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東方学園の怪談話  作者: アブナ
学園の日常
51/82

美しい薔薇には棘がある 中




思わぬ邪魔が入ったけれど、あの後誰にも見つからないように一つコレクションを作れたから良しとしよう。

…しかし、もう一つ試したいと思った事がある。

あの時のあの子の目……本気というか、今まで向けられた事のない、敵と認識された目。

ああ、堪らない。あの目、あの殺気、あの力。

前々から、あの子とは一度本気で遊んでみたいと思っていた。

これはある意味、チャンスかもしれない。

問題として、本気で遊ぶとしたら、自分の正体を悟られてはいけないという事だ。

それはなかなかに難しい。いくらあの黒いローブだって、戦闘となれば風で靡くし攻撃で破けてしまう。

察しのいいあの子なら、私の髪の毛一つでも見えたなら気付いてしまうだろう。


「…今思えば、どうしてあの子には能力が通じないんだろうね」


それさえ無ければ、思う存分楽しめたのだろうけど。

…いや……何とかなるかもしれない。

彼女に頼んでみるとしよう。








翌日。


「フラン様」


目を開けると、目の前に凛々しい顔をした自分がいる。

なんかこうして見ると、この表情の私ちょっとイケメン…?って何を考えてんの私は。

というか、これがデフォルトの表情だもんね、イザベル。

一部の妖精メイドからイザベルがモテてるらしいけど、何となくわかる気がする。

伸介も前からモテてるけどその話はいいや。


「ん〜…」


けど私まだ眠いのよね。もうちょっとだけ寝かせて?お願い。


「フラン様、起きてください。この時間に起こすように言ったのは貴女でしょう?」


「う〜ん……あと五分…」


「人間の中学生のような言い分を貴女から聞けるとは…ボイスレコーダー持って来れば良かった」


「ほんとイザベルって私のこと好きよね……起こしてくれてありがと……」


「貴女のことはこの上なく大好きですよ。おはようございます。それじゃあ、お茶と朝食でもお持ちしましょうか」


「お願いします…ふぁ〜…」


イザベルがドアを開けて出ていった。

言動は若干ふざけているが、普段の口調や振る舞いは瀟洒そのもの。

それに加えて、最近のイザベルは妙に優しい。

いや、別にこれは怪しいとかそんな風に思ってるんじゃなく。

ほんとに優しいからびっくりしてるってだけ。

イタズラ好きなのは相変わらずだけど。


話によると妖精メイド達からたまにプレゼントとか貰うらしいんだけど、その貰ったプレゼントのお返しを夜な夜な考えてたり、妖精メイドが何かしらのミスをしたら、それのフォローを全部していたり。

昔のイザベルはこんな感じだったっけ…?

あっ、よく考えたら私、イザベルとは遊んでばっかりだったからわかんないや。


まあそれはそれとして。

今日はたまたま学校が休みだったから、気になっていた昨日の森の黒い服の少女を探しそうと思い、今はそれの支度中。


「…しかしイザベル、気配りもしっかりしてるし、何だか咲夜がもう一人いるみたい……」


優秀なメイドっていうのは凄いんだなぁ。

その時、コンコン、とドアをノックされる。


「はーい」


ドアが開き、イザベルがティーセットとお菓子を乗せたワゴンを押しながら入ってきた。


「失礼します。…っと、お出掛けですか?」


「用意するのはやっ」


「咲夜がもう用意していたので。それを私が運んできただけですよ」


「ああ、そういうこと。…ところでさ、イザベル。その体で片手なのに料理とかできるの?」


「まあ、魔法とか使ってますからね。咲夜に比べたら少しばかりスピードは遅いですが、そこまでの見劣りはしませんよ」


「ふ〜ん…」


すると、イザベルが何かを思い付いたように口を開けた。


「もし良ければ私も付いていっても?」


「えっ、メイドの仕事は大丈夫なの?」


「咲夜に頼めば、まあやってくれるでしょう。それより、おそらくですけど今日のお出かけ先は少し危険なのでしょう?」


そう言われて、思わず目を見開く。


「あと、昨日少し帰りが遅かったのにも関係がありますよね」


……本当に凄いな。

何でわかったんだろうか。


「何でわかったの?」


「フラン様が行き先を言わずに出掛ける時なんて大体そんなことです。誰にも後を追って欲しくないからなのと、自分で解決できる自信がある場合は、ですけどね」


「…さっすがぁ…」


正直そこまでわかってくれているとは思わなかった。

……素直に、嬉しい。


「まあ、迷惑だと言うのならやめておきますが」


「うぅん、ありがとう。是非ともよろしくお願いします」


「…かしこまりました」


イザベルは微笑んでそう言った。

なんだか安心するな、この笑顔。

昔の私達に戻ったみたいで嬉しいや。


「話は聞かせてもらいましたよ」


その時、窓の方から声が聞こえてくる。


「…文お姉ちゃん、何でいるの?」


声の主は、射命丸文。

妖怪の山の烏天狗である。

と同時に、新聞記者だ。東方学園にも通っている。


話によると、「学校内で起こっていることをまとめて記事にしたら売れるのでは?」と思ったらしい。

その後の売り上げについては知らない。

と、それはさておき、何でここにいるのかなんて、大体想像はつく。


おそらく、面白そうだからだろう。


「面白そうなことが起こっているところにはいつでもどこでも参上しますよ」


ほらね。

親指を立てて自慢気にそう言った彼女は、何でも『幻想郷最速』のスピードの持ち主なんだとか。

それ故に、幻想郷中の色んなところを見て回れるのだろう。

にしても、タイミングが良いような気がする。


「文お姉ちゃん、もしかして昨日の一部始終見てた?」


そう言うと文お姉ちゃんは体をビクッと震わせた。


「…見てたんだね?」


「もしよかったらついていっても?」


「話を逸らそうとしないの。いやまあ逸らしきれてないけど」


「まあ、彼女が付いてきてくれるのはこちらとしても心強いでしょう。私は賛成ですよ」


と、イザベルが苦笑しながら言う。


「うん、私としてもそのつもりだった。一緒に行こう、文お姉ちゃん」


「そうこなくちゃ!」


嬉しそうに背中の翼をはためかせる。

…そういえば窓の鍵、閉めてなかったっけ?どうやって入ったんだろ。まあいいか。


「でも文お姉ちゃん、見てたんならあの黒づくめの子の正体もわかるんじゃないの?」


「いえ、流石にあの距離でしたので。もう少し積極的に探りに行けば良かったかもしれませんねぇ…」


「そっか……まあ、もう一度あの辺に行ってみれば何かわかるかもしれないし、とりあえず行ってみようよ」


「そうですね!…えーと、イザベルさん、でしたよね?よろしくお願いします」


文お姉ちゃんがイザベルに握手を求めている。

文お姉ちゃんが初対面の人に対してこの態度を取る時は大体、その人に興味があり、記事にしたいと思ってる時だ。


「ええ、よろしくお願いします」


イザベルは快く握手を返す。

二人って学園で会ったことないんだな。イザベルは結構広い範囲で掃除とかしてるのに。


「二人って初めて会うんだね」


「いえ、以前から何度かお見かけしていましたけど、話しかける機会がなかったと申しますか」


「ふ〜ん…」


「ほら、イザベルさん結構学園内でも人気じゃないですか?フランさんも知ってると思うんですけど」


「…そうなの?」


私としてはそれは初耳だ。イザベルの方を見て聞いてみる。


「ええまあ、少しは」


「少しはなんてまたまた〜。毎日見かけたらたくさんの方々に話しかけられているじゃありませんか!男女問わず、人妖様々な人々に声を掛けられ、その度に瀟洒に対応していく場面を見ていると、人気の理由が分かりますよ〜」


「へぇ〜…知らなかったな。やっぱモテモテじゃんか」


「ふふっ、フラン様の姿と同じだからでしょうね。フラン様も物凄いモテモテですから」


「えっ…そこで私が出てくるの?イザベルが人気なのは態度からだと思ってたんだけど…」


「ま、何にせよ早く向かいましょう。咲夜に任せきりというのも申し訳ないので」


「あ、うん。そうだね」


「と、その前に」


文お姉ちゃんが人差し指を立ててそう言う。


「…どうかしたの?」


「お二人は、学園内で噂になっている怪談話をご存知ですか?」


「そんなのあるの?知らなかった」


こちらも初耳だ。いつそんな噂が流れたのだろう?


「まあ、一つはフランさんはご自分で体験されたと思うんですけど」


「え?」


「ざっくり言うとですね…」


"月に一度、学園内で誰か一人が消される"


"誰もいない食料庫から物音が聞こえる"


"切り裂きジャック"


「…の、三つですかね」


「ふ〜ん…私が体験したって言うのは消されるって奴かな?」


「それです。俗に言う『神隠し』ってヤツですかね?先月はフランさんだけじゃなかったんですけどね」


「そうだね。こいしやお姉様、伸介や妹紅先生も。

…とは言っても、私とこいしはただ二人で家出してただけなんだけどさ。お姉様と伸介はそれを探してただけ。ってことは、妹紅先生が先月の被害者だったんじゃない?」


「なるほど、そういうことでしたか。…しかし、妹紅さんは無事に帰ってきましたしね。それに先々月消されたと思われていた、大妖精さんとチルノさんも無事でしたし。


それに、今月ももう下旬。未だに神隠しは起きていないところを見ると、神隠しはもう終わったのでしょうかね…?」


「…まあ、多分だけどそうなんじゃない?原因である何かが消滅しちゃったとか、そんなところだと思うよ」


おそらくあの廃校が原因だったんだろう。

…今となってはもう、懐かしい話だ。

あの廃校での経験は、今でも私の中で活かされてる。

こうしてイザベルとまた過ごしていられるのも、ギルガメスが危機を教えてくれたおかげだ。


「うーん、まあ実際止まっているし、そういうことなんでしょう。それに、この話をしたくて話題を振ったわけではないですし。

残り二つ、定番の『ポルターガイスト』と、この中でも一番異質な『切り裂きジャック』の二つなんですが……フランさん。


この切り裂きジャック、学園内だけでの噂ではないみたいですよ」











あの子も頭は回るタイプ、そう簡単にはいかないだろうと思っていたけれど。

やはり信頼の力というのは素晴らしい。

少し頼んだだけで簡単にやってくれた。

しかし聞くところによると、効力は薄いらしい。

既に認知されていると駄目なんだとか。

しかし、正直そんなことはどうでもいい。

流れでどうにかなるだろう。

そんな事よりも、あの子と全力で遊ぶことの方が大切だ。

噂をすればほら、あの子が森の近くまでやってきた。

他にも二人、誰か連れているけれど……。


…あれは、イザベルと射命丸さんだ。

困ったな、このままじゃ三人で私を狙ってくることになる。

どうしたものか……。

……いいことを思い付いた。





人里近くの森。


「森についたね。……ねえ、イザベル。貴女は感知できる?」


イザベルは目を瞑って首を横に振る。

何を思ったのか、右目だけ開けて、森の奥の方を見つめている。


「フラン様もお気付きだと思いますが、ジャミングが掛かっています。魔法やそれに似た類のものは使えないと思った方がいいかと」


「…やっぱりそうだよね。まるで私達が来るのがわかってたみたい」


「おそらく向こうも予想はしていたんでしょうね。…しかしこの時間帯にもいるとなると、やはりこの森に住処があると考えて良さそうですね」


現在は夜の9時。

日は完全に落ち、吸血鬼である私達にとって活動しやすい環境となっている。


「私が森の中を見てきましょうか?ただ、ざっとしか見られませんけど」


「いいよ、ありがとう。三人でゆっくり探そうよ」


文お姉ちゃんはおそらく超スピードを活かして森の中全体を見るつもりなのだろうけど、相手が何か罠でも仕掛けてたら危ないし、単独行動は避けたいと思った。


「…今、物陰から何かが去って行きましたよ」


イザベルが笑みを浮かべながらそう言った。

その言葉により、私も何かに気がつく。


「ほんと!?」


「ええ……ただ一つだけじゃなかったのが怪しいところです。三つほど影が見えました。一つはここから真正面、残る二つは左右へ別れました。おそらく二つは囮でしょう。私達三人を分断するつもりのようですね」


冷静に分析するところも流石だ。

味方になると結構頼りになる。


「で、どうします?フラン様は単独行動は避けたいと思われていたようですが」


「…ほんと、何でもお見通しだね。ちょっと怖いくらい」


「まあ、貴女専属の従者ですから」


「フランさん、やはりここは別れておった方がいいですよ。三人で一つずつ探したところで、時間の無駄でしょうし……相手の策に乗ってしまうのは不本意ですが、その方が効率はいいです」


「…そうだね、そうしよう。本体は見つけ次第何かしらの技を出して場所を知らせて!私は正面に行ったっていう影を追うよ」


「でしたら、ここから真正面に進んでください。私は右側へ向かいます。射命丸さんは、ここから左側の茂みの方へ」


「了解しました!では皆さん、また後で会いましょう!」






作戦大成功。フランは正面の()()を追っていったね。

三つの大きめの黒い弾幕を三方向に放って、私は木の上で待機。

まさかここまで上手くいくとは。頭が良いほどこういう単純な罠には引っかかっちゃうのかな?

イザベルさえも出し抜けたのは結構自信がつく。

射命丸さんは思ったより間抜けなのかな?

フランはまあイザベルを信頼してるからその判断を信じたんだろうな。

さて、それはさておき。私もこれからフランのところに向かおう。先回りしないといけないから急いで行かないとね。

猛ダッシュですぐに追い抜いて───


「まあ、そんなところだろうとは思っていたが」


──ん?

今、声が聞こえた?

フランの声だったけど、少しトーンは低めだ。

ってことはイザベル?


「フラン様が向かった方に行こうとしていたということは、貴女はフラン様狙いだと言うことですね」


ズバンッ!!


「!?」


その時、私が立っていた木の幹が切り落とされる。

咄嗟に幹から飛び上がって、地面へと衝突を回避した。


着地し、正面を見ると、そこには──。




「ごきげんよう、切り裂きジャック」




不敵な笑みを浮かべた、イザベルが立っていた。








黒い服の少女が姿を現した。

だが心なしか、少しボヤけているように見えるような…?


「フランさん、イザベルさんに任せてよかったんですか?」


今私達は、イザベル達がいる場所から少し離れた茂みに隠れている。

これは文お姉ちゃんが提案した作戦である。

わざと分かれるふりをして、隠れている相手を燻り出す。

ただイザベルだけは、最初から敵の位置を把握していたようだ。

笑みを浮かべたのはそういうことだろう。

あの右目だけ開けて森の方を見ていたのは、敵の位置を確認していたのだろうか?何にせよ流石だと思った。

ちなみに文お姉ちゃんがどうやって私達に作戦を伝えたかというと、普段持っているメモ帳のようなものにそれを書いていたのだ。


「大丈夫だよ。それに位置把握してたのイザベルだけだったし」


「それはまあ、そうですけどね」


「そう心配しなくて大丈夫だって。イザベルはすっごい強いからね、まあ安心して見ててよ」




ようやくタイトルっぽい話になってまいりました。

自分の小説ってどうしてこう、タイトルから脱線していくのかね…?

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