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東方学園の怪談話  作者: アブナ
学園の日常
52/82

美しい薔薇には棘がある 後

この頃少し忙しくなってきました…笑

また更新ペースは遅くなってしまいそうです。


──初めにったのは、フランにいつまでも付きまとっていた奴だった。

一度告白してきて、フランは断ったのにそいつはいつまでもいつまでも付きまとってきていた。

それもフランに直接話しかけてくることなく、ストーカーのように後をつけてくるのだ。

流石のフランも、その行為は嫌がっていた。

見兼ねた私は、そいつを始末した。ちょうど時期的にも満たされたい気分だったから、そのついでに。

ちなみに、付きまとっていた奴は妖怪だった。私から言わせてみればかなりの不細工だったが、フランは「特徴的な顔」と評していた。

その頃はあの廃校での出来事の少し後だったから、物足りなく思っていた時だった。


次の日から当然、そいつはやってこない。

最初のうちはフランも喜んでいたが、あまりに来なくなったことを心配し始めた。

私は「教師側がその行為の罰として退学処分にでもしたんじゃない?」と言った。

フランは「それならいいんだけど」と言っていたが、やはりまだ心配しているようだった。

あんな奴の心配なんかしなくていいのに。


──ただ、この時から私は歯止めが効かなくなってしまっていたのかもしれない。

一度あの快感を味わってしまったら、もう忘れられない。

学園内であまり目立っていない生徒を、一ヶ月に一人ずつ、殺していった。

どうしても我慢ならない時は、人里近くの森に人間を一人、能力を使って誘い込み、そこで遊んだ。

やはり人間ではすぐに壊れてしまう。しかし、絶叫うたの良さで言えば人間が一番だ。

特に、一瞬で両の足を切り落とした時の、時間差の伴う叫び。あれはなかなか面白い。しかし普通足が切り落とされたら気付くものだと思うのだけど。どうして人間ってあんなに鈍感なんだろうか。

まあ、面白いからいいんだけど。


そうしている内に、学園内で妙な噂が流れ始めた。


『切り裂きジャック』


部活帰りの辺りは完全に暗くなった頃、ナイフを持った黒づくめの少女が現れる。

その少女を目にしたものは、生きて帰ることはできない……だとか。

それ、完全に私のことだ。へえ、そんな噂が流れてたんだ。これは面白いかも。今日一人襲ってわざと生かして返してみよっかな。


それを実行すると、襲ったそいつはこれまで明るかった性格が一変。黒いものを見るとブルブル震え出して、目の焦点も合わなくなって、それはもう無様だった。

ただ今この感情を表情に表してしまうと、勘のいい人にはバレてしまうかもしれないから、あくまでポーカーフェイスで。


そうして、『切り裂きジャック』の噂はどんどん広まっていき、それは人里にまで伝わった。

目撃情報も相次ぎ、とうとう捜索隊まで出来上がった。そんな生意気な連中は、一人ずつ順番に消していきたかったけど、あんまり殺しすぎると学園に影響が出てしまうので、全員生かしてある。

しかし恐怖というものはなかなか乗り越えられないもので、捜索隊なんてものは一ヶ月も持たずに解散した。


私は殺しの手段として、自身の能力を使っていた。

その場所に誘導したり、相手に認識されずに切りまくって姿の見えない恐怖を植え付けたり。

なかなか楽しいものだ。

ただ、最近は一瞬で殺してしまうことが増えた。おそらくだが、コレクション集めを楽しめなくなってきている。

何故かは、大体想像はつく。きっと物足りないのだ。

誰もかれもが同じような反応しかしないから、刺激がなくなってきていたんだ。

けど、それを解消する方法は思い付かない。


仕方がないと、諦めていた。

そんな時、あの子は私を止めに来た。

私だと分かってはいないようだったけど、心の底から驚いた。そして、恐れた。

こんな場面を見られて、その上あの子はその行為を『否定した』。

正体がバレようものなら、確実にあの子は私から離れていく。絶対に正体を悟られてはいけない。


──なのに私は、この姿で再びフランの前に立っていた。

それも今度は、自ら進んで。

どうして私はこんなことをしているのだろう?

わからない。わかるはずがない。

何せ私は、狂っているのだから。

誰も私を理解することなんてできるはずがない。

たとえそれが、自身であっても。








「…驚いた。全部お見通し?」


「まあ、そうですね。大方予想通りでした」


──これはまずい展開だ。

私はフランと戦いたいのに。

まあでも、イザベルもフランではあるか。

スペック的には同じだろう。

…なら、妥協ラインとしては上等か。


「あーあ、やっぱり頭がいいんだねぇ」


…あ、やば。


「…やっぱり、ねえ」


だよねー。やっぱ聞き逃さないよねー…バレるかも……。


「まあ、こちらも予想通りと言うか。切り裂きジャックと聞いて思い当たる者の中に入っていたというか」


「…?」


イザベルが顎に手を当てて一考している。

しかし今の言い振りだと、私の正体がわかっているような……。


「もしかして私の正体、わかってた?」


「いいや、あくまで予想していた人物の一人だったかな。まさか本当にそうだったとは。……貴女も、狂気を持っていたのですね」


表情を変えずにそういうと、イザベルはちらりと左後方の茂みを見た。


「ま、フラン様には私から上手いこと説明しておいてあげましょう。…あの人も、貴女と同じですからね」


「……え?」


──私とフランが、同じ?

そんなはずはない。フランが私と同じなのだと言うのなら、あの場面で否定などしないはずだ。

ましてや、止めになど来るはずがない。

いくら優しいフランと言えど、自分と同じものを持っているというのなら見ず知らずの男を助けるだろうか?

しかし、あのイザベルがそう言うのだから、嘘だと決めつけることはできない。

…フランが私と同じ?本当に?


「フラン様の代わりと言ってはなんですが、私とやりますか?」


「…!」


「姿は同じですからね……少しは満たされるかもしれませんよ」


…それはそうだけど。

どうしてここまで察しがいいのだろうか。この人は。

私が何故フランと戦いたかったのかすら当ててくるなんて思わなかった。

もはや悟り妖怪並みだ。

先の言葉も気になるが、一先ずはイザベルの提案に乗ってみようと思った。


「…わかってる?本気の殺し合いだよ」


「ええ、わかってますとも。…貴女としては、やりやすいのでは?私に密かに嫉妬していらっしゃるのだから」


───こいつ。

なるほど、どうやら本当に私が誰なのかわかっているらしい。

今の言葉はなかなかいい煽りだと思った。

やはり、私はこいつのことが嫌いだ。いいや、正確には、疎ましかったのだろう。

あの子に一番に頼りにされ、しかもいつもそばに居られる。その上、あの子が満面の…心の底からの笑顔を向けているのは、私が知る中では、レミリア、伸介、イザベルの三人だけ。…あと、あの門番にも向けていたのを見たことはあるかも。

しかし私は、紅魔館の住人達は皆向けられているのかと、思っていた。

だがそれは違う。何故なら、パチュリーに対してその笑顔を向けていたのを見たことはないし、咲夜に対しては、何処か気を使っているところがある。

小悪魔と呼ばれていたパチュリーの使い魔にも、同じように接している。


真に心を許せる相手にだけ、あの笑顔を浮かべているのだ。


「…ほんとに何もかもお見通しだね」


少し感情的に言ってしまった。どうやら私は本格的に腹が立っているらしい。


「……」


イザベルは、"あの時"と同じ不敵な笑みを浮かべた。

ああ、完全に誘っている。私の本性を、本来の姿を見ようとしている"あの眼"。

"あの眼"……"あの眼だ"……!






『貴女は本当に、ハッピーエンドを望んでいるの?』






「殺す!!」


──感情をむき出しにしてイザベルに向かっていく。

イザベルは、ポケットに入れていた左手をゆっくりと出して、身構えるわけでもなく、私を見つめている。

そのことが余計に腹立たしかった。


私はナイフをがむしゃらに振るう。

イザベルは遇らうようにそれを全て受け流している。

何故、こんなにも当たらない?この人には何が見えている?

私の何が……



──いいや。

見えているわけがない。

何故なら、私にさえわからない自分の奥底を

あいつが見えているわけがないのだから。

今私の攻撃が避けられているのは単に、私が冷静さを欠いているからだ。

そうだ、あいつに私の何がわかると言うんだ。

今にその整った顔を焦りの色に染めてやろう。

フランの怯えた顔はきっと可愛いんだろうなぁ。

ああ、楽しみだ。楽しみで楽しみで仕方がない。

ほら早く。早く私に見せてよ。見せてったら。

見せろ、見せろ、見せろ見せろ見せろ見せろ見せろ見せろ見せろ見せろ見せろ見せろ






「ふん」


必死に攻撃を続けているこいしを見てイザベルは、哀れに思った。

自身に住み着く悪魔に身を蝕まれ、もがき苦しみ、必死に足掻いている。

これを哀しまずにいられようものか。

もはやこいしの目に写っているのはイザベルではない。

──もしくは、何も見えていない。


「何と無様な姿か。今の貴女には、きっと私の言葉も届かないのでしょうね」


(やれやれ、よもやここまでだとは思わなかったがな)


こいしの攻撃を軽く遇らいながら、イザベルは自分とこいしを覆うように魔法陣を展開していく。

十分に展開されたところで、ナイフを振るってきていたこいしの右腕を掴んで止めた。

しかしイザベルは隻腕。もう一方のこいしの腕が飛んでくる。


「ふん」


ガッと鈍い音が鳴る。

こいしの左腕による攻撃は、イザベルの魔法陣を捉えていた。


「なっ…!!」


「物理干渉のできる魔法陣は初めてだったかな?」


直後、イザベルは右足の膝でこいしを思い切り蹴った。


「ぐおぉっ…!」


「あーあー、はしたない声だこと」


こいしは腹部を抑えて蹲る。

その隙にイザベルはその場から後退し、左手を挙げる。


「そら、プレゼントですよ。ありがたく受け取りなさい」


イザベルが左手を振り下ろす。

すると、こいしの周りの魔法陣から光弾が発射される。

大量の光弾は、全てこいしに直撃した。


ドオオオオオオオオンッ!!


凄まじい爆発が起こる。


「…その隠れ蓑を剥がしてあげましょう。貴女には、現実と向き合うことを知ってもらわなくてはいけませんからね」


周りの魔法陣はまだ展開したままだ。

もしまだあの黒い衣が全て剥がれていなかったら、追撃を加えるつもりである。

徐々に煙が晴れていく。


しかし、そこには既にこいしの姿はなかった。


「…逃げられたか?」





直後。

背後から気配を感じたイザベルは、振り返ることなく魔法陣を背中に展開し、瞬時にその場から離れる。

その判断が功を奏し、こいしの奇襲を逃れることができた。


「…なるほど。


弾幕を放とうとしていたのか。考えましたね」


(反撃するか振り返るか、そう読んでいたのだろう。冷静に対処してよかった。


もしあのままあの場に残っていたなら、一気に追い詰められていたかもな)


「よくその判断ができたね。正直予想外だった」


「まあ、正直運が良かっただけです。単に避けようと思っただけ。そこまで深読みはしていませんでしたから」


「あっそ。まあとにかく、ここからが本番だ、覚悟しなよ」


こいしがまた攻撃に移ろうとした。

しかし──。


「いいのですか?フラン様」


イザベルの声でこいしはその場に固まる。

考えてみれば、当然だった。イザベルがここにいたのなら、他の二人ももちろん近くにいるなんてことはわかりきっていたはずだ。


「このまま続けるより、貴女は話がしたいでしょう」







「…フラン…」


──イザベルが視線を向けている茂みの方から、あの子が現れた。

その表情は、酷く悲しげだった。


黒いローブは既に、完全に剥がされていた。

つまり、私の姿が完全に見えているのだ。


「…ははっ」


私は、この状況に絶望した。

つい、笑いが溢れてしまう。


「やっほーフラン。こんなところで何してるの?」


少しやけになっているかもしれない。

フランはその問いに答えない。

ただただ悲しげに、こちらを見つめてばかりいる。


「そういえば昨日もこの辺にいたよねー、ほら、あのお兄さん助けてたよね」


何を言っても、やはり同じように見つめてくる。


「あの時はびっくりしたんだよ?まさかフランが来るなんて思わなかったからさ」


ただただ、ずっと。


「おかげであのお兄さんに逃げられちゃったし、私も怪我しちゃった。本当さすがだね、あんなに素早く動けるなんて思わなかった」


ずっと、ずっと。


「ねえ、フラン?貴女の目には私はどう見えた?その目にはどういう風に映った?そのじっと見つめてくる鬱陶しい目で何が見えた?私の何が見えた?


答えてよ。理解者なかまに囲まれた貴女にとって狂人わたしは、どんな存在ふうに見えるの?」



それでもまだ、何も答えない。

じっと私を見つめ続けている。



──ああ…やっぱり、貴女も私を否定するんだね。


わかりきっていたことだ。フランは本当に、心の優しい人物なのだ。こんな行為を肯定してくれるはずがない。

まして、私とフランが同じだなどと、そんなはずがない。やはりイザベルの言っていたことは嘘だ。



──だったら何だって言うんだ。あいつに否定されたから何だと言うんだ?あいつが私の全てなのか?あいつが世界の全てなのか?

違う。断じて違う。結局のところ、私を理解できる奴なんて"私"以外誰もいない。

そうでしょう?私?


目を覚ませ。私は誰にも理解されない。味方なんて誰もいない。

思い出せ。

私は一人だ。一人ぼっちだ。

昔からそうだったじゃないか。

何を悲しむことがある?

さあ、帰ろう。楽しかったあの毎日に。

誰にも囚われることなく遊び続けたあの頃に!




殺せ




「…ふっ…ふふふっ」




さあ、殺せ!




「フ、ふふフふフフフふ…」




あの邪魔者を殺してしまえ!!




「あはッははハ、ははハはははハハァ!!」





「──大丈夫だよ」



──え?



「だって貴女はもう、一人じゃないんだから」





「…あっ……」


フランが、抱きついてきた。

私の頬には、涙が伝っている。


いつから、泣いていたのだろう?

今泣き始めた?いいや、それならすぐには伝ってこない。

じゃあ、もっと前からだ。

なら一体、いつ?


「正直、私は貴女のことを全て理解できてたわけじゃなかった。けど、今はもう違う。


同じだったんだね。私たち」


…同じ?今度はフランの口からその言葉がでてきた。

そんなバカな。だって私は、こんなにも狂っている。

そんな奴がこんなにも優しいフランと同じなわけがない。


「同じだよ。私たちは、仲間だよ」


── ありえない。ありえないありえないありえない。

そんなわけがない。

私は一人だ。誰にも理解などされるはずがない。

だってそうでしょう?今までがそうだった。

あの、お姉ちゃんですらそうだった。

だと言うのに、こんな一人の小娘に何がわかるって言うんだ?

そうでしょう?私?理解者などいなくても、私は生きていけるはず。


今がチャンスだ。抱きついている邪魔者こいつを殺せ。吸血鬼でも頭を破壊されればしばらく動けない。

さあ、殺せ。殺してしまえ!



──でも、もし。もし本当に、一緒だって言うのなら……

この苦しみを、知ってくれていると言うのなら……


「辛かったら私が一緒にいてあげる。苦しかったら私が治してあげる。

楽しかったら私も一緒に笑ってあげる。嬉しかったら私も一緒に喜んであげる。

これから、一緒に頑張ろう?


私たちは、友達だから」




この笑顔を、信じていいのなら。




「──ねえ、フラン」


「なあに?」


「誰かがね、私に言ってくるの」


「うん」


「私は誰にも理解されない。一人だ。だから自分の邪魔をする奴は殺せ、って」


「うん」


「狂ってるよね?人の死体をコレクションにしたり、人を殺すのが楽しかったり、誰かの声が聞こえるなんて」


泣きながら言ってしまった。

嗚咽混じりのその言葉を、フランはしっかりと、一語一句間違わずに聞き取ってくれていた。


「うん。きっと、普通ではないと思う」


──ほら見ろ。やはり私は理解されないのだ。

もしかすると、なんて期待でもしていたのか?あるはずがないだろう。私は一人なのだから。

目を覚ませ!思い出せ!!

私は誰にも理解されない。一人なのだと!

一人で生きるのが正しいのだと!


「うるさい!!」


──そう言ったのはなんと、フランだった。


「誰にも理解されない?一人で生きるのが正しい?そんなものは何もかもが思い込み。

世界のどこかに、同じように悩みを抱えた人がいる。そもそも、理解されようとする努力もせずに最初から諦めてるような奴が、誰かに理解されるはずがない」


──一つ一つの言葉が、深く突き刺さった。

そうだ。確かにその通りだった。私は誰かに理解してもらおうと考えたことがなかった。

何故なら、一番の理解者だったお姉ちゃんに、否定されたから。

ならば、誰かに理解してもらうなど最初から無理な話なのだと思っていた。

だから、諦めた。


間違っていたとでも言うのか?私が?


…………。




──ここで認められなければきっと、私は本当に狂っていたのだろう。

けれど、私の中の誰かの囁きは今、完全に途切れた。

きっともう、聞こえてくることもない。


「ねえ、フラン。貴女は、どんな風に狂っていたの?きっともう、貴女は狂っていない。私と同じっていうのは、『同じだった』、ってことなんでしょ?」


フランは私から離れた。きっと、"理解"してくれたのだろう。


「…うん。私もそうだった。貴女と、同じだったよ。苦しいよね、自分ではわかっていてもどうしようもない、あの感覚」


やっぱり、そうだったんだ。

本当に、一緒だったんだ。

フランは私を、理解してくれていたんだ。


「最初から、隠す必要なんて、なかったんだね」


「…うん」


「そっか……そっ、かぁ……ふふっ…うっ…」


何で私がまた、この姿でフランの前に出てきたのか…わかった気がする。

きっと私は、知ってもらいたかったんだ。自分の全てを、フランに。

もしかしたら、自分の中にいる誰かを助けてくれるんじゃないか。フランなら、私を理解してくれるんじゃないかって、期待してたんだ。

一気に安心したせいか、少し涙が出てきた。


──ああ、もしかすると……お姉ちゃんも私に気付いてたのかな。

昨日、帰りが遅くても…何も聞いてこなかったもんね。

いつもなら食堂で待っているのに、その日は部屋にご飯が置いてあるのも、そういうことなのかな。

ああ、だとしたら。

全部、全部私の勘違い、ってことか。


「…ああ、なんだ。全部私の独りよがりか」


「…こいし、あんまり自分を責めないでね。そりゃあ何人もの命を奪ったのは悪いことだけど…でも、まだ…」


「いいよ、フラン。その罪意識は私が一番持ってるから。フランならきっとわかるでしょ?」


その言葉を聞いて、ちらりとイザベルの方を見るフラン。

先程までのやり取りを何をいうのでもなくじっと見つめてくれていたイザベルは、その視線に気付くと微笑みを返した。


「…そうだね。わかった、この話はもうおしまいにしよう。…貴女の中の誰かも、もう満足したみたいだしね」


「うん、きっと。もう二度と会えないと思うけど、これまで私を支えてくれた人だから……お礼が言いたかったかな」


「なんだかんだ言って、あの人たちは心の支えになってくれていたからね。お礼なら、これからしていけばいいよ。私達が幸せに暮らせていたら、きっとあの人たちも嬉しいんじゃない?」


「ふふっ、そうかもね。


ありがとう、フラン、イザベル。おかげで私、目が覚めた気がする」


笑顔でそういうと、イザベルが森の外の方は歩き始めた。


「さあ、帰りましょうか。もうここに用はないでしょう」


「うん、そうだね。文お姉ちゃーん!帰るよー!」


フランが大きな声で呼びかけると、フランが出てきた茂みから射命丸さんが出てきた。

ずっとそこに隠れてたのか……。


「記事にしようと思っておりましたが…思ったより重い話だったのでやめておきます…」


苦笑いでそう言いながら駆け寄ってくる。


「ははっ、確かに。でもこれで『切り裂きジャック』は解決だね。あとは『ポルターガイスト』だけだよ」


「そうですね…そちらの怪談話に期待することにしましょう!何はともあれ、平和に終わって良かった良かった!」


「おや?少し目が泳いでらっしゃいますね、射命丸さん。もしやバッドエンドを望んでいたのでは?」


「そ、そんなバカな!私がそんなことを望むわけないじゃあないですか!やめてくださいよイザベルさん!」


また、みんながいつものようにふざけ始めた。

私は、この日常が大好きだ。

そしてこれからは、もっともっと好きになる。

…今の私があるのは、貴女のおかげかもしれない。

ありがとう、私の中に居た誰か。


「あぁ…なんだかお腹すいてきちゃった。ねえフラン、イザベル。このまま紅魔館寄っていっていい?咲夜とイザベルでなんか振舞ってよ」


「急に図々しくなるのですねえ、貴女は。…ま、いいでしょう。何かお望みのメニューでもあればお聞きしますが?」


「じゃあ、私オムライス!」


「じゃあ私ハンバーグで!」


「…私も頂いていっても?」


「ええ、もちろん」


「では、イザベルさんが一番得意な料理でお願いいたします!」


「オーダー、了解です」


──どうか安心して。

これからは私に任せてよ。








「さて、材料はあったかな…」


イザベルは今、食材の有無についてを思い出している最中である。

フラン、こいし、文の少し後ろからついてきている。


「…うん、多分あるな。このまま買い出しコースではなさそうだ」


と、その時。



─────。



「…?」


………。


(…今、そこの茂みに誰かいたような?)


「イザベル?どうかしたの?」


いつのまにか近くまで来ていたフランの呼びかけで、自分が足を止めていたことに気がついた。


「おっと…いえ、何でもありませんよ。食材が足りているかどうかを計算していただけです」


「そう?それならいいけど……それより、今日はありがとね。こいしを助けられたのはイザベルのおかげだよ」


「それはどうも…私はそうは思いませんがね。貴女なら私がいなくともこいしは助けられたでしょう」


「うぅん、イザベルのおかげだよ。私、切り裂きジャックの正体がこいしだなんて微塵も考えてなかったもの。あの時、森に行くまでの道中で、事前にイザベルが可能性があるって言ってくれてなかったら、少し呆然としてたと思う」


「…そうですか。お役に立てたのなら、良かった」


「うん。だから、きちんとお礼を言わせて。


ありがとう、イザベル」


フランは満面の笑顔でそう言う。

それを見てイザベルも、笑顔で言葉を返す。


「礼には及びません、我が主人よ」





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