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東方学園の怪談話  作者: アブナ
狂宴の刻
61/82

困った時の神頼み





「〜♪」


月明かりに照らされる、七色の羽。

鼻歌混じりに宙を舞う金髪の少女は、美しくも不気味さを醸し出していた。


「陽は落ちて、月が顔を出す。それはこれより始まる物語うたげの合図。


先ずは紅魔のやかたにて、次いで平和な人里へ」


愉快そうに羽をはためかせ、地上を眺める。

少女は高く高く飛行しており、地上の建物は豆粒のように小さく見えた。


あかに染まり始めた月を背後に佇み笑うその姿は──


「さて、次なる演目は──


向日葵の咲く花園の、愉快な舞踏ワルツにございます」


まさに、悪魔そのものだった。













現時刻は、午後の1時。


突然の夜、紅魔館での内争、町の壊滅、天人の襲来。

この短期間で凄まじい数の異変が起こった。

今、幻想郷が、未曾有の脅威に飲まれ始めている。




そんな中、至って平和そのものの場所が存在していた。それは……。


「なーんだか今日は風がざわついてますねー」


「そだねー」


「山の下で何か起こってんのかねー」


ここ、守矢神社である。

二人の神が張る結界により、狂気の侵攻が進んでいないのだ。


「参拝客も一人も来ないし、遊びに来る人も誰もいないし……急に夜になるし……」


「早苗ー、私達がいて良かったねぇ。貴女だけだったらどれだけ退屈だったことか」


「本当ですね……というか、やっぱりなんだか変ですよね、今日?」


「まー確かに。妙な違和感はあるな」


「空気が違うというか、何というか。変な感じだよね。まあ急に夜になる時点でおかしいんだけど」


「どなたか神龍でも呼び出したんですかねぇ」


「シェン……なんだって?」


しかしそんな中でも、彼女たちは幻想郷の異変に気付き始めていた。


そんな時、石階段の方から足音が聞こえてくる。


「おや、誰か来たみたいですよ。丁度いいし何かあったのか聞いてみましょうよ」


「そうだね、それがいい」



階段から上がってきていたのは……


「…どうかしましたか……?


リグルさん?でしたっけ?」


リグル・ナイトバグ。

蛍の妖怪だ。

普段は割りかし控えめな、ボーイッシュな出で立ちの蛍の妖怪である。

何故二回言ったのかというと、頭から生えている触角と、黒いマントのせいで人間が忌み嫌うあの昆虫と間違われてしまうからだ。


だが今日の彼女は違った。

目に涙を浮かべ、とても疲労しているように見える。

急いでここまでやってきたかのようだった。

尋常ならざる様子に、こちらから尋ねようとしていた疑問より先に別のことを尋ねてしまった。


「た、助けて!幽香さんが!」


「!?」


リグルが必死になって早苗にすがりついてくる。

何か只ならぬ事が起こっている事を早苗は察した。


「落ち着いてください。幽香さんとは、あのお花畑によくいるあの幽香さんですよね?」


「は、はい!その幽香さんです!なんだか朝から様子がおかしくて……気になって話しかけたら、凄い形相で襲ってきて……!」


「襲う?リグルさんをですか?」


「はい……」


どうしてこんなことになったのだろう。

そんな思いが、リグルの表情から見て取れた。


「……太陽の畑からここまでは、とても遠かったでしょう」


「え?」


「どうして、ここまで来てくれたんですか?……博麗神社でも、良かったのでは」


「……私、その時は必死だったんです。だから、無我夢中で走って飛んで……どうしよう、どうしようって考えてて……


そんな時に、この守矢神社が思い付いたんです。早苗さん達なら、きっと何とかしてくれるって、思ったんです」


その言葉を聞いた早苗は、リグルの頭を優しく撫でた。


「さ、早苗さん…?」


「ありがとうございます、私たちを頼ってくれて。その信じてくれた貴女の心に免じて、必ずや幽香さんを救ってみせましょう」


微笑みを浮かべて、力強くそう言った。


「…はい!ありがとうございます!」


「それでは早速出発しましょう。…お二人は神社に残っていてください、私一人で何とかします!」


「随分やる気満々だねえ早苗!よしきた、あんたに任せるとしよう。私らの威光を示しておくれ!」


神奈子がガッツポーズをしながら言う。


「お任せください!私にかかればちょちょいのちょいです!」


早苗も真似るようにポーズを取り、自信満々に言った。

諏訪子はそんな二人の様子に微笑みを浮かべている。


「では行きましょうリグルさん!急いだ方がよろしいですよね?」


「は、はい!お願いします!」


「早苗!」


「!」


早苗が飛び立とうとした時、諏訪子に呼び止められる。


「…無茶しないようにね」


「……もちろんです。私の帰りを待つ方々がいますから」


笑顔でそう答えると、早苗はリグルを引き連れ飛び去っていった。


「…随分心配してるじゃないか。らしくないね」


「そう?……なんだか今回は、嫌な予感がしてさ」


「嫌な予感、ねえ」


神奈子も薄々それを感じていたようで、先程までの明るい表情とは打って変わって、少ししかめっ面になっている。


「まあ、わからなくはない。私もそれは思ってたし」


「とにかく、何かあったらすぐに対処できるようにしておきたい。…だから念のため、早苗の袖に一匹蛙くっつけといた」


「え、いつのまに」


「さっき駄弁ってて、階段の方から音が聞こえた時」


「周到だなぁ」


「何事もないのが一番だけど、どーも"襲ってきた"ってのが引っかかる。風見幽香は基本温厚だし、どんなに機嫌が悪くても自ら襲うような真似は決してしない」


「だねぇ。やっぱ何かしら起こってるのかもね、幻想郷に。そうなってくると道中も……」


「そう、それだ。あの幽香でさえその状態だと言うのなら、普通の妖怪……戦い好きな妖怪達はどうなるのか……」


守矢神社が在る場所は"妖怪の山"。

山を下る際には、様々な妖怪と出くわすことになる。


「天狗はどうなんだろうねぇ、微妙なラインだ」


「……私らも、行く?」


「ここを留守にするわけにはいかないし、私だけで十分だろ。諏訪子は待ってなさいよ」


「なら任せよう。私もあまり神社からは離れたくないし」


と、そんな会話をしていた時だった。


「途中参加は厳禁ですよ」


「「!」」


神社の鳥居の上に、何者かが立っている。

月明かりに照らされるそのシルエットは、奇妙な形の羽が生えた、幼い少女のようだった。


守矢ここからは早苗さんのみの参加と先に決められていますので……保護者の方々は観客席からお眺めください」


「……はて、言ってることの意味はわからないが、あんたが敵だってことはよくわかる。


ここに何の用かな?悪魔の妹さんよ」


現れたのは、フランドール・スカーレット。

普段の服装の上から、黒いローブのようなものを羽織っている。

口元には怪しげな笑みを浮かべており、その表情は二人の警戒心をさらに大きくさせた。


「まあそう警戒せずに……私は何も貴女方と戦いに来たわけではないのです」


「その口調は神様である私達に対する敬意と思っていいのかな?


「そんなところです。私も礼儀くらいは弁えております故」


フランはわざとらしくお辞儀をする。


「ふん、なら何をしに来たって?早苗のところに行かせないつもりなら、問答無用でぶっとばすけど」


「それはどうかご勘弁を。なので話し合いで解決しましょう。


早苗さんは自分の力のみで今回の問題を解決しようと張り切っておられました。ならば、ここは早苗さんに完全に任せてしまうのが一番かと思われるのですが……」


「その問題に辿り着くまでのアシストをしてやろうって話じゃないか。それすらダメなの?」


「辿り着くこともまた一つの訓練。ここで甘やかしてしまっては良くないと思いますが」


「訓練なら試験官が本当に危険だと判断したならば助けが入るのが普通だと思うよ」


「おや、誰も危険だとは言っていませんよ。……いいや、既に危険はすぐそばにありましたかね」


「なら尚更じゃないか。さっさと行かせておくれよ」


「危険かどうかを判断するのは試験官だと貴女の口から言ったでしょう。ならばそれは私です。貴女方は保護者であって、彼女の程度を見極める必要はありません」


「まどろっこしいな!!要するに私らの邪魔をしてんだろ、あんたは!!」


諏訪子とフランのやり取りに耐えかねた神奈子が怒鳴った。


「そう怒鳴らずに……ここで早苗さんを追うことは貴女方にも早苗さんにも得をすることは決してないからこそ引き止めているのですから」


「ならその根拠を示してほしいな。どうして私たちは行っちゃいけない?」


「ですから、先程言った通りです」


「諏訪子、もうこれ以上の問答は無意味だよ。さっさとやっちまおう」


神奈子は完全に怒ってしまっているようだった。

諏訪子もこのまま話し合っても意味はないと思い始めていたので、神奈子の言葉に準じる。


「そうだね。このまま話を続けても時間が勿体無い。悪いけど倒させてもらう」


二人が臨戦態勢に入る。


「……残念です。もう少し頭のキレる方々だと思っていたのですが」


「何だと?」


「挑発だよ。乗っちゃダメ」


突っ込んでいきそうになった神奈子を諏訪子が制す。

ここで諏訪子は、一つの疑問が生まれる。


何故フランは自分たちの邪魔をするのだろう。

別にここで自分たちを行かせてもフランに何の損もないはずなのに。


「……紅魔館の連中がまた何か企んでるのか?」


「企みをするのが得意なのは貴女方の方でしょう」


小声で言ったにも関わらず、フランには聞こえていたようだった。


「はっ、早苗は企んでいるんじゃなく思い付いたら即行動しちゃってるのさ。だからあれを企みというにはレベルが低すぎる」


「あの子は衝動に駆られやすいからねぇ……


…さて、無駄話はここまでだ。

覚悟しなよ、フランドール」


「行くぞ!諏訪子!」


「応!」


諏訪子と神奈子が同時にフランに向かっていく。

フランはその場から動こうとしなかった。

ただ、一つだけ動いたものがある。


それは、フランの表情だった。

先程までの不敵な笑みから──


「…ふっ」


──恐ろしいほどに狂気的な笑みへと、移り変わっていた。






「具体的に、何があったんですか!?」


「えっと、私がいつも通り花畑を散歩してたら、幽香さんを見つけて……何だか様子がおかしかったから声を掛けたら、襲ってきて……私はそれから全速力で逃げてきたんです」


よく逃げ延びられたものだ。

早苗はそう思った。

いくら妖精とは言えど、風見幽香からそう簡単に逃げられるだろうか。

それはさておき、幽香がどうして突然襲ってきたのかについてを考える。


「にしても、どうして急に…?何か心当たりとか違和感はありませんでしたか?」


「わからないんです……でも、そうだ。あの時の幽香さんの目、いつもより赤かったような……」


「目が赤い…?」


(もしやうどんげさんの……いやでも、彼女が誰かに意味もなく能力を使うわけもないし……)


「あっ…!花畑が見えてきました!」


あまり長く話していなかったが、いつのまにか花畑に着いていたようだ。

こんなにも近かっただろうか?


「な、なんだか距離縮まってません?そんなに移動しましたかね?」


「え?気のせいじゃないですか?とにかく行きましょう!」


「え、ええ」


妙に引っかかる何かを感じながらも、早苗は花畑へと入っていった。








場面は変わり、紅魔館へ。


「イザベルさん!気をつけて!


そいつ、やばい奴です!」


美鈴が声を大にして言う。

緊迫感に満ちたその声に、イザベルは事態の最悪さを察する。


「なるほど、確かに手強そうだ」


「……あぁ?あんた誰よ」


天子が素っ頓狂な声を出す。


「私、フランドールと遊びたくてきたんだけど……その変な羽が見えたからそうだと思ってはしゃいでたのに」


「悪いな、フラン様ならここにはいない」


「そうみたいね……でも、その体はフランドールのものみたいね。どういうわけかしら?」


「まあ、色々と、だ」


「ふーん……」


天子が何かを閃いたかのように目を見開く。

そして、不機嫌そうに顰めていた顔に笑みが浮かぶ。


「フランドールがいないんじゃ仕方ないわね……ここにいる連中と遊ぶことにするわ」


「…!!」


美鈴が息を飲む。

いくらイザベルがいるとはいえ、自分、小悪魔、イザベルの三人がかりでも奴に勝てるという保証はない。

まして、小悪魔は今、パチュリーが目の前で殺されたこともあり放心状態。

そんな中で戦わせるのはあまりにも酷だ。


つまるところ、自分とイザベルしか戦える者がいない。


「美鈴さん」


「!」


イザベルが天子を見据えたまま美鈴に声を掛ける。




「小悪魔様を連れて、逃げてください」




その言葉に驚愕する。

イザベルは、自分を残して逃げろ、というのだ。

つまり──


「──囮…ですか……?」


そういうことなのだろう。

聞くまでもない。イザベルは自分を犠牲に美鈴達を生かそうとしてくれている。

わざわざ訊ねるのは、その覚悟を却って侮辱するようなものだ。


けれど、聞かずにはいられなかった。

何故なら、彼女は『家族』なのだから。

そして──『最も大切な者』と、同じ姿をしているから。


「勘違いはなさらないでくださいよ」


彼女は答える。

いつものように、自信満々の笑みを浮かべて。


「あいつは私一人で十分です。お二人の手を煩わせるまでもありません」


(──…!)


と、そこで。


「…イザベルさん……やめてください……!」


小悪魔が、目尻に涙を浮かべながら言った。

その声は酷く弱々しく、震えていた。


「貴女までいなくなってしまうなんて嫌です……!私は……私は……!」


「もう一度だけ言います」


イザベルが二人の方へ振り返る。


「──誰の心配をなさっているんです?」


先程と同じ、悪い笑みを浮かべながら、優しい声色でそう言った。


「……イザベルさん…!」


「美鈴」


イザベルが、低い声で美鈴の名を呼んだ。

先程までとは違い、威圧するような重い声だった。


「……ご武運を……!!」


美鈴が小悪魔を抱えて走り出す。


「なっ…!?やめて、やめてください!!イザベルさんが、イザベルさんがっ!!」


「耐えてください……!私だって、ほんとは…!」


「だったら今すぐ引き返してください!!イザベルさんを助けないと!!」


「貴女はイザベルさんの覚悟を踏み躙るつもりですか!?」


大声で言われ、小悪魔は何も言い返せなかった。

──しかし、それでも。


「イザベルさぁぁーーんっ!!」


叫ばずにはいられなかった。

決して付き合いが長いわけではない。

けれど、この短い間にたくさん助けてもらったのだ。

先程もそうだ。折れかかっていた心を、イザベルが支えてくれた。

まだ何も返せていない。

お礼すら言えていない。


「…うぅぅぅっ…!!」


(私にもっと……力があれば……!!こんなっ……こんな思いもせずに済んだのに……イザベルさんを助けられるのに……!!)


美鈴も、同じ思いだった。

自分にもっと力があれば……イザベルを守り、あの場を誰の犠牲もなく切り抜けられた。

二人は己の無力さを呪った。

その無念を胸に、ただひたすらに走り続けた。

イザベルの覚悟を、無駄にしないために……。







「……随分好かれてるのね」


「まあ、それなりに」


「これは殺すのが少し申し訳なくなってくるってものだわ」


「ご冗談を、その笑顔は何です?」


「あら?口調が丁寧になったわね。急にどうしたの?」


「別段意味があるわけでも。ただの気まぐれです」


「そ。…さて、じゃあ遠慮なく遊ばせてもらうわよ?手加減とかするつもりはないから」


天子が笑みを浮かべて、右手に緋想の剣を出現させる。


「ええ、どうぞ。……ただ、貴女は一つ勘違いをしています」


「…?」


「私は囮になったわけではありません」


イザベルから、黒いオーラが溢れ出す。

イザベルを中心に凄まじい風が巻き起こり、空には雷雲が発生する。


ドンッ!!


「!?」


紅い雷が降り注ぐ。


「──貴様を返り討ちにする。

その為に、オレはこの場に残ったのさ」


紅い悪魔の、降臨である。








なんかもうタイトルとほとんど関係なくなってきたな?

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