襲撃
また間が空いてしまいましたね。
そして日常話が思い付かない。ああ……私は悲しい……
今日は学校は休みで、皆思い思いの時間を過ごしている。
そんなある日の紅魔館の様子。
「暇だ」
イザベルは自分の部屋で早々に担当していた掃除場所の掃除を終わらせて退屈していた。
「こんなことなら掃除は咲夜に任せて、あの時レミリアについていけばよかったか……」
あの時、というのは、レミリアに『遊ばないか』と誘われた時のこと。
珍しく早朝にレミリアが起きていた。しかも咲夜を連れずに。
だがその時はまだ掃除が全て完了していなかったため断ったのだ。
「フラン様は『もうそろそろ体育祭の時期らしいから、今のうちに走り込みでもしとくよ。図書館で人間にしてもらってくるね』って言って行っちゃったし……もう借りた本は全部読んだし……私も図書館に行こうかな……」
−どこかへ遊びに行くのもいいんだけど……。
「ま、とりあえず図書館に行くか。パチュリー様もいるだろうし」
部屋のドアを開けて、廊下を歩いていく。
その時、何かしらの気配を感じた。
「…?」
−…妙な悪寒を感じるな…。
早足で図書館へと向かっていく。
「パチュリー様、お茶をお持ちしましたよ」
パチュリーは声が聞こえる方に視点を移す。
そこには咲夜が立っていた。
「あら、一人なんて珍しいわね、咲夜。レミィはどうしたの?」
「お嬢様なら博麗神社です。霊夢と話したいことがあるそうで」
「ふーん、何かしら。まあいいわ、お茶、ありがと。そこ置いといて」
それだけ言うと、また本に目を向ける。
「かしこまりました。…そうだ、今日淹れたお茶は新しい茶葉を使用していまして。もし良ければ感想を聞かせていただきたく」
「あら、そうなの?じゃ、早速飲んでみるわ」
「ありがとうございます」
パチュリーがティーカップを手に持つ。
ゆっくりと口に入れようとした──その時。
「…!!」
パチュリーは、咄嗟に立ち上がって咲夜のいた方を見る。
トスッ
「…!?」
しかし、既にそこに咲夜はいなかった。
何故なら、もう既にパチュリーの背後から胸部にナイフを突き刺していたのだから。
「──なっ…?」
咲夜がそのナイフを引き抜く。
パチュリーは思わずティーカップを地面に落としてしまった。
ティーカップの割れる音が、静かな大図書館に響き渡る。
血が飛び出し、パチュリーの読んでいた本が血で汚れる。
「ほう…薬に気付きましたか。さすがですね」
ナイフはパチュリーの胸の中心部を貫いていた。
それを確認すると、咲夜は怪しく笑う。
「ぐっ…!あ、貴女…何のつもり…!?」
「さあ…何のつもりでしょうね」
「あっ…」
咲夜がパチュリーの額にナイフを突き刺そうとする。
その時──。
「!!」ゾクッ
背後から、凄まじい殺気を感じた。
咲夜は思わずパチュリーから離れる。
すると、巨大な本棚の間から、一人の少女が現れた。
「ねえ」
「…!!」
笑みを浮かべながら、優雅に歩いてくる。
「パチュリーがそうなってるのは……貴女の仕業?」
黄金色の頭髪に赤い服、七色の奇妙な羽。
フランドール・スカーレットだ。
パチュリーはその場に倒れている。
「…まさか、こんな簡単に貴女程のお方が出てくるとは予想外でしたよ」
「びっくりしたかな?私も本当は出るつもりはなかったんだけどね。あのままじゃパチュリー危なかったし仕方ないよ。…ところで……
あのうさぎさんは元気かな?」
そう言われるや否や、咲夜は不気味な笑みを浮かべた。
「…流石ですね」
「やっぱそうなんだね。…操られてるのとは、また違うのかな」
咲夜の目は、普段咲夜が見せる目の色とは全く違う、真っ赤な目をしていた。
この症状を、フランは知っている。
そしてこれが何を起こしているのかも。
("あの人が"操られてるのかな?それとも…
自分の意思でやっているのか…)
いくつもの推測が出てくるが、それは一先ず置いておくことにする。
今目の前にいる『狂人』を、どうにかしなければならない。
「やはり貴女は察しが良すぎる……出来れば早々に始末しておきたいですね」
「うん、それで?」
「…しかし、貴女を相手にして勝てるとは思っていません。ここは逃げさせてもらいますよ」
「そう簡単に逃げられると思う?」
「こちらには時間停止があるのでね」
「で?
何でここに来たの」
私、レミリア・スカーレットは今霊夢と博麗神社で話している。
「いやー、休日って暇でね?フランは読みたい本があるって言って構ってくれないし、イザベルはメイド業が忙しいから今は無理だって言うしで…」
「それで、ここにきたと」
「そういうこと」
霊夢がため息をつき、立ち上がった。
「そう気軽に来られると困るのよ、こっちも。妖怪がたくさん出るせいで参拝客がろくに来なくなったんだから」
「参拝客ならいるじゃない。今目の前に」
「あーはいはい、お賽銭箱はそっちですよー」
社の中に入っていき、お茶を淹れ始めた。
「あんた、紅茶が好きなんだっけ?」
「ええ。でも何でもいいわよ別に」
「リクエストくらい答えるわよ。ほら、何がいいの?紅茶?」
そう言われると、答えないわけにはいかない。私は少し照れつつこう言った。
「…それじゃあ麦茶で。貴女の好きな味を知りたいわ」
「ふーん?じゃあ私は紅茶にしよ」
「え?何で?」
「あんたの好きな味を知りたいだけよ。えーっと、確かここに……」
笑顔で言われた。
素直に照れる。
霊夢が、私の好きなアッサムの茶葉を取るのが見えた。もう一つは霊夢の好きな麦茶のようだが、種類はよく見えなかった。
紅茶の中でも結構有名だろうし、香りも濃厚でとても美味しい。
ミルクティーにして飲むと格別の味になる。ただここにミルクなんてないだろう。
というかあれ結構高級な奴のはずなんだけど。何で霊夢が持ってるんだろう?
霊夢も紅茶は初めてではないんだろうけど、飲むのなら結構オススメの紅茶である。
ただストレートで飲むと結構渋かったような。
まあ大丈夫か。
「…ふん」
「さて、それじゃあ暇つぶしに付き合ってあげましょうか……ところであんた、一人なの?咲夜は連れてこなかったのね」
「ええ…咲夜も忙しいみたいだし、少し出かけるくらいなら私一人でもいいだろうし」
「なるほどね。はい、お茶」
「ありがと。…そうだ、霊夢は東方学園、入らないの?」
「あら?言ってなかったっけ」
霊夢は素っ頓狂な顔をしてそう言った。
「え?」
「私、あそこの理事長みたいなもんよ?学園のルール決めたの私だし」
「…え、ええ!?」
衝撃の事実だった。
霊夢が学園に入らないのは、巫女の仕事の方に集中したいからだと思っていたから。
「まあ、どうでもいい情報か。生徒としては入るつもりはないわよ」
「そ、そう。でも知らなかった、霊夢もあの学園に関わってたのね」
「そりゃあね…あんな大規模な施設、紫と私の顔を通してからでないと作らせないからね?」
「ああ、それは確かに」
「まあ、そういう事よ」
霊夢が湯呑みを口の方は持っていく。
ゆっくりと紅茶を飲む。
「…へえ、意外と甘い」
案の定な感想を述べる。私も最初は甘いな、と思ったし。
私も霊夢が好きだと言う麦茶を飲んでみよう。
ゆっくりと湯呑みを口に近付ける。
香りは特にこれといった印象はない。まさにお茶、というような香りだ。
では、味の方は……。
…うん、ごく普通の麦茶だ。
なるほど、霊夢が好きなのも頷ける。
霊夢はなにかと庶民的だから、そういうところがこの味を好かせているのだろう。
「どう?普通の麦茶でしょ?」
「え?う、うん。私のよく知ってる麦茶ね」
「やっぱあんたの口には合わなかったかもね」
「そ、そんなことないわ。普通に美味しかったわよ」
「あらそう?あんたも俗世に染まってきたわねぇ〜」
「何だかその言い方はムカつくわね」
「そりゃあ煽ってますもの」
ケラケラと笑いながらそう言ってきた。
渋みを感じているのか、顔がほんの少しだけ引きつっている。
それが少しおかしくて、こちらも自然と笑いが溢れた。
やはり、霊夢と居るのは心地よい。フランや咲夜と一緒にティータイムを楽しんでいる時と、似ているようで違う心地良さがある。
今日は紅魔館では味わえない心地良さに胸を躍らせながら、このひと時の幸せをじっくりと堪能しよう。
──その時だった。
ドオオオオオオオオンッ!
「「!?」」
突然、大きな爆音が聞こえてきた。
紅魔館の方からだ。
「え、何!?また紅魔館!?」
「ちょっと!紅魔館はそう易々と爆発しな…するわ」
「ぶふっ…!認めるんかい。…でも、何かしら。今回の爆発は、少し嫌な予感がするわね」
「…実は私も、そう思ってた。ごめん霊夢、私戻るわ」
「ええ、早く行ってきなさい。もし何かあれば、空に何かしらのサイン出してくれれば駆けつけるわよ」
「ありがと!」
急いで紅魔館に戻っていく。
霊夢が、太陽に気を付けなさいよ!と大声で言っているのが聞こえた。
ダンッ
「…ちっ…!」
(なんて速度で追ってくるんだ──…これじゃあ時間停止があっても…!)
咲夜が図書館の巨大な本棚の上を走っている。
本棚から本棚へと飛び移り、誰かから逃げているようだ。
タッ タッ タッ タッ
「!!」
足音が聞こえる。
自分が走っている隣の本棚を見る。
「…ふふふっ、流石は吸血鬼…!何というスピード」
(時間停止を使っても振り切れないとは…!)
そこには、フランが横を並走していた。
横目で睨みつけてくるその眼光は、今にも飛びかかってきそうな雰囲気だった。
咲夜が別の本棚へと飛び移ろうとした、その瞬間。
ドッ
「!!止まれ!!」
フランが凄まじいスピードで突撃してきた。
ギリギリのところで時間が止まり、咲夜は何とかその攻撃を躱す。
「くっ…!」
本棚から降りて、急いで図書館から紅魔館の広い廊下に出た。
「図書館から拝借してきたこの魔導書…開いただけで効果を発揮することはパチュリー様から確認済みだ」
本を開くと、近代的なジェット機のようなものが現れた。
自身の想像を超えるものが現れ、少し驚く咲夜。
「…思っていたものと違う…まあいいでしょう」
そこに咲夜は飛び乗る。
それと同時に、時間が動き始めた。
「!」
フランはすぐに咲夜を発見し、猛スピードで迫っていく。
「…ふん、如何に貴女と言えどこれにはついてこれまい!」
ドオォンッ!!
ジェット機のようなものが凄まじいスピードで走り始めた。
紅魔館の出口に向かっていく。
ドッ
「…!?」
しかし、フランの方もまたスピードを上げてきた。
凄まじいスピードで走り迫ってくる。
ジェット機よりも、フランの方が早かった。距離はどんどん縮まっていく。
口元に笑みを浮かべ、鋭い殺気を放つ眼光はしっかりと咲夜を見据えていた。
その姿はまるで、獲物を捉えた時の鷹のようだった。
「…!!流石と言うべきか!」
迫りくる恐怖を堪えながら、咲夜は巨大な光弾をフランに向けて飛ばす。
「──ふっ…!」
フランは右手にレーヴァテインを出し、それを光弾に向けて翳しながらそのまま光弾に突っ込んでいった。
ドオオオオオオオオンッ!!
光弾がレーヴァテインに貫かれ、大爆発を起こす。
しかしフランは全くひるむ様子はなく、風を切る音はより大きく、鋭くなっていくばかり。
全く速度を落とすことなく、むしろその速度は上昇していた。
勢いよく爆煙を突っ切っていく。
ザザザザザ
フランが地面に足を踏み込んで勢いを殺す。
あまりのスピードだったので、摩擦熱により足裏から火花が散っていた。
少し勢いが無くなったところで前方に飛躍し、ジェット機の斜め前方に回り込む。
ダンッ!!
その場で飛び上がり、咲夜の目の前に現れる形でジェット機に飛び乗った。
「…!!」
フランは威圧するような目で睨みつけてくる。
その目は、今まで味わったことのない、とてつもない威圧感に満ちていた。
咲夜は、恐怖から少しだけ体を震わせる。
状況を表すのなら、蛇に睨まれた蛙、とでも言うべきだろうか。
「…ふっ、ふふふふ」
だと言うのに、自然と笑いが溢れる。咲夜自身、何故かはわからなかった。
不思議な気分だった。
かつてない危機に陥っているにも関わらず。
自分でもどうしてしまったのかというほど──
「──アハッアハハハハハハッ!!」
──この状況を、心の底から楽しんでいた。
ナイフを左手に持った。
その顔は、狂気に染まっている。
「ふっ!」
フランがレーヴァテインを咲夜に向けて振るう。
咲夜はそれをしゃがんで躱す。
今度は薙ぎ払いで攻撃するが、咲夜はジャンプして避ける。
「ヒヒッ」
狂気的な笑みを浮かべ、宙に浮いたままフランの顔に向けてナイフを振るった。
ガキィンッ
それをレーヴァテインで防ぐ。
咲夜は少し後方に着地すると、ナイフを構え直す。
「フゥゥ…!ヒヒッ!!」
ダンッ
獣の鳴き声のような唸り声をあげ、咲夜が飛びかかってくる。
ガキィンッ!
金属がぶつかり合う音が連続して聞こえる。
凄まじいスピードで紅魔館の大きな廊下を移動していくジェット機の上で、二人は激しい戦闘を繰り広げていた。
咲夜はフランをジェット機から落とそうと必死に。
しかしフランはその場から一歩も動かず、遇らうようにして戦っている。
フランが咲夜の顔に向けてレーヴァテインを振るう。
しかし咲夜はそれを屈んで躱した。
今度は下から切り上げるようにして振るうが、咲夜はまたも素早く身を躱した。
咲夜がナイフを振るって反撃に出る。
フランの左肩に向けて振るうが、左手で防がれる。
次に右側から胴体を狙ったが、レーヴァテインで弾かれてしまう。
「ハッ…!」
「それっ!」
フランがレーヴァテインを顔に向けて振るってくる。
咲夜はすかさずナイフで防御する。すると、フランは少し下方向にずらしてナイフの内側にレーヴァテインを潜り込ませ、そこから素早く切り上げ、さらにナイフに向けて素早くレーヴァテインを振るう。
咲夜は突如与えられた上下からの衝撃によりナイフが手から離れ、弾き飛ばされてしまう。
「ッ…!!」
ドガッ!
「ギャアっ!!」
咲夜が無防備になったところに、左足による蹴りを放った。
咲夜は蹴り飛ばされるが、咄嗟にナイフを取り出してジェット機の甲板にそのナイフを突き刺し勢いを弱めた為、何とか落ちずに済んだ。
「…!?」
フランの方を見ると、レーヴァテインを構えてこちらを睨んでいる。
既にレーヴァテインに魔力を送っているのがわかった。
レーヴァテインが紅く光る。
瞬間、背筋に凄まじい寒気を感じた。
このままでは殺される──あらゆる細胞がそう叫んでいた。
そこで咲夜は、少し冷静さを取り戻す。
「はぁっ!」
超高速で周りをやたら滅多に切り刻む。
フランは、ジェット機を狙っているようだった。
しかし咲夜にはそれは伝わるはずもなく、表情には焦りが見えている。
咲夜は何とかその乱舞を躱していた──正確には、フランが軌道をずらした──が、ジェット機は大爆発を起こし墜落していく。
「くっ!!」(ここにいてはまずい!)
咲夜は咄嗟にジャンプする。
「時よ…」
それと同時に時間停止を発動しようとした、その時。
ドッ!!
「!!」
フランが凄まじいスピードで爆煙の中から飛びかかってくる。
咲夜との距離は一瞬で縮まっていった。
「ぐっ…!!」
今にフランの左手が咲夜の体に届きそうになった、その瞬間だった。
「───止まれ──!!」
「──……ッは…………はぁ…!」
すんでのところで時間が停止し、フランの動きも止まった。
「…あ、危ない…!」
安堵すると同時に、咲夜はフランの表情を見て驚愕する。
(…よもや、ここまでだとは………しかもこの感じだと、全く本気を出していない…!)
笑っている。
それも、楽しそうに。
咲夜は、普段のフランが如何に自制しているかを強く理解した。
「……そりゃあ、あいつも目を付けるわけだ」
咲夜は地面に降り立つと、自身の右手首を少しだけナイフで傷付けた。
地面に垂れた血を足裏に付ける。
そして、屋上へと駆け出した。
「──!」
時間停止が解ける。
フランは、咲夜が目の前から突然姿を消した事に特に驚きもせず、ゆっくりと着地する。
右手に持つレーヴァテインを消した。不要だと判断したのだろう。
辺りを見回してみると、赤い足跡があることに気がついた。それは、上の階の階段にまで続いている。
フランは、一瞬でこれは罠だと判断した。
まず、咲夜には自分からは傷一つつけていないのだから、血が流れているはずもない。
先程放った蹴りも、そこまでの力は入れていないし咲夜の体から出血も確認できなかった。
つまりは、自ら手を出しこの血の足跡を残した、という事になる。
「誘惑が大胆ね。少し惚れてしまいそう」
冗談めかしく言うと同時に、フランは走り始めた。
(本当は深追いはせずに、様子見のつもりだったのだけど)
「ま、せっかくの招待状を破棄するのはもったいないし」
フランの走る速度は、どんどん上がっていく。
「………何だ?これは」
イザベルは図書館の荒れように驚いていた。
巨大な本棚のいくつかは倒れ、本が乱雑に散らばっている。
壁にも亀裂が入っていたり、どこからか煙も上がっている。
まるで、嵐が過ぎ去った後の森のようだった。
「嫌な予感というのに限ってよく当たるな、全く」
真っ先に向かったのはパチュリーがいつもいる机の置いてある大広間。
そこには、パチュリーの使い魔である小悪魔と、傷を負ったパチュリーがいた。
パチュリーはうつ伏せに倒れてしまっている。
その光景を見たイザベルは一瞬、『あいつが犯人か』と思った。
しかし、小悪魔がこちらの存在に気付き、とても不安そうに見つめているのを見て、その考えはすぐに消えた。
「…何かあったのですね」
安心させるために、できるだけ優しめの声色で話しかける。
その声を聞いて安堵したのか、小悪魔の表情は少し明るくなった。
「い、イザベルさん……!よかった、イザベルさんまで様子が変だったらどうしようかと……!」
「大丈夫、私はいつもの私ですよ」
「た、助けてください!パチュリー様が……パチュリー様がっ……!!」
そばに駆け寄り、小悪魔の背中を優しくさする。
「落ち着いて」
「…!」
「大丈夫ですから」
そういうと、イザベルはパチュリーを背中に抱える。
パチュリーはフランとそこまでの体格差はないので、抱える事は造作もない。
「とにかく、パチュリー様を安全な場所へ運びましょう。話はその後に聞きます」
そう言って手を差し伸べる。
「は、はい…!」
小悪魔はその手を掴んで立ち上がる
その時、小悪魔が少し震えているのがわかった。
余程不安だったのだろう。このまま何もできずにパチュリーが死んでしまうのでは、と。
「ありがとうございます……イザベルさんが来てくれてなかったら、私…!やっぱり、役立たずですね…」
「……」
私が来ていなくても、きっとパチュリー様は助かっていましたよ、と言おうとしたが、やめた。
小悪魔は聡明だ。あの後すぐに落ち着きを取り戻していたはずだろう。
しかし、今ここでこの事実を口にしても、小悪魔は慰めのお世辞だと思い、余計に自信を無くしてしまうかもしれない。
「役立たずであっても、不要な存在ではないでしょう」
「…え?」
「そばに居てくれるだけで嬉しい存在がいる。パチュリー様にとって、それが貴女なのでしょう。
それに、私達もパチュリー様も貴女を役立たずなどと思っていないし、貴女のパチュリー様に対する思いも、誰にも負けていません。だから、自分は要らない存在だ、などとは思わないでください」
小悪魔の目が、少し潤んでいる。
右手で目を拭いた後、決意めいた表情でイザベルを見つめ直した。
イザベルはそれを見て、微笑む。
「イザベルさん。パチュリー様は私が必ず助けます。貴女は妹様の援護に行ってください」
「…フラン様?」
フランの名が出たのが予想外だった。
そして、途端に凄まじい悪寒がした。
「簡潔に言うと、何者かがパチュリー様を襲ったんです。私は角度が悪く相手が誰なのかはよく見えませんでしたが……たまたま図書館にいた妹様が助けてくださったので事無きを得ました。……妹様は逃げ出した犯人を追っていきました」
「……なるほど、色々と聞きたい事はありますが、時間の余裕がなさそうですね」
(すれ違ったのか……何故気付かなかった?)
ドオオオオオオオオンッ!!
「!」
「!?」
その時、何かの爆発音が聞こえた。
「ま、まさか妹様が…」
「…パチュリー様を任せます。私はすぐに援護に」
そう言うと同時に走り出す。
後ろからお気を付けて、と小悪魔が言った。
「…深追いは禁物ですよ、フラン様…!」
入り口のドアを開け、フランは屋上へと辿り着いた。
辺りを見回してみるが、咲夜の姿は見当たらない。
「………」
(足跡は屋上の入り口で途絶えていた。
なら、間違いなくここにいる)
先程確認してきたが、何故か窓が固定され、開かなくなっていた。
別に叩き割ってまで窓から出る必要はなかったので試さなかったが、恐らく叩き割ることも不可能だろう。
「でも、待ち合わせしておいて自分が遅刻するなんて、咲夜らしくないね」
「それは申し訳ない」
背後から声が聞こえた。
振り返ると、月をバックに咲夜が宙に浮いていた。
「ようこそおいでなさいました、妹様」
「ご指名ありがと。さ、どんな事がしたい?」
お互い笑みを浮かべ、様子を伺っている。
「そうですねぇ…ではごっこ遊びなどどうでしょう」
「いいよ、何する?鬼ごっこはさっきまでやってたから飽きたでしょう」
「確かに。…では……」
咲夜の目が赤く光る。
「Let's pretend to be slaughter.」
「Great!」
これから漸く色んなキャラが出ます
学園モノにする予定だったのにどんどん関係なくなってきてるのほんとに。
最後の英語、絶対間違ってる気がする…笑
やばいぞ、頭悪いのバレる。




