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東方学園の怪談話  作者: アブナ
狂宴の刻
56/82

始まりの合図





「……異変、ですって?」


「ああ、そうだ」


突然現れた魔理沙に驚いた。何故こんなところにいるのだろう?

それに、今『異変』と言ったのだろうか?


「説明は後、一先ず戻るぜ!」


呆けている間に手を掴まれ、連れていかれる。

この方角は確かに紅魔館の方向だ。

しかし、まだ帰るわけにはいかない。


「待って魔理沙!フランが何処かへ行ってしまったの!追わないと……!」


「わかってるだろ!フランはもう異変に巻き込まれてんだ!あの目を見たろ!?」


そう言われて、思い出す。

あの、黒く染まった目を。

あの目を見た瞬間。

まるで、魔法でも掛けられたかのように、体が固まるような感覚に陥った。


「……!!」


「……一先ず、紅魔館に戻ろう。な?」


その方がお前も落ち着くだろ、と付け足して、魔理沙はまた腕を引いてきた。

反抗する理由もないので、そのまま付いていく。


「自分で歩けるわ。離してちょうだい」


「そっか。じゃあさっさと行こうぜ。こうしてる間にも被害が広がってるかもしれないからな」


魔理沙は平然とそう言ったが、あまりにも事情に詳しいその様子に少し不信感を抱く。


「……あんた、やけに詳しいわね……何か知ってるの?」


「それも紅魔館で話す。とりあえず飛ばしていくぜ!」


魔理沙が箒に跨り、宙に浮いていく。

どうやら屋外にいるのは危険なようだ。


「……わかったわよ…!」


頭の中にある疑問は一先ず置いておき、言われた通りに全速力で紅魔館へと向かった。

魔理沙が「飛ばしすぎだろ」と言っていたが、飛ばせと言ったのは向こうの方だ。知ったこっちゃない。






──一方、紅魔館。


「一命は取り留めました。心配はないと思います」


「そうですか……それはよかった」


休憩所もとい、医務室でイザベルと小悪魔が話していた。

ベッドにはパチュリーが眠っている。


「あの、他の皆さんは……」


「妖精メイド全員がやられていました。美鈴は無事です。たまたま休憩時間だったようで、部屋で眠っていたそうです。……タイミングが良いのか悪いのか」


「そうですか……紅魔館の損傷は?」


「図書館と屋上、後は一階大通りと三階廊下の四箇所です。特に図書館はなかなか酷い状態になってしまっています。


大通りの方は、何かの機械が爆発したであろう痕跡がありました。おそらく咲夜とフラン様がそこで戦闘を行ったのでしょう。


三階は数カ所に大きめの穴が開いていて、その穴は屋上の方にまで貫通しています。そして、触手を持った魔物の死骸がありました。あれが穴を開けたのでしょう。


何にせよ、被害はなかなかに甚大です。早めに修復しなければなりませんね。妖精メイドは二、三日すれば復活するでしょう」


淡々とそう述べると、椅子から腰を浮かし、机に置いてあるティーカップにお茶を淹れ始めた。


「……あの、イザベルさん。一つ、謝らないといけないことがあるんです」


「構いませんよ。犯人の正体がわかっていたことなら察しています」


そう言われて小悪魔は思わず目を見開いた。

自分の言おうとしていたことが、こうもあっさり見抜かれるとは思っていなかったのだ。


「ど、どうして……」


「貴女は先ほど『イザベルさんまで様子がおかしかったら』と言いましたよね。それはつまり、犯人の正体は紅魔館の住人であるということでしょう。


混乱を招くであろうと考え、私には伝えなかったのでしょう?『犯人は咲夜である』、と」


心底驚いたであろう小悪魔は、思わず絶句した。

いつのまにか口も開いていた。

全てお見通しだった。自分の懸念も犯人の正体も、何もかも。


「……凄いんですね、イザベルさんって……」


「恐縮です。……しかし、何故咲夜がこんな事をしたのかがわかりません。そして何故最初にパチュリー様を狙ったのかも」


「下克上……ではないのでしょうか?」


「その可能性は低いかと。あいつのレミリアに対しての忠誠心は本物です。まして仲間意識の強い咲夜が私達を裏切るような真似は決してしないでしょう」


その言葉を聞いて、小悪魔は少しだけ嬉しく思った。

イザベルは咲夜のことをしっかりと理解してくれているようだ。


「じゃあ、やはり操られての行動だと言う事ですね」


「まあ、その線が濃厚でしょうね……確証は持てませんが……」


顎に手を当て、一考していると……。


「邪魔するぜ!」


ドアが開き、魔理沙が姿を現した。


「……随分、厚い歓迎だな」


「動くな。少しでも動けば首を刎ねる」


イザベルが、左手に魔力を収束させて刃を作り、それを魔理沙の首元に押し当てていた。


「落ち着けよ、あんたが何者なのかはレミリアから聞いてたから知ってる。イザベルだろう?私は敵じゃないぜ。なあ、レミリア」


「ええ、その手を降ろしなさい、イザベル」


魔理沙の後ろからレミリアが姿を現した。


「……レミリア、様」


イザベルが刃を消し、手を降ろした。


「ぎこちない敬称ね、あんたの好きに呼んでいいわよ」


「……レミリア、この者は一体何者です?」


「霧雨魔理沙、私の友人よ」


「以後よろしく!あんたの話はかねがね聞いてるぜ。何でフランの体なのかの事情もな。

一先ず、これからよろしく頼むぜ」


魔理沙が握手を求めてくる。


イザベルはその手を握り返すことはしなかった。


「…おや?」


「すまないな、私は信用できない奴と握手をするつもりはない」


「………随分、嫌われたもんだ」


あからさまに凹む魔理沙。

レミリアがそれを頭を撫でて慰める。


「まあ、イザベルの気持ちもわかるから多くは言わないけど、こんなのでもそこそこ頼りになる奴だから。信頼しなくてもいいから、口くらいは聞いてあげてね」


「………善処します」


「しかし、パチュリー様はなかなか目を覚ましてくれませんね……呼吸も安定してるし、もう目覚めてもおかしくないんですが……」


心細そうにそう呟くと、小悪魔はパチュリーの頬を右手で優しく撫でた。


「………パチェ…!?大丈夫なの?」


事態に気付いたレミリアが慌ててベッドに駆け寄った。


「だ、大丈夫です。命に別状はありません」


「そう……良かった。妖精メイドも全員やられてしまっていたようだけど……紅魔館で一体何が……?それに、咲夜が見当たらないわ。買い出しにでも行ってるの?」


「……順を追って説明します」




イザベルの説明を受けて、レミリアは驚愕した。


「あ……え…っと…」


様々な感情が入り混じり、上手く言葉が出てこない。


「気持ちはわかります。ですが落ち着いてください。今現状出来ることは自分達の身を守ること。おそらくですが、今幻想郷そのものに何か良からぬことが起きていると思われます」


その言葉がきっかけで、レミリアは思い出す。


「そ、そうよ、魔理沙。あんた、今回の異変について何か知ってるんでしょう?」


「おっとそうだった、話しておかないとな。


実は私も、パチュリーと同じように被害に遭っててさ。私は運良く傷を負うことはなかったけど……あれにはほんとびっくりしたぜ。


これは、私が家で魔法の研究してた時だ」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「う〜む……やっぱ図書館の本だけじゃ何とも言えないか……どうしたものかな」


紅魔館の図書館から借りてきた本を読みながら、新しい魔法の案を考えてたんだ。

その時。


コンコン


ドアがノックされた。


「……?誰だ?」


「私よ」


「アリスか?」


「ええ、そうよ。居るなら早くこのドア開けなさいよ」


「はいよ、ちょっと待ってな」


普段向こうからこっちに来ることは滅多に無いから、驚いた。

結構出歩いてはいるが、私の家に来るのは比較的珍しい。


「しかし珍しいな、何だってお前からこっちに?人形で伝えてくれれば行ったのに」


「たまにはこっちから出向いてやろうと思ったのよ。感謝しなさい」


ドアを開けると、すぐ目の前にアリスは立っていた。

その時、少し違和感を覚えたんだ。

アリスの目は、こんなにも赤かっただろうか、と。


「…カラコンでも入れた?」


「はぁ?何の話よ」


「いや、お前そんなに目ぇ赤かったっけ?」


その言葉をかけた直後だ。

背後から人形が現れて私を攻撃してきたんだ。

何とか躱したが、アリスの表情の変化を見て、私は察した。

こいつは今、狂ってるってね。


「よく避けたわね」


「おうさ。最初から疑ってたんだ、あれくらい余裕余裕」


「あらそう。ならこれからどうなるかもわかってるわけね?」


普段見せない不気味な笑みを浮かべ、自身の背後に複数の人形を出現させた。

正直戦うのは面倒だったし、このままやっても得はないと思ったから、私は逃げる判断をした。


「へっ、いいぜ。お前と本気の勝負をするのは久しぶりだな」


「あら、珍しくノリがいいわね。そうこなくっちゃ」


「ふふん、私に勝てると思うなよ」


私がアリスに八卦炉を構えて突っ込んで行く。

アリスは迎撃しようと人形を動かそうとする。


「ふん、真正面からとは浅はかな!」


私は瞬時に横に逸れる。


「えっ──」


その時、事前に仕掛けておいた閃光弾が光る。

私は帽子を深くかぶってその光を防いだ。

アリスはその光を直に受けてしまったため、目を抑えて唸りながら蹲っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……その隙にトンズラこいてきたってわけよ」


「そんなことが……上手くいってよかったわね」


「本当にな。お互い無傷で終われて良かった」


レミリアと魔理沙が話をしている中、イザベルは一つの考察をしていた。


「……」


それに気付くことなく、二人の会話は進んでいく。


「だからフランのあの状態についても詳しかったのね……あのままあの子を追っていたら私も……」


「ただ何が原因であんな風になってるかがわからないからな。何とかそれを判明させたいところだぜ」


「こんな時に伸介はどこで何をやってんのよ……!ったく」


突然、魔理沙が立ち上がる。

そして壁に立て掛けていた箒を手にした。


「とにかく、霊夢の様子も見に行こう。多分あいつも何かしらの予感は感じてるはずだぜ」


「あ、そういえばそうよ。私はここに来る前までは博麗神社にいたのよ。何かしら空に合図してくれればすぐに向かうって言ってくれてたから、それで……」


レミリアが窓を開けようとする。


「やめとけ。敵に居場所を伝えるようなものだぜ?どうせそんなに距離もないんだし、直接行った方が早いよ」


「そ、そうかしら」


「ああ。私とレミリアの二人で行こう。イザベルと小悪魔はここに待機しといてくれ」


そういうと、先ほどまで目を伏せて話を聞いていたイザベルが口を開いた。


「……お前一人でも問題はないだろう」


「おいおい、今の状況で単独行動をさせるのかよ?それはちょっときついぜ。敵に襲われでもしたらたまったもんじゃない」


「閃光弾とやらはどうした。まさかもう使えないなどとは言うまい」


「あんまり使いたくないんだよ。周りからは結構目立っちゃうからな」


レミリアは、言葉からイザベルが自分のことを心配してくれていることを読み取った。


「イザベル、心配しなくても大丈夫よ。それに魔理沙一人で行かせる方が不安だわ」


「……そうですか。なら、お気をつけて」


「ええ。貴女もパチェとこあをよろしくね」


「お任せを」


胸に手を当て、お辞儀をする。

レミリアは、信頼における従者がそばに居てくれるのはやはり安心するものだ、と思った。

以前なら、咲夜がこのポジションだったはず。

だが今は、その咲夜が敵に回っている状態だ。

早くこの異変を終わらせ、元の日常を取り戻すのだ。

心にそう強く意気込み、レミリアは窓から外へ飛び出した。







「……イザベルさん、感じましたか?」


小悪魔は神妙な表情でイザベルに尋ねる。


「……はい。


魔理沙やつからは『血の匂い』がしました。"お互い無傷で"という言葉が嘘偽りないのなら、そんな匂いなどするはずがない」


先ほど考察していたことは、魔理沙から『血の匂い』を感じたことだった。

初めに魔理沙を見つけた時から、その匂いは漂っていた。故に信頼できなかったのだ。

イザベルは最初からずっと、魔理沙から不穏な気配を感じていた。


「奴には何か、裏がある。もしくは、我々に何か嘘をついている。……用心しておいた方がいいのかもしれません」


「……はい。同意見です」


小悪魔も同様にその不穏な気配を感じていたようだった。

しかし今は、紅魔館から動くことはできない。

レミリア達の帰りを待つことしか、選択肢はない。


「何にせよ、今は我々は自分の心配をした方がいいでしょう」


イザベルが椅子から立ち上がる。

テーブルにおいてある、先ほど小悪魔が飲み干したであろうティーカップに紅茶を淹れるつもりのようだ。


「あっ……ありがとうございます。すみません、何度も淹れさせてしまって……」


「これが私の役目ですから。


貴女方の護衛は、お任せください」


優しい声色と笑顔でそう告げた。

小悪魔はそれを聞き、先ほどまで感じていた大きな不安が薄れたように感じた。


「はい!頼りにしています!」


その言葉に応じるように、イザベルは胸に手を当て、お辞儀をした。









「……まさか…!」


現在霊夢は、『アリスの家』に来ている。

何故、ここに来たのかと言うと、妙に嫌な予感を感じたからだ。


そして、霊夢はある光景を目にして、その予感が当たったことを確信する。


「……洒落にならないわよ、これは……」


アリスの家の窓に、血が飛び散っている。

それも、見るからにかなりの量に見える。まるで、"殺人現場"のようだった。


霊夢は我慢ならず、アリスの家に駆け込んだ。

ドアには鍵が掛かっていたが、力任せに蹴破った。


「アリス!!居るんなら返事しなさい!!」


いくら待っても、やはり返事はない。

物音一つしなかった。

恐る恐る、あたりを見回す。

いつもアリスが座っている、椅子とテーブルのある方を見た時だった。



いくつか、そこに広がっている光景を予想していた。


その予想の中で、一番最悪な予想が当たってしまった。



「……あーっ、くそ…!


一番最悪な展開だわ……!」




霊夢が目にした光景は───



見るも無残な姿に成り果てた、アリスの姿だった。


いよいよ、一番書きたかった物語が始まります。

更新を待ってくれている人がいるなら、是非ともお楽しみに…!


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