神出鬼没、紅悪魔 弐
昔っから狂気系のキャラは大好きなのです。
戦闘中とかに笑ってるのめっちゃ好きなんです笑
ドオオオオオオオオオオオンッ!
「!!」
「え!?な、何が!?」
遠くから凄まじい爆音が聞こえてくる。
向こうで何かがあったようだ。
「……私達も向かった方がいいでしょうね」
「で、ですよね。……でも、何があったんでしょう……?敵が侵入したような気配は全く……」
「敵にもそれなりの強者が揃っているのですから、何が起ころうと不思議ではありませんよ。……とにかく、行きましょう。もし戦闘になるようであれば、小悪魔様は後方支援をお願いします」
「わかりました!」
この時、イザベルは既に気付いていた。
「……」(この感じ……間違いない。
──フラン様だ)
「くそっ、今のは何だ!!」
「わ、わからないが、とにかく爆発したぞ!!」
先ほどの爆発は、現在はあまり使われていない、地底の街外れで起こっていた。その影響で、地底の住民達があちらこちらで騒いでいる。
「敵!?一体どこから…!」
「わからないけど、敵がいることは確かだと思われます。とても、嫌な予感がしますから」
「ナズがそういうってことは、そうなんだろうな」
命蓮寺の面々が、爆発によって発生した爆煙の少し手前で陣取っている。
「ぬえ、私達がメインだ。ナズや星、ムラサは後方支援!」
「りょーかい!」
「久しぶりの共同戦線だね!」
命蓮寺の者達の後ろには、力のある地底の妖怪達が集まっていた。
優に五万を超える人数はいる。
「まあ、これだけいれば……」
「誰が出てこようが関係ないわな」
──そんな意気揚々と構えを取る命蓮寺の者達を、遠くの建物から眺める影が一つ。
「残念、そっちは外れだよ。
本命はこっちさ」
黒いローブを羽織った金髪の悪魔が、建物から降りてくる。
彼女の存在にいち早く気付いたのは──。
「……フ、フラン…?」
彼女の友、ぬえだった。
「Are You Ready?」
「──後ろだァーーー!!!」
ぬえが大声で叫んだ。
その声に皆が背後を振り返る。
「なっ…いつのまに……!」
フランが大軍に向かって走り出す。
「…!来るぞ!」
「はっ、馬鹿め!この大軍を相手に一人で敵うと思うのか!」
妖怪達がフランに向かっていく。
「だ、駄目だ!!あんた達じゃ……!」
フランが左手に黒い刀を持つ。
 
「退いて」
「グハァッ…!?」
ぬえの制止も虚しく、向かっていった妖怪達は一瞬で全員やられてしまっていた。
「なっ…!?」
「くそっ!」
命蓮寺の面々が走って前線へと向かっていく。
「うぎゃああああ!!」
「うわぁぁぁぁあ!!」
フランはどんどん妖怪達を薙ぎ倒していく。
四方八方からくる攻撃を悉く躱し、弾き、目にも留まらぬ速さで妖怪達を倒していく。
誰一人として、フランを抑えられるものはいなかった。妖怪の頭数はみるみる減っていく。
「くそっ、これ以上やらせるな!」
「雲山!行くぞ!」
一輪が雲山を呼び出してフランに突撃していく。
「…ん?」
周りにいる妖怪達を一通り倒したフランが、周りを見渡している。
まるで、何かを探しているかのような動きだった。
それにいち早く気付いたのは、ぬえ。
「……なんだか怪しいな、あの動き」(誰かを探してる?)
「うおおおりやあぁぁ!!」
動きを止めたのを好機と見て、一輪がフランに殴りかかる。その背後には雲山も居た。
一輪の動きに合わせて、雲山も同じように動いている。
「ふーん、入道か」
フランも右手の拳に力を込め、二人に向かって飛びかかる。
ドゴオオオオンッ!!
雲山とフランの拳が激しくぶつかり合い、凄まじい衝撃が周りに起こった。
「ぐぬっ…!」(こいつ、雲山の攻撃を真正面から受け止めた!?)
「へぇ……なかなかやるじゃん?その入道さん。ただ、今はあんまり時間がないから……
ちょっと邪魔だな」
「ッ!!」
凄まじい殺気を感じ、思わずフランから距離を取る。
「くっ…!」(こいつ、やばい……!今の一瞬だけでわかった……!
私とは立ってる次元が違う……!)
「嘘……雲山の攻撃を真正面から……!?」
「なるほど、白蓮さんクラスか……!こりゃ厄介!」
命蓮寺の面々は、フランの凄まじいパワーを目の当たりにして動揺していた。
しかしその時……
「ん?」
フランが動きを止めたところで、フランの周りを黒い靄のようなものが取り囲む。
「鵺が贈る『妖遊び』、とくとご堪能あれ!」
周りの黒い靄が剣や槍などの様々な武器へと形状を変え、フランに向かって飛んでいく。
ぬえは全く気圧されていないようだった。
フランは左手に持つ黒い刀で武器を全て斬り落としている。
「……!」
しかし武器は絶え間なく飛んでくるため、フランはその場から動くことができずにいた。
「怯むなみんな!今のうちに遠距離攻撃で畳み掛けて!」
「…!良いぞぬえ!行くよ雲山!」
「あそこにスペカを撃ち込めばいいのね!」
「よーし!やっちゃいましょう!」
「了解!」
命蓮寺の住人達がスペルカードを構える。
周りの妖怪達も、遠距離攻撃が行える者達はそれを準備している様子だ。
「神拳『天海地獄突き』!」
「転覆『撃沈アンカー』!」
「宝塔『レイディアントトレジャーガン』!」
「捜符『ゴールドディテクター』!」
四人の放ったスペルがフランに向かって飛んでいく。
「いっけぇ!!」
「よーし!」
周りの皆が攻撃を放ったことを確認したぬえは、フランの方へ視点を移す。
「さあ、どうする!?フラン!
……!?」
その時、ぬえの目に映ったのは──。
「ははっ、いいね。
──そうこなくっちゃ」
悍ましい笑みを浮かべる、フランの姿だった。
「──みんな、気をつけろーー!!」
「え!?」
ぬえが大声を出した、次の瞬間。
「そーれ、
ドカン!」
ドオオオオオオオオオンッ!!
「んなっ…!!」
フランに向けて放たれた攻撃の全てが、爆発四散した。
まるで、内側から破裂するかのように。
「……そうだ……フランの能力……!!」
「能力!?」
「『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』……
それが、フランの能力だ!!」
「……」
フランは握りしめていた右手を開き、そのまま指を銃のような形にして一輪に向けた。
「……!?何する気──」
「──ほい」
瞬間、フランの指先が光る。
「!?」(眩しっ…!)
一輪は思わず目を瞑る。
「…え?」
次に一輪の視界に映ったのは、雲山の右手だった。
「な、何が起こったの?雲山?」
「……あ、あ……」
「……?みんな?」
周りの皆が口を開けて驚いている。
一輪は訳がわからず、唖然としている。
しかし、次の瞬間。
「……ぅくっ」
突然、胸の辺りに激痛が走る。
何かと思い、自身の胸に目を向けると──。
「……あ、れ……
何、この穴……」
「いっ……
一輪!!」
口から大量の血を吐き、うつ伏せに倒れてしまった。
すぐにムラサが駆け寄っていく。
「ぐぁっ」
「なっ…お、おい!どうした!?」
さらに、一輪と直線上に居た妖怪達が次々と倒れていく。
「い、今何を…!」
「わからない……ただ指先が光ったとしか……」
「へぇ〜、凄いねその入道さん!」
「!!」
周りの妖怪達が驚いていると、フランが感心するように若干上擦った声で言った。
「今の攻撃にいち早く反応するとは、大したもんだよ。
その入道さんがいなかったら心臓に一直線だったんだけど」
一輪の傷をよく見ると、確かに胸の中央部を貫かれている。
「攻撃されたの……!?全く見えなかった……」
「まさか……さっき指から光線を……!?」
「ビンゴ!だから後ろの人達も倒れてるってわけだ。
……これでまた、強者が減っちゃったね」
その場にいる全員が、言葉に表せないほどのとてつもない『恐怖』を感じていた。
「無理だ……勝てるわけがない…!」
「こんな奴、どうやって……!」
じりじりとその場から引いていく。
もう誰一人として、フランに向かっていく者はいなかった。
「……ここまでかな?それじゃあ……」
フランが刀を持つ左手に力を込める。
「ひっ…!」
「まだだ!」
「!」
その時、ぬえが声を張り上げる。
「まだ終わりじゃない!」
「……まだ遊べそうだね?ぬえ」
「悪いねフラン、私は諦めが悪いんだ。知ってるだろ?」
「よく知ってるよ、相変わらず往生際が悪い」
フランがレーヴァテインをぬえに向けて翳した。
「わかってるんでしょ、ぬえ。自分の力が今の私には遠く及んでいないことくらい」
「わかってるよ。でも、それでも負けるわけにはいかないから」
「……ここ以外全ての場所がお母様の支配下にある。いくらここで足掻いたってもう幻想郷は終わりだよ。
なのに何故、まだ抗おうと思うのかしら?」
「教えてくれたのはフランだよ」
「……?」
「私達三人なら」
「どんな『困難』も乗り越えられるってね」
こいしが、ぬえの隣に降り立った。
「──馬鹿ね」
フランは少しだけ表情を変えた。
それは何処か、寂しげな笑みだった。
「随分ボロボロだな、こいし。帽子も無いし……何かあったの?」
「まあ、色々と。……本当なら、私もやられてた筈なんだけど」
−『──何でっ…!何で私を庇ったの、お姉ちゃん……!』
お姉ちゃんは既に意識を失っていた。
私よりもずっと酷い怪我を負ってしまっている。
妖怪故、死ぬことは無いだろうが傷を負ったお姉ちゃんをそのままにしておくわけにもいかない。
一度、地霊殿に戻りお燐に看病を頼もう。
「お姉ちゃんが私を庇ってくれたから……おかげで軽傷で済んだ」
「なるほどね……じゃあさとりの分も頑張らないとな!」
「うん!」
二人が構えを取ってフランを睨みつける。
フランは依然として怪しい笑みを浮かべたまま。
「こいし……そのまま寝てればよかったのに……」
「フラン、本気でやってなかったでしょ。その気になれば能力で殺せる筈だしね」
その言葉に、フランは少しだけ表情を動かす。
「やっぱり、私達に何か隠してるでしょ?……それも、"貴女にとって"良くないことを。
何を企んでるの?フラン」
「……」
「黙り込むってことは、図星ってわけだね。貴女が黙り込む時って言うのは、決まって何か考えてる時だから……」
こいしもぬえも、フランとはそれなりに長い付き合いだ。
故に、フランの癖や仕草の特徴などをよく理解している。
フランは今、確実に『動揺』している。
「答えてよフラン。……私達、友達でしょ?」
「どんな困難も私達三人なら乗り越えられるって言うのは……嘘だったとは言わせないからね」
「──ふっ、ふふっ、ふふふふ……」
「…!?」
フランが突然笑い出した。
とても不気味な笑い声だった。
「なるほど、もしかして二人は私がお母様に仕方なく従ってると思ってるのか……それは予想外だったな。私のことをよく理解してるこいし達なら、わかってると思ってたけど……
言っておくと、私は私の意思で幻想郷を終わらせようとしてるからね。お母様に言われて、逆らえないから仕方なくやってるんじゃない。
残念ながら私は私の意思でやってるんだよ、二人共。説得しようとしても無駄だと思うけど」
「……!」
(羽、揺れてない。それに目も全く逸らさない。
……嘘じゃない)
フランが嘘をつく時の特徴である、羽の微動と視線。
親友だからこそわかる、その特徴が全く無かったということは……今の言葉は本心ということだ。
「……フランが理由もなく悪に染まるとは思えないな」
「何かあるはずだよ。じゃなきゃ、急にこんな風になったりするはずがない」
「────悪?」
その時、フランの顔から怪しい笑みが消えた。
二人を含め周りにいた妖怪達を背筋が凍るような悪寒が襲った。
目の前にいる悪魔のその声は鋭く、冷たく、まるで心の奥底に突き刺さるような、恐ろしく冷たい声だった。
「何をもってこちらを悪と決めつける?自分達の世界を侵されているから?それとも大切なものを傷付けられたから?
自分達にとって"都合の悪いもの"は全て悪だと?」
そういうフランの声には、他を寄せ付けない凄味があった。
声を荒げているわけではない。しかし、言葉では言い表せない圧力があった。
「──ならば一つ聞く。
私達をこの狭い楽園に追いやった者共は、貴方達にとって何?
妖怪の存在を否定し、その存在を消そうとした外の人間どもは……貴方達にとって何なの?」
「…!!」
……………
少しの静寂が訪れた。
誰一人として、フランの問いに対して答えることはなかった。
「私達を『悪』というのなら……まあ、言うまでもないね。
──さて、ここで一つ質問をする」
「……!?」
「偽りの楽園を守りこのままいつか訪れる終わりの時までこの狭い籠の中に捕らわれて生きるか
我等と共に、大いなる自由を取り戻しに行くか
──好きな方を選べ」
「……俺は、自由が欲しい…」
「!」
妖怪達の中から、ぽつりとそんな声が上がった。
「このままこんな場所に閉じ込められたまま、俺は終わりたくねえ……!」
「お、おい…!」
「お前だってそうだろ!?一度でもここを出たいと思ったことはないのかよ!?」
「そ、そりゃあお前……あるけどよ…」
「そうだ……何でこんなところで終わらなきゃならないんだ」
「俺達は強い!人間どもに怯え隠れるべき存在じゃないはずだ…!」
周りの妖怪達が騒然とし始めた。
「……!」(まずい……痛いところを突かれた。
地底の妖怪達は特に、自由に対する欲望が強い。普段から拘束されているようなものだから……
そこを突いてきたってことか……!)
フランは満足気に笑みを浮かべている。
「さすが、もしかしてこれも計算済みだったのかな…!?」
「さて、どうかな?それよりも……後ろを見なよ」
こいしとぬえが背後を振り返る。
困惑しているムラサ。
悲し気に妖怪達を見つめる星。
フランを睨みつけるナズーリン。
倒れている一輪。
それに寄り添う雲山。
そして、その後ろには──。
「俺達は自由を取り戻すんだ!!」
「もうこんな狭い場所に閉じ込められるのは御免だ!!」
『ウオオオオオオオオオオオッ!!』
「……!!」
「……そんな……!」
「──Looking so ugly,
これが世界の実態よ」
嘲笑うようにそう言い、レーヴァテインを二人に向けて翳す。
「…くっ…!」(これって結構、ピンチなんじゃ……?)
「……」(地底まで壊滅させられたら、本当にもう終わりだ。
ここは何としてでも守らないと……!)
こいしとぬえが再び構えを取った。
「まだ戦う意思があるんだね。大したもんだよ」
「負けるわけには、いかないからね……!」
「とは言っても、正直厳しいけどね……」
「わかってるなら……潔く諦めた方が身の為だよ!」
そう言うとフランが、二人に向かって突撃してくる。
「っ──!?」(速っ……)
その時。
ガキィンッ!!
「──随分楽しそうですね」
奇妙な羽を持ち、『黒い服』を着た金髪の少女が現れ、フランの攻撃をレーヴァテインで防いでいた。
「……イザベル」
「私も混ぜてもらいましょうか」
ガキィンッ!
フランはイザベルのレーヴァテインを弾き、一旦後退した。
「イザベル……!」
「爆発がしたから何かと思って来てみれば……
これまた面白いことになっていますね」
イザベルは、いつも通り不敵な笑みを浮かべてそう言った。
「そこの僧侶の方はご無事で?」
「え?あ、ああ、一輪?大丈夫…なはず」
「大丈夫だよ!生きてる!ただ、このままだと危ないかも……!」
「そうですか。……治療したいところですが……」
「させると思う?」
フランはつま先を地面に軽く打ち付け、靴底を合わせていた。
「でしょうね」
「それじゃあ、私とぬえで食い止めようか」
「よっし、了解!」
「ふん、貴女達だけで大丈夫ですか?」
「あ、バカにして!今に見てなよ」
「ふっ……まあ、貴女達に任せてもいいのですが……
こちらにも、優秀な方がいるのでね」
「?」
その時、背後から声がする。
「イザベルさん!回復は私に任せてください!」
小悪魔である。
イザベルと共にここまでついてきていた。
「任せましたよ、小悪魔様」
「任されました!」
自信満々の笑顔でそう答える。
「……なんだか小悪魔さん、少し変わったね」
「彼女は自信が足りていなかったんですよ。それさえ手に入れてしまえば、もう怖いものはありません」
「……ふふっ、やっぱり凄いねイザベル。改めて思い知らされるよ」
「それはどうも。…!」
その時イザベルは、フランが"小悪魔"の方を見つめているのに気付く。
「……」(まさか、狙いは小悪魔様か……?
狂乱状態を解除できるからか……)
「…はぁっ……はぁっ……」
「一輪…!もうすぐ傷を癒してもらえるわ!頑張れ…!」
「……うん……」
弱々しい笑顔を浮かべ、頷いた。
「…っ……!」
(あいつ、よくも一輪を……許せない……!)
「ごめんね、ムラサ……それに、雲山も……」
「えっ…?」
ムラサは突然謝られたことで動揺する。
一輪の方を向くと、目から涙が流れ落ちていた。
「活躍できるように、頑張ってた、つもりなんだけど……
わ、私……まだまだだなぁ……ははっ……」
「……!!」
その時、雲山が一輪の涙を右手で拭う。
「……雲山。
……ありがとう……」
その言葉を最後に、一輪は気を失った。
「い、一輪…!」
(……あんたはよく頑張ってたよ……)
「あとは私達に任せて……!」
その時、小悪魔が一輪の前で屈み込む。
「治療します!」
「お願い!
よし、私達も行こう!雲ざっ……」
ムラサが雲山の方を見た時、驚愕した。
何故なら、これまで長く一輪、雲山と共に過ごしてきたが──。
「…!!」
──ここまで怒りを露わにした雲山を、見たことがなかったからだ。
「よーし、行くぞ!こいし!イザベル!」
「うん!」
「承知!」
ぬえ、こいし、イザベルの三人がそれぞれ構えを取り、臨戦態勢を整えた。
「ふふっ、なんだか不思議な光景だわ……自分と同じ姿をした人が友達と一緒に並んでいる」
「羨ましいのでしたらこちらに来ても構いませんよ?」
「そうだね、じゃあ花一匁をしよう。私は貴女達が欲しい」
「貴女達じゃわからないな」
「じゃあ、相談しましょう」
「そうしま
しょ!」
三人がフランに向かっていく。
フランもレーヴァテインを構え、迎え撃つ。
と、その時だった。
「…!?」
三人の背後から、凄まじい殺気を感じる。
三人が思わず振り返ると──
シュッ
「…?」
こいしとぬえには、一瞬何かが自分達の横を通り過ぎた程度にしか見えていなかった。
しかし、イザベルははっきりと見えていた。
その横切ったものの正体は──。
「──入道?」
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!
「!!?」
とてつもない轟音と共に、フランのいた方向から凄まじい衝撃が迸る。
「な、何!?」
「あれって、雲山!?」
「……!」(何だ…!?この力は……
パワーだけで言えばあの時の天人よりも……!)
「へぇ〜、凄いね入道さん……こんなに強かったんだ」
雲山が超高速でフランに殴りかかっていたのだ。
フランはレーヴァテインを"両手"で持って防いでいる。
地面には大きく罅割れていた。
「力だけで言えばお花の妖怪さんよりあるんじゃないの……?ふふっ」
ガキィンッ!!
フランがレーヴァテインで雲山の右手を弾く。
そして、雲山に向けて右薙ぎに振るう。
雲山はそれを瞬時に移動して躱し、今度は左手でフランに殴りかかる。
「!」(いくらパワーがあるからって、今のフランにあんな真正面から殴りかかったら……!)
かなり速いパンチだったが、フランは軽々と躱し、再びレーヴァテインを雲山に向けて振るった。
ガキィンッ!!
「!」
雲山はそれを右手の拳で弾いた。
そして左手を握りしめ、再び反撃する。
しかし、またも軽々と躱されてしまう。
今度はフランは高速で雲山の背後に移動し、レーヴァテインを振るった。
雲山も瞬時に移動して躱そうとするが──。
「そぉれっ!」
フランが動きのスピードを上げた。
突然の加速に雲山は対応できず、体を少し掠めてしまう。
「は、はっや……!あんなの避けれるわけっ……!」
「……凄いな、あの入道さん……でも、流石に今のフランには……」
三人は、雲山とフランの戦いに見入ってしまっていた。
周りの妖怪達も同様である。
「いいや……
あの入道、まだ……」
「ははっ、いいねえ!貴方強いよ、本当に。正直予想外だった」
狂気的な笑みを浮かべ、楽しそうに言うフラン。
雲山は変わらず怒りの表情を浮かべたまま、フランを睨みつけている。
「こんな隠し球があったとは。お互い切り札を残してたってわけだ」
フランとの距離はそれなりに離れているにも関わらず、雲山が左手の拳を握りしめる。
「……?」
次の瞬間──。
ドオォッ!!
「!!」
雲山が目にも留まらぬ速度で殴りかかる。
突然の加速にフランは驚き、躱しはしたものの若干態勢を崩している。
そこへ先程と同じ速度で右手で殴りかかる雲山。
ドオォッ!!
「ッと…!」
何とか雲山のパンチを躱し、フランは後ろに飛び退がる。
雲山はその後を追いながら、再びパンチを繰り出した。
ガキィンッ!!!
「…!」
フランはレーヴァテインでそれを防ぐ。
その時、先ほどよりもパンチの威力が上がっていることに気が付いた。
ガキィンッ!
レーヴァテインで拳を弾き、反撃する。
雲山もまた右手の拳で防ぎ、反撃する。
それをまたフランは防ぎ、反撃。
ガガガガガガガガッ
二人が凄まじい速度で打ち合っている。
一見互角に見えるが……フランの方が少しずつ後ずさっている。
「……う、嘘……
フランを相手に、優勢……?」
「う、雲山って……あんなに強かったんだ……!」
「いや、怒りのあまり一時的にリミッターのようなものが解除されているのだろう。如何に見越し入道と言えどもあそこまで強大な力は出せるはずがない。
……つまり、もし一歩間違えれば……体にかかる負荷に耐えられず死に至るかもしれない」
「え!?」
「それに……」
ドオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!
再び凄まじい轟音が鳴り響く。
「っくひッ」
狂気の笑みを浮かべ、楽しそうに戦っているフラン。
対照的に、雲山は怒りの表情で必死に戦っている。
「おそらくですが……
このままでは、負けます」
ドッ!!
雲山の体を、フランの右手の拳が捉えた。
ドゴォォォンッ!!
凄まじい勢いで吹き飛んでいき、その勢いで建物を三つほど潰してしまった。
「う、雲山!!」
「援護しよう!」
「お待ちを!!」
こいしとぬえが援護に行こうとした時、イザベルが叫び呼び止めた。
「何でよ!あのままじゃ雲山は…!」
「……ダメです、今行ってはいけません。
──間違いなく、殺されます」
イザベルがフランの方を指差しながらそう言った。
こいし達がフランの方に視点を移すと──。
「……!!」ゾクッ
フランの顔を見た瞬間、今まで感じたことのないほどの恐怖を感じた。
「フランって、あんな顔できるんだ……」
「そんな呑気なことを言ってる場合ではないでしょう……私もちょっと思いましたけども」
「……どうするの、イザベル」
「今は待ちましょう。……私の見立てでは彼は……
もう一山、超えますので」
「そんなものじゃないでしょう?早く起きなよ」
雲山がゆっくりと起き上がる。
「入道さん、巨大化はしないんだね。もっと大きくなれば私を簡単に潰せるだろうに。
まあそれじゃあ気が治らないのかな?私が貴方のご主人様をやっちゃったから……」
その言葉を聞いた途端、雲山が先ほどよりも速いスピードでフランに殴りかかってきた。
フランはそれを躱し、レーヴァテインを振るう。
右手の拳でそれを弾き、左手で反撃。
フランはその場で飛び上がり、空から紅い光弾を一発飛ばす。
雲山はそれを右手で握り潰した。
「Hello!」
その弾幕によって阻まれた視界の死角からフランが現れ、レーヴァテインで雲山を斬りつけた。
それは雲山の体をしっかりと捉え、雲山の体が少し抉る。
「少し小さくなっちゃったね、入道さん!」
さらに追撃を入れようとレーヴァテインを振るう。
その時。
ガッ
「…おっ?」
雲山が右手でレーヴァテインを掴み止めていた。
フランは止められたことに驚き、一瞬動きを止めてしまう。
──その隙に雲山は、左手にありっけの力を込めた。
「!しまっ…!!」
その左手を、フランに向けて思い切り振り抜いた。
ドオォッ!!
「──なーんてね」
しかし。
雲山の左手は、フランのレーヴァテインに切り裂かれていた。
レーヴァテインを一度消し、再び出現させたのだ。僅か0.1秒の間に。
「惜しかったね、入道さん。
──楽しかったよ」
フランがレーヴァテインを雲山に向けて振るった。
刹那。
ドッ!!!
「ぐっ?」
ドゴオオオオオオオオォォンッ!!!!
雲山の右手のパンチにより、フランが吹き飛ばされる。
左手だけでなく、レーヴァテインを抑えていた右手にもパワーを送っていたのだ。むしろ、左手よりも多く。
一手、雲山が読み勝っていた。
フランは凄まじいスピードで吹っ飛んでいき、遠く離れた壁に激突した。
そのまま瓦礫に埋もれていく。
「……す、すっげ……モロに入った」
「言ったでしょう?もう一山超えると」
「……今がチャンスだよね?」
「ええ、今こそ好機。
おいお前達!!」
イザベルが声を張り上げる。
地底の妖怪達に言っているようだ。
「自由を手にするのは構わんが、自分を失いたくはないんじゃないか!?こいつらの仲間になるのは『自分を違う奴に塗り替えられる』ことと同義だぞ!!
それでも自由が欲しいというなら好きにするがいい!!」
イザベルの言葉に、少し動揺を見せる妖怪達。
さらに──
「この愚か者どもめ!!わからないか!!」
「!」
群れる妖怪達の後方から、声が聞こえてくる。
九本の狐の尾を持つ女性……八雲藍が大声で叫んでいた。
「奴等の仲間になれば、ここで築いた思い出や家族達との記憶を全て消されてしまうのだぞ!!家族と過ごした日々も、友と共に歩んだ道も、夢もなにもかも!!
よもやそれを捨てるなどとは言うまいな!?そのような愚か者がいるのであれば、私が喝を入れてやる!!」
「藍様の言う通り〜!」
橙も藍の尻尾の影からそう言った。
「……そうか……そうだよな」
「確かに、それを消されちまうのは御免だ」
「……よし、戦うぞ!俺達も!」
「やれるだけやってやらぁ!!」
『ウオオオオオオオオオオオ!!』
地底の妖怪達の士気が、再び上がっていく。
「全く、都合の良い奴等だなー」
「ははっ、生き物ってそんなもんでしょ」
「さて、これで流れはこちらのものですね。あとはフラン様を倒すだけ」
今までどう足掻こうと敵わなかった強大な悪魔を相手に……反撃の兆しが、見え始めた。
「────ふっ、ふふははははは──!
──楽しくなってきたぁ♪」
最近気付いたことがあるのです。
挿絵のフランちゃん率が高すぎる。
ま、まあ一推しキャラだからね。仕方ないね。




