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東方学園の怪談話  作者: アブナ
狂宴の刻
55/82

宴の始まり





無数のナイフが降り注ぐ。

フランはそれを踊るように華麗な動きで避けている。

その動きはとても美しく、攻撃している咲夜でさえ見惚れてしまうほどだった。

しかし咲夜はこの時、美しさとは別の物を感じていた。

そう、それは先程も感じたこと。


「──………やはり貴女は本物だ……!」


咲夜が意気揚々とそう呟く。

その風のような囁きをフランは聞き逃さなかった。


(本物、ねぇ。さて、いよいよわからなくなってきた)


先程までの咲夜の言動、行動を自身の立てた仮説と組み合わせてみる。

まず、咲夜…もとい犯人の目的が不明だ。パチュリーを襲う理由がない。

仮に操られていたとして、先までの言動からして狙いはパチュリーを殺すこと、というわけでは無さそうだった。

ならば何故、パチュリーを襲ったのか。思い当たる節はいくつかある。

一つは、紅魔館のメンバーを一人ずつ全員始末するつもりだったということ。

もしそうだったとして、効率よく、そして安全に全滅させるにあたり、最初に殺すメンバーを考えると、やはりパチュリーが妥当だろう。

それは単純に、強さがどうこうという話ではなく、感知能力、状況判断力、推理力……様々な理由で、一番厄介だと思われるのがパチュリーだからだ。


(ただ引っかかるのが、咲夜がそれをするメリットがまるでない。操られてるにしても、少しおかしなところはあるが、いつもの咲夜の雰囲気はどこか残っている。

………下克上?まさか咲夜が?

いいや、仮に下克上のつもりなら、咲夜はもっと上手くやる。それこそ時間停止を使って)


だが、そうはしなかった。

それどころか、あんな目立つような場所で、堂々とパチュリーを襲った。

確かに図書館内を出入りする者は少ないが、大広間のど真ん中にいるパチュリーを、あんな形で襲えば大体気づく。

こう見えてもフランは魔法使いである。

感知能力で言えばそこそこ高い方だし、ましてや静かな図書館でティーカップの割れる音が響こうものなら誰でもそっちの方が気になるだろう。


改めて咲夜の先程までの言動を思い返してみたが、やはり何がしたいのかがまだわからなかった。

一先ず、今の咲夜は『狂気』に侵されているという事だけはわかった。


(まずは咲夜を止めないとな)


様々な推測が交錯するが、咲夜を止めないことには何も始まらない。

フランはどこか引っかかる違和感を感じながらも、咲夜との戦闘に集中した。







一方イザベルは、犯人とフランが何処へ向かったのかを探るべく、痕跡を探していた。

イザベルも魔術的な知識は豊富なので、普段なら感知能力を使えばすぐに探し出せるのだが、何故か今だけは全く魔力を感じ取ることができなかった。

おそらく何かしらの方法でバインドをくらっているのだろう。


「………この血の足跡……サイズ的にフラン様のものではないようだな」


(となると、犯人の足跡か。……しかしこの靴跡……妖精メイドにしては大きい。サイズを見ても、少なくとも大人に近い女性の足跡だ)


イザベルの脳内に、様々な憶測が飛び交う。

しかし、それらを整理するには少しばかり心の余裕が足りなかった。今はフランを見つけることに集中しなければならない……そう考えた。

同時に、その足跡が上の階にまで続いている事に気付く。

窓が開かなくなっていた事と、上の階に足跡が続いていることから推測できることはただ一つ。


「──屋上か」


イザベルは全速力で走り始めた。






小悪魔はパチュリーを紅魔館の休憩所のような場所にまでパチュリーを運んできた。

ここには応急処置に使える道具がいくつか備えてある。

背中でぐったりとしているパチュリーを、優しくベッドの上に寝かせる。


「パチュリー様、大丈夫ですか…?」


「…はぁっ…ハッ……」


苦しそうに呼吸をしている。

当然といえば当然だった。

如何に魔法使いといえど、肺に風穴を開けられてしまってはひとたまりもない。

小悪魔は急いで応急処置に取り掛かる。


「……ふぅー…」


深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。

ここで冷静さを失ってはいけない。



『自分がいらない存在などと思わないでください』



ふとその言葉を思い出した。

なんだか今なら、何でも出来そうな気がする。


「うん、大丈夫。すぐに治します!」


決意めいた表情でそういうと、小悪魔は立ち上がる。

そして、机の上に置いてあるあるものに手を伸ばす。

そこに置かれていたのは、図書館から持ってきたであろう魔導書だった。








「……突然夜がやってきた……明らかにおかしい」


レミリアは、日に隠れながら移動していた最中に突然夜になったことに疑問を抱いた。


「月も出ているし、完全に夜だ。…まるで、さっきの爆発に呼応するかのように。そして………


吸血鬼(わたしたち)を、誘っているかのように…」


(………ますます嫌な予感がしてきた……!)


レミリアは、空を飛ぶ速度を上げる。

何か良くないことが起きようとしている……能力を使わずともわかるこのとてつもない悪寒は、レミリアをより焦らせる。

最愛の妹が危険な目にあっているかもしれない。助けを求めているかもしれない。


「────フラン!!」


叫ぶと共に、これまで出したこともないような凄まじいスピードが出た。今なら、普段出せない力を出せる気がする。

一刻も早く、妹の安否を確認したい。会って抱きつきたい。

ここまで妹が恋しくなったのは、かつてあっただろうか。あったとしても、フランはいつでもそばにいてくれた。だからこの気持ちはすぐに治っていた。

だが今は違う。フランが未曾有の危機に陥っているかもしれない。自分から離れてしまうかもしれない。

そんな不安が、レミリアを襲っていた。


(何故、ここまで不安になる?

何故、ここまで心が揺れ動く?

何故、ここまで───)


その時だった。


「──えっ…?」


最愛の妹が、目を黒く変えて何処かへ飛び去って行く姿が見えた───。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


これは、数分前の出来事。





「───詰みだ(チェックメイト)


フランがレーヴァテインを咲夜の首に押し当てていた。

咲夜は無表情でフランの顔を睨んでいる。


「時間停止を使っても無駄だよ。もう周りは私の弾幕でいっぱいだからね」


咲夜とフランの周りには、色鮮やかな弾幕が覆うように漂っていた。


「…咲夜の狙いが何だったのかは知らないけど、残念。ここまでよ」


「……」


観念したのか、フランから顔を背けた後、俯いてしまった。

真意を話す気もなさそうだとフランは判断した。


「……終わりだね」


(念には念を入れて…フォーオブアカインドの分身を周りに配置しておいたけど……


特に何もな──)


瞬間。

ほんの一瞬前まで居たであろう咲夜が、目の前から消えていた。


「…!」


(時間停止…?)


フランは即座に周りを見回した。

しかし、周りの弾幕に変化はなく、咲夜の姿もない。


「…まさか……」


フランは先程まで咲夜がいた場所を見つめる。

そこには、一つのカードのようなものが置いてあった。


「……スペカではないね。なら一体何の……」


その時、四方八方からナイフが飛んでくる。

フランは魔力を全身から放出し、その放出した魔力でナイフを弾いた。


「いやぁ、危ない危ない。"それ"が無ければ確実にやられていましたよ」


フランの斜め前方から声が聞こえる。

時計塔の屋根の上に、笑みを浮かべた咲夜が立っていた。

月明かりに照らされているせいか、赤く変化した瞳の色がより強調されている。


「……これは一体何かな?どうやってそこに行った?」


自分の中の疑問をそのまま尋ねる。

咲夜は表情を崩さず、楽しげに言った。


「自分で考えてください」


「………それもそうだ」


フランは再びレーヴァテインを納めた。


「おや?レーヴァテインは使わないのですか?」


「ええ。殺す気はないからね」


「なるほど、私なんぞ素手で余裕だと?」


「別にそういうわけじゃないけど……」


その時、フランは気付いた。


「……!?」


先程まで反応があった分身達と、周りに漂っていた弾幕が全て消えていることに。


刹那──。


ドオオオオオオオオンッ!!


凄まじい轟音と共に、紅魔館の周りから謎の触手のようなものが大量に現れる。


「!?」


あまりの出来事に、一瞬体の動きが停止してしまった。

すぐにレーヴァテインを出現させ、魔力を送り込む。


「──ふんッ!!」


大きく薙ぎ払い、ほぼ全ての触手を消しとばした。


「ほう…さすがにやりますね」


咲夜は余裕の表情を崩さない。


(油断したな……今のは危なかった)


残った触手を切り落としながら咲夜の方に振り返る。


「これ、一体何なの?」


「はて、何だったかな?」


顎に右手を当て、わざとらしく首を傾げる。


「……まあ教えてくれないよね」


その時だった。


ドンッ!


「!?」


フランが左足をついている場所から突然二本の触手が生え、絡みついてくる。


「なッ……ッ!?」


そのまま触手はフランごと上に上がっていく。

地面から十メートル程上がった辺りで、フランを円を描くように振り回す。


「くっ……!」


ドゴォンッ!!


「ガッ!!」


その勢いのまま紅魔館の屋上にフランを叩きつけ、強引に引き摺り回した。


「…ッ……このッ……!」


レーヴァテインで切り払おうとしたが、フランは一つの疑問が生まれたことで一瞬その手を止めてしまう。


(これに分身達はやられ、しかも同時に周りの弾幕まで撃ち落としたとは思えない。

もう一人誰かいる…?)


触手の握る力が強くなってきたことで、フランはようやくその触手を切り落とす。

その後すぐに空に飛び立とうとしたが──


ガッ


「何ッ……!?」


今度は右足を掴まれる。


「ちっ……!」


(出来れば紅魔館は傷付けたくないけど……これは下の階に何かいると見て間違いない。


それなら──!)


フランが地面にレーヴァテインを突き刺した。

そして魔力を送り込む。


「!」


ドッ!!


先程触手が飛び出てきた穴から光が漏れる。

レーヴァテインが魔力を放出し、下の階に居たであろう"何か"を消しとばしたのだ。


「…判断が早いな」


咲夜は少し眉間に皺を寄せた。


「これで貴女の策は終わり?」


先ほどの攻撃では服に少し埃が付いた程度で、フランには何一つとしてダメージはないようだった。

依然レーヴァテインを消さず、咲夜に向けて翳す。


「レーヴァテイン、やはり使うのですねぇ」


煽るような口調で言う。


「ええ。少し油断しすぎてたみたい」


フランは冷静に言葉を返す。


「……確かに私の策はここまでです」


咲夜が目を伏せ、服のポケットに手を突っ込む。

フランは咲夜の行動の全てを意識を向け、なにが起きてもすぐに対応できるように身構えている。


「殺戮こっこは私の負けですね、さすがは妹様」


咲夜がポケットから手を出した。


「ですが──




勝敗は決したと油断し、私を仕留めようとしなかったのは失敗でしたね」





ドッ




「!?」


周りから先ほどの触手が大量に現れる。

それらはフランに襲いかかってくるわけでもなく、屋上を覆うように滞っていた。


しかし数秒後、一斉にフランに襲いかかってきた。


「ちっ…!」


羽を羽ばたかせて素早く移動し触手を躱している。

躱しきれないものはレーヴァテインで切り落としているため、今のところはフランに触手が触れることはできていない。


この調子でいけば触手の攻撃から逃れられる。

そう、考えたその瞬間だった。


(──…!?)


咲夜が触手の束の中から現れ、紐のついたナイフをフランの右胸部に向けて投擲してきた。

フランは身を翻して躱そうとする。

しかし、胸元を掠めてしまった。咲夜が紐を上手く使って軌道修正をしたのだ。

レーヴァテインでそのナイフを弾き飛ばす。

その隙に触手に左足を掴まれてしまった。


「くっ……!」


咲夜の方を見ると、すでにそこからいなくなっていた。


先ほどまで咲夜がいた場所に視線を戻すと、そこに立っていた。


「さあ、宴の始まりだ……」


瞬間、咲夜が空に向けて赤く輝く何かを投げた。

フランはその赤い石に禍々しい魔力を感じ取る。


「魔道具……!」


(放っておくのはまずいか……!)


触手に左足を囚われたまま、魔力で体を強化して無理矢理着地した。

そして、レーヴァテインに多量の魔力を送り込んだ。

背中に回し、くるくると回転させる。


「本当は手荒な真似はしたくなかったんだけど……!」


レーヴァテインが紅く輝き、炎を纏った。

回すのをやめ、レーヴァテインを力強く掴む。


「少し遠いが───ここで決める!!」


ダンッ!!


右足を前に大きく踏み込み、レーヴァテインを咲夜に向けて突き出そうとする。

咲夜はその様子を見て、少し焦りの表情を浮かべていた。


「あれは……!」


(レーヴァテインか!)


その時、触手がフランに覆い被さるように迫ってくる。

しかし、フランの魔力に抑えられているのか、なかなかフランを捕らえることはできない。

そして───


「禁忌!!





『レーヴァテ──」











「────貴女の負けです。フランドール」





レーヴァテインが放たれようとした、その瞬間。

背後に何者かの気配を感じると同時に


宙に浮いていた赤い宝石が、激しい赤い光を放った。


「──!?」













「フラン様!!」


イザベルは勢いよく屋上の扉を開けた。

祈るように周りを見渡す。


「…!」


すると、屋上の中心に、フランが立っているのが見えた。

それを見て、ほっと胸をなでおろす。


「ご無事でしたか、フラン様……!犯人は──」


フランに小走りで近付いていく。

しかし、その時。


「来ないで!!!」


フランが大声で叫んだ。


「…えっ……?」


思わず立ち止まるイザベル。


「……フラン様?」


「駄目……来ちゃ、駄目……!逃げて………逃げてイザベル……!」


よく見ると、フランの体が小刻みに震えているのがわかった。

おそらく敵は余程の強敵だったのだろう。

自分を心配してくれているのだろうか。

まだ敵は撃退できたわけではなさそうだ。


「……何を心配されているのです?私の強さは知っているでしょう。それとも私は信用なりませんか」


イザベルは微笑みを浮かべながらフランに駆け寄っていく。


「一旦紅魔館へ戻りましょう。結界を張って敵は入り込まないようにしておきます、話は中で──」「違う!!!」


フランが自分の右手を左手で抑えている。

もしや怪我をしてしまったのだろうか。

ならば尚更すぐに治してあげねば。


しかし、どうも様子がおかしい。

今フランは『違う』と言った。一体何が違うのだろう。

しかし、今はそれを考える余裕はない。一刻も早くフランを助けなければならない。


「……大丈夫ですか?」


フランに近付こうとした、その時に。



「──逃げテって……言ってるじゃなイ………!!」


フランの白い強膜の色が、真っ黒になっている事に気付く。

その目は、吸血鬼の紅い瞳をより際立たせていた。


「………フラン、様……!?」


イザベルは咄嗟に前に踏み出そうとした右足を止める。

これ以上近付いてはいけない。あらゆる細胞が、そう叫んでいた。


「ウゥ……ぐ…ッ……!


がァァァァああああアァァッ!!」


叫び声を上げて、フランは空に飛び立った。

そしてそのまま、何処かへ飛び去っていく。


「フラン様!?お待ちくださッ……!」


イザベルが叫んだ頃には、もう姿は見えなくなっていた。


(──今のは…一体……!?)


「フラン様の身に……一体、何が……!?」


得体の知れない何かが、この幻想郷に蔓延っている。

その天災の様な底知れぬ恐怖に、イザベルは身を震わせた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


レミリアがフランとすれ違ったのは、それから数秒の事だった。

何が起こったのかわからず、酷く困惑してしまう。

今、凄まじいスピードで通り過ぎていったのは、間違いなくフランだった。

妹の姿を見間違えるはずはない。

だがおかしな点があった。

まずは目が黒く変化していたこと。

フランにあんな風に変化する能力はない。紅悪魔も、フランの場合は髪が逆立つくらいしか変化はない。

ならば一体、あれはなんだというのだろう。

次に、飛び去っていったこと。

何処に向かうつもりなのだろうか……。


「……フラン…!」


今すぐ後を追わなければ。

レミリアが羽を羽ばたかせ、空を飛ぼうとしたその時。


「待った」


「!?」


背後から聞き覚えのある声がする。


そこには、リボンのついた黒い三角帽を被り、黒の服に白いエプロンを着ている金髪の少女が立っていた。


「魔理沙…!」


そう、普通の魔法使い、霧雨魔理沙だ。


「逸る気持ちはわかる。けど今は落ち着け。一旦紅魔館に戻るぜ。後で博麗神社にも行こう。


久方ぶりの"異変"って奴だ」









「幻想郷の皆々様、大変長らくお待たせいたしました」


咲夜が月をバックに宙に浮いている。


「役者も揃い、頃合いも良く。お待ちかねの開演でございます」


背後の月は真っ赤に染まり、咲夜のシルエットの不気味さをより際立たせている。


「今宵より始まりますは、諸行無常の新喜劇」


大きく口を釣り上げて笑うその姿は──。


「いざ、いざ!とくとご笑覧あれ!美しくも残酷なこの演劇を!」




まさに、悪魔のようだった。






「──さあ、宴を始めよう」






原作メンバーだけじゃなく、学園メンバーはちゃんと絡んできますのでご安心を…笑

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