表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方学園の怪談話  作者: アブナ
絶望の未来篇
37/82

イザベル


コツ、コツ、コツ、コツ……


床に赤いカーペットが敷かれた長い廊下を、マカロンやカップケーキなどのスイーツとティーセットを乗せたサービスワゴンを押す年若い赤髪の女性が歩いている。


行く先には、一つの大きな扉が。

その扉の前で一度立ち止まり、女性は尋ねる。


「ご主人様、紅茶とスイーツをお持ちしました。部屋に入ってもよろしいでしょうか?」


扉の奥から返事が返ってくる。


「ああ、入って構わん」


「失礼します」


女性が扉を開けて部屋に入ると、長身で伯爵姿の金髪の男が椅子に座って本を読んでいた。

その本をパタン、と閉じて女性の方に差し出す。


「イザベル、悪いがこの本を元の場所に戻しておいてくれないか」


金髪の男が、赤髪の女性……イザベルにそう言った。

イザベルは顔色ひとつ変えずにそれに答える。

この男の名は、レオール・スカーレット。

通称レオン。

ここら一帯を支配している高名な吸血鬼だ。


「かしこまりました、ご主人様」


「さて、今日のスイーツは……む、マカロンか。フリーダと共に食べたいものだ」


「フリーダ様はマカロンがお好きですものね。よろしければ今から伸介様、お嬢様方もお誘いしてお茶会でもいたしましょうか」


イザベルは本がたくさん入っている棚に手に持つ本を直し、紅茶を淹れながらそう言った。


「おお、それはいい。悪いが呼んできてもらえるか?」


紅茶を飲みながら金髪の男性は答える。


「もちろんでございます。では、しばしお待ちを」


「ああ、ゆっくりで構わんぞ」


「はい、では」


扉を開き、部屋を出る。

ゆっくりでいいと言われたが、こちらとしても早く事を済ませたいし会いたい人物もいるので足早になる。


−まずはフリーダ様からだな…ここからなら近いし。





「まあ!それはいい考えね。是非ともそうしましょう!」


薄水色のワンピースドレスを着た銀色の髪の女性が胸の前で手を合わせて嬉しそうに言う。

名はフリーダ・スカーレット。

レオール・スカーレットの妻である。もちろん吸血鬼。

ちなみにレオールの事をレオンと呼び出したのはフリーダが最初。


「はい。ご主人様がお待ちですので、お先に向かわれていてください。私がお嬢様方をお呼びいたしますよ」


「助かるわ。それじゃあ、お願いね」


「はい。では後ほど」






階段を登り、紅魔館の最上階にやってきたイザベル。

紅魔館といっても、現在の幻想郷にあるそれとは別のものだ。

言うなれば旧紅魔館。レミリア達が幻想郷へ行く以前に住んでいた場所である。


何故イザベルがここに来たのかというと……。


「…この時間帯にいるかしら」


廊下の中央にあるドアの前に立ち、コンコン、と二回ノックした後、こう言った。


「伸介様、レミリアお嬢様、フランお嬢様!いらっしゃいますか?」


返事はすぐに返ってきた。


「はーい、いるよイザベル!」


「どうしたー?」


可愛らしい声が聞こえてくる。

それを聞いたイザベルは微笑んだ。


「ご主人様が一緒にお茶会をしたいそうなのですが、もし良ければ一緒にいきませんか?フリーダ様もいらっしゃいますよ」


「ええー!?」


驚いたような、嬉しそうな声が聞こえた。

ドアが勢いよく開き、イザベルは少し驚く。


「行く!ちょっとまってて!」


中から顔を覗かせたのは、青みがかった銀髪の少女だった。

この娘こそ、幼きレミリア・スカーレット。

レオールとフリーダの間に生まれた娘。

そして……。


「まっててー!」


レミリアを真似るように満面の笑顔でひょっこりと顔を見せた黄金色の頭髪の少女。

そう、幼きフランドール・スカーレットだ。

通称はフラン。館の者達からもそっちの方が定着している。

ちなみにイザベルの会いたかった人物とはフランのこと。

フランの美しいその容姿に、イザベルは釘付けだった。


まず金髪赤眼というだけでスペックは高い。

それに加えてこの明るい性格。

これを『Cuteキュート』と言わずして何というのか。


「ふふ、お二人共今日も変わらずお元気そうですね」


「もちろんよ!ねーフラン!」


「ねー!」


姉を真似るように同じ仕草をするフランの姿に、イザベルはついニヤケてしまう。


雑念を抑え、必死に落ち着いたいつものメイドの振る舞いをする。


「ところで伸介様は?」


「いるよー」


「ういーっす…」


レミリアの後ろから10歳ほどの背格好の男子が出てくる。

そう、これが幼い伸介。

二人の義兄にあたる人物だ。


「おや、いらっしゃいましたか。では、参りましょうか。ご主人様達がお待ちですよ」


「はーい!」


その後は、家族でのティータイムを楽しんでいた。

イザベルはその隣で静かに待機。

ほぼフランしか見ていなかったが、それだけで至福だった。

それくらいには、フランの事が好きだった。

そう、最初は、"純粋に"好いていた。



イザベルは旧紅魔館のメイド長である。

人間でありながら、何故吸血鬼の館のメイド長を勤めているのか、答えは一つ。


イザベルは、特殊な人間だったからだ。


生まれながらにして多大なる魔力を持ち、物心がつく頃には魔術はもちろんのこと呪術も扱えるほどの才能を持っていた。


イザベルが10歳を迎え、ある程度の月日が流れたある日のこと。

イザベルが自宅で家族と夕食を食べている時だった。

叫び声が外から聞こえ、気になったイザベルがカーテンを開ける。

すると、外には伯爵姿の男性がいた。

そして、足元には何人もの人間が首から血を流して倒れている。


幼いイザベルには、何が何だかわからなかった。

伯爵姿の男性と目が合った瞬間、イザベルは凄まじい殺気を感じ、腰を抜かしてしまう。


その後のことは、語るに及ばない。

だが、何故かイザベルだけは生かされたのだ。

そして、男は言った。


「私が、今日からお前の主人だ」


そして、イザベルはレオールの館のメイドとなった。

後に知った話だが、イザベルが両親だと思っていた人物は実の両親ではなかったらしい。

イザベルの両親は、破ってはいけない禁忌を破り、その罪に問われそのまま死刑となった。


しかし、実の両親ではなかったにせよ、愛情を持って接してくれていたのは本当だった。

血は繋がっていなくとも、心は繋がっていた。

それを目の前で殺されて、怒りを感じないはずはない。


しかし、イザベルは違った。


吸血鬼の圧倒的な力に、イザベルは魅かれた。


吸血鬼の強大な力を目の当たりにしたイザベルは、人間にはないその力にただただ憧れた。

いつか自分も、あの力を手に入れたい。そう思いながら紅魔館のメイドとして働いていた。

そして、18歳を超えた頃、イザベルは出会う。

そう、フランだ。

吸血鬼というのは種族によっては成長が早く、その代わり身体の成長が止まるのがありえないほどに早い。

ある程度身体の方が育つと、一度止まってしまうのだ。

そして、一定以上の年月が経つとまた成長していく。

しかし、その成長速度は凄まじく遅い。

なので、大人の姿になっている吸血鬼の大抵は千歳を超えている吸血鬼がほとんどだ。

そうでない種族の吸血鬼も多くいるが。

伸介の場合は、吸血鬼と人間のハーフであるため、体の成長も若干早い。


フランはまだ生まれて2年目。しかし身体の方は既に五、六歳児ほどに成長している。

精神的な成長も早く、既に巧みに言葉も話していた。

イザベルが出会ったのは、レオールが娘を紹介したい、と言ってきたことがきっかけだ。

娘がいることは知っていたが、今まで一度も会ったことがなかったのだ。


会ってみた感想は、なんと麗しい姿の少女なんだ……そう思った。

これほどまでにここまで感動を覚えたことはない。それほどに美しかったのだ。


その日から、イザベルはフランと頻繁に会うようになる。

フランの方も嫌がっておらず、むしろ喜んでいたので、レオールも何も言わなかった。


そしてある日、イザベルは疑問を抱く。

それは、フランが戦闘訓練を受けさせられていないことだった。

伸介、レミリアが戦闘訓練を受けているのに、フランは一度も受けたことがないのだ。

確かに歳の差があるとは言えど、それは少し変だった。

魔力の量や質は姉のレミリアに全く劣っていないし、むしろ少しだけ優っている可能性すらある。

ちょっとした出来心で後ろから軽く首を掴もうとした時、瞬時にそれに気付いて身をかわしていた。

戦闘のセンスもきっとずば抜けているはずだ。

それを理解できないレオールではないことは、長い間仕えてきたイザベルにはわかる。

だからこそ、疑問に思った。


イザベルは気になり、レオールが外出している時に部屋に侵入して調べていた。


「…これは」


その時に見つけたのが、レオールの日記のようなもの。

おそらく日記を書いていたのは、印象に残った出来事を記憶しておきたいが故だろう。


その中にフランの話があった。


「フラン様の話………!見つけた」


『二人目の娘が生まれた。名前はフランドール。この日を忘れないために、日記をつけることにする。

私と同じ金髪だった。フリーダも嬉しそうだ。

これからは伸介とレミィと……そうだ、フランと呼ぶことにしよう。

この三人は、フリーダと二人で大事に育てていくとしよう。

伸介もレミィも面倒見がいい子に成長してくれるに違いない』


「……」


−こんな事を知りたいわけではない。


イザベルは舌打ちをして次のページをめくる。


「…!!」


するとそこには、とんでもない事実が記されていた。


『数ヶ月経って気付いたことがある。フランはとんでもない力を持っている。

伸介やレミィも将来的には凄まじい力を覚醒させるだろうが、フランは産まれながらにして力を持っている。それも、とても危険なものだ。

物質の核を自らの掌まで持っていって、握り潰すというものだ。核を握り潰された物質は、跡形もなく爆発四散する。

あの能力は危険だ。まだ幼いフランが扱えるようなものではない。一時的な封印を施しておこう。フラン自身の力も少し弱まってしまうが、致し方ない。

それに戦闘訓練にも参加はさせない。いや、参加させてはいけない。フランがもしその能力を暴走させてしまったら、我々だけでなくフラン自身にも危険だ。

この事はフリーダ以外には誰にも話さないことにしよう。フランには、来るべき時が来たら話そう』


日記を持つ手が、震えている。

驚愕の事実を知ったことともう一つ、イザベルはとんでもない事を考えていた。


「…は、ははっ…!そういう事だったのか…!」


その日からイザベルは、フランを見る目が変わっていった。





──そして、月日は流れ、現在。


フランは5歳になり、イザベルは21歳。


「イザベルー!きたよー!」


「お待ちしておりました、フラン様」


「えへへ、おまたせー。今日は何するの?」


「今日はですね、魔力の使い方をお教えします」


「やった!これでお父さまやお母さま、伸介やお姉さまの役に立てるかな!?」


「もちろんです。フラン様は才能の塊ですから、すぐに強くなれますよ!」


「うん!がんばる!」


イザベルは三年前からずっとレオールに秘密でフランに戦闘訓練をさせていた。

紅魔館から遠く離れた広い洞窟の中で。



「……おお」


フランが凄まじい魔力を放出し、辺りを吹き飛ばしていた。

イザベルは何とか受け流せたが、吸血鬼と言えどこの歳の少女が出していい魔力量ではなかった。


−やはりこのお方は、才能の塊だ。


邪悪な笑みを浮かべる。


「やったよイザベルー!」


フランが無邪気な笑顔で手を振っている。


「…頃合いか」


イザベルがポケットから飴玉を取り出す。


「はい、大変素晴らしかったです。私も驚きました」


「えへへー♪あ、飴だー!今日は何味?」


「はい、今日はいつもと違って珍しいものを買ってまいりましたよ。どうぞ」


「わーい!いただきまっ……ん?」


フランが口に入れる寸前で、気が付いた。


「ねーイザベルー。これ何でイザベルの魔力が混ざってるのー?」


「!」


−…何だと…!?この小娘……!私が"あの"魔力を混ぜていることに気付いた!?

いいや、落ち着け。気付かれたからなんだ。誤魔化せばいい。


「バレてしまいましたか……実は普段頑張っているフラン様にご褒美と思い、今日は特別に私の魔力を少し与えて強くなってもらおうと思ったのです。サプライズのつもりでしたが、さすがはフラン様ですね」


「そうだったんだ!ごめん、気付いちゃって…」


「いえいえ、大丈夫ですよ。…魔力が入っているのが嫌でしたら、別のものをあげましょうか?」


「ううん、大丈夫!わたしのために用意してくれたんだから食べなきゃ!」


その言葉を聞いて、薄ら笑いを浮かべる。


「まあ、お優しい。…では、どうぞお食べください」


「はーい!」


フランが口にそれを入れようとする。


−勝った…!


バキィッ


「…え?」


フランが、その飴玉を握り潰したのだ。


「…なーんて言うと思った?バレバレだよ、イザベル」


「…え…!?」


「今までの飴玉にも貴女の魔力が混ぜられていたのも知ってるよ。けど、今日のはいつものと違う魔力だね」


「…なっ…!」


−こ、このガキ…まさか…!!


「私のことを甘く見過ぎたね、イザベル。……信じたくはなかったけど、私のことをどうするつもりだったのかな?」


「……先ほども言いましたが、貴女を強くするためのサプライズと…」


「それならどうして今更特別だ〜なんて言ったの?それなら最初から言ってればよかったじゃん」


「…それ、は…」


「…やっぱり、私のことを利用しようとしてたんだね、イザベル」


「……そ、そんなことは…ありえませんよ。私は貴女に仕える者。そのようなことをするはずが…!」


「…そっか!じゃあその言葉を信じるよ」


フランがイザベルを真剣な表情で見つめていたのに、突然気の抜けた顔になる。


「…!」


−やはりまだ子供か。単純なことだ…!


「はい。今まで魔力混入を黙っていたことは謝ります。申し訳ありませんでした…」


「いいよ、善意での行動ならわたしも嬉しいし!」


フランが後ろを向いて、洞窟を出ようとする。


「それじゃ、帰ろっか。今日も教えてくれてありがとう!」


「…はい」


−やるしかないな。ここで。


イザベルは背後からゆっくり近づき、フランの真後ろまで来た。


−……フラン様


私を信じてくれて……ありがとうございます。


邪悪な笑みを浮かべて、イザベルは右手に魔力を集中させ、魔力を纏わせる。

その手を、フランに向けて振るった。


ガッ




「……!?」


「…やっぱり、嘘だったんだね。イザベル」


フランは右手でイザベルの右手首を掴んでそれを防いでいた。


「なっ…!!」


「もう弁明の余地はないね。貴女の負けだよ、イザベル」


「お、おのれ、小娘ぇ!貴様はまさかこれを狙って…!」


「お父様がどうして私に戦闘訓練をさせなかったのか、私が知らないとでも思ったの?」


「…なっ…!」


「自分のことがわからないほど、私は愚かじゃないよ」


「知っていたのか…!自分の能力を…!」


想定外のことが起きすぎて、イザベルは焦っていた。

そう、何年も前から知っていたはずだ。

フランはとても用心深いということを。


しかし、それでも。

フランはまだ5歳だと、甘く見過ぎていた。

よもや、これほどまで勘付かれていたなんて。


「倒させてもらうよ…イザベル!」


「…ふっ」


「…!?」


そう、確かに想定外だ。

だが、それが絶体絶命であるかと言われると、否。

用心するに越したことはない。

この時イザベルは、自身の用心深さに感謝した。


「何がおかしいの?」


「いやぁ、流石だなと、思いまして。くくっ」


「諦めの自嘲っていう風には見えないけど」


「フラン様。貴女は私には完全勝利でした。褒めてあげましょう」


「…何が、言いたいの?」


「そう……"私には"ね」


ドンッ


「…え?」


フランの右手を、銃弾が貫いた。


「…いったっ…あぁ…!!」


「雇っておいて正解だった。狙撃手スナイパーをね」


「スナ、イパー…!?」


洞窟の入り口の岩陰に、スナイパーライフルを構えた男がいた。


「…はっ、どんな気分です?逆転されましたね」


「ふーっ…!ふーっ…!」


さすがのフランも、5歳ともなれば腕を銃で撃たれるなんて激痛は味わったことがない。

なので、パニックになっていた。


「貴女とは年季が違うのですよ、お嬢様。あぁ、可哀想に…五歳でそんな体験をしてしまうなんて」


「…イザ、ベルは、私を、どうするつもりなの…!?」


「さあ…どうするんでしょうねぇ…くくくっ」


イザベルが、また別の飴玉を取り出す。


「念のために二つ用意していてよかった」


「その、飴玉に……何の魔力を…!?」


叫ぶのを堪えてフランが言う。


「…食べればすぐにわかりますよ」


「…はっ…ぅ……はぁっ…!」


「…痛そうですねぇ、その手の穴。これを食べればすぐ楽になれますよ」


「……!」


フランがイザベルを睨みつける。


「おお、怖い怖い。ただでさえレオールの封印で力が弱まっている上であれだけの魔力放出ができるのだから、封印が無ければ恐ろしいな」


「…ハァッ…!ハァッ…!」


あまりの激痛に耐えられず、フランの意識が薄れてくる。


「抵抗しても構いませんよ?ただし、片手の貴女にやられるほど私も甘くはありませんが」


「…はぁ…はぁ……ぁっ…」


フランが意識を失った。


「…ふっ…」








「…イザベルが見当たらんな。何をしているんだ」


レオールは、自室で本を読みながらそう呟いた。


「……」


−この頃、アイツとフランがよく出掛けるところを目にするが……。


「まさか……まさか、な」


その時、レオールが何かを感じとる。


「…これは…!?」




「さあ、着きましたよ」


「……」


「紅魔館です。今から何をすればいいのかわかりますね?」


「…はい」


「よろしい、では確認です。貴女のその力と体は誰のものですか?」


「はい。


この力と体は全て、イザベル様のものです」


「…そう…それでいい」







ガチャ


「…あ、フラン!どこ行ってたのよー」


フランが、伸介とレミリアとフランの部屋に入ってくる。

伸介は現在昼寝中のようだ。


「……」


「…?どうかしたの?フラン」


「…お姉、さま」


「ん?」


「…ううん、なんでもない」


「…?そっか。…何か悩みとかあるならお姉ちゃんに言ってね?」


レミリアが笑顔で言う。


「うん、ありがとう。わたしちょっと飲み物とってくるね。お姉さまと伸介は部屋で待ってて。何があっても絶対待っててね」


「?うん、待ってるわ。いってらっしゃい」


フランは早足に部屋を出ていった。




「…何だ、これは…!!」


レオールが自室から出ると、館のあちこちから火が上がり、廊下には雇っていた役人、メイドが無残に殺されている死体が大量にあった。


「…バカな…私がこんな事態に気付かないはずがない…一体誰の仕業だ!?」


そしてレオールは、真っ先に家族の心配をする。

ここから一番近いのは、フリーダの部屋だ。


「フリーダァァァ!!」




「……」


フリーダの部屋に入ると、そこは火で覆われていた。

そして、下半身を吹き飛ばされ、さらに炎に焼かれたフリーダの死体が、レオールの眼に映る。


あの感じはもう生きていない。

脳組織を破壊されて意識を失い、下半身を吹き飛ばされ、炎に炙られた。

あの状態で生きているのはありえない。


「……」


レオールは静かにその場を立ち去った。

そして、廊下に出た。


「…許さん…!!


絶対に許さんぞォォ!!!」


大声で叫んだ。

そして、超高速で移動する。


レミリア達の部屋に行こうと、階段まで走っていったその時だった。


「…!!?お、お前は…」




「ようこそ地獄へ


……ご主人様」




イザベルが、階段の踊り場に悠々と立っていた。


「…貴様か、これの犯人は」


「如何にも、私がこれの犯人です」


その言葉を聞いた直後、レオールは凄まじいスピードでイザベルに飛びかかる。

しかし……。


ガッ


「なっ!?」


「…ふっ」ニヤァ


「……」


「フ、フラン!?」


フランがイザベルの前に立ちはだかり、レオールの攻撃を防いでいた。


「……」


「!!」


フランがレオールの右手を掴もうとする。

レオールは慌てて飛び下がった。


「…フラン…一体何が…!?それに、封印も…!」


「フラン様は自分の意思で私に協力してくれたのですよ」


「馬鹿を言うな!!フランがこんなことを出来るはずがない!!」


「では本人に聞いてみましょうか。確認です、フラン様。貴女のその力と体は誰のものですか?」




「この力と体は、全てイザベル様のものです」




「───なっ…!?」


「はははははっ!聞きましたね!?これがフラン様の、いえ、フランドールの意思です!自ら私に従ってくれているのですよ!」


「…貴様ァ…!フランに何をした!!」


「いいんですか?私に気を取られている場合ではないでしょう」


「!!」


フランがレオールに襲いかかってくる。


「フラン!よせ、やめるんだ!お前は戦うのが嫌いなんだろう!?」


「無駄ですよ、今のフランドールにあなたの言葉は届きません。そしてあなたの始末に時間をかけている余裕もありませんよ!」


イザベルがレオールに向けて手を翳すと、フランの体から鎖のようなものが飛び出し、それがレオールの体に巻き付いた。


「なっ…!何だ、これは……!き、貴様やはり、呪術を…!!」


「…ふっ」


次の瞬間──


ドシュッ


「…かっ…!」


フランの右手が、レオールの心臓部分…即ち核の部分を貫いた。


「…終わりです。ご主人様」


「おぉ、のれ……イザ、ベ……ル…」


フランが手を引き抜くと同時に、レオールに向けて左手を翳す。


ドオオオオオオオオンッ!!






「…?」


レミリアが、館の様子がおかしいことに気付き始めた。


「……何か、変だ」


伸介も、部屋の外から爆音が聞こえてきたことで目を覚ます。


「…おい、レミリア。屋上いくぜ」


「え…どうして?」


「いいから早く!今は夜だから大丈夫だ!」


「う、うん」





ドンッ!!


レミリアと伸介の部屋のドアが蹴やぶられる。


「…ちっ。


逃げたか」


蹴やぶったのは、イザベルだった。


「伸介…やはり勘のいい奴だ。あいつから始末しておくべきだったかな」





「……ねえ、どうして屋上に来たの?」


「嫌な予感がする。あそこにいたらオレらは確実に死んでたと思う」


「え…死ぬって…な、何で!?」


「…来たぞ」


ドンッ!!


屋上の扉が乱暴に開けられ、イザベルがゆっくりとレミリア達の方へと歩いてくる。

その後ろには、フランがいる。


「…え、フラン…!?」


「こんばんは、伸介様、レミリア様」


イザベルが明るい笑顔でそう言った。


「…お前、フランに何をしやがった…!」


「…そうですね。あなた達には特別に教えてあげましょうか」


イザベルが一つの飴玉を取り出す。


「…飴玉?」


「この飴玉には、私の魔力が混ぜられていましてねぇ……これをフラン様…いいや、フランドールに長い年月をかけてたくさん食べさせてきました」


「…!」


「そして、密かに溜まっていった私の魔力に反応する、"別の魔力"を混ぜた飴玉を食べさせました。


そして、呪術を使い、フランドールの体内の私の魔力とその別の魔力をリンクさせ、私の魔力でフランドールの体を支配する……といったものですね」


「…え?」


「理解できていませんか。そうですねぇ、簡単に言えば……『操り人形を作る実験』を、フランドールでやらせてもらったってわけですよ」


イザベルが邪悪な笑みを浮かべてそう言った。


「…てめえ…!」


「じゃあ、フランは今…!」


「ええ、意識はありませんよ。私の操り人形です。フラン、『ドール』だけに…ね」


「何も上手くねえな、このクズ野郎…!」


「野郎ではありませんよ、ゴミ野郎。あなたはゴミらしく早々に殺されなさい」


フランが伸介に向かってゆっくり歩いていく。


「…フラン…目ェ覚ませ、フラン!お前…いいのかよ!そんな奴の操り人形にされちまって…悔しくねえのか!!」


しかしフランは、全く反応しなかった。


「…くそっ…!」


フランが瞬時に目の前まで移動してくる。

伸介はそれを空間移動で避ける。

その後もフランの攻撃を悉く受け流している。


「伸介!!」


「お前は逃げろレミリア!!オレが時間を稼ぐ!!」


「そ、そんなの嫌だ!!あんたも一緒に…!」


ヒュッ


「!?」


フランが伸介の視界から消えた。


どがぁっ!!


「ガッ!!」


フランが伸介の右側に現れ、伸介を蹴り飛ばした。


「伸介!!」


「ははははははっ!無様、無様!さあ次はレミリアだ!潰せ!!潰してしまえ!」


ヒュッ


「えっ…ギャッ!!」


レミリアがフランに蹴り飛ばされる。


「はははははっ!いいぞ!さすがはフランドールだ!!一人で紅魔館を壊滅させるなんて!」


イザベルが高笑いを上げる。


「……!」


その時、レミリアは見た。

フランは、とても悲しそうな顔をしていたのだ。


「……」


イザベルが、右手に魔力を纏わせる。


「さあ、とどめは私自身の手で刺してやろう。まずはお前からだ、レミリア」


「ぐっ…くぅっ…!」


レミリアが苦しそうにイザベルを睨む。


「ははははっ…さあ、さよならだな」


イザベルがレミリアの目の前まで来る。


「せいぜい父親や母親と共に地獄で仲良くするんだなぁ…くくくっ」


イザベルが手刀をレミリアに振るおうとする。

その時だった。


ドンッ!!


ガッ


「!?」


「そう、お前の思い通りに、させるか…!!」


何と、炎に覆われた紅魔館の中からレオールが飛び出してきて、イザベルを羽交い締めで抑えている。


「なっ…!?レオール!?貴様ッ…生きていたのか!!フランドール!!こいつを殺せ!今すぐだ!」


「確かにフランの一撃は凄まじかった。だがお前はまだ気付いていないようだな」


「なんだとっ…!?」


「貴様の呪術、まだ完成しているわけではないと見える。それとも、フランの意思が強いのかな?」


「…!?」


フランがその場から動こうとしない。

まるで堪えているかのように体を震わせている。

イザベルの命令に逆らっているのだ。


「フランは手加減してくれていた。どうやって私がかけた封印を解いたかは知らないが、本気のフランなら一撃で死んでいたろうな」


「…バカな…!完全に操れていなかったとでも言うのか…!?」


「さあ、もたもたしていると大変なことになるぞ?」


「!?」


「いってこい」


「…うん」


伸介がレミリアに魔力を与えていた。


そしてレミリアが、左手に巨大な槍のようなものを出現させる。


「お、おのれぇぇぇ!!こ、これではお前まで巻き添えを食らうぞ!いいのか!?」


「構わないさ。これでレミィやフランを救えるのならな!」


「ぐっ…!!」


レミリアがイザベルの正面に立った。


「…お父様」


「ああ、やってしまえ。…紅魔館のことは、お前達に任せるよ」


「…うん!」


レミリアが、槍を構える。


「ぐっ…!!フランドール!!何してる!!早くこいつらをどうにかしろ!!」


フランは、まだ震えたまま動かない。


「……!!」


「終わりだよ、イザベル」


「お、おのれぇぇぇ…!!こんな……こんなぁ!!」


イザベルが必死にもがくが、レオールは全く手の力を緩めない。


「よくも私の紅魔館をめちゃくちゃにしてくれたな。

今までの借りを返してやろう…!」


「ぐっ…!!」


レミリアがイザベルに向かって走っていく。


「みんなの仇…!


これで終わりだァァ!!」






「…終わりだと?」


「…え?」


「…なっ…?」


レミリアがレオールごと槍を突き刺していたのは、伸介だった。


「違うな。これからだ」


イザベルが、先ほどまで伸介がいた場所に立っている。


レミリアは訳がわからず、思わず伸介とレオールから槍を抜いた。


「伸、介?」


「ゴフッ」


伸介が大量の血を口から吐いた。


「バカな…今、確かに…イザベルを…」


レオールが腹部を抑えてふらついている。


「私と伸介の位置を入れ替えたのさ。転換魔法でね」


嘲笑うように笑いながら言う。


「…くそっ…!」


レオールが倒れた。


伸介も続くように倒れてしまう。


「…!!」


「…勝ったと思ったか?


残念だったなぁ、レミリア」


目の前の光景を見て、レミリアは感情が抑えきれなくなった。


「イザベル!!!」


レミリアがイザベルに突撃していく。


「…ふっ」


「うおおおお!!」


イザベルが右手に魔力を纏わせ、レミリアの槍を受け止める。


「なっ…!」


「まだまだ甘い」


「…!!うぅわぁああ!!」


レミリアが必死になってイザベルに攻撃する。

しかし、イザベルはそれを全て防いでいる。


ガキィンッ!!


「今のお前にやられるほど、私は甘くはないぞ小娘」


「ぐっ…!」


「ふんっ!!」


レミリアの槍を手刀でへし折り、レミリアを蹴り飛ばす。


「うわぁああっ!!」


「どうした?私を倒すんじゃなかったのか?」


イザベルがゆっくりとレミリアに近づいてくる。


「ぐっ…!!」


「それが今のお前の限界というわけだ」


立ち上がろうとするが、体に上手く力が入らない。


「ふん、これしきの事でもう動けんとは……いや、如何に手加減していたとはいえど、フランドール の攻撃をまともにくらったのだ。当然といえば当然か」


「…!!」


「所詮は悪足掻きだったということだ。…さて、これが片付いたあとに、フランドールのコントロールも完璧にするようにしないとな」


「……」


レミリアが俯いた。


「諦めたか?賢明な選択だ。それが最も早く楽になれる方法だった」


イザベルが手刀を構える。

レミリアの首を断つつもりのようだ。


「さらばだ!」


イザベルが右手を振り下ろそうとしたその時。


「ッ!?」


−なんだ…!?


イザベルの頭に一瞬電流が走ったような痛みを感じた。

そして……。


ドシュッ


「ぐっ!?」


イザベルの背中に、レミリアの槍の破片が突き刺さる。


「うおおお!!」


「!!」


レミリアがその隙をついてイザベルの腹部を思い切り殴った。


「ぐおっ…!」


イザベルは一旦後退する。


−な、何だ一体!?何故槍の破片が!?


「さっきの槍を私の魔力に吸い寄せられるようにした!」


「!」


「つまり、どういうことかわかる!?」


「…まさか…!」


イザベルが後ろを振り返ると、大量の破片が飛んできていた。


「ちぃっ…!!」


破片の雨がイザベルを襲う。

右手で破片を弾きつつ、その場から何とか逃げようとする。


「そうはさせるか!!」


レミリアが突っ込んでいく。


「私が近付けばこの破片はずっと追ってくるぞ!」


「…そうだな、お前が近くにいればな」


ドガァッ


「うぎゃあっ!」


イザベルが瞬時に移動してレミリアを右足で蹴り飛ばした。

その際、右足に破片が数個突き刺さる。


「…手こずらせおって…!だがこれで終わりだ」


槍の破片が全て消えた。


「惜しかったなぁレミリア。お前はよく頑張ったよ」


無傷だったイザベルが、今は少しだけ怪我をしている。


「この傷はお前のみでつけた傷だ。誇るがいい」


「ぐっ…!!イザ…ベ…ル…」


レミリアが倒れた。


「意識を失ったか……今度こそさよならだな」


イザベルが右手に魔力を集束させ、それを右手に纏わせた。

先ほどまでより鋭くなり、切れ味が上がったように見える。


「スカーレットファミリーは、貴様にとどめを刺して全滅の最期、というわけだな!


これで終わりだ!!」


イザベルが右手の手刀をレミリアに振るう。

その刹那。


ゾクッ


「…っ!?」


イザベルは、背後から凄まじい殺気を感じた。


「……」


恐る恐る振り返る。


そこに立っていたのは──。




「……フランドール……スカーレット……!!」


「終わりにしよう……イザベル」




フランが、そこに立っていた。


「…そうか…伸介の奴…!!」


−私とフランドール を繋いでいた呪術の回路を断ち切ったな…!!


伸介が自身の能力でフランの脳とリンクしていた魔術回路を断ち切ったのだ。

それにより、フランはイザベルの呪縛から逃れることができた。


「さっきの頭の激痛はそういうことか……」


「……」


フランが伸介の方を見やる。

既に意識を失い、うつ伏せで倒れてしまっている。


「ありがとう、伸介」


フランが拳を握りしめる。


ドオオオオオオオオンッ!!


「ぐっ…!?」


全身から莫大な魔力が溢れ出る。


「あいつは必ず、私が倒す」


莫大な魔力が、フランの中に収まっていくように消える。


「……」


フランとイザベルの距離は4メートル程。

一瞬の動きで決着がつく距離。


「……」


二人とも、微動だにしない。

互いをにらみ合ったまま、しばらく館が燃える音だけが鳴り続けた。



──パリンッ


「────ふっ…!」


紅魔館の窓ガラスが割れた音と同時に、イザベルが動き出す。

右手の刃で斬りかかった。


ヒュッ


「!?」


ドガァッ!!


フランは瞬時にそれを避け、腹部に左足による裏回し蹴りを入れた。


「ぐはっ!?」


「ハァッ!」


イザベルの腹部に右手による追撃を入れて、吹き飛ばした。


「ぐっ…!おおぉおおお!!」


すぐさま体勢を立て直し、イザベルがフランに突撃していく。

フランは右手に炎の剣のようなものを作り、イザベルの攻撃を受け止めた。


「熱ッ!?」


「やあっ!」


イザベルが熱さに怯んだ時に、フランが炎の剣でイザベルの左肩を切り上げで攻撃する。


「がぁあああっ!!」


「ふっ!!」


さらに右膝蹴りを腹部にくらわせ、顔を殴って吹き飛ばした。


フランはイザベルの吹き飛ぶスピードよりも早くイザベルの後ろに回り込み、左足で回し蹴りをくらわせて吹き飛ばす。


「ぐはっ!!」(こ、こいつ……


強い!!)「おおおおお!!」


フランが叫びながらイザベルに突進してくる。


「ぐっ…!!」


「たぁっ!!」


炎の剣を右手の刃で防ぎ、反撃しようとするが、凄まじいスピードでフランが連続で攻撃してきているため叶わなかった。


イザベルは防戦一方だった。

何も出来ず、ただただ防御し続けるだけ。


「むんっ!!」


「!」


ドオオオンッ!


イザベルが刃を爆発させた。


「ふうっ…!」


「はぁっ…はぁっ…!」


イザベルの息が上がり始めた。


−これ以上戦闘を続けるのはまずい、か。


「…終わりにしようと、言っていたな」


「……!」


イザベルがゆっくりとフランの正面まで歩いていく。


「お望み通り……正真正銘の最後の一手にしよう」


イザベルが、右手に魔力を集束させ、刃を作る。

先程までの刃より、一層鋭くなっている。


「……」


フランの右手に黒い稲妻のようなものが迸る。

フランからは紅いオーラが溢れ出ている。


「『レーヴァテイン』」


赤黒い剣状の武器を手にしていた。


「…!!」


−あの剣は…やばい。


イザベルは、あの剣に触れてはならないと直感で感じた。

確実に倒すのならば、レーヴァテインの攻撃を躱すか先に攻撃を当てるしかない。


「……」


「……」


二人が、無言で睨む合う。

聞こえるのは炎が燃え盛る音だけ。



────。


一瞬、辺りの時間が止まるような感覚を覚えた。

そしてその次の瞬間。


二人は、動いた。



──ザッ!


二人がほぼ同時に斬りかかる。


僅かに、フランの方が早かった。


レーヴァテインがイザベルの体を捉えようとした、その瞬間。


イザベルは身を躱し、それを避けた。


−勝った──…!



ザンッ





「…な、にぃ…?」


イザベルの左肩から胸辺りが、抉り取られていた。


「…ぐっ…ッ…!」


フランは、胸の中央を斬り付けられている。

イザベルが避けたと思った刹那、フランは魔力をレーヴァテインに送り込み、剣のリーチを伸ばしたのだ。


「…バカな…そんなっ…!!


私が…この私がッ…こんな、こんなぁ、小娘にィ…!!」


イザベルが苦しそうにフランの方に手を伸ばす。


「おのれぇ…!!…フラン、ドー…ル……」


イザベルが、倒れた。


「……私の、勝ちだよ……イザベル」


勝者、フランドール。

イザベル、体を抉り屠られ、死亡。







「…はっ…!!はぁっ…!」


フランが地面に膝をついた。


「…みんなを、助けないと…!」


フランがヨロけながら立ち上がる。


「ぐっ…!もう少し、もう少しだけ、動いて…お願い…!」


フランが、レミリアのところに辿り着く。


「…はあっ…はあっ…お姉様…手荒くなって、ごめんなさい」


フランがレミリアを紅魔館の外へ投げ飛ばす。

その際に魔法をかけて、着地前に勢いが弱まるようにしていた。


伸介にも続けてそれをした後、レオールのところまで行こうとする。


「あとは、お父様だけ…!みんな、もう少しだけ頑張って…あとで魔法で傷を…」




その時だった。


「貴様なんぞにィィィィ!!!」


「!!?」ガフッ


イザベルが起き上がり、右手に刃を作ってフランの胸に突き刺した。


「なっ…!?」


「オレが…このオレがァ!!貴様のような小娘にやられてたまるかぁ!!!」


「イザベッ……ガッ…ハァッ…!」


「ハハハハハハ!!死ぬのはお前一人だ!!オレは貴様となり、生きるのダァ!!」


フランは、体の中にイザベルの魔力が入ってくるのを感じ取る。


−…この感じ…!!

こいつ、私の体を!?


「ハハハハハハ!!お前の体をいただくぞォ!!」


「…あっ…ぁぁ…!やめ、て……!」


フランの意識が、段々と薄れていく。


「フハハハハハハハ!!これでこの最強の力はオレのものだァ!!全世界を跪かせてやっ…!!」ザンッ


ボトッ


イザベルの右手が切り落とされる。


「ギィィやあああああっ!!」


レオールが起き上がり、イザベルの右手を切り裂いていた。


「すまない、一人で無理をさせたな」


「お…父、様…」


「──ッッレェェェオォォォォォルゥゥゥ!!!」


イザベルがレオールに飛びかかる。


「なんと醜悪なる姿。それが真のお前の姿なのだな」


「…ッア゛」


イザベルの体が、腹部を境目に真っ二つになる。

レオールの手には、魔力で作られた薙刀のようなものが持たれていた。


「ァッ…アァッ…我が理想ゆめ…我ガ夢が…遠ざカル……!


……ふ、ふふふふ…しかシオレがこレで終ワルと思うナ…!!…不滅……我は不滅ダ…!!は、ハハハ……!!アァーハハハハハハッ」ドスッ


レオールがイザベルの口に薙刀を差し込み、そのまま切り上げた。


「未練を残すな、外道。

ここで無様に散るがいい」


「……お父様…」


フランが安心したように微笑む。


「…フラン。お前がいなければ、俺は死んでいたな。

よくたった一人で孤独に戦った。尊敬するよ、フラン。


……成長したな」


レオールが、フランにありったけの魔力を与えて、外へと投げ飛ばす。


「…え?」


「近くに太陽の光の入ってこない洞窟がある。そこに身を隠すんだ」


「…お父さッ…!!」


「幼いお前たちに任せることになってしまって、すまないな。ここはフリーダと私の…俺達の大切な居場所なんだ。

それに、イザベルは俺が拾ってきた。けじめをつけさせてくれ。


達者でな。俺はお前達のことが大好きだ」





その後のことは、あまり覚えていない。

けれど、私達はあの後も生き延びて、こうして幻想郷にまで辿り着いた。

胸の傷は、治ることはなかった。

イザベルの魔力の侵食が今尚進んでいるということは、お姉様と伸介にしか話していない。

そして、私は地下に幽閉してもらうことを頼んだ。

しばらくは、イザベルの魔力を抑えられる保証がなかったから。

そして最近ようやく抑えられるようになったから、幽閉生活は終わった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「…これが、イザベルについての全てだよ。魔力を流し込まれたからこそわかる」


「…フランとイザベルの一騎打ちは…私たちも知らなかったわ。…そう…そんなことが…」


「…すまねえな、フラン。そんな時だったってのにあの時オレ達は気を失ってた」


「ううん、気にしないで。あの時は一騎打ちの方がよかったと思うから」


「…でもイザベルの本性がそんなだとはね…」


「全くだ。…次会ったらぶちのめしてやらねえとな」


「ええ」


こいしは話を聞いて、イザベルに怒りを感じると同時に、掛ける言葉が思い付かなかった自分にも怒りを感じた。


「…その、ごめん。そこまで悲しい話だとは、思わなくて」


「ううん、大丈夫!…こいしには遅かれ早かれ、話すつもりだったから」


「…えっ…」


「一緒に戦ってくれてありがとうね、こいし」


フランが満面の笑みでそう言った。


「…うん」


こいしも、笑顔で返事を返す。


同時に、決意した。


必ず、イザベルを倒すと。

今回は結構長めになりましたね…笑


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ