終結
フランとギルガメスが、数メートル離れてお互いを睨みつけている。
「ハァッ…!ハァッ…!」
「はぁっ…はぁっ…」
フランは膝をついて、その場に跪いている。
右半身に、少し火傷が見られた。
ギルガメスは、右腕が斬り飛ばされたにも関わらず立ったままだった。
「一手………こっちのが上手だったね……腕を斬り飛ばされた瞬間、爆弾を地面に落としたのさ……ただ、あれは最後の賭けだったし、悔し紛れの抵抗だ……」
息を切らしながら、ギルガメスが砲門を一つ展開し、フランに攻撃しようとする。
「お前の勝ちだ……満足して死ね……!」
「…!!」
−くそっ……ここまで来て…!
その時。
「そこまでだ、ギルガメス」
「…何…!?」
ギルガメスの背後にこいしが現れる。
こいしはギルガメスに向けて投影魔術で作った短剣を振るう。
ギルガメスはそれを後ろに飛んで躱した。
着地の際に、少しだけ体勢を崩す。
「ぐっ…!」
「フラン!大丈夫!?」
「…こいし……」
「少し休んでて!ここからは私が…!」
その時、こいしはギルガメスの表情を見て驚いた。
「…そっか……生きてたのか……」
とても、穏やかな表情でそう言った。
「…?」
「さっきも言ったが、お前の勝ちで我の負けだ、フランドール」
「!」
「お前の言う仲間という奴を、信じてみるとしよう」
そう言うとギルガメスは立ち去っていく。
「なっ…逃げるのか!!」
「待ってこいし!」
「え!?」
「いいの……もう、決着はついたから」
「…!」
そう言った途端、フランがこいしにもたれかかる。
「フ、フラン!」
「無事で、よかった。こいし……!」
「……うん、フランもね」
こいしは、フランを背負ってレミリア達のところにまで移動した。
「フラン!!無事なの!?」
「う、うん。大丈夫だよ。こいし、ありがとう。降ろして大丈夫」
「ん」
こいしは言われるがままにした。
「勝ったのか?ギルガメスに」
「…んー、試合では勝って、勝負では負けた…って感じかなぁ」
「なんだそりゃ?」
「まあ、気にすることじゃないよ。…帰ろう、もう、邪魔するものは何もないんだから」
「!」
フランは、校門の方を指差してそう言った。
「帰れるんだよ。やっと」
「……やっと、帰れる……!」
ゆっくりと、全員が歩き始めた。
「……あーあ、結局、私の行動は無意味に終わっちゃったか……これじゃあ、こいしに申し訳ないなぁ」
「…目の前にいるのに、随分遠くの人に語るように謝るな」
ギルガメスが、まだ崩壊していない廃校の校舎の屋上の塀の上に座っている。その後ろには、メイジの姿もあった。
「ははっ!というか、私がフランだって気付いてた?」
「知らなかったに決まってるでしょ。何で言ってくれなかったの」
「言ったとして、貴女はどうしてたの?」
「……別に」
「ははっ、ま、少なくともこいしを殺そうだなんて事はしなかっただろうけど。それは結果オーライとして」
「…はぁー…!どうだかねぇ〜」
メイジは溜息をついた。
「…まさか、こいしも私と同じ事をしようとしていたなんてね」
「驚く事じゃないでしょ。あなたでも思い付くような事を、私が思い付かないはずがないじゃない」
「ははっ、随分刺々しくなったねこいしも」
「誰のせいだかね」
「ふふっ、ほんと」
「…ねえ、これからどうするつもり?」
「どうするって…そりゃあ、ね?わかってるでしょ」
「…はーっ…!もうどんだけ狩ればいいのやら…!」
「ははっ!それもこれで最後だよ。さあ、希望って奴の為にもうひと頑張りしようじゃない」
「相変わらずなんだかんだ言って優しいんだから」
「ちょっとー、褒めても何も出ないよ?」
「…ふふっ、そういうところ、ほんと可愛いよ。フラン」
「…きゅ、急に照れるようなこと言うの、やめてよ…」
全員の表情は、門を超えた時点で急変した。
「…はっ…?」
「…何だよ、やっぱ結局こうなんのかよ」
「……!」
「…大量の死人達が……
門の外に、いる…?」
凄まじい数の死人達が、立ち塞がっていたのだ。
「…メイジの、言ってた通りだ…!」
「こいし、まだやれる…!?私とあなたで何とか…!」
「幾ら何でも無理だよ!数が多すぎて体力がもたないしフラン達を守りながら戦う余裕なんてない!」
「ここまで来て廃校に戻るのも癪だしな…!」
「じゃ、じゃあどうするってのよ!?」
「…やるしか、ないでしょ!」
フランが死人達に向かって走り出した。
「…!」
こいしとレミリアが、その後に続く。
「『レーヴァテイン』!!」
フランがレーヴァテインを解放し、正面の死人達を薙ぎ払った。
「ここから一気に真っ直ぐ駆け抜けよう!
結界の途切れ目はそんなに遠くじゃないはずだから!」
「了解!!」
こいしとレミリアが、周りの死人達を蹴散らしていく。
「妖怪組はやっぱ違うな…!さとり、お前はどうするんだ!?」
「後方支援です!後ろは私が引き受けます!」
そこからは、話す余裕もなくなった。
死人の数はあまりにも多く、とても切り抜けられる数ではなかった。
最終的に、全員が背中合わせになる形で囲まれてしまった。
「…くぅ…!」
「はぁっ…はぁっ…!レミリア!どうにかならないの!?」
「ごめん、なさい…生憎と私もほぼ限界」
「…そんなっ…!」
「ウオオオオオオオオ!!」
辺りの死人達が、一斉に襲ってくる。
「!!」
−ここまで、なの…?
私達が必死に生き延びたのに…こんなあっけなく終わるの…?
全員が死人に襲われそうになったその瞬間……。
ドドドドドドドドッ
「!?」
空から大量の剣が飛んでくる。
「I am the bone of my sword.
Unlimited Lost World.」
突然、世界の様子が一変する。
「…これって…!」
「全く、忠告はちゃんとしたはずでしょ。脱出する時は気を付けろってさ」
メイジが、フラン達の前に降り立った。
「メイジ!」
「さあ、早く行きなよ。死人狩りの邪魔だから」
「…ありがとう」
こいし達が振り返り、走り始める。
「…さて。見ての通りここは剣の丘だ。この世界が起こす事は一つ。
剣の雨に注意しろ?」
空を覆うほどの大量の剣が、死人達に向かって放たれる。
ドドドドドドドドドドドドドドドドッ
こいし達の行く道の死人達は、メイジの剣で悉くと倒されていった。
「やっぱ、なんだかんだ言って助けてくれるよな」
「ええ、そうね。こいしの理想だものね」
「ちょっとだけ進む道を間違えただけ。私が目指す理想の形はまさにメイジだった気がする。
あれこそ『正義の味方』なんだろうね」
メイジの後ろ姿が、こいし達の目に映った。
「…でも、それでもまだダメだ。こっからはオレ達も気合入れねえとな…!」
メイジの援護があっても、まだまだ死人の数は減らない。
「押し切るのはさすがに無理、だよね…!」
「どうする?」
こいし達が話し合っている間は、メイジの剣が死人達を攻撃していた。
「…やっぱ、突っ込む以外できないよ。今はメイジもいるから、きっと行けるはず…!」
「そうと決まれば、さっさと行こう!」
「幾ら何でも考え無しすぎだろ!きついって!」
その時だった。
空から、何かが降ってくる音がする。
「…?」
−…人…?
「うわぁ!?」
レミリアとこいしの二人が、その何かを受け止めた。
「…え、ぬえ…?…ぬえ!?」
「こっちは聖よ、息もあるわ!」
「妹紅先生もそこに落ちてるぞ!」
何と、妹紅、そしてぬえと聖が空から落ちてきたのだ。
「ど、どういう…!」
「ふははははははは!!」
空から高笑いが聞こえる。
「無様な姿よなぁ雑種共!」
空を見ると、ギルガメスが居た。
口元を大きく釣り上げて、こちらを見ている。
「なっ…!何の用だ!」
「待ってお姉様、あいつはもう敵じゃないよ」
「え!?」
「そういう事だ。脱出の手助けをしたいという善意を汲んでもらえると助かるのだが」
そういうと、身につけていた黒いローブを、腹部に黒いリボンを巻いて上半身だけ脱いだ。
その容姿は、フランとそっくりだった。
ギルガメスの体から紅いオーラが発生する。
「あの地獄を生き延びた褒美だ。
最強最悪の地獄を見せてやろう!」
ギルガメスが足元の砲門からレーヴァテインを出す。
レーヴァテインが、ギルガメスの正面に浮いている。
「えっ…あれ、って…レーヴァ…」
レミリアが唖然としている。
しかし、その言葉は空間が裂ける音で遮られた。
「――裁きの時だ。
世界を砕くは我が破壊剣!」
ギルガメスから紅いオーラが、まるで一本の巨大な柱のように発生していた。
その時に、辺りの空間も壊れていく。
「な、何だこれ!?」
「これが、ギルガメスの本気……
みんな!急いでギルガメスの真下に!そうしないと巻き込まれる!」
その時、辺りを白い光が覆う。
あまりに眩しい光だったため、ギルガメスを除くその場にいた者たちは目を瞑った。
「…あ…」
次に目を開いた時に見えた光景に、誰もが絶句した。
「ふふははははははははは!!」
レーヴァテインから、凄まじい規模の魔力の奔流のようなものが発生していた。
まるで、巨大な隕石のような大きさだった。
「さあ!死に物狂いで耐えるがいい!!」
ガッ
ギルガメスがレーヴァテインを右手で掴む。
それを、ゆっくりと振り上げる。
「死して拝せよ……!」
レーヴァテインを勢いよく振り下ろす。
               
天
地レ
破 |
壊ヴ
せァ
し・
真
紅テ
のイ
神ン
剣
!
魔力の奔流が、レーヴァテインの動きに合わせて動く。
大量の死人達がいる方に向かっていく。
「何て…威力…」
「あれ、爆発するんじゃないの!?もっと離れた方が…!」
「その辺は調節してあると思うよ」
魔力の奔流が地面にぶつかる。
凄まじい光と共に、大爆発が起こった。
フラン達は、巻き込まれていない。
「…はっ…?」
「ちょっと次元が違いすぎない…?」
「フラン、あれ使われたの…?」
「…いや、使われかけた。使われてたら絶対負けてた」
「何を呆けているのだ、雑種共!早くいけ!」
「!そ、そうだ、今のうちに逃げないと!」
「ありがとうメイジ、ギルガメスー!」
レミリアと伸介、フランの三人以外が走り出す。
「…貴女は…やっぱり…!」
レミリアが、ギルガメスにそう言った。
ギルガメスは相変わらず笑みを浮かべながら
「…余計な詮索は控えてもらおうか?紅魔館の主人よ」
と言った。
「…!!」
「…お姉様、伸介。行かないと」
「…お前、それでいいのかよ?こんなところに残ったままでいいのか」
「…全くこのお人好し共め…!早く行けと言っただろう!それともここで我に消されたいのか!?」
レーヴァテインをフラン達に向けて翳す。
「伸介、お姉様。気持ちはわかるけど、行かないと!」
「…ええ!」
「納得いかねえけど、仕方ねえのか」
ギルガメスの言葉で漸くフラン達は結界の外に向かって走り出した。
「…さようなら、お姉様、伸介」
−せめてあなた達だけでも、幸せにね。
「二人に悲しい思いさせたら殺してやるからな、私」
少しすると、辺りに死人は一体も残っていなかった。
フラン達は、無事に脱出した。
廃校の空間が崩壊し始めていた。空間に残っているものは、廃校と共に全て消え去ってしまう。
この廃校、いや空間に残っているのは、ギルガメスとメイジだけだ。
二人は、廃校の屋上で隣り合って座っている。
「はー終わった終わった!もうあいつらの顔は見たくない」
「お疲れ様、こいし。決め台詞イカしてたよ」
「どうも。…って言うか、フランってあんな事できたの?強すぎない?」
「まあね。レーヴァテインに私の持ち得る魔力の大部分を注げばできる。ちょっと体力使うし一発しか撃てないからあれで倒せなかったらちょっとやばいんだけどね」
「あれだけの規模の攻撃を自分に向かって放たれて避けられる気はしないかな……」
「はははっ!まあ、確かにね!……ねえ、こいし」
「ん?」
「私のワガママにつき合わせちゃってごめんね。あの時……私がギルガメスを乗っ取った時、ほんとは貴女は廃校から脱出できたんだよ。それなのに私はまた貴女を……」
「…いいよ、別に。私としても、なんだかんだ言って楽しい時間を過ごせたんだ。たった一週間だったけど。
あんな場所に自分一人だけで残るなんて、私だって怖いから嫌だしね」
「…気付いてたんだ」
「いいや、今気付いた。謝ってきた時点で」
「ああ、そうなんだ。…ごめんね、やっぱり私は情けないなぁ」
「…私はそうは思わないけどね」
「え?」
「自分の大切なものを守る為に、自らみんなの敵になって、秘密裏に救おうとしてた。私は、それを情けないとは思わない。
自分を犠牲にしてまで救おうとしたその姿は、私はとても偉大だと思うけど」
メイジは、そっぽを向いてそう言った。
「…ふふ、ふふふふふ」
「ちょ、ちょっと!何がおかしいの!」
「ううん、ありがとう。やっぱりこいしは正義の味方だよ」
「…ふん。今更だよ」
「ふふ、そうかもね。…もし生まれ変われるなら、また、ぬえも合わせて私達三人で会いたいね」
「…そうだね」
「ねえ、こいし。手、握ってもいいかな」
「うん」
「ありがとう。…ずっと、こうやって仲良くしていたかったな」
「そうだね」
「残った時間は少ないけど、またこうやって貴女と話していられるのは嬉しいよ」
「そう、だね」
「…泣いてる?こいし」
「泣いて、ない…!」
メイジは、膝に顔を埋めていた。
「…もう、最後くらい笑ってよね。私と手を繋げた事がそんなに嬉しかったの?」
「…うれしいよ…うれしいに決まってるでしょ…!」
「そっか。ふふ、それはちょっと、私も嬉しいかも」
「…フランのバカ…何であの時…私も一緒に行かせてくれなかったの…どうして私を頼ってくれなかったの……!バカバカバカ」
馬鹿馬鹿、と連呼するメイジ。
ギルガメスは、そんな様子を見て微笑んだ。
「こいしに私を殺す事の協力をさせるなんてできるわけでしょ。貴女は優しいんだから、そんな事できるわけないじゃん」
「そうだけど!…わたしは、グスッ……あなたともっといっしょにいたかった…!」
「そっか……それは、ごめんね。私も、貴女とはもっと一緒に居たかったよ」
「…もう、この手は離さないからね。ぜーーったい、離さないから」
「ふふ、そっか。私も、絶対離さないよ。
私達、友達だもんね」
空間が、崩壊した。
跡形もなく、廃校は消え去っていった。
「……メイジ…ギルガメス…」
「……振り返っちゃダメだよ。私たちは、前に進まなくちゃ」
「うん、わかってる。
あの二人が残してくれたものを、無駄になんかしないから」
ギルガメスのレーヴァテインの漢字は◯XTRA_CCCの天地乖離す開闢の星のパロディである。
これにて廃校篇は終了。こっからはまた日常篇に入るよ!
 




