天の轟
お久しぶりの更新です。
更新ペース、だいぶ遅くなってしまいましたな…どうかお許しを!
「……あんた、ここに何しに来たのよ」
「べーつに?貴女に会いに来ただけです。下界に降りてみたら何やら面白そうなことが起こってたものだからさ」
天子は腰に当てていた左手でジャスチャーを交えながら話す。
その様子を見て、霊夢は却って天子を怪しく感じた。
「それで?あんたはこの異変の解決を手伝いに来たって?」
「いやいや、私は下界の問題の解決には助力はしませんから。自分達の力で解決してください。そこんところ把握しといてもらえます?」
「だったら何だってわざわざこんなところに……」
「そうですねぇ」
愉しげに笑みを浮かべ、天子はこう続けた。
「関与はしないけど、せっかくこんな面白いことが起こっているんだから……
それをあっけなく解決されるのは、面白くないと思いません?」
「……だと思った。結局そう言う腹でしょう?」
(でも、こいつは異変を起こしてる奴らとは関係なさそうね。本当にただ『遊びに来た』だけ……傍迷惑な天人だわ)
右手に持つお祓い棒を天子に翳し、臨戦態勢に入る。
「そういうことならさっさと来なさい。相手してやるわよ」
「ふふっ、話が早くて嬉しいわ。それじゃあ、全力で楽しませてもらいましょうか」
「悪いけどこっちは楽しんでる暇なんてないのよ。一気に終わらせてあげるわ」
「それは楽しみ」
天子の右手から、赤い光が放たれる。
その光が右手の掌に収束し、それが一本の刀の形状へと変化した。
「出たわね、緋想の剣」
「さあ、始めますか!」
天子と霊夢が同時に突撃していく。
お祓い棒と緋想の剣が激突した。
辺りに凄まじい衝撃波が巻き起こる。
二人は一旦その場から退いた。
「おっも…!流石は天人、とんだ馬鹿力ね」
「そういう貴女こそ。私に力負けしないなんてとんだ馬鹿力ね」
ズレた帽子を整えた後、また剣を構え直す。
「ふふ、しかし久しい感覚ね……久しぶりに本気を出しても簡単に壊れない相手と戦える。
失望させないでよ?」
狂気的な笑みを浮かべ、霊夢を睨みつける。
「……」
(こいつ、いつもに増して好戦的じゃないか?もしかしたら、異変と何か関係が……)
「ぼさっとしている暇はないわよ」
「!!」
天子が霊夢の真後ろに現れる。
「っとぉ!!」
ギリギリとところで天子の剣撃を防いだ。
その場から大きく退く。
「あっぶな…!」
「ふふふ、やるわね。今のを抑えるなんて。
楽しくなってきたわ…!」
天子はまたも、狂気的な笑みを浮かべる。
諸所に垣間見える狂気に、霊夢は少しずつ勘付いていた。
「…そういうことか。なら、この異変の犯人は……」
「おや?私の様子を見て犯人を推測するとはやりますね」
「あくまで予想だけどね。それにあいつ一人でここまでできるとは思ってないし。ただ、あんた、狂気に侵されてるかもよ」
そう言われた天子は、相変わらず笑みを浮かべたまま返した。
「ええ、わかってますよ。自分がいつもより好戦的であることも、今の幻想郷が狂気に飲まれていることも」
「…!」
「ただ、私は他の連中とはちょっと違うんですよねぇ……あいつには飲まれていないのですよ」
「……あいつ?」
「おっと、これ以上は野暮かしらね。あとは自分で考えなさい」
意地悪く笑う天子を見て、霊夢は少し苛立ちを覚えた。
「こうなったら洗いざらい吐いてもらうわよ。あんたをぶっ倒してね!」
「漸くその気になりましたね。ふふっ……そう来なくっちゃ」
「言っとくけど咲夜、私は貴女が相手だからって手加減はしないからね」
「当然です。そんなことをされては私の面目も潰れてしまいますからね」
「レミリア、近接任せていいか?私は後方支援に回るぜ」
「了解!」
レミリアが咲夜に突撃していく。
「……ふん、相変わらずですね。せっかちなんですから」
「悪いね、この性分ばっかりは変えられないな!」
右手の爪を立て、咲夜に振り抜いた。
咲夜は素早く身を躱し、右手に持つナイフで反撃する。
レミリアはナイフを左手の人差し指と中指で挟んで止める。そのままナイフをへし折ると、咲夜に向けて蹴りを放った。
咲夜はその蹴りを左手で防ぐ。
「……ッ…相変わらずの重さだ」
「言ったろ?手加減はしないって」
咲夜を笑みを浮かべながら睨みつける。
咲夜は口調の変化とその様子を見て、レミリアが所謂『戦闘モード』に入ったことを察した。
「ふふ、本当に本気なんですね。安心しましたよ」
「私が今までお前に嘘をついたことがあったか?」
「……あったような気はしますがね」
「せめてどちらかに断言するべきだろ!」
「断言させて欲しかったですよ!」
咲夜がナイフを三本同時に投げてくる。
レミリアは爪でそれを弾き、大きな弾幕を三つ連続して放つ。
咲夜は弾幕をナイフで全て切り裂いた。
「こっちだ」
「!!」
レミリアが咲夜の右隣に現れる。
最後の一つに紛れて咲夜に接近していたのだ。
レミリアは左足で蹴りを放つ。
防御はしたものの、咲夜は少し吹き飛ばされてしまった。
「ふぅ、危ない危ない。やはり貴女方御姉妹は強い。まともに戦えば勝ち目はないでしょうね」
「……わかっていると思うが、私は少し怒っているぞ、咲夜。
お前、フランに何をした?」
殺気立った目で睨みつけながらそう言う。
咲夜はレミリアを見つめながら、思考を巡らせているようだ。
「……妹様が今、どんな状態かはわかっているのですか?」
「さあな。少なくとも"正気ではない"ということはわかる」
「実を言うと、私もわからないのです。妹様がどのようになられて、どこで何をなさっているのかも」
「…何?」
耳を疑った。
フランが何処かへ行っていたのは、てっきり敵の本拠地にでも向かっているのだと思っていたから。
なら一体フランは何処に向かっていたのだろうか?
「フランは……お前達『異変を起こした側』に操られているのだと、勘違いしていたよ。そうじゃないんだな?」
「ええ、まず前提から間違えています。我々は操られてなどいません」
「何?」
「我々は、『同士』ですから」
咲夜は不気味な笑みを浮かべ、そう言った。
その言葉の意味は、レミリアには理解できなかった。
その時、背後から弾幕が飛んでくる。
それはレミリアを通り過ぎ、咲夜の方に向かっていった。
魔理沙が放ったものだったのだろう。
瞬間、咲夜はその場から消えた。
「ちっ、外した」
「咲夜は結構、反応速度が早いからな。仕方ない」
『ふふっ…ここでお嬢様と戦いつもりはございません。時間を稼げればそれで充分でしたからね』
「!?」
どこからともなく咲夜の声が聞こえてくる。
「どこにいやがる!出てこい!」
『そう言って出てくる者がいますか?まあ、いるにはいるかもですが。私は出ませんけど』
「……どうやら私達は嵌められちゃったみたいね。最初っから狙いは私達をここに留まらせる事だったみたいよ」
「何!?」
「周り、見てみなさい。結界に覆われてるわ」
周りを見渡すと、辺りは大きな紫色の結界に包まれていた。
「やってくれたな、あいつ…!もう結界内にはいないだろうし」
「ええ……結界の中に咲夜の気配は感じない。してやられたってわけね」
「さっさとこの結界を壊しちまおう!そして博麗神社に全速力だ!」
「了解!」
ガキィンッ!!
魔力を帯びた幣と、緋想の剣がぶつかり合う。
霊夢が競り勝ち、追撃を天子の腹部に向けて振るう。
「ちっ…!」
天子はそれを何とか防いだ。
そのまま後退していく。
「ふん!」
霊夢はそこにすかさず追撃を入れる。
連続して幣を振るうが、天子はそれを全て避けた。
霊夢が攻撃を振りきり隙ができた瞬間、天子が反撃に回る。
「せい!」
袈裟斬りで霊夢の顔を狙う。
霊夢は幣を横に倒し、両手で持ってそれを防いだ。
「くっ……!」
(私もあれから結構修行したんだけどなぁ……最終的なあいつの強さは知らないけど、こいつクロ以上に……!)
「ふふっ……いい、いいわ…!やはり貴女との勝負は心踊る!」
「随分楽しそうにしちゃってまあ……!」
「ふふ、逆になぜ貴女はそんなに辛そうなのかしら?こんなにも楽しい戦いなのに」
「さっきも言ったけど、私はあんたとの戦いを楽しんでる暇はないのよ!」
霊夢が緋想の剣を弾く。
その場から後退するが、天子は一瞬で霊夢の背後に回ってきた。
緋想の剣を横薙ぎに振るう。
霊夢は素早く身を屈め、天子の腹部に右足で蹴りを入れた。
しかし天子は全く怯むことなく、霊夢の右足を掴もうとする。
霊夢はそれを素早く躱し、天子と距離を取った。
「あんた、本当に狂っちゃってるわね……しかもそれを自分で自覚してるなんて、どうしようもなく狂ってるわ!」
「狂っているのはこの世界。私はそこに身を投じているだけ!」
天子が突進してくる。
霊夢は横に走り、天子の攻撃を逃れようとする。
しかし、その動きを読んでいたのか、天子も霊夢に並走するように追う。そして、連続で剣を振るう。
ガキィンッ!ガキィンッ
霊夢は天子の剣撃を全て防いでいる。
「そこに好き好んで身を投じてるから狂ってるって言ってんのよ!」
「ならばこちらから問おう!!」
天子が大きく振りかぶり、袈裟斬りで切り掛かってくる。
ガキィンッ!!
「楽しんでこそのこの世界、狂って何が悪いというのか!!」
「…ッ…!!」
(こりゃあ、思ったよりやばいかも…!)
 




