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東方学園の怪談話  作者: アブナ
絶望の未来篇
42/82

我等が誇りは此処に在り 弐

随分更新が遅れてしまいましたが、その分少しばかり濃い内容になっている…はず!



ある日のこと。

イザベルはふと、真夜中の二時頃に目が覚めた。

その時は、何故起きたのかはわからなかったが、きっとこれは運命だったのだと後にイザベルは思った。


イザベルは何気なしに両親のいる部屋へと向かった。

何故か灯りがついている。

部屋の前のドアの前で、イザベルは立ち止まる。

何やら会話が聞こえてきた。


「イザベルはすくすくと育っているな。よかった」


「養子だってことは隠しておくとは言ったけれど……いつか伝えなきゃいけないわね」


「ああ、そうだなぁ……イザベルの元の家は、あの穢れた一族だからなぁ…あまり知らせるのは気が進まないけど……」


イザベルは当時、まだ5歳。この頃のイザベルには一体何の話か全く理解はできなかった。

そして、その日は結局自分の部屋に戻り、眠りについた。次の朝にはこんな些細な記憶を覚えているはずもなかった。


そして、運命の日。

レオールに両親を目の前で殺された時、イザベルは何も感じなかった。

その時に、疑問に思った。


どうして自分はこんなにも冷静なのだろうか。

どうして親が殺されて悲しくないのだろうか。

どうしてこんなに……目の前にいる男が偉大に見えるのか。


「…お前」


「!」


レオールがこちらに歩いてくる。


「お前、名は何という」


「…イザベル」


「イザベル、か。いい名だ」


「…あなたは…一体…?」


「私の名は、レオール・スカーレット。吸血鬼だ」


「吸血、鬼」


−これが、吸血鬼の力……。


「イザベル、お前には魔法や呪術の才能がある。その才能をここで腐らせるのは惜しい」


「…才能?」


「私が、今日からお前の主人だ」


そして、イザベルは紅魔館へ引き取られた。

正確には、拉致された。


しかしその待遇はあまりにも優遇されていた。

突然出てくる豪華な料理、広い部屋を自分のものにさせてくれたり、館のメイドや役人達に敬称で呼ばれる等、以前のイザベルには考えられない生活が待っていたのだ。

さらに、レオール直々に魔法や呪術について教えてもらった。

メイド達には家事や料理を教えてもらった。

そうして、イザベルはメイド長になった。


イザベルが15歳になった頃、ふとあの日のことを思い出した。

あの両親達は実の両親ではなかったということと、もう一つ。

『穢れた一族』……そう呼ばれる自分の家系について知りたいと思った。


レオールにその事について聞いてみると、『お前が知る必要はない』の一点張りだった。

余計に気になってしまった為、レオールには秘密で以前住んでいた街へと出かけた。

街はもう壊滅していて、吸血鬼の力の強大さを物語っている。


「ここが、私の生まれ育った場所」


辺りを見回してみる。見覚えのあるものはいくつかあった。

しかし不思議だ。何も感じないのである。

仮にも自分が生まれ育った場所。少しは感慨があるものだと思っていた。


「…さて、調べてみるか」


イザベルは、まずはその街の図書館を調べてみる事にした。

壊滅させたのはもう何年も前なので、もしかすると荒らされている可能性はあるが。


「……!」


街を歩いていると、自分とその家族が住んでいた家を見つけた。


「……」


何気なしに、イザベルは家に入っていった。

玄関のドアを開け、中に入る。


ガチャ




「おかえりなさい、イザベル!」





「……」


−何だ、今のは。


幻聴なのか、育ての親である二人の声が聞こえた気がした。

しかし、家の中を隈なく探しても、親と思しき人物はいなかった。

当然だ。あの日レオールに目の前で殺されているのだから。


「…私にも、こういう事はあるんだな」


意外と自分も思い出には浸るのだな、と、少し驚いた、その直後。


「いいや、お前にそんな感情はないよ」


「!?」


後ろから声が聞こえ、右手に魔力を纏わせつつ咄嗟に背後を振り返る。


そこには、一人の年若い男が立っていた。

全身黒づくめの服装で、身長は高くも低くもない。

しかしイザベルよりは少し高め。

髪は赤く、セミロングほど。

目は赤茶色で目つきは鋭い。

容姿は、それなりの美形だった。


「…誰だ…お前は…!?」


「お前は、自分の真の姓を知りたいとは思わないか?」


「…!」


「その為にここに来たんだろう?イザベル」


怪しく笑う男。

イザベルはさらに警戒する。


「おいおい…そう邪険にするなよ。俺達は生き残った同族の僅かな仲間。仲良くしようや」


「…何者だと聞いたんだ」


「ふん…ま、それはそうだな。答えなければ話は進まない。


俺の名はガーネフ。ガーネフ・エレヴァルト。お前と同じ種族の人間だ」


「…エレヴァルト…」


「そう、それがお前の真の姓だ」


「…それで?どうしてお前はここにいる?」


「お前について調べていたのさ。俺もな」


「…なに?」


「…エレヴァルトは、五年前にとある禁忌を犯して滅ぼされちまったのさ。俺とお前はその最後の生き残りだ」


「…同じ生き残りである私を、調べていたというわけか」


「そういうことだ。で、紅魔館とかいうところに引き取られた事やお前の家族だった連中についても調べた。悪く思うなよ」


「…それで?何故お前は私を調べた。何か用でもあったのか?」


「同じ一族の生き残りだ、一族の悲願を叶えるための人材になると思ったのさ」


「悲願?」


「そう……『全人類の抹殺』。これが我等エレヴァルトの悲願だ」


そしてイザベルは、エレヴァルト一族の悲願についての説明を聞いた。

エレヴァルトの一族は、はるか大昔から続いているという。

エレヴァルトは自然と大地を慈しむ一族だった。

しかし、科学技術が進んでいくにつれ、自然を破壊していく人間達に、エレヴァルトの一族は激怒した。

自分たちの生活に必要な最低限の自然破壊ならまだ許そう。しかし、人間達は自分の私利私欲のために自然を破壊していた。それが許せなかったのだ。

それ以来、エレヴァルトは魔術的な側面も持ち出した。

いずれ、人類を絶滅させるためであるという。


「そして、ある魔術を完成させれば、人類の抹殺は容易であるという結論に至る。その魔術というのが……


肉体を乗っ取り、自分の力にするというものだ」


「肉体を、乗っ取る…?」


「そう、自分の魔力を対象に流し込み、脳を完全に支配し、人格を乗っ取るというものだ。だがまだこの術式は完成されていない」


「……」


「ある程度の構成はできている。見せておこうか」


イザベルはその術式を見て、これならすぐに完成させられると思った。


−こんな簡単な魔術を、何百年も完成させられなかったのか……。


「この術式をここまで完成させたのはお前の両親にあたるものだ。あと一歩、というところで町の連中に見つかってな。魔術教会というところに通報され、人道に反するものだと、死刑が決まったよ」


さらに、その事件の影響でエレヴァルトという一族の名はあらゆる地に知れ渡り、各所に散らばっていたエレヴァルト達は皆、殺されていった。


「で、お前と俺はまだ幼い子供だからと見逃されたのさ。ちなみに俺はお前の一個上な」


「……」


「これからはお前と俺は兄妹だ……よろしく頼むぜ」


「その言い回しは気に入らないな……血縁関係はないだろう」


「直接はな。ま、いいじゃないか!仲良く行こうぜ」


「…まあ、頭に入れておくよ」


「そう来なくちゃ」



そして、イザベルは紅魔館に戻り自室で魔術を完成させた。

呪術をすこし取り入れるだけで完成できるというのに、何故完成できなかったのか……。


「……」


−この能力があれば、レオールの体も乗っ取れるのか。


「…男性体になるのは、少し抵抗があるな……」


−…しかし、私が自然を大切に感じていた理由は一族だったとは。


その後イザベルは、あの街に何度も赴きエレヴァルトについてあらゆることを調べた。

そして、自身の両親についても。



「…ここか」


町外れにある古ぼけた木製の家。

ここが、イザベルの実の両親達が住んでいた場所らしい。


家の中に入ると、まるで近年まで誰かが住んでいたかのように整備されていた。

両親が殺されたのは、何年も前の筈なのに。


「…!」


辺りを模索していると、魔術工房のようなところを発見した。

そこには様々な魔道具が置かれており、イザベルは少し興味を持った。

だがどれも初歩的なものばかりで、イザベルの興味はすぐに削がれた。

しかし、ある物を見つけた時、イザベルの反応は変わった。


「…これは……


二人の実験の記録か」


その記録書からわかった事は、両親は、子供の頃からずっと一族の悲願のために才能がなかった魔術を必死に練習して習得していたということ。

特に父親の方は、魔術の才能がめっきりなかったようで、苦労したらしい。

何故か、二人の出会いやらそれからやら自身の出生についても書かれており、記録書というより日記に近かった。

時折写真が挟まれており、両親の楽しそうな様子が映し出されている。


そしてもう一つ。両親は街の人々に『穢れた一族』呼ばわりされていたらしい。

物を買う時も、通常より高値で買わされたり、石を投げつけられたり。

様々な迫害にあっていたようだ。


「……二人とも、望んでこのような暮らしをしていたわけではないというのに」


さらに読み進めると、二人の最期の日の記録があった。

そこには、『一族の悲願を叶えられなかった事が悔しくて仕方がない』というような内容があった。

そして……


「……」


『だが、まだイザベルは幼い子供。私達の一族の悲願に勝手に巻き込むのはいけないと思った。なので、この子は別の家族の元に預けることにしよう。幸い、快く受けてくれた人がいた。

こんな事になってしまって、申し訳なく思う。けれど、私達は私達の誇りを背負って逝けることを、嬉しく思う』


「……」


イザベルは記録書を閉じ、家から出ていった。

その後、紅魔館に戻り、いつも通りの時間を過ごした。

だがこの時イザベルの中で、確実に何かが変わっていた。



そして時は経ち、四年。

その後も、ガーネフとは度々会っていた。

お互いの成果を話し合っているが、魔術が完成したことだけは話さなかった。


「…ところでさ、お前、今夜は空いてるか?」


「?何故だ、私は紅魔館のメイド長だぞ。空いているわけないだろう」


「なんだ、空いてるじゃないか。そんな用事他の奴らに任せておけばいい」


「…レオールからの信用を失うわけにはいかないのでね。悪いけどここらでお暇させてもらおう」


「まあ待てよ…」


ガーネフがイザベルの右手を握ってくる。


「…なんだ、鬱陶しい。早く要件を話せ」


「なあ、お前、一族の繁栄を望まないか?」


「…は?」


「ここに一族の男女二人がいるんだ。やることは一つだろ?」


「意味がわからないな……何がしたい?」


「おいおい、察しが悪すぎるだろう?…夜の交際って言えばわかるか?」


「……私がお前と?冗談じゃない」


「四年も共に過ごしてきた仲じゃないか。少しは気を許してくれたと思ったんだが」


「それはお前の勘違いだ」


「…そう堅いことを言うなよ。俺とお前の仲だ」


「大概にせねば殺すぞ」


「お前に俺を殺すだけの力量があるか?」


「…何だ、えらく積極的だな。私に惚れたのか?」


「ストレートに言ってくれるな……」


「…ふん、私なんぞに惚れるとは、お前もちょろい男だな」


そう言って小悪魔的に笑うと、イザベルはガーネフの頬に口付けをする。


「なら…今夜はお前に私の体を預けるとしようか」


「…い、良いんだな?」


「ああ、ただこの場で、というのははしたない。ベッドの方に行こうじゃないか」


「…ああ」


ベッドの方に移動し、イザベルはそこに横になった。


「…さあ、何なりと」


「……!」ゴクッ


ガーネフがイザベルの上に跨った。

そして、イザベルの服を脱がせようとする。


「…しかしお前が私にそんな感情を抱いていたとは」


イザベルが右手をガーネフの左胸を撫でるように触る。


「…な、何だよ。悪いか」


「いいや?少し意外だっただけさ。…さて」


「ん?」



ドスッ


「…なっ…!!?」


「…貴方如きに私の初めてをやると思いますか?」


イザベルがガーネフの心臓部分を魔力を纏わせた右手で貫いていた。


「なっ…あっ…!!貴様ッ…!!」


「もはやお前に用はなかったのでね。許してもらいたいものです」


あの魔術はとっくに完成していたのですよ。四年前に術式を教えてもらった時点で」


「…黙っていたのか…!!」


「いいや?私がまだ教えるべきではないと思っただけです。貴方に本当に一族の悲願を達成する気があるのかどうかを見定めていたんですから」


イザベルはあの日から、一族の悲願を達成することが自身の使命のように感じ始めていた。

自分だけでも一族の因果から解放しようとしてくれた両親に対して、最も感謝を伝えやすい方法だと思った。

その為には、この男は邪魔だったのだ。

四年過ごしてきてわかった。この男は、一族の悲願を諦めている。

自分たちの力でどうにかなるものではない、と。

だから魔術の完成についても一向に聞いてこなかったのだろう。


「貴方にその気がない事は薄々気づいていましたがね。…さようなら、ガーネフ。貴方の力も、少しもらっていきますよ」


そういうと、イザベルはガーネフの中に自分の魔力を流し込み始める。


「なっ…!?何をっ…」


「なぁーに、苦しい思いはしませんよ。ただ……

貴方という存在は、いなくなりますが」


「がっ…うぎゃあああああああ!!」



イザベルはガーネフの力を全て吸い取った。

体を乗っ取る必要はないだろうと判断したからだ。

ガーネフがいた場所には、ガーネフが着ていた服が散乱していた。


「…思ったより力はあったようだ。魔術的には乏しいが、身体能力は中々。…くくっ」


−性格にも少し影響が出ているか。吸収というのは意外に面倒な事だな。


「だがまあ、これでオレの力も高まった事だし、良しとしよう」


それからは、語る必要はない。

フランに飴を渡し続け、あの日へと繋がる。


イザベルが一族の悲願を達成しようとしていたのは、最初は親の為だった。

しかし、今は違う。


「…次はあの里だな。…ん?」


フランの姿となったイザベルが、幻想郷の里を荒らし回っている時だ。


「隣里が襲われてたぞ!逃げろ!」


「おいどけ!!邪魔だ!!」


「あぁ!?お前こそどけ!勝手にそこらで死んどけよ!」


人間達は、自分の命が助かりたいがために周りの者を押しのけたり殴ったりしながら逃げていた。

その殴られている者達の中には、女子供もいた。


「…実に醜い。あんなものが現実世界を支配しているのか?


…やはり人間は滅びるべきだ。エレヴァルトは正しかったのだ」


幻想郷で暴れ回っているうちに、この世の中において、一番不要な存在は人間だと、そう思い始めたのだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「…全人類の抹殺…」


「そうだ。この世界において、最も不要な存在…それが人間だ。私利私欲の為に他の全ての生命を断ち、利用する……さらに奴等はその自然の恵みにより得た命を蔑ろにしている。そんな事が許される訳がない」


クロは怒りの表情でそう言った。


「人間は不要だ……滅びるべきなのだ」


「……それはあんたの価値観よ」


「お前もそうは思わないか?レミリア。あんな醜い生命体を生かしておく価値はあるのか?オレはそうは思わない」


「あんたのその考えが理解できない訳じゃないわ。でも、それは悪い側面しか見ていないからよ」


「悪い側面しかないからオレはこうなったのだがな」


クロは再び普段の怪しい笑みを浮かべた。


「…何を言っても無駄ね」


「それはこちらのセリフだな」


「…しかし、随分大それたことを考えていたのね。ところで、幻想郷を破滅することはその全人類抹殺と関係があるのかしら?」


「なぁーに、外の世界と繋がっている八雲紫さえ倒せればそれで良かったのだがな?生き残った連中がオレを攻撃してくるものだから、不可抗力という奴だ」


「その割にはさっきの説明には永遠亭を攻略しようとしてた節があるけどね」


そう言われると、クロは顔をしかめた。


「…ああ、オレはあらゆる可能性を考慮している。仮にもし、オレが全人類を抹殺したとする。すると、その"人類"という概念が世界から忘れ去られてしまえば……幻想郷ここに人類が蔓延る可能性が無いわけではあるまい?」


「心配しなくともこの世界の幻想郷はそのうち消えるわ。結界の管理者もいないし、人間と妖怪のバランスもまともに取れてないからね」


クロはその言葉に驚く。


「何だと?人間と妖怪のバランス?」


「ええ、この世界はちょっと複雑でね。人間が増えすぎてもダメ、妖怪が減りすぎてもダメ。そういう結界が張られてるの。そうでもしないと妖怪という存在を維持することができないのよ。今の世界はね」


「…科学の発展により、妖怪という存在が否定され始め、それにより妖怪は存在意義をなくし力が弱まり、存在を維持することすらままならなくなった。……そんなところか?」


「大当たり。全く、面倒なことよね。私も当初はここを支配するつもりで大暴れしたんだけど……まあ、その話はいいか」


その話を聞くや否や、クロは嬉しそうに笑みを浮かべた。

レミリアはその反応を不気味に思い、少し引いた。


「…何がそんなに嬉しいのかしら?」


「いやなに、それは嬉しい報せだ。これであの面倒な不死身の連中を始末する必要がなくなったわけだ」


「…ふーん、あんたもう私に勝った気でいるのね」


「当然。今のオレは向かうところ敵無しという奴だからな」


「言うじゃない。さっきまであんなに互角だったのに」


クロが不敵な笑みを浮かべる。


「…そうか、お前はまだわかっていないようだな」


「…?」


「ふん、気にするな。どうせわかっていようといまいと関係のない話だ」


「……そうね。あんたを殺せばそれで済む話だわ」


「そう、その通りだ。さあ、オレを殺してみせろ」








「…!」


−…クロの魔力量が上がってる…。


こいしが、イザベルと対峙しながらクロとレミリアの戦いの様子を見ていた。


「……『この痛みがまた私を強くする』…か……」


「どこを見ているのです?」


イザベルはこいしの前方に立ってこいしを見つめている。


「別に何も。ちょっとよそ見してただけ」


「ふん、レミリアと我が同志の戦いが気になるならば、早く私を倒せばいいのですよ。まあ、無理でしょうけれど」


「…さぁ、それはどうかな」


瞬時にイザベルがこいしの背後に移動してくる。

イザベルの魔力を纏わせた手刀をこいしは振り返らず刀剣開放の剣で防御する。


イザベルの右手を弾き、振り返りながら斬りつけた。

イザベルは避ける事なく、わざとその攻撃をくらい、傷を再生させつつ攻撃してくる。


こいしはその攻撃を避け、イザベルを蹴り飛ばした。


「面倒くさい戦い方」


「不死身を活かすとはこういう事ですよ」


「私にはドMっていう風にしか見えないけどね」


こいしが煽るようにそういうと、イザベルの表情が変わる。


「いつまでそうやって余裕ぶっていられるかな」


「…その台詞、そっくりそのまま返すよ」


笑みを浮かべてそういうと、イザベルが突撃してくる。


「ほざけ!!」


しかし、イザベルが突撃していった場所にこいしはいなかった。


「何!?」


ドガッ!


「ぐっ!?」


−な、何だ!?


背中を攻撃されたのはわかったが、どう攻撃されたのかがわからなかった。


「くっ!」


辺りを見回してみるが、やはりこいしの姿はない。


「なっ…何だ…!?」


ドゴォッ


「ぐぼぉっ…!?」


今度は腹部を思い切り殴られる感覚がした。


「ぐっ!!」


咄嗟にその場で右手を振るう。

しかし、やはり当たっていない。

さらに、色んな角度から様々な方法で攻撃され、イザベルは膝をついてしまった。


「ぐっ!!…はあっ…はあっ…!」


−こんな馬鹿な…!一体どうやって…


「…無意識の能力か…!?」


「そう、貴女は無意識に私から意識を外してしまってるんだよ」


こいしがイザベルの少し前方に姿を現した。


「…そういえば、貴女はさっきなんて言ってたっけ」


嘲笑うようにそういうと、こいしは右手をイザベルに翳す。


「……」


しかしイザベルは、対して動揺することはなかった。


「不死身だから大丈夫だ、って思ってるでしょ」


「だったら何だ?」


「だから貴女はここで負ける」


こいしが右手から放ったのは、魔力で作られた鎖のようなものだった。

それがイザベルに巻き付く。


「…?何だこれは…」


「封印術みたいなものだよ。これから貴女を、無意識の牢獄に閉じ込める」


「無意識の牢獄…?」


こいしが目を閉じる。

すると、辺りから碧色の煙のようなものが湧き出てくる。


「これは……」


それがイザベルの周りを覆い包んでいく。


「それは私の能力を連続して発動させている空間だよ。周りの煙は私の魔力そのもの。


その中で貴女は意識を保てるかな?」


途端にイザベルは、自身の中で何かが消えていくのを感じた。


「…?」


−何だ…?妙な感覚だ……。

封印術だと言っていたが……これのどこが封印術だ…?


しかし、自分の思い通りに体が動かないのと、おかしな感覚により危機に気付き始める。


−そうか!これは私自身を永遠に無意識にさせて、抵抗させる事なくこの空間に閉じ込めるというものか!


「気付いた頃にはもう手遅れ、貴女の意識は堕ちました。


ようこそ、無意識の世界へ。さあ、これからどこに行きましょう?」


まるで赤子をあやす様に、こいしがそう囁いた。


「……」


「…!」


覆い包んでいた煙が吹き飛んだ。

鎖も引き千切られた音がした。


「あちゃー、ダメか。意外と意識は強いんだね」


「ふぅ…恐ろしい事をする。私でなければ堕ちていた」


「どーしよっかなー、今のが聞かなかったんじゃ貴女を倒す方法は限られてくるんだけど」


「随分余裕そうだな。まだ策はあるらしい」


「無くはないけど…あんまし"頼りたくない"というかね」


「…何?」


「ま、仕方ないね。それ」


こいしが何かの小さな時計に魔力を注ぐ。


「…?何だそれは」


「まあそのうちわかるよ。


……すぐには来れないって言ってたし、もう少し遊んでようかな。レミリアの方は大丈夫だろうし」


「…それはどうかな?レミリアの方を見てみるがいい」


「…?」


レミリアの方を見ると、クロと互角に戦闘をしている様子が見えた。


「……確かに、レミリアが押してたのに互角になってる……いや、少し押されてるまであるかも」


「ふふっ…何をする気かは知りませんが、急いだ方がいいですよ」


「口調がブレッブレだねーあなた。見ててちょっと面白いよ」









「ちっ…!」


−何だこいつ…さっきまで本気じゃなかったのか?


レミリアがクロと互角の攻防を繰り広げている。


「はははっ!どうしたレミリア!先程までの勢いはどこへ行った!!」


クロが刃でレミリアのグングニルを弾き、右足でレミリアを蹴り飛ばした。


「ぐっ!!」


すぐに体勢を立て直す。クロの方を見ると、刃を構えて突進してきていた。

咄嗟にグングニルを盾にする。


「ふっ」ニヤッ


クロが少し右に逸れて、縦に回転しながらレミリアの横を通り過ぎた。

その際、刃を振るいレミリアの横腹を切り裂いた。

その後目にも留まらぬ速さで羽を羽ばたかせて、レミリアの頭上へ飛び上がる。


「ぐぅっ…!」


「受けてみろ!」


ドゴォッ!!


「!?」


レミリアの脳天に踵落としを入れた。

地面に叩きつけられる。


「刃を使えば終わっていたのだろうが、もう少しこの力を試したいのでな…くくっ」


レミリアが瓦礫を衝撃波で吹き飛ばして起き上がる。


「……」


−あいつ、確実に()()()()()()。本気を出していなかったとか、そんなんじゃない。


「あんた…何をしたの?」


そう問われたクロはまたまた不敵な笑みを浮かべ、わざとらしく首を傾げる。


「さて、何のことかな?」


レミリアはその仕草に少し苛立ち、強めの口調で続けた。


「とぼけないで。あんたのそのパワーアップは何をどうしたのかって聞いてんの」


「この謎に気付かないお前ではないだろう?そもそも教えたところで変わらない」


「だったら教えてくれてもいいんじゃないの?」


「それでは面白くないだろう?」


「…ムカつく奴ね」


「それは光栄。しかしそうだな…ヒントを与えよう。これを並の吸血鬼や人間の身体でやると力の増大に耐えきれず暴走してしまう、という事だ」


「…何ですって?」


この身体(フランドール)だからこそできるんだよ、この方法は」


その言葉で、レミリアの中の何かが切れた。


「…我が物面でフランを語るな」


「…おっと、怒らせてしまったかな?」


「吸血鬼の誇りも持たない凡夫の如き分際でよくも……!


お前は…私を本気で怒らせた!!!」


レミリアから凄まじい魔力が発生する。


「おおっ…!」


クロはそれを楽しそうに見ている。


「おおおおおおおお!!」


「ははっ…!これはいい!楽しくなってきたな!


だが一つ誤りがあるな、レミリア」


「!?」


クロが右手をレミリアに向けて翳し、それを握りしめる。


「確かにオレには吸血鬼としての誇りはない。だがなぁ……オレはこの体を得た事を誇りに思っているぞ。

何故ならこれはオレが尊敬する者の身体だ!このお方の名誉の為にも、その易々とやられるわけにはいかないのでね!


そしてもう一つ。この魔術は我が一族が何年もかけて漸く完成させた魔術。即ち誇りそのものだ。

オレはオレ自身の誇りと一族の誇りを持って貴様を討つ!


我等の誇りを舐めるなよ」


クロの右手に黒い稲妻が迸り、激しい風がクロを中心に巻き起こる。


「…!?」


「さあ、続けようか?レミリア」


クロの右手には、レーヴァテインが握られていた。


「…上等。あんたの誇り諸共、打ち砕いてやるわよ」


「頃合いもいい、ここらで最終ラウンドと行こうか。

貴様の誇りが勝つかオレの誇りが勝つか…」



「「勝負だ!!」」



レーヴァテインとグングニルが激しくぶつかり合う。

いよいよ、この永い因縁に決着が付こうとしていた。



そこまで濃くなかったかもしれない。

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