一年C組
お久しぶりの更新です。
にも関わらず大した内容でもなくてすまない……
一年C組。
それは、周りとは違う、言い方を悪くすれば、集団行動には向かない者達が集められた、いわば"異端の場所"。
気性の荒い妖怪達や、絶対的な力を持つ鬼、妖怪を毛嫌いしている人間、などなど、とにかく様々な理由で集団行動は無理だと判断された者達が集められる場所である。
私、伊吹萃香はこのクラスの一員。
ここの連中はとにかく気性が荒いのが多い。喧嘩を売られることもままあったし、口には出してこなかったが睨んで威嚇してきてる奴もいた。
そんなクラスのおかげで、毎日退屈せず面白おかしく過ごしている。
「──こんにちは、みんな。さ、席について」
そう言ってC組の教室に入ってきたのは、八意永琳。
このクラスの担任である。
何故こんな仕事を請け負ったのか、本人に直接訪ねてみたことがある。
『面白そうだから』の一言で終わった。
これで強さは幻想郷でも一、二を争うほどという。月人とは大体こんなものなのだろうか?
それはさておき。
このクラスの連中も、永琳には何があっても勝てないことをよく理解しているので、言うことには素直に従っている。
本人としては、恐怖による支配も嫌いではないらしい。ただ、できるなら仲良くしたいそうだ。
だから、気さくに話しかけてくれた私のことを随分気に入っている。
「今日もいつも通り四時間目までの授業よ。いつも言うことだけど、先生を攻撃しないようにね?」
「したところで大した傷にもなりゃあしないだろうに」
一人の男が冷たくそう言い放った。
あの澄ました男は人間だ。
名は、神崎直斗。あれでも一応妖怪ハンターとやらをやっているらしい。
年齢は十八歳。
見た目は整った顔立ちに茶髪のストレートの髪、身長は高くも低くもなく、その中間といった感じ。至って普通の人間の見た目である。
が、服装は普通ではない。白地の浴衣の下に灰色のズボンを履いている。
何とも独特なセンスだ。初めはその服装の奇抜さに笑ってしまった。
本人は服装など全く気にしていないようだが。
日によって浴衣やその帯、ズボンの色が変わっているので、朝に神崎の服装を見るのはこのクラスの楽しみの一つとなっている。
その神崎の一言に、永琳は少し顔をしかめる。
「そうかもしれないけど、攻撃された先生は痛いじゃない?それに攻撃されて嬉しい人なんていないでしょう?」
「…ふん」
「まあ、最近みんなは随分お利口になったから心配ないと思うけど」
笑顔でそう言う。
ああ、こういうのを恐怖による支配、と言うのだろう。
……まあ、私が本気でやれば勝てると思うんだけど。
「それじゃ、今日も一日頑張ろう!私これからちょっと作りたい薬あるからこれで!」
そう言って、足早に教室を出ていく。
朝のホームルームは大体こんな感じだ。
その後はみな、それぞれのグループに分かれて話しはじめる。
「よう、萃香!今日もいつも通り眠そうだな」
「ん〜?あーそうねー、凄い眠いわ」
話しかけてきたのは、星熊勇儀。私と同じ"鬼"という種族の女。
学校が始まる前から元々面識があったので、同じクラスに…というか学園にいたのを見た時は心底驚いた。
てっきり勇儀はこういうのには参加しないと思っていた。
何故なら私がそうだった。私がここにいるのは霊夢の勧めがあったからである。
それが無ければいつも通り神社でのんびり酒を呑んでいるものを……。
「ははっ、また酒が飲めなくて憂鬱になっているのか。どーせほんの少しの時間だろ?」
「私は酒がないと死んでしまう自信があるほどの酒好きだぞぉ〜!?こんなの耐えられるわけがない!」
酒がない生活なんて耐えられるか!
好きなだけ酒を飲んで酔っていたい!
素面なんて何年ぶりだろうか?
こんなにつまらないとは思いもしなかった。酒って偉大。
「ははっ、まあ気持ちはわかるけど。で、どうなったんだ。あのグループと揉めてたろ?」
「別に揉めてたわけじゃ。向こうが喧嘩売ってきたんだよ」
「売られた喧嘩は買うしかない、か。まあそうだよな。私もそう思うけど、相手大勢いたろ?」
「何人いようがあんな奴らに負けやしないよ。むしろそれぐらいの方が張り合いがあっていい」
「相変わらずだな、ほんとに。手伝ってやろうかと思ったけど、余計なお世話だったか」
少し申し訳なさげにそう言う勇儀。
珍しくしおらしいその姿を見て、違和感を感じる。
「別にそういうわけじゃ。というか勇儀、何を落ち込んでんのさ?話してみなよ」
そう言われると、勇儀は鳩が豆鉄砲を食ったような表情をする。どうやら私の勘は的中したらしい。
やや間を開けて、勇儀が聞いてきた。
「…驚いたな、どうしてわかった?」
「珍しくしおらしいなと思って」
「あちゃー…態度に出てたか。柄にもない」
照れ臭そうに頭を掻く。
にしても本当に珍しい。勇儀が落ち込むなんて久しぶりに見たような気がする。
「で、どうしたの」
「いやー大したことじゃないんだけどさ?私と仲のいい妖怪がいるんだけど、そいつとちょっと揉めてなぁ」
おそらく仲のいい妖怪というのは、あの地底の橋姫のことだろう。
名は確か、水橋パルスィとか言ったっけ。
勇儀があまりに豪快かつ大胆なので、その性格を妬んでいる様をよく見かける。
しかし妬んでいるのによくあんなに楽しそうに笑うもんだ。あれの性格はよくわからない。
「何だ、とうとうあの子の妬みが爆発したの?」
「いやいや、そういうわけじゃない。ただちょこっとイタズラしようと思って後ろからこそっと近付いて肩を叩いたんだけど……」
「…だけど?」
「思ったより軽くて吹き飛ばしてしまったんだよ」
思わず机から滑り落ちそうになった。
まだ転かせてしまったとかならわかるが、『吹き飛ばした』ってお前。
「加減下手くそか!」
「いやードジった。イタズラしようなんて考えたのが久しぶりだったから加減を忘れておった」
「あの子大丈夫だったの!?」
「うぅん、特に酷い傷とかはなかったよ。ただ私に対する態度が明らかに変わったわな。たははは」
「そりゃあそうだろ……」
勇儀は昔からこういう性格だ。
妖怪の山でも勇儀にちょっかいをかけられるのは勘弁だ、という者ばかりだった。
「謝っても許してくれなさそうだな…あの子」
「いや、それが実はその事件以降顔を見てないんだよ……私のことを避けてるのかも」
なるほど、そういうことか。
確かにそれは厄介かもしれない。
勇儀が落ち込んでしまうのも頷けるかも。
「まあ怪我がなかったんならよかった……今度一緒に謝りに行ってやるから、とりあえず今は我慢しててよ」
「そりゃあ助かる。…で、そっちの件は本当に大丈夫なのか」
「大丈夫だって、軽く遇らっておくから」
「はい、それじゃあ連絡は終わり。また明日も頑張っていきましょうね!」
「きりーつ」
気怠げな号令で、皆が一斉に立ち上がる。
早く帰りたいという思いがありありと伝わってくるようだ。
それは私も同じである。
「気をつけー、れーい」
帰りのホームルームとやらが終わって、帰路に着こうとしたその時。
「待てよ、お前まさか昨日のあれ忘れたわけじゃあるまいな」
一人の女の妖怪に呼び止められる。
何の妖怪かは知らないし、名前もどうでもいいから覚えていない。
「…何だよ、何かあったっけ?私どうでもいい事はすぐ忘れちゃうんだよね〜」
若干煽るようにそういうと、あからさまに顔をしかめて、不快そうにこちらを睨んできた。
「しらばっくれやがって…!…ふん、まあいいよ。やっぱり何でもないさ。とっとと帰れよ」
予想外にあっさり引き下がった事に驚いた。
てっきり仲間と一緒に私に挑んでくるものだと多少身構えていたから拍子抜けだ。
「あっそう?なら帰るけど…じゃあね〜」
そう言ってそいつに背を向ける。
その時。
背後から大勢の妖怪が、私の背後から突撃してくる気配を感じた。
──まあ、大体予想はついてたけど。
「!?」
突然消えた私の姿に、大勢いた妖怪達は心底驚いていた。
まあそうだろうね、さっきまでいた奴が急に消えるんだから。
今私は能力で霧になっているのだけど、この状態でも物理的な干渉はできるんだ。
というわけで……。
「一丁上がり」
妖怪達を死なない程度にボコボコにして、能力を解除する。
「ど…どうして、わかった」
「どうせそんなこったろーと思ったよー。そうでもしないと私を倒せないもんね。
ま、あんたらじゃあどう足掻いたって無理だけど」
悔しそうにこちらを睨んだ後、電源を抜かれた装置のように、地面にぱたりと倒れ込んだ。
「全く張り合いのない……もう少し頑張って欲しかったけどなー」
と、そこへ勇儀が現れる。
「萃香らしい倒し方だな。相手も悔しいだろうなぁこれ」
「徹底的に教えてあげたのさ、上下関係って奴を。これくらいしとかないと、また無茶な事やりそうだろ?」
「へえ、案外気を遣ってるな」
「そりゃあ、無意味に死ぬなんて可哀想だし」
「ごもっともだ」
「…さて、帰ろう。あの子に謝らないといけないし」
「はっ、そうだった…!す、すまん萃香…付き合ってくれ」
「はいよっと。その代わり酒は弾んでよ?」
「おうさ!とびっきりの酒を用意してやるよ!」
「おー楽しみ!」
今日も変わらず、愉快な一日だった。
先に待つ楽しみに胸を躍らせながら、私はその日の帰路に着いた。
本当は永琳のポジは聖の予定だったのだけど、廃校編の時に矛盾が生まれちゃうから失敗したな…笑




