表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方学園の怪談話  作者: アブナ
狂宴の刻
69/82

動き出す歴史

お久しぶりの更新ですね!

今回ちょっと二次創作ということで色々オリジナル設定組み込んでます

どうかお許しを(>人<;)





『殺してやるっ……!!殺してやるッ!!』


『絶対に許さない……お前だけは、絶対にッ!!』


『いつか必ず……必ずお前を殺してやるッ!!!』








…お──ま。


……ししょ─さ…。


(……?)


「お師匠様ってば!」


「わっ」


永遠亭にて。

てゐが、永琳の耳元で大声で叫んでいた。

それに驚いて素っ頓狂な声を上げる永琳。


「やーっと起きた。もう結構な時間寝てたよー?」


「ご、ごめんなさいね……つい」


「『つい』って…!まあ、いいけどさー」


「あいつから何かコンタクトは来てる?」


「いいや、何も。多分この『パレード』が終わるまでは何も来ないと思う」


「そう。そうだと良いけどね……」


(なんだか、嫌な夢を見ていたような…?まあ、いいか)


「鈴仙は大丈夫かしらね」


「大丈夫だと思うよ、まだ殺したりなんかしないだろうし……というか珍しいよね、お師匠様が後手に回るなんて。普段なら力尽くで……」


その言葉を聞いた永琳の表情が僅かに曇る。

どうやら、何か後ろめたいことがあるようだ。


「……お師匠様?」


「ごめんなさいね……こんな事になるのなら、()()()……」


(……あの時?)


てゐが思考を巡らせようとしたその時──


「八意様」


「!?」


突然、二人の正面から声が聞こえる。

慌てて声の聞こえる方を向くと、そこには……


「……サグメ…?」


「お久しぶりです、八意様。早速なんですが、一つお尋ねしたいことがあります」


「……えっ、サ、サグメ!?」


稀神サグメが、真剣な表情を浮かべて立っていた。

この時永琳には、焦りの感情が真っ先に出て来ていた。

そう、これは最も恐れていた事態なのだ。

サグメは月の民である。ここが見つかったということは……


「どうして貴女がここに…!?」


「え、知り合い?」


当然てゐはサグメのことは知らない。

永琳は地上の兎達には月の民の話はしてこなかった。


「月の民よ……それも、結構の権力者……!」


「えっ!?」


動揺を見せる二人を安心させるため、軽くお辞儀をしてこう続けた。


「ご安心ください、私は八意様の味方です。月の連中にここを告げ口するつもりはありません」


その言葉を聞くと、永琳は安心したのか表情を緩めた。

てゐの方は、些か警戒を解けていない様子だが。


「そ、そう……ありがとう」


「いえ。……では、質問させていただきます。今、幻想郷に起こっている異変についてです。


八意様は、"どちら側"ですか?」


その言葉に、永琳はびくりと体を震わせる。

聞かれたくなかった質問だったのだろう。


「……」


永琳はしばらく俯いていたが、覚悟を決めたのか、顔を上げた。

その表情は、どこか儚げだった。


「どちら側か……だったわね。


それなら私は、"向こう側"よ……」


「…え」


てゐは、永琳の発した言葉に驚いた。

まさかそう答えるとは思ってもみなかったからだ。


確かに、異変に少しは手を貸してはいた。

けれど、それは鈴仙を守るためだと思っていた。

幻想郷を裏切ったわけではないのだと。


「……やはり、そうでしたか。何となく察しはついていました」


「ちょ、ちょっと待ってよ!悪い冗談はやめてよ、お師匠様!?


確かに異変の助力はしたけどさ、それは鈴仙を助けるためでしょ!?それだけで何も向こう側だって言い張る必要は…!」


「違うのよ、てゐ」


「え!?」


「これは、私が過去に犯してしまった罪なの」


「……!?」


自分でも知り得ない、永琳の過去。

それが、今のこの状況を招いているのだ。

少しでも助けになりたい。しかし、それは自分ではそれができない。

てゐは、そのことが瞬時に理解できる自分に、どうしようもない遣る瀬無さを感じていた。


「わっ」


その時、サグメがてゐの頭に右手を乗せた。


「貴女の八意様を思う気持ちは本物のようね。……その気持ちは、今は取っておきなさい。必ず役立つ時が来る」


「……!」


「今は耐えて欲しい。来たるべき時が来るまで……ね」


「来たるべき、時?」


「八意様、当然このまま終わるつもりはありませんね?」


永琳は、サグメの真剣な眼差しを避けるかのように顔をそらす。


「こちらを向いてください、八意様。今の貴女には、現実と向き合わなくてはいけない義務がある。


貴女の幻想りそうを守るために……過去の現実あやまちと決着をつけましょう」


「……!」


その言葉で漸く、永琳はサグメの方を振り向いた。


「……けど、私は……過去に、あれだけのことを……」


「……少し、罪意識を持ちすぎなのではないでしょうか?状況が状況ですから、あの時は仕方がなかったと言えます。


妖怪達には気の毒ですが、あれは『仕方がない』のです」


「……そうでも言い聞かせなければ、流さないような大罪ってことなのね」


永琳が再び俯いた。

いつもの何処か余裕のある態度とは正反対の永琳の様子に、てゐは当惑していた。

普段ならば、軽口を叩いて敵を鈴仙にでも倒しに行かせるだろう。

確かに今この場には鈴仙はいない。けれど、こんな言い方はしたくないが、代わりとなる人物が今は居る。

このサグメという人物が、永琳のことを慕っていることは言動ですぐにわかった。


それをしないということは、それ程までに永琳自身の中で拭いきれない程の強い罪意識があるということなのだろう。


「違いますよ、八意様」


「え…?」


「貴女は何も間違ってなどいません。私達月の民がそれを証明しています」


「ど、どういう……」


「妖怪と人間は相容れぬ存在です。これは遥か昔から決定付けられていました。

まず、人格を保持した種族が互いに理解し合うには、それ相応の共通点が無ければいけません。


しかし、この二つの種族にはあまりにも相違点の方が多すぎたのです。思想、姿、力……凡ゆる全てが違っていました。


『あの頃』の妖怪や人間達が互いを理解しようなどと思うはずがなかったのです」


「……!」


永琳は、サグメの言葉を聞くうちに少しずつ顔を上げていっていた。


「……貴女の後悔は無意味であるとは言うつもりはありません。しかし、これだけは言えます。


貴女の行いは決して──"間違ってなどいなかった"。


もっと誇ってください。貴女は、地上世界の発展の手助けをした偉大なお方なんですから」


サグメは、明るい笑顔を浮かべてそう言った。


この時永琳は、心の中にあった暗雲が、少し晴れていくのを感じていた。


「……本当に、立派になったわね。サグメ」


「えっ……きょ、恐縮です」


サグメは尊敬する人にいきなり褒められたことに動揺して、少しだけ頬を赤らめる。


「ふふ、何だか少し勇気が湧いてきたわ。そうね、こんなに後手に回ったって仕方ないわよね」


「…お?じゃあそろそろ……?」


てゐは永琳の心情の変化を敏感に感じ取った。


「ええ、私達も暴れちゃいましょうか!」


「さっすがお師匠様!そうこなくっちゃ!」


「……ふふっ」


サグメは楽しげに話す二人を見て微笑む。


(良い仲間に恵まれているのですね。やはり貴女は自然と人を惹きつける何かがあるようだ)


「でもその前に、色々と準備したいことがあるからね……そっちを優先させてもらうわ」


「え?何すんの?」


「まあ、『色々と』よ!てゐ、貴女は私の手伝いを!サグメ、姫様に事情の説明をお願いできる?」


「畏まりました。輝夜様には私から説明を入れておきましょう」


「お願いね!よし、じゃあ行くわよてゐ!」


「あいあいさー!」


永琳とてゐが足早に去っていった。







「……さて」


サグメの目つきが、突然変化する。

先程まで浮かべていた穏やかなものとは程遠い、とても鋭い目付きだった。






「…あっ」


実験室に向かう途中で、永琳があることに気が付いた。


「ん?どしたの?」


「……そういえばサグメって……




姫様のこと、どう思ってるのかしら……?」










「ふむ……何だかこの盆栽、イナバに似てる気がする」


輝夜が永遠亭の庭の縁側で盆栽を愛でている。

ちなみに何故鈴仙に似ていると思ったのかは輝夜のみぞ知る。


「しっかし永琳ったら、らしくないわねー。どうしちゃったのかしら。その気になったら一人で全部片付けられるはずなんだけどな」


(まあ、永琳には永琳の考えがあるのか……何だかんだ言って私も永琳のこと全部知ってるわけじゃないし)


「……そういえば永琳ってあんまり自分自身のこと教えてくれなかったな……


あーあー!もっと頼ってくれてもいいのになー!」


そう言いながら、ごろんと横になった。

のんびりとしつつも、永琳の心配をしているようだった。






そこへ忍び寄る、一つの影。

足音を立てず、ひっそりと近付いている。


「……」


そう、サグメだ。

目付きは、先程の鋭い目付きのままである。


輝夜が寛いでいる縁側の向かいの廊下の柱の影に隠れている。


(……彼女が輝夜。


──八意様を、地上へと堕とした罪人か)


瞬間、柱からサグメの姿が消える。






「…ん?今何か、音がしたような?」


輝夜は何かの気配を察知したが、それが何なのかはわからなかった。


「……ま、いっか」


再び横になる。

自身が不死身であることもあり、若干油断しているようだった。






サグメは、既に輝夜の横たわっている場所のすぐ近くまで接近していた。

輝夜は、まだ気付いていない様子である。


「……」


輝夜がこちらに気付いていないことを確信したサグメが、行動を起こそうと一歩踏み出した。









その時だった。


「んー……」


「!」


輝夜が体を起こす。

サグメはその行動に驚き、思わず体をびくりと震わせた。


「……ねえ、貴女はさ」


「…!」


「どうしたら、永琳の中の暗雲を全て消せると思う?」


どうやら輝夜は、こちらの存在に気付いていたようだった。

油断しているように見せているのは、逆に相手を油断させるための罠。


「……そうですね……


貴女自身から、先程の言葉を伝えるのが良いのではないでしょうか」


サグメは、確かめたかったのだ。

何故永琳が地上に落ちてまで彼女についていったのか。

何故そのまま連れ帰らず、ずっと地上で二人で暮らしていたのかを。


何となく、わかった気がした。

これは、サグメ自身が永琳に感じているものと同じなのだろう。

この人の助けになりたいと思える、そんな人物だ。


「そうね、確かに。言わないと頼ってくれないもんね、あいつ」


「ええ、あの人はそういう人ですから。


昔からずっとそうです。全部一人で抱え込んでしまうんですから」


「ふふっ、ほんと。少しは周りを頼れって言ってやらないとね。


……ね、サグメ。どうして私とこんな風に話してくれたの?本当は私のこと、嫌ってるでしょう?」


「確かに嫌ってはいますが、もう確かめられましたから」


「……何を?」


サグメが柱の影から出て、輝夜の前に姿を現した。

その表情は、とても穏やかなものになっていた。


「八意様が地上に落ちてまでついていこうと思った、その理由をです」


「……はは、貴女ほんっとに永琳のこと好きなのね」


「当然です。この気持ちは誰にも負けませんよ。貴女にもね」


「あーら、言うじゃない。じゃあ永琳の良いところ挙げて先に尽きた方が負けってゲームやらない?」


「いいですよ。後で後悔しないでくださいね」







「はっ、はっ、はっ…!」


永琳が永遠亭の廊下をひた走る。

輝夜のいる場所へと向かっているようだ。


「姫様!」


いつも輝夜がいる場所へ辿り着くと同時に大声で叫んだ。

しかし、そこには──


「言わなくてもお茶出してくれるところ!」


「な、なんと…!そんな気の利いたことまで…!?流石は八意様……!」


「ふふーん、これで125個目ね。さあ、次は貴女の番よ!」


「ぐ、ぐぬぬ……!地上に降りてからさらに良いところが増えているだなんて…!流石だ……」


「……何、してるの?二人とも」


二人が和気藹々としている様子に呆気に取られる永琳。


「あら、永琳。今ね、サグメと『永琳の良いところ挙げゲーム』してるのよ。ちなみに今125個目でサグメの番なの」


「は、はぁ…?」


「はっ…!そうだ!どんな些細なことでも褒めてくれるところ!」


「あっ!確かに!あれ良いよね〜モチベ上がるよね〜」


「わかります……」


想定していた事態と大分違ったことに安心しつつ、違う心配が頭に浮かんだ。


「あ、あのー……サグメ?事情説明してくれた?」


「……あ」


「え?事情って?サグメ遊びに来たんじゃないの?」


……………。


サグメが軽い咳払いをする。


「……私がここに来たのには理由がありまして」


「え、急にそんなマジトーンになんの?」


「真剣な話なんです!」


「お、おう。聞くわ」




少女説明中……





「──なるほど、そういうわけか」


「はい」


「……今回は、一人で抱え込むことはできなかったわね?永琳」


「……もう既に、事が大きくなりすぎましたから」


「ま、確かにね。……うん、わかった。私もやれる限りのことはする。ただ、私はここに離れるわけにはいかなくてさ。永遠亭に掛けた魔法解けちゃうし」


「でしたら私が幻想郷側の援護に向かいましょう。輝夜様と八意様はここでやれることをお願いします」


「了解よ。……あと、サグメ」


「はい?」


「私には敬語、使わなくていいわよ」


「……それは……」


「あれだけ仲良く話したんだから、もう友達でしょ?」


満面の笑顔でそう言う。

サグメは少し照れくさくなり顔をそらしてしまうが、再び輝夜の方へ振り返ると、笑顔を返した。


「ええ、そうね。これから、よろしく」


「ええ、よろしく!貴女とは仲良くやっていけそうだわ」


永琳はそんな二人の様子を、嬉しそうに微笑みを浮かべて見つめていた。




サグメ様が永遠亭初訪問だったり

永琳の過去がさらに重くなってたりしてます

永遠亭組はシリアスに持っていきやすい反面、幸せにしてあげたい気持ちが強くて複雑です…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ