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東方学園の怪談話  作者: アブナ
日常
30/82

異変







みんなみんな壊しちゃえ。壊しちゃえ。

嫌だ。壊したくない。誰も。

壊したい。

壊したくない。

こわしたい。こわしたくない。コワシタイ壊したくないコワシタイコワシタイコワシタイ。


――誰か、助けて。





「……」


夢を見た。

とても怖い夢を。


フランが私を殺そうとするんだ。


フランの顔は、すっごく楽しそうで、けれどすっごく悲しそうで。

笑っていて、泣いていて、楽しそうで、悲しそうで、苦しそうで、辛そうで。


最後に私が殺されたところで、その夢は覚めた。


私は自然と目から涙が流れていた。


「…壊したく、ない……誰も……」


フランは何か、私に秘密にしている事があるんじゃないか。

私はそう思った。あの夢で聞いた声は間違いなくフランの声だった。とても苦しそうだった。

……もしかするとフランは、今も苦しんでいるのかもしれない。


「……行かないと」


私は、すぐにフランのところに行かないといけない気がした。

今日は学校は休み。

早く行かないと、紅魔館に。









「ぬえー!ぬえー!」


命蓮寺の前で私は大声でぬえを呼んだ。


「おー!どうしたこいしー!」


ぬえが少し離れたところから声をかけてきた。


「今から遊ばなーい?」


「いいけど、どっか行くのー?命蓮寺で遊ぶー?」


「紅魔館に行くんだけどー!」


「お、マジ!?行く行く!」


ぬえとフランはすっごく仲がいい。

実は最近ちょっとした揉め事で吹奏楽部が潰れてしまって、それ以降部活はできなくなってしまったのだけれど、二人の仲は相変わらずよかった。


「ぬえはフランの事好きだよねー」


「え!?…!あ、ああ……うん。大好きだよ。優しいし可愛いし」


「わかるわかる!フラン可愛いよねー」


「うん!褒められるのに弱いところとかも超可愛い!」


「あ、わかるー!褒められたら顔赤くして笑うのほんとに可愛い!」


「ねー!」


「…ねえ、ぬえ。ちょっと、真剣な話になるんだけどさ」


「え?何?」


「私ってね、昔からよくおかしな夢を見るんだけどさ」


「うんうん」


「…その夢で、さ」


私はぬえに、今日見た夢の事を話した。


「……その夢ってのは、いつも正夢になったりすんの?」


「……直接的に、じゃないけど、間接的にいっつも……」


「それはどんな風に?」


「例えば、私がフランと弾幕ごっこをする夢を見ると、その日の弾演はフランがパートナーだったり…みたいな」


ちなみに弾演とは、「弾幕演習」の略称。

東方学園では妖怪組にのみ弾幕演習という体育の代わりとなるものがある。


「…ちょっと、不安だね。早く行こう!」


「う、うん!」


ぬえは話の飲み込みが早くて助かる。







「ぐー……ぐー……」


「…ね、寝てる…」


「門番ってこれで務まるのかな…?」


「…さあ?」


「まあ、美鈴はいっつもこうだからな」

「んん!?」


そこには伸介がいた。


「よっ、誰かの気配がしたから来たけど、お前らだったか」


「え、さっきまでほんとにいなかったよ!?」


「あ、お前らオレの能力知らないんだっけ?」


「え?能力なんてあったの!?」


「おう。オレの能力は『時空に干渉する程度の能力』だ。空間と時間に干渉できるんだよ」


「…え?つまり?」


「まあ簡単に言ったらテレポートみたいな事ができるのよ。そこに辿り着くまでの時間、空間に干渉して、目の前の時空を歪ませて、そこにワープできる穴を作る。そういう能力」


「す、凄いなそれ。もしかして敵を攻撃するのにも使えたりするの?」


「一応な。相手の体内の時空を歪ませて内臓破壊とか腕ちょん切ったりできる。あとは体内時間だけを時空干渉で加速させて血管を破裂させたりとか」


「つよっ!」


「ただこの能力、魔力使うんだよ。そんな大した量じゃないけどな。生物相手ってなると結構な量使うのね」


「な、なるほど……」


「それで時空を歪ませてここまでワープしてきたってことか」


「そういうことよ。遠くに飛べば飛ぶほどその時間の距離分魔力使うからあんまり遠いと一発でバッテバテだ」


「ここから博麗神社とか?」


「ああ、それは余裕だよ。こう見えてオレ結構な量の魔力持ってんのよ」


「へえ〜…!ってそうじゃなかった。私達フランに会いにきたんだけど今居る?」


こいしがそう言うと、伸介は欠伸をした。


「んぁあ〜?フラン?今日はいなかったと思うがなぁ。レミリアとどっか行ってたぞ」


「え、ほんと?行き先わかる?」


「すまん、わかんねえ。魔力感知とかできる?もしあれだったらパチュリーにでも頼むか」


「あ、それいい!お願いしてもいいかな?」


「おう。せっかくだしお菓子とか出すぜ」


「お、気が利くねぇ伸介!」


「おいおい、お前何様だっつの」









「図書館到着〜。その辺で本でも読んだいてくれ。パチュリー呼んでくるから」


「はーい!」


「あ、その前に。ここの本たまにトラップ仕掛けられてるのあるから気を付けろ。魔理沙対策だそうだ」


「ああ…納得」


「苦労してるんだねえパチュリーも」


そう言って伸介は何処かへ歩いていった。


「…それじゃあ、本読んで待っとこうか」


「えー、何か話しながら待っとこうよー。本読むのあんま好きじゃないし」


「もーぬえ。本を読む事は大事だよ?」






それから数分…。


「いや、ほんとに。ほんとに申し訳ない」


「あんた…あんた!私がなんて言ったか覚えてる!?」


こいしは全身びしょ濡れだった。


「いや、はい」


「なんて言った!?」


「えー、開くなって…」


「そしたらあんたなんて言った!?」


−『えー?ヒラメ?』


「意味わかんねえよ!!」


「や、あの…」


「そしたら今度あんた、その本開いてどうなった!?」


「水がドバーッと…飛び出てきました」


「それであんたなんて言った!!?」


−『許してヒヤシンス』


「ヒヤシンス!!!」


「いや、だから」


「だからじゃないよ!!そして水をどうにかしようとして私がそこの机にあった雑巾でぬえに拭いてもらおうとしたらあんたなんて言った!!?」


−『ねえ…この本はさ。きっとこいしに水分が足りてないと思ったんだよ。だから水を出して、こいしの花を咲かせようとしたんだよ!』


「何の話だよ!!!」


こいしが自分の右膝を叩きながら言った。


「いや、だからね」


「まあいいよ!ぬえがよくわかんないのはいつもの事だし?でもさ!結局その辺の水を拭いてもらう事になった時、あんたその後なんて言った!?」


−『なあ…この出来事に、意味があるとは思わないか?』


「何が見えたんだよ!!!」


こいしが地団駄を踏みながら言った。


「その水から何が見えたんだよぉぉぉ!!」


「いや、いや」


「まあいいよ!多少面倒だって気持ちはわかるし!もう自分で拭くからその雑巾貸してって言ったらあんた…なんて言った!!?」


−『こいつは…私の相棒なんだ』


「初対面だろ!!!」


こいしが反り返りながら言った。


「何を我が物顔で相棒呼ばわりしてんだよ!!雑巾に謝れよ!!」


「落ち着い」


「落ち着けるかバカヤロー!!極め付けにあんた、なんて言った!!?」


−『許しなさい』


「何様だよ!!!」


こいしが謎のポーズをとりながら言った。


「何で上から!?つーかヒヤシンスどこいったんだよ!!一度見出したんなら貫けよ!!」


「…いや、ほんとに話を」


「見苦しい言い訳なんて聞きたくないよ!!」


「いや、そうじゃなくて」


ぬえがこいしの足元を指差した。


「…?」


何かの魔法陣のようなものがあり、そこから水が出ていた。


「…本から出たわけじゃ、ないんすよ。水」


「……


……許してヒヤシンス」


トラップの水も片付け、今度こそ普通に駄弁りながら待っていると、巨大な本棚の間からパチュリーが出てきた。


「あ、パチュリー!伸介呼んでくるの早いな」


「…別に私は伸介に呼ばれたわけじゃないわよ。あなたたち、伸介に騙されてるわ」


「え?」


「フランとレミィが出かけたって言われたでしょ。そんな話聞いてないし、レミィならそこにいるわよ」


「よっ!何やら私に用があるそうじゃない?」


「あ、別にレミリアに用はないかな…」


「何……だと……」


レミリアが固まった。


「わざとらしいわよレミィ。だからかりちゅまなんて言われるのよ」


「じゃかましい紫もやし!」


「何ですって!!」


「あ、あのー、とりあえずさっきの話、どういうことか聞かせてくれない?」


「…そうね。伸介はあなたたちに嘘をついているわ。フランは出掛けていないしレミィもここにいるからね」


「…じゃあ、何で嘘なんか……」


「…まあ、心当たりはあるけどね」


「?」


「この頃フランの様子はおかしいの」


「…!」


「…やっぱりって顔ね、こいし。何か知ってるの?」


「……いいや、別に。何となくだけど、そう思ってたから」


「そう……レミィは?」


レミリアは、先ほどまでの表情とは真逆の、とても深刻な表情をしている。


「私がどれだけあの子と共に過ごしてきたと思ってるのよ。……とうとう、抑えられなくなってしまったのかも」


「抑えられなくなった?」


「…その昔、あの子はとある実験の実験体にさせられていたの」


その言葉を聞いて、その場にいた全員が驚いた。


「実験の名前は『兵器化』。意思のある生き物を完全に支配する事ができるようにするっていうものだったの」


「…なっ…!」


「あの子は、産まれながらとんでもない力を持っていた。それにいち早く気が付いたのが、私達のお父様だった。お父様はその力を誰にも悟られぬよう、フランだけは絶対に戦闘訓練も魔術習得もさせなかった。きっと、その力を利用されてフランが狙われたり、酷い目に合うのを防ぎたかったのだと思う」


「…あなたたちのお父様は、温厚な吸血鬼だと聞いてはいたけど…」


「ええ、それなりにね。強奪とかは一切しなかったし、食料も出来る限り少ない数で済ませていた。まあ、ようするに人間をあまり殺そうとしなかったのよ」


「…だからフランも、あんな性格なんだね」


「ええ、フランはお父様の性格によく似てるわ。髪の色も同じだし。…だからこそ、お父様は守りたかったんだと思う」


レミリアは、近くにあった椅子に腰かけた。


「でもそれは長続きはしなかった。お父様があまりにフランを戦線に立たせようとしない事を逆に言え怪しんだ奴がいたの。


そいつの名はイザベル。その時代の紅魔館のメイド長よ」


その時だった。


ドンッ


「…えっ」


レミリアの眉間を、銃弾が貫いた。


「…レ…!!


レミィ!!」


「なっ…何処から…!」


「あそこだよ!…誰かい…!?」


そこに立っていたのは――


「……それくらいじゃ死にはしないだろう」


「…伸、介…!?」


レミリアが倒れた。


「レミリア!」


「大丈夫、吸血鬼はこれくらいじゃ死なない。けれど、脳を攻撃されたから一時的に気絶しているだけ。…伸介、あんたまさかフランを…!」


「オレの行動をどう思うかはお前らの勝手だ。レミリアは貰っていくぞ」


その時、レミリアのいる空間が歪む。


「!これって…!」


「伸介の能力ね…!させないわよ!」


パチュリーが伸介に向けて炎の魔法を放つ。


しかし、伸介は腕でそれを掻き消してしまった。


「そんな魔法、オレには当たらないぜ。それくらいはわかるだろ?パチュリー」


「……!」


レミリアが伸介のところに現れる。

伸介はレミリアを右腕で担いだ。


「じゃあな。追ってくるならそれなりの覚悟を抱いて来いよ」


時空の歪みが発生し、伸介が消えた。


「…やられたわ…思えば伸介もイザベルの管轄だったものね…」


「ど、どういう事!?何で伸介は私達を…!」


「伸介の狙いはおそらくフランの能力よ。イザベルと同じように、実験をするつもりなんだわ」


「え…じゃあ、つまり……


伸介は、私達を裏切ったって事?」


「そういう事よ」


「……」


そう言われて、こいしは思った。

そんなはずはない、と。


−これは受け入れたくないから、だとか、伸介が裏切るのがショックだから、だとか、そんな事じゃない。

確信だった。伸介が私達を…いや、フランを裏切るなんて事は絶対にない。

伸介のフランに対する想いは本物だ。嘘偽りない、守りたいと言う強い想いが、確かに伸介の中にはあった。

その伸介が、フランを裏切るような事をするはずがない。


しかし、ここで言ったところで、今のパチュリーは親友とその妹を奪われたと思っているわけだから、意味ないだろう。

この事は心の片隅に置いておくとして、伸介を追わなければ。

あの行動には、何か理由があるはずだ。


「…とりあえず、伸介を追おう。そこにきっとフランもいるはず」


「そうね……少し待っていなさい、魔力探知をするわ」







伸介は能力で紅魔館の地下室に飛んだ。

そこには、ベッドの横で立っている咲夜と、そのベッドの上に座っているフランがいた。


「お帰り、伸介。早かったね」


「ああ、こういう汚れ仕事は慣れてるからな」


「そっか。ごめんね、みんなに追われる形になるよ……」


「構わねえさ。お前のためだ」


「…ありがとう」





ヒヤシンスのくだりのところは、わかる人にはわかるはず笑


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