モテる女の子の恋愛事情 前篇
「でさー、お姉ちゃんがお弁当作り忘れちゃったらしくてさー、ちょっと食堂について来て欲しいんだ」
「いいよー」
こいしがフランに話しかけている。
今は昼休みで、昼食を食べる時間である。
しかしこいしは弁当を持ってくる事が出来なかったようだ。さとりが寝坊して、弁当を作らなかったという。
「ところでフランは弁当は?」
「残念ながらあるんだよねー、咲夜はそういうところは手を抜かないから」
「あー、わかるかも…わざわざごめんね、付き合わせちゃって」
「いーよいーよ、ちょうど動きたいとこだったし」
「ははっ、理由もうちょい考えなよ!」
「動きたいって大変素晴らしい理由だと思うけどなー」
二人が他愛のない会話をしながら教室を出ていく。
「最近仲良いよなーフランちゃんとこいしちゃん」
「なー。やっぱ行方不明になってた時に何かあったんだろうなー」
「ちくしょー俺もフランちゃんと親睦深めてぇー!」
「ははっ、お前じゃ見向きもされねえって!」
「んだとぉー!?」
教室内の男子達の中では、フランとこいしの二人はモテモテであった。
ちなみに二人はその事を知らない。
しかし、ほとんどの男子が寄せる好意は『姫様と忠臣』のような好意だった。
しかし一人だけ、本気で好意を寄せている男子がいた。
「……」
「直哉ー、遊び行こうぜ!」
「ん、悪ぃ俺ちょい別の用事あっから」
「あ、そう?じゃあまた今度な!」
「おー」
それが、浅田直哉である。
「でねー、お燐ったらご飯をぶちまけちゃって。手伝うつもりが逆に迷惑をかけちゃったっていう」
「うわぁ、悲しい」
二人が食堂に向かっている途中に……。
「お、フランじゃん。よーっす」
「あっ、伸介。やっほー」
「おおー、久しぶりに会った気がする」
「おー、こいしも一緒か」
伸介が「悪ぃ、また今度な」と友人達に言った。
そして、こちらに歩いてくる。
「いいの?友達行っちゃったけど」
「いーよいーよ。フラン、今から飯だろ?一緒に食おうぜ」
「お、伸介も?いいね、食べようか」
「よっしゃ決まり。こいしはどうする?」
「え、この流れで私断ると思う?」
「断ったら面白かったのになー」
「ちょっと!?」
「じょーだんよ、じょーだん。さ、行こうぜ」
「ははっ、伸介、あんまりこいしをからかわないの」
「へーい」
「くっそー何か敗北感あるなぁー」
「伸介はこういう奴だから、慣れないうちは気分悪いかもだけど許してね、こいし」
「おい、さりげなくdisったな?」
「はははっ!バレたか!」
「…!」
−す、すっごい仲良いなぁ二人。
こいしは伸介とフランの仲の良さに驚いた。
話を聞いた限り、義兄妹というヤツのようだが、それにしたって仲が良い。
「ん、こいし?どうかした?早く行こうよ」
「え、あ、うん!」
自分がこの二人の間に入ってもいいのか、と少し不安になったこいしなのであった。
「んー…どれにしようか」
「これの大盛りなんかがオススメだぜ、唐揚げ五個ににキャベツの千切り、おまけに味噌汁までついてる」
「おー、それはいいね!じゃあ唐揚げ定食にしよう」
「あとは焼肉定食もオススメだ。量はその唐揚げ定食より少ねえけど、味は多分こっちのが美味い」
「なるほど…伸介は結構食堂に通ってんだね」
「おうよ、定食の王の異名を持ってるぜ」
「何そのフリーターの極みみたいな名前」
「その発言のセンスに脱帽だわ」
「何も被ってないじゃんか」
「そこは気にしてはいけない」
二人がフランの待つ机に向かっていく。
「あ、おかえりー。何頼んだの?」
「私は唐揚げ定食!」
「お、いいね〜。美味しいよー食堂の唐揚げ」
「へぇー、楽しみ!」
「伸介は?」
「オレはカツカレー。今日は腹減ってんだよな」
「…あれ?ところで、何でフランは弁当持ってきてるのに伸介は持ってきてないの?」
「オレが咲夜に弁当作るの遠慮してるから。レミリアとフランの分だけでいいよ」
「咲夜は助かってるらしいよ。男と女じゃおかずの工夫が変わるらしいから」
「ああ、オレも聞いてるよ」
「へえ〜」
「なあ、フラン!」
「ん?」
三人が和気藹々と話していると、一人の男子がフランに話しかける。
「勉強教えてくれよ!」
「直哉くんだったか。急に呼び捨てにするからびっくりしたよ」
「い、いいだろ別に!それよか勉強教えてくれよ」
「いいよー、また後でね」
話しかけてきた男子は、こいし達一年A組のクラスメイトの浅田直哉だった。
「ええ〜今すぐじゃダメか?」
「ごめん、今はご飯食べてる」
「あ、それはそうだ。ごめんな無理言っちゃって」
「ううん、大丈夫よ。…ていうか珍しいね、直哉くん勉強なんて滅多にしないでしょ?」
フランがニヤニヤしながらそう言う。
「そ、そんな事はねえよ?単にフランがいる時だけたまたま勉強してねえだけ」
「へぇ〜そう〜?」
「な、何だよいいだろー別に!じゃあ放課後、教室な!」
「はーいはい、また後でね〜」
直哉が去っていった。
「上手い事馴染めてんじゃん。お兄ちゃんは嬉しいぞ」
「む、なーんかムカつく。伸介は私よりちょっとだけ生まれが早いだけでしょー」
「それを兄妹ではお兄ちゃんって言うんだぜ」
「そうだけどそうじゃなーい!実の兄妹じゃないでしょって事!」
「いーじゃん。オレ兄貴ヅラしてみたいのよ」
「…まあ、それなら、妹って事でも、別にいいけど」
フランが少し照れ気味にそう言った。
「お、照れてる。やっぱ妹は可愛いなぁ〜」
「うるさいお兄ちゃんは嫌いだよ」
「お、おう。悪ぃ」
「…ははっ、何というか、直哉の気持ちもわかるかもなー」
唐突にこいしがそう言った。
「ん?」
「何が?」
「おまけに無自覚ときたもんだ。これはこうなっても仕方ないね。
まあ、これは直哉の心情だから、私がとやかく言うのは違うかな〜」
「…え、そういう事…?」
「…あ〜…」
フランは、またか、というようにため息をついた。
「その反応だと今回が初めてじゃないんだ…」
「うん…好意を抱いてくれてるのは凄く嬉しいんだけど、それに応じる事は私はできないなぁ」
「つまりあいつ、オレに嫉妬してんのか…兄妹とも知らずに?」
「さすが、モテモテだねえフランは」
「ちょっとこいし、冷やかしてる?」
「はははっ!そんな事ないよ!素直に凄いなって思っただけ!」
「…なあ、フラン。何でお前、いっつもフるんだ?別にいい相手だって今までいただろ」
伸介が、真剣な目でフランに聞いた。
「…私と付き合うって事は、色んな迷惑をかけてしまう事だってわかってるから。それに……」
「…それに?」
「…ううん、何でもない。
吸血鬼と人間が付き合うのはダメでしょ?そういう事だよ」
「んー、まあそりゃあそうだ」
「でしよ?」
「でも羨ましいなー、普通に振舞ってるだけで告られまくるなんて!」
その後は何事もなく昼休みを終えた。
フランは、直哉に勉強を教えるために教室に残っていた。
「…直哉くん、遅いな」
終礼を終えてから、直哉は何処かへ行ってしまった。
しかし、カバンは置いてあるため、帰ったわけではないのだろう。
直哉の机の方を見る。よく見ると、何かの紙が直哉の引き出しに入っていた。
『ごめん、部活で呼び出しがあったから少しだけ遅くなる。多分4時半くらいには戻れる。5時過ぎても来なかったら帰っていいよ』
とのことだった。
現在は16時15分、つまり4時過ぎくらいだ。
「…んー、退屈だな。とりあえず屋上でも行ってようかな」
フランは、何気無しに屋上に向かった。
屋上の扉を開くと、そこには伸介がいた。
タバコを吸っている。
「あっ」
「げっ」
フランは、伸介がタバコを吸う事を知っている。しかし、体に悪いものだという事は知っているので、あまり吸わないで欲しいと思っている。
「また吸ってる〜…!」
「や、悪い悪い。またっつってもこれ三週間ぶりだぜ?」
「充分な頻度だよ!ったく……」
伸介がタバコの火を消した。
そして、口直しの飴を舐め始めた。
「……それはそうと、フラン」
「ん?」
「お前さ、今日の昼休み、『迷惑をかけてしまうから』告白を断ってるって言ってたよな」
「うん。だってその通りだからね」
「…なあ、フラン」
伸介が、フランの両肩に手を置く。
「もう、お前は幸せになってもいいんだ。
だから、自分の好きなようにすればいいんだ。
それで相手に迷惑がかかる事になっても、きっと受け入れてくれる。
もしダメだったり辛いことがあったんならオレに甘えに来い。いつでも癒してやっから」
伸介がそう言うと、笑顔になった。
「…熱でもあるの?」
「お兄ちゃんもう少し感動して欲しかったなぁ〜」
「ふふふっ!
……ありがと、伸介……お兄ちゃん」
「…おう」
「悪いフラン!!待たせちまった!」
「お疲れ様ー、ううん、全然大丈夫よ。じゃ、始めよっかー。何を教えて欲しいの?」
「…いや…」
「ん?」
直哉が机に座っているフランの隣に立った。
「…本当は、勉強なんかどうでもいいんだ」
「え?」
直哉は覚悟を決めるように、大きなため息をした。
「…フラン!
俺、ずっと前から、お前の事好きだったんだ…すっげえ可愛くて、優しくて、おまけに運動もスポーツも凄くて…いつもいつも、フランに目が釘付けにされてた。
…俺と、付き合ってくれないか」
「ーーー」
少しの間、沈黙が訪れた。
その沈黙を破ったのは、フラン。
「…あのね……ーーー」




