるようですが!」
妖夢がそれを防いでいた。
さらに……
ドゴォォンッ!!!
「ッ!?」
「まだですよ!!」
美鈴がフランの頭上に現れ、右手の拳で背中を殴りつけ、フランを地面に叩きつけていた。
「ふ、二人とも…!」
「まだ終わりじゃありませんよ、藍さん!」
美鈴が笑みを浮かべてそう言った。
「ちっ…!」
フランは即座にその場から大きく逃れ、一旦妖怪達から距離を置いた。
しかし、その直後。
「──私、メリーさん」
「!?」
ザンッ
「ずっと貴女の……後ろにいたの」
「ッ……こいし…!」
こいしが背後に現れ、右手に持つナイフでフランの右翼を切り落とす。
「オラァーーーッ!!」
「!!」
ガキィンッ!!
ぬえが頭上から突撃してくる。
フランは何とかそれを防いだ。
「ここまでだ!フラン!」
「ふん、それはどうかな…!」
「!?」
フランの切り落とされた翼についた羽の宝石が、虹色の弾幕へと変化する。
それがぬえに向かっていく。
「げっ…!」
その時
「おっと」
ズバンッ!
イザベルが現れ、その弾幕を全てレーヴァテインで斬り伏せた。
「残念でしたね」
「……ちっ…!」
険しい表情でイザベルを睨みつける。
好機と見てか、こいしと妖夢がフランに斬りかかってくる。
「今こそ好機!」
「だーよねっ!」
ぬえ、こいし、妖夢の三人の猛攻を、何とか抑えている。
次第にフランが押されていくが、それでも受け切っているのだ。
ドガッ!!
「いでっ!!」
一瞬の隙を突き、ぬえを右足で蹴り飛ばす。
その一瞬の隙を突いて、妖夢がフランの眉間に向けて突きで攻撃する。
ガキィンッ!
「なっ…!」
ズバンッ!
「ぐはっ」
しかし、それを魔力を纏わせた右手の爪で防ぎ、刀で妖夢の右肩を切り裂いた。
こいしはその攻撃の隙に背後を取り、フランの左胸部に向けてナイフを振るった。
フランはそれを素早く躱し、こいしに向けて右薙ぎに刀を振るう。
こいしはそれをしゃがんで躱し、フランの懐へ潜り込む。
そしてそのまま顔に向けてナイフを振るう。
「ッ!」
ズバッ
何とか躱したものの、少し頬を掠めた。
フランは一度後退する。
そこへ──
「ハァッ!!」
「!?」
ドゴォッ!!!
「ガッ!!」
美鈴が超高速でフランに向かって突撃して、腹部を右拳で勢いよく殴りつけた。
フランが吹っ飛んでいき、建物へ突っ込んでいった。
「フゥーッ…」
「ナァーイス美鈴さん!」
「こいしさんこそ!近接戦でフラン様に競り勝つなんて凄いですね」
「それは妖夢とぬえの二人のおかげだけどね。二人とも歩ける?イザベルか小悪魔さんに治療してもらおう」
「お任せを。二人は少しの間時間稼ぎをお願いします」
イザベルが治療魔法を二人にかけ始めた。
「た、助かります」
ドッ
その時だった。
「ん?──ッ!!」
ガキィンッ!!
「ッ…ぐっ…!!」
「──っぶなッ…!」
美鈴とこいしの二人が、攻撃を受けていた。
何とか防ぐことができたが、少しでも反応が遅れていたらやられていた。
「ふ、二人とも!」
「私達は大丈夫!それより…」
「フラン様はどこへ!?」
その場にいる全員が周りを見渡してみるが、既に姿はなかった。
「まさか小悪魔さんの方に…!」
「私たちも行こう!イザベル、二人の治療は任せ──
──イザベル?」
こいしが先程までイザベルのいた場所を見るが、そこには
イザベルの姿は無かった。
「!!」
小悪魔は、フランがこちらに向かってきていることを感知する。
「来ます!!」
「!」
その声と同時に、藍、布都、屠自古、燐の四人と周りにいる妖怪達の表情が強張る。
「方向は!」
「真正面!」
「承知!」
返事と同時に、藍が目を凝らす。
「──捉えた!!」
右斜め上に向けて札を投げる。
しかし次の瞬間、札は空中でバラバラに切り刻まれた。
そして──
ドガッ!!
「ぐぅっ!?」
「えっ!?」
藍が突然吹き飛んでいった。
突然の出来事に全員が思わず藍が飛んでいった方向を見る。
その、次の瞬間。
「──あっ……あ…」
小悪魔を守るように周りに居た妖怪達の全てが───瞬きをする程の一瞬のうちに、全て薙ぎ倒されていた。
そして──
「──捕まえた」
フランが目の前に現れ、小悪魔の右肩に触れる。
その瞬間。
「──!!」
ガキィンッ!!
小悪魔の背後から、黒い剣が飛んでくる。
フランは何とかそれを防いだ。
小悪魔から後退する。
「弱いものイジメとは──
らしくないな、フラン様?」
紅悪魔状態のイザベルが、小悪魔の前に立ち塞がった。
「……どこまでも、邪魔な奴」
「オレの性格は知ってるだろう?」
「あーそうだった。そういう奴だったね貴女は」
フランは背後からこいし達が迫ってきているのを確認すると、イザベルを睨みつける。
「悪いんだけど、貴女と遊んでる余裕はないんだ」
「そう言うな、少し付き合ってもらおう」
直後、フランがイザベルに向かって突っ込んでいく。
ガキィンッ!
「ッ!」
イザベルはフランの攻撃を余裕綽々で防ぐと、右足で蹴り飛ばす。
さらにフランに突撃していき、追撃を加えようとする。
フランはそれを右に逸れて躱し、小悪魔に向かっていこうとする。
ドガッ!!
「ぎっ!!」
イザベルの左腕の肘打ちを、思い切り側頭部に受けてしまう。
フランは吹き飛ばされ、建物に激突した。
「釣れないな、全く。一途なのは良いことだが」
笑みを浮かべてそういうと、小悪魔のところにまで戻る。
「…!」(す、凄い……いくら疲弊しているとはいえ、妹様を相手にここまで一方的に……)
「……さて、こいしや藍達も戻ってきた。後は連中に任せて良いだろう。オレ達は治療に回ろうか」
イザベルが優しい声色でそういうと、レーヴァテインを収めて小悪魔に左手を差し伸べた。
小悪魔は、いつのまにか自分が腰を抜かしていることに気付いた。
「あ、ありがとうございます」
「一先ず治療だ。腰が抜けたのならしばらくはオレに任せても──」「イザベルゥーーッ!!!」
こいしの叫び声が聞こえると同時に、即座にレーヴァテインを出現させながらイザベルは振り返る。
そこへ見えたものは──
自分に向かって飛んでくる弾幕と、その倍以上の数が小悪魔に向かって飛んできている光景だった。
「あっ──」
イザベルは即座に小悪魔の目の前へ移動し、魔法障壁を展開した。
弾幕は障壁に悉く防がれている。
しかし──
「本命は…」
「!?」
フランが小悪魔の背後に現れた。
イザベルは気付くのに少し遅れてしまう。
あまりのことに小悪魔は気付いてすらいない。
「──こっちだよ」
「くっ──!」
「えっ!?」
イザベルが小悪魔を押し飛ばす。
フランの右手がイザベルに触れた。
次の瞬間──
カッ
「何ッ!?」
フランの右手が眩い光を放った。
「なっ──!!」
「眩しっ…!」
あまりの眩しさに、周りの者達は全員目を瞑る。
光が晴れ、最初に目を開けたのは小悪魔。
イザベルが光と重なり、あまり光の被害を受けずに済んだのだ。
すぐにイザベルの安否を確認しようと、辺りを見回す。
しかし。
「…くっ……!イ、イザベルさん!
……………イザベル、さん……?」
フランとイザベルの姿は────跡形も無く消えていた。
一方、地底の入り口にて。
「そろそろみんなの傷も癒えたかしら?」
「はい、ある程度は。もう動いても問題ないかと思います」
聖の治療魔法で、負傷した者達の応急処置をしていたようだ。
「よし、それじゃあ戻りましょう。地底のみんなに色々と状況を伝えなきゃいけないし……」
霊夢が立ち上がり、地底の方へ歩いて行こうとしたその時。
「待ちなさい、霊夢」
「……?」
突然、聞き覚えのある声で呼び止められる。
だが肝心なところが思い出せない。この声の主は誰だったか。
どちらかと言えば、幼めな声だった。だとすると紫や幽々子ではない。
振り返ると、そこには……レミリアが立っていた。
「レミリア!?あんた今までどこに……」
「悪いわね、心配かけたわ…………敵に連れ去られかけたのよ」
「連れ去られかけたって……一体誰に」
魔理沙が尋ねる。
「ええ、これから話すわ。
これは、結構重大なことだからね……」
そう言ってレミリアは、銀色の指輪と黒いリストバンドを取り出した。
多分今後もこれくらいのペースになると思います。
一層のこと毎月14日更新にしようかな?




