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東方学園の怪談話  作者: アブナ
狂宴の刻
73/82

神出鬼没、紅悪魔 参

このタイトルは今回までです。

次回以降はちゃんと考えます…笑








一方、地上では────。


ガキィンッ!!


「おおおぉ!!」


「せいやぁ!!」


「ふふっ…!」


天子と聖人二人の戦いは熾烈を極めていた。

少しずつではあるが、天子に対して優勢になってきている。


「ふーっ…!」


「はあっ…!はっ……」


神子の方はまだ余力があるが、白蓮はほぼ限界だった。

それもそのはず、約一時間ずっと二人分の強化魔法を使っているのだから、もう白蓮の体力と魔力は底を尽きる寸前である。


「……よくやった。もう強化魔法は解除しろ」


「はぁっ……そういう、わけにも…!はぁっ……行かないでしょ……!!はっ……負けられ、ないのです、はっ…っから……!」


「ああ……だがそんな状態でこのまま前線に出れば間違いなくお前はやられるぞ。足手まといになるのはお前とて嫌だろう」


「…!!」


「お前はもう充分すぎるほどに役立った。後は私に任せておけばいい。


──良いな?」





「……わかり、ました……どうか、ご武運を」


白蓮がその場から退いていく。

天子はそれを咎めることもせず、じっと眺めていた。


「止めないのだな」


「ええ、もちろん。彼女の武勇は実に見事なものだったからね、私からの敬意だと思ってもらえれば」


天子は緋想の剣を地面に刺して、それに寄りかかるようにして待機していた。


「なるほど……天人にも人を讃える器量があったか」


神子が再び剣を構え直す。


「当然。勇気ある者を讃えずして何が天人か」


それを見て、天子も剣を構えた。


「ふん、さすがは天人の端くれだ。心構えが違う。


──行くぞ!」


「いよいよクライマックスってわけだ。……最後まで楽しませてもらうわよ?」


神子と天子が同時に走り出す。


今に二人の得物がぶつかり合おうとした、その時───。



「ん!?」


「!?」


天子の表情が突然驚きのものに変わり、神子の剣撃を受けるのではなく躱した。


「な、何だ…?」


「……ちっ、良いところだったのに……」











「──っはは、だいぶ息が上がってきたんじゃない?茨華仙」


「だいぶ粘ってたけど、そろそろ終わりが近いかな?」


華扇が左腕を右手で抑え、地面に座り込んでいた。

目立った外傷は無いものの、既に体力的には限界に近かった。


「はあっ…はあっ…!」


(思ったより、強かったな……幽香に任せておけって言ったのに格好がつかないわね)


「さーて、それじゃあそろそろ決着付けようか?」


神奈子が右手を華扇に向けて翳す。

と、その時。






「──もう我慢できません!!」






「!?」


早苗が現れ、神奈子に弾幕を放った。

神奈子はそれを全て躱し、諏訪子の隣に降り立つ。


「早苗……!?」


「目を覚ましてください!二人共!!」


目尻に涙を浮かべ、涙声になっている。

その声だけで今の早苗の心境は読み取れるような、そんな悲痛な叫びだった。


「……必死だね、早苗」


薄ら笑いを浮かべる諏訪子。

神奈子は複雑な表情を浮かべている。


「……諏訪子」


「ええ、わかってる。


……ねえ、早苗?私達、貴女とは戦いたくないな。だからさ、大人しくこちら側に来てはくれないかな?」


優しい声色で、赤子を宥めるように諏訪子は言う。

その声を聞くと、早苗の目から涙が溢れ出てくる。


「……諏訪子様……目を、覚まして……お願い……」


「目を覚ますのは貴女の方よ、早苗。いつもの貴女なら…………ん?」


「…?どうした?諏訪子」


「……撤収だってさ」


その言葉を聞いて、華扇は驚いた。


(撤収!?何故……奴等にはここから退く理由が無いはず……!)


「撤収だぁ!?何で!」


「さあね。『時間だ』って言ってたよ」


「時間?一体何の」


文句を言いながらも、神奈子は攻撃を止めた。


「……命拾いしたね、茨華仙?」


諏訪子が嘲笑うようにそう言った。


「す、諏訪子さっ……」


「待って早苗!……貴女達は、どうして『そちら側』についているの?」


華扇は叫ぼうとする早苗を押し止め、自分の中にある率直な疑問を投げかけた。

諏訪子は表情を変えずに答える。


「大いなる自由の為」


「それは『妖怪』の自由でしょ?貴女達は人の味方である神のはず」


「確かに妖怪の自由かもしれないが……それだけじゃないのさ。彼女(フリーダ)の理想はね」


「…?」


諏訪子が両手を広げ、空を見上げる。


「現在の外の世界は……実にくだらない世界になっているんだってさ。聞いたかい?


今世の中は、一つの『組織』によって支配されているんだってさ」


「……一つの、組織?」


「そう……常人とは違う者達の集まり……ただその常人と言うのは、『非凡』だとか『平凡』の意味じゃない。

まして常人とは『違う』者達というのも、『秀才』や『天才』なんて意味じゃない。


文字通り、常人が持ち得ない『常識を超えた力を持つ人間』……超人達の集まりだ。


その組織の名は、『THE RULERs』。世界の統率者とでも言いたいのかもね」


突然始まった、幻想郷の外の世界……即ち現実世界についての話に華扇は驚いた。早苗は訳がわからないと言った様子で目を見開いている。

諏訪子はそんな二人の様子には目もくれず、話を続ける。


「超人の中にも色々とあってね……『魔法』が使える者、『身体能力』が尋常ではない者、『頭脳』が常識はずれなもの……まあ、大半は『魔法使い』なのだけど……そいつらは『ムーンヘレディター』と総称されているらしいよ。


長いからヘレディターで略すけど、そいつらが集まってできたのが『THE RULERs』。その『力』を使って世界を支配している連中だ。


支配のやり方は至極簡単。魔法使いどもが力を合わせて世界中に暗示の魔法を掛けるだけ。

各州に四、五人の魔法使いを派遣して、その州の全域に魔法結界を張り巡らせるんだ。


幻想郷から見てもそいつらの力はなかなか強力なものだから、その気になれば世界中を四人くらいで結界で覆えるほどの力はあるんじゃないかな」


「……!」


「その結界に掛けた暗示はこうだ。


『ムーンヘレディターが世界の統率者。彼らの導きに従えば必ずや救われる』


その暗示はかなり強力でね。魔法について軽く齧っている人間なら気付くことがあるかもだけど、基本的には気付かずに"元々そうだった"と思い込まされる。


魔法について齧っている奴でさえ『これは暗示だ、解除しなければ』なんてところまでは気付かない。『何か違和感があるような』くらいまでだ。


そうして世界全域を支配、統率しているのが『THE RULERs』。今の世界はその僅か"50人"の小さな組織に支配されている。


これも全て、『科学的思想』に溺れた現代人どもの失態だね。神や妖怪、魔法等の『非科学的』なものを信じようとしなかった結果が招いた、『非科学的』なものによる世界征服だ


実に滑稽だと思わない?自分達が弾き出したことで自分達が飲み込まれてしまうなんて!呆れを通り越して笑っちゃうよ」


諏訪子の表情が激変した。

先程まで落ち着いた面持ちをしていたが、今は邪悪な笑みを浮かべて笑っている。

早苗は、未だ嘗て見たこともない諏訪子のその表情に恐怖した。


「そんな馬鹿な連中に屈したまま終わるなんて到底納得できないでしょう!?だったら今度は私達が追いやる番なのさ!愚かで惨めな馬鹿共を!!そして世界に知らしめるんだよ……


我等が女帝、フリーダ様の降臨を!新たなる世界の始まりを!!」


「世界を支配するのはお前達ではない……我等が王、フリーダであると!!」


神奈子も口を揃えて言った。

華扇は、激しい嫌悪感に襲われた。

そして思わず、ゾッとした。


(──ここまで、人格を塗り替えられるのか──)


「……さて、そろそろ戻ろう。お話はここまでだ」


「ああ」


「さっきも言ったけど、命拾いしたね茨華仙。ここで拾ったその命、せいぜい無下にしないことだ。


……早苗」


名を呼ばれ、体をびくりと震わせる。

しかし、諏訪子が早苗を見つめる目は、とても穏やかだった。


「さっき言ったこと、考えておいてほしいな。こっちにくれば……必ず、貴女も幸せになれるから」


「…え?」


「それじゃあね」


二人が踵を返して去っていく。

華扇はそれを止めることはしなかった。

このまま戦っても、勝ち目は薄かったから。


(少し悔しいけど、仕方がないわね……奴等がさっき言ってた『時間』って何なのかしら。


…っと、それよりも……)


半ば放心状態の早苗の肩を軽く叩いた。

早苗はびくりと体を震わせ、「ひっ」と短い悲鳴を上げた。


「大丈夫?」


「は、はい。……ごめんなさい、助けに入ったつもりだったのに……」


「仕方がないわよ……相手が、相手だったもの」


「……はい」


早苗は俯いてしまった。

華扇は、何と声を掛ければ良いかわからなかった。


「…ん?」


その時、華扇はある事に気付く。


「……嘘」









「……もうちっと強いのかと思ったがな」


萃香が椛の頭を掴み上げている。

椛は意識を失っており、力無く持ち上げられていた。


「そっちももう終わったかい?」


背後で戦っていたであろう勇儀に声をかけた。


「ああ、終わった」


すぐに勇儀の返事が聞こえてきた。

ちらりと勇儀の方を振り返ると、鈴仙は地面に膝をついて息を荒げていた。


「ハアッ…!ハアッ…!」


「……何だ、終わってないじゃん。油断しちゃダメだよ」


「ははっ、まあ確かに。…それじゃあ、そろそろ終わらせるかな」


勇儀がゆっくりと鈴仙の方へと歩いていく。


「……椛さんは貴女達に差し上げます」


「ん?」




「──次に会う時は、こうはいきませんよ」


カッ


「ッ!?」


その言葉の直後、鈴仙の足元から凄まじい光が発生する。

萃香は少し距離があったためにギリギリ目を瞑ることができたが、勇儀は間に合わなかったようだ。


「ぐあっ、クソッ!いってぇ!」


「だから油断するなって言ったのに!」


その光はしばらく治らず、10秒ほど光り続けていた。


光が治った頃には、鈴仙の姿は無かった。


「……逃したか……!」


「クッソ〜、あんな奥の手があったとは……!」


「まあ、逃げられたもんは仕方ないさ。……つか勇儀、目、大丈夫?」


「ん?ああ、大丈夫だよ。ちょっと痛かったけど失明するほどじゃないしすぐに回復するさ」


「そうか、それならいいんだけど。……さて、一人救出できたわけだけど」


掴み上げていた椛を背負う。


「この子も気の毒だね。普段なら私に挑むなんてことはしないだろうに」


(まあ、それなりには楽しめたけど。それに思ったより倒すのに時間がかかったし……)


「……ん?」


そこで萃香は気付く。


「……やられた」


「ん?どうした萃香」


「この子らの目的は私達をこの場に留めること。私達を倒す気なんか微塵もなかったらしい」


椛は、笑っていた。

気を失ってはいるが、その顔にはしっかりと安心したかのような笑みが浮かんでいる。


「……なるほどなぁ、通りであんまり攻撃してこなかったわけだ」


「まともにやり合っても勝ち目はない……それをこいつらは理解していた。その上で時間を稼ぐ為にわざと私達を挑発したんだ。……なあ勇儀、気付いた?」


萃香が周りを見渡しながら言った。


「ん?何だ?」


「周り、見てみなよ」


「…?」


勇儀は言われるがままに周りを見渡す。


「……まさか……」


「随分静かになったと思ったら……


いつのまにか、退散してたみたいだね」


周りには、誰一人として敵はいなかった。

大量の敵の死骸が転がっているだけで、妖怪達の大群は跡形もなく消えていた。

見える限りでは聖人二人と華扇以外見当たらない。


「私達はそれに気付かないほどこいつらに気を取られてたってわけだ。……注意を引くのが上手いもんだ」


「だね。悔しいけど一本取られたよ……さて、とりあえずみんなと合流しよう。……そういえば上の連中は……」


萃香が空を見上げる。

しかし、相変わらず眩いほどの光を放つ紅い月以外は、何も見えなかった。


「……もう降りてんのかな?」


「それにしても妙だな。あいつら何でわざわざ退いたんだい?」


「さあね。何か事情はありそうだけど」


その時。




「おい!無事か!」


「!」


魔理沙の声が聞こえてくる。

一先ず空中で待機していた者の一人の安否を確認できて、萃香はほっとした。


「よかった、そっちこそ無事だったんだね」


「ああ、何とかな。ただ……空の奴が」


「……やられたのか。誰に?」


「射命丸の奴だよ。……私の弾幕跳ね返されちまって……それに当たって怯んだところを一発だ」


「そうか……あいつなら納得いくかもな」


「不甲斐ない。私の弾幕が弾かれちまったせいだ」


「気にしない方がいいよ、相手が文屋なら仕方ないと言える。……それで、レミリアは?」


「わからないんだ」


「え?」


「だから、"わからない"。




──いつのまにか、消えてたんだ」








「紫、みんなを集めた方が良さそうよ。一先ず戦場は落ち着いたようだし」


「……そうね、そうしましょうか。霊夢、聞こえてる?」


無線の電源を入れ、霊夢に話しかける。


『ええ、聞こえてるわ。随分静かになったけど、何があったの?』


「どうやら敵が撤退したようだわ。理由はわからないけど……一先ずみんなを集めたいの。撤退の合図、出してもらえる?」


『了解。見える範囲で今どれくらい生き残ってる?』


「……七人ね。魔理沙、萃香、勇儀、華扇、聖人二人、早苗。私の隣にいる幽々子も合わせれば八人」


『……幽香がやられた?にわかに信じられないわね』


「……確かに、幽香の姿が見当たらないわ。少し探してみましょう」


『了解。流石に死んだなんてことはないだろうから色々探してみて。あと忘れてるようだけどレミリアと空もよ!』


「ええ、忘れてないわよ。正直その二人もやられるとは思ってなかったけどね!」


『確かに。まあ、とりあえず撤退の合図は出すわ。話の続きはその後で!』


「了解」


通信を切り、再び戦場の方へ視線を向ける。


「……」(何かがおかしい。


敵が撤退する理由が全く無い。なのに、奴等は撤退した。劣勢だったわけでもなく、むしろこちらが押されていたにも関わらず。


一体何を企んでいるの……?)


「……ん?」


華扇と早苗がある地点で立ち止まり、屈みこんでいた。

何かを見つめているように見える。


「……早苗!聞こえる?」


『うわっ!?』


突然の通信に驚いたのか、早苗は素っ頓狂な声をあげた。


『そ、そっか……はい、聞こえてます!』


『あら、これ通信機?ハイテクなもの使ってるのね……』


「仙人さんも無事なようね。今何をしているの?」


『そ、その……幽香さんがボロボロになって倒れているんです……!胸に小さな穴が開けられていて……!もしかしたら──』


紫は慌てた様子の早苗から発せられた言葉が信じられず、少し硬直してしまう。


「……まさか幽香が……?」


『どうしましょう!?とりあえず運んだ方がいいですよね!?』


「ええ、一先ず幽香を連れてきてちょうだい。妖怪だからね、その程度じゃ死なないわ」


『了解しました!』


「それとそろそろ霊夢が撤退の合図を飛ばすわ。敵は退いたようだし、こっちも体勢を立て直しましょう!」


『はい!ではまた後で!』


そこで通信が切れる。


「……驚いたわ、幽香さんがやられたのね」


「ええ、私も正直信じられないわ。一番信頼度が高かったんだけど」


「突然土煙が起こって戦場の様子が見れなくなった"あの時"に何かあったんでしょうね」


「みたいね……とりあえず私達も戻りましょう。ほら」


地底の入り口付近から、凄まじい光が放たれた。

霊夢の陰陽玉による閃光弾である。


「撤退の合図よ」











撤退の合図を出し終えた霊夢が、顎に手を当てて考え込んでいた。


(こちら側に負傷者が出るとは思わなかった。敵があれだけの数だったとは言え、最高戦力にほぼ近い形で編成したつもりだったから。


レミリア、空、幽香……この三人が欠けてしまうのはかなり手痛い打撃だわ。小悪魔とイザベルの治療魔法の腕がどれだけのものか次第ね。聖は休ませたいし……)


「何にせよ、初戦はこれで終了ね。単純に考えても幻想郷わたしたちが劣勢か……」


(いくら雑魚を倒したところで敵の戦力を減らせたとは言えない。こっちは実力者を三人落とされたわけだから……厳しいわね……思ったよりも強敵なのかも)


「地底に戻ったら作戦の練り直しね」


と、霊夢が不意に戦場の方に目を向けたその時。


「──え?


何、あの光……?」












「戻ったぜ。全員揃ったか?」


魔理沙、椛を背負う萃香、空を担いだ勇儀の三人が紫達のところまで到着した。

既に華扇と早苗、白蓮と神子は到着している。

幽香は華扇に背負われている。


「みんなお疲れ様。空は重傷ね……ところでレミリアは?」


「そ、それが……」

「ちょっと待った」


萃香が会話の途中に口を挟む。


「どうかした?」


「ねえ、向こうの空、何か光ってない?」


「?」


萃香の指差す方向を見てみると、確かに。

夥しい数の星のような小さな光が見える。


「……星?」


「いや、さっきまで見えてなかったんだから星ではないでしょう」


「じゃあ何だって──」


次の瞬間、勇儀が気付く。





「──伏せろ!!!」


「え──」


















「──放て!!!」


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!








「!?」



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!


無数の光弾が、雨のように空から降り注いで来る。


「うおおおお!?な、何だ!?」


「紫!!」


「ええ!」


紫が七人を覆うようにスキマを展開した。

光弾は全てスキマに吸い込まれていく。


「ふぅー…!みんな、無事!?」


「な、何とか……」


魔理沙は無傷のようだった。

運良く弾の軌道から外れていたらしい。


「ははっ、こりゃあ、きつい。げほっ」


「やって、くれたなぁ……これは、予想外、だった」


勇儀と萃香は、それぞれ背負っている負傷者を庇っていたためにかなり被弾していた。


「……う、ぐぅ……」


「か、華扇さん……!!ごめんなさい……私のせいで……!」


華扇は早苗と幽香を庇い、重傷を負っていた。


「くそっ、何なんだ急に!」


「みなさん、大丈夫ですか!?応急処置を……!」


「今はお前もそれなりに危ない状態だぞ。弁えろ!」


「関係ありません!それに治療魔法くらいなら大丈夫です!」


聖人二人は多少掠めた程度で、目立った外傷はなかった。


「驚いたわね、まだこんな手を残してたなんて」


幽々子には傷一つなかった。


「一先ず落ち着くまでこのままよ。どうやら地底の入り口付近の方まで飛んでるみたいね……霊夢は無事かしら」


「あの子なら大丈夫でしょう。とりあえず、聖さん、まだ回復できるくらいの魔力はある?」


「もちろんです!」


白蓮が駆け足で勇儀達の方へと寄っていく。


「ああ、私達は後回しでいい。鬼だからね、このくらいの傷はなんてことない」


萃香がそういうと、勇儀も笑みを浮かべて頷いた。


「…!わかりました。無理はしないでください!」


「ああ。それより早く華扇を治してあげてよ」


「はい!」








──地底付近。


「まさかこんな奥の手まで残してるとは」


霊夢は四重結界を張って光弾を防いでいた。


「天狗達による一斉放射……なるほど、これのためにあいつらは撤退したのね。……こんな攻撃、完全にノーマークだった」


(完全にこっちの読み負けね……みんな無事だといいんだけど)
















一方、地底の様子は──。


「さぁて、お怒りのフラン様が出てきますよ。ここから先はさっきのような生易しいものじゃあなくなる」


「うん。間違いなく本気で殺しに来るだろうから……気を引き締めないと」


「今度は私達がメインだよね」


「ええ、あの入道はもう限界でしょうから。ですが、充分すぎるほどに活躍したと言えるでしょう」


「雲山の頑張りを無駄にしないためにも、何としてでもここでフランを倒さないとね」


ぬえ、こいし、イザベルの三人がフランの吹き飛ばされた壁の数十メートル手前で並び立っている。


「雲山!大丈夫!?」


「よもやここまで強かったとは……驚きですね」


「とりあえずこの場から雲山を離れさせましょう!」


「了解!」


命蓮寺の面々が雲山の体を抱え、飛び去っていく。


「賢明な判断ですね。二人ほどで運べるだろうところを全員で楽に運んでいくなんて」


「こら、皮肉言わないの。それだけ心配なんでしょ、息ぴったりで良いことじゃん」


「私達はいつもまとまった行動するようにしてたからね……ていうかこいしもそれは知ってるでしょ?一時期は寺に住み込んでた時期もあったし」


「うん、知ってるよ。だからフォローしたつもりだったんだけど」


「無駄話はそこまでにしましょう。来ます」


イザベルのその言葉と同時に、積み重なっていた瓦礫が全て吹き飛んだ。

正確には、風化するように木っ端微塵になった。

その際、瓦礫により発生した土煙も一緒に弾け飛ぶ。


フランの姿がはっきりと視界に映った。

口からは血が少し垂れている。


その顔には、先程までの狂気の笑みは浮かんでいなかった。

不敵な笑みを浮かべて、無言で三人の方を見ている。

三人は、フランの雰囲気の変化を敏感に感じ取っていた。


「……!」(なんか、さっきまでとは雰囲気違う気がする)


「……落ち着いてますね。思っていた状態と違う」


「だね……それが逆に怖いや」


フランは三人を一人ずつ右から順に一瞥すると──




ザッ




「…!」


一歩、前へ足を踏み出した。そしてそのまま、ゆっくりと前へ歩いていく。


ザッ ザッ ザッ ザッ


「今度は貴女達が相手?」


フランの声色はとても落ち着いていた。

先程のような若干上擦った、興奮している声ではない。


「……そうだよ」


その落ち着いた声が逆に、先程までとは違う不気味さを醸し出している。


「それにしても驚いたな。あの入道さん、あんなに強かったんだね」


「同意します。私達も予想外でした」


「だよね。やっぱり隠し球ってのはお互い持ってるもんだな」


三人の数メートル手前まで来ると、歩めを止めた。


「……もう少し、遊びたいところなんだけどさ。


悪いけど、時間が無いんだ。だから──」


フランがその場で軽く跳ねた、次の瞬間──





「少し邪魔かな」





三人の視界からフランが消えた。

そして、背後から声が聞こえてくる。

咄嗟に振り返るが、既にそこにフランはいなかった。

そして──


「!!」


「!?」


ガキィンッ!!




「……ッ」


一番最初に気付いたのはイザベル。

次にこいし、ぬえの二人が同時に。


「…えっ」


ぬえは突然、腹部に激しい痛みを感じる。

何かと思い、見てみると──


「血…?」


腹部からとめどなく血が溢れ出ていた。


「くそっ…!」(少し斬られたか……!)


「あっぶなっ…!」(あと一秒気付くのが遅かったらやられてた……!袖にナイフ仕込んでてよかった〜)


二人はギリギリのところで防いでいたようだ。

イザベルは腹部を軽く斬られているが、こいしは全くの無傷である。


「ぐっ…!!」


「ぬえ、大丈夫!?」


ぬえは気付きこそしたものの、得物を持ち合わせていなかったために防ぐことができなかった。


「治療しましょう。少しじっとしていてください」


「悪いね……フランは?」


「もういません。おそらく街の方へ行ったのではないかと」


「えっ…!い、急がないと」


「ええ……しかしこの傷だと2分はかかりそうです。致し方無し」


「え、二分!?早っ!結構深そうに見えるんだけど……!?」


「まあ、慣れてますからね」


「イザベルってほんと凄いね……!?」


「恐縮です」


驚いて目を見開くこいし。

イザベルは軽く会釈をする。


「ところで何でフランはあんなに急いでたんだろうね?」


「『時間が無い』……そう言ってたね。やっぱり何の理由もなく地底に来たってわけじゃないみたい」


「これは私の推測でしかありませんが……


おそらく、小悪魔様が狙いかと」


その言葉を聞き、二人は驚いた。


「それはどうして?」


「狂乱状態を解除できる、此方側では唯一の存在だからでしょう。私にはあのような芸当はできませんからね……


それに、先程私と小悪魔様がフラン様の前に現れた時、フラン様は小悪魔様を見ていました。これらのことから推測すると、フラン様の狙いは小悪魔様でしょう」


「なるほどね……ならなおさら急がないと!」


「ええ。ですが、ぬえの傷を癒すまではダメです。一先ずは治療を優先します」


「わ、悪いね。私が不甲斐ないばっかりに」


「相手が相手でしたからね……仕方がありませんよ」













フランは今、地底の街の上空を高速で飛行している。

と言っても地底なので、空ではないのだが。


「やるなぁ、あの三人……それなりに真面目に攻撃したんだけどな。全員仕留め損なった。


ぬえは何も持ってなかったから仕留められるかと思ったんだけどな」


と言いつつも、その顔には愉快そうな笑みが浮かんでいた。

まるでそうなることがわかっていたというような、そんな表情だった。


「ま、()()()にやられてもらっても困るんだけど」


そういうと、フランはさらにスピードを上げて飛んでいった。


「さて、そろそろ街が見えてくる頃……ん?」






紅い悪魔が向かっている街の、その道中。

悪魔はふと、地面を見た。

その時、視界に入ったものは──。



「向かってきているな。彼女が」


「どうするの藍様?」


「迎え撃つ。ちぇん、少し下がっていなさい」


「は、はい!頑張って!」




空飛ぶ悪魔を見据えて佇む、九つの尾を持つ化け狐。





「──八雲藍さん、だっけ?


そこ通りたいんだけど、退いてもらえる?」


「残念ながら通れない。


ここから先は通行止めだ、吸血鬼」


互いに不敵な笑みを浮かべて睨み合っている。


「あっそ。それなら……


押し通る」


フランが高速で藍に向かって突進していく。

藍は袖から札を大量に取り出し、それを剣のような形状に魔力で押し固める。


ガキィンッ!!


「!」


フランの黒い刀による一閃を、その札刀で防いだ。

フランは札刀を弾き、一旦藍から距離を取る。


直後、超高速で移動して藍を振り切ろうとしたが……。


「ッ!」


突然フランが、ある地点で急停止する。

それは、藍が陣取っている横一直線状の場所だった。


「よく気付いたな。さすがは吸血鬼だ」


「……なるほど、面倒なことをしてくれたね」


藍とフランの周りを覆うように、巨大かつ強力な結界が張られているようだった。




「私を倒すまでここからは出られない。代わりに他の誰からも邪魔はされない。


どうかな?こういうのは好きなんじゃないか?」




「……ええ、とても。


ただ────時と場合によるかな」
























そういえば人気投票が始まっていましたね!

皆さんは誰に投票するのでしょうか?もちろん自分はフランちゃんですけど、こいしやぬえにも入れたいなー

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