学校に潜む怪奇
「ふんふふーん♪」
こいしが鼻歌を歌いながら、教室のドアを開けた。
そして、自分の席の方へ歩いていく。
「…ん?」
何故か、教室の生徒はみな学園の中庭の方を見ていた。
椅子に座ったまま、机に肘をついて窓から外の様子を見ているフランを見つけた。
「おっはよーフラン!」
「あ、こいし。おはよう」
「これ何の騒ぎなの?」
「…B組の担任の、妹紅先生っていたじゃん」
「うんうん」
「学園で行方不明になったんだって」
「…え?」
「外、見なよ」
フランが机から肘をどけて、こいしに見えるようにスペースを空けた。
「あ、どうも……」
こいしが机に身を乗り出して外を覗いた。
「…あれって慧音先生だよね…?何であんなに必死に……」
「…慧音先生と妹紅先生ね、友達同士だったんだって。だからきっと、心配なんだと思うよ」
「……そうなんだ」
こいしはそう言うと、フランの机から離れた。
「…もう見なくていいの?」
「これ以上見たって得ないし」
「まあそれはそうだけど……」
フランの隣の席に座ると、こいしは俯いて言った。
「ああいうの見ると、私って嫉妬しちゃうんだよね」
「……?」
「私さ、友達って呼べる人が今までに全然いなくてね……何たって悟り妖怪、そりゃあ好き好んで関わりに来る人はいない」
こいしは自身のサードアイを見つめながら、フランにそう語りかけた。
「だから、自分の事を心の底から心配してくれる人がいる事が羨ましい」
「……だったら、もう羨ましがる必要もないね」
「え?」
フランが自分の帽子とこいしの帽子を取って、自身の帽子をこいしに、こいしの帽子を自身に被らせた。
「私がいるんだから」
「……フラン…」
「……柄にもない事はするもんじゃないな……」
フランがこいしに帽子を返した。
「……ふふっ」
「…!」
こいしがフランの帽子を胸の前に持っていき、抱きしめた。
「ありがとうフラン。元気出た」
「それはよかった。その帽子、少し貸しとこうか?」
「ううん、ありがとう。ちょっと抱きしめたかっただけだから」
「…な、何か恥ずかしいな」
「あ、ごめん。はい、帽子。ありがとねフラン、何か元気になれたよ!ふふっ」
「…まあ、元気になれたのならよかったよ」
その時だった。
「ヘーイフラン!!」
「どぉおうっ!?」
レミリアがフランに背後から飛び乗った。
そのせいでバランスを崩し、椅子から落ちてレミリアが背中に乗った状態である。
レミリアの後ろにはぬえも居た。
「今日学校早帰りになったとさ!帰ろうぜぇえ!!」
「お姉様ァ!?」
「こいしー!一緒帰ろうよ!」
「あ!ぬえ〜!」
「早く帰って遊び倒すぞ!フランとの楽しい楽しい時間が待っているわー!」
「ちょっ、待ってお姉様!割とマジで重いから!早く離れて!」
「あ、あれってレミリア様じゃね…?」
「レミリア様ってあんな風だったっけ…?」
「ああっ!!学校に染み付いてたお姉様のイメージが崩壊しつつある!嬉しっ……」
そこでフランは口を閉じた。
「まあフラン!貴女私の事を心配してくれていたのね!?」
「ち、ちがぁぁう!!断じて違うから!誰があんたなんかの心配なんてするかってんだ!!」
「もー照れちゃってぇ可愛いんだから!いつか私たちの子供を産みましょうね♪」
「ぶはっ!!」
その発言に悠長に水筒の麦茶を飲んでいたこいしがそれを吹き出した。
「こどっ…!!何言ってんだこの変態ダメ姉!」
「あらあら?顔が赤いわよ?」
「うっさい!!」
「だっはははははは!!こ、こぉどもって…ッ!…ッぷっ、あっははははは!!」
「こいしは何でそんな笑ってんのぉ!?」
「いや!!いやだってさぁ!…ぶっふフフふふ…!前まで出来損ないとか言ってたのとギャップがっ……ぶはははははははは!!」
「んもぉ〜反応まで可愛いわぁフラン〜♡」
「寄るな触るな!あっち行け!……!」
その時、フランはミスティアが顔を青くして外の様子を見ているのが見えた。
「……」
「…?フラン?急に黙り込んで…どうかしたの?」
「う、うぅん!とりあえず離れてお姉様…」
その後、学校は早帰りとなり、こいしは地霊殿へと帰った。
その日の学校での話を、さとりに話している最中である。
「今日さ、妹紅先生が行方不明になっちゃったらしくてさ」
「へえー…妹紅先生って確か体育科の陽気な先生よね?」
「そうそう!その先生が行方不明になっちゃったらしくて……少し心配だなーって」
「ふむ……」
さとりが少し考え込む素振りを見せた。
「…?お姉ちゃん何か心当たりとかあるの?」
「ええ……でもこれはあくまで噂だから、真に受ける必要はないわよ」
「噂…?どんな噂なの?」
「あの学校……東方学園は、ついこの前も行方不明になったっきり見つかってない生徒が何人かいたらしいの」
「…え…!?」
「その子は優しくて勉強熱心で、真面目な子だったらしいわ。もう一人は陽気で活発な妖精の子だったらしいわ。その子たちの友達によると、その日はその二人の子は、陽気な子の方が居残りさせられていたから、勉強熱心な子がそれを一緒に解いていたらしいの。友達もその現場にいたらしくてね」
「うんうん」
「途中、先生がその三人の生徒のために職員室に飲み物を取りに行ったの。その三人の生徒を教室に置いてね」
「うん」
「その時、その子たちはふと、時計を見たのよ。その時は既に夜の十時を回っていてね……三人の生徒は焦ったんだって。早く帰らなきゃってね。とは言っても、帰る家なんてないのだけど」
さとりが椅子から立ち上がり、こいしの方へとゆっくり近づいたいく。
「その時だったのよ。その子たちの背後から聞こえてきたの」
「えっ…何が?」
「ピチャ…ピチャ…って、水に濡れた何かの足音が、背後から聞こえてきたの」
「…えっ…!」
「その子たちは思わず、三人共振り返ったんだって。でもそこには何もいない。不気味に思った三人は、教室から出ようとしたの。きっと先生の向かった職員室に走って逃げようとしたのね……でも」
ガタンッ!!
「ひゃっ!」
さとりが椅子を掴んで、激しく揺らした。
「こんな風に、椅子が揺れたんだって。誰もいないのにね。そして次の瞬間、その椅子が飛んできたの。三人はそれを避けられたんだけど、目の前で起こった現象があまりに恐ろしくてその場で固まってしまったらしいの。
けど、優しくて勉強熱心な子が、勇気を出して教室の扉に手をかけたの。そして、教室から出ようとしたの。でもね
扉が、開かなかったんだそうよ」
「…!」
「そしてまた、あの足音が聞こえてくるの。ピチャ…ピチャ…ってね。そして…」
さとりがこいしの座っている椅子の後ろに立った。
「ーーねえ、お姉ちゃん
おうちに、帰ろう…?」
「きゃあああ!!」
「…って、声が聞こえたそうよ」
「……もう!からかわないでよお姉ちゃん!」
「ふふっ、ごめんなさいね!…けど、これは実際にあった話だそうよ。あの学校の生徒が、そう話していたらしいわ」
「へ、へえー…その人の名前ってわかる?」
「えーっと確か……
ミスティア・ローレライさんだったかしら」
「…え!?」
何でいつもこんな時間になるんだろうなぁ…
ま、読み返して見て思ったけどあんまり怖くないしな