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東方学園の怪談話  作者: アブナ
第1章 学園の怪奇
17/82

【6日目・弐】



「……すばしっこい、というよりは、瞬発力が高すぎるという方が適当かもですね。


貴女、私の攻撃を見てから躱しているでしょう?フランドールさん」


「…ハッ……ハァッ…」


フランは一切のダメージを負っていなかった。しかし、息を切らしている。


「人間の体でそんな全身の神経をフルに使うような無茶な戦い方をしていては、そりゃあすぐに息も切れますよ。馬鹿ですねぇ」


「随分お喋りなんだね。息が切れてる今のうちにやっておかないと後で後悔する事になるよ」


「全く、生意気な小娘だ。吸血鬼というのはどいつもこいつもどうしてこう、生きのいい奴が多いのでしょう」


「そういう種族なんじゃないかな?…私は、あんまり今みたいな台詞を言うのは好きじゃないんだけどね」


「おや、貴女は比較的まともな吸血鬼ですね。さすがはフランドールさん、ぬえが好意を抱く人だ。…あ」


「…へ?」


つい口が滑った、とでも言うかのように、白蓮は咳払いをした。


「…別に構いませんよね。どうせ打ち明けるのでしょうし」


「……!」


−いや、別に好意を抱く=恋愛的好意とは限らないからね。…うん、限らないからねっ

今はそんな事よりも…!


「…ねえ、白蓮さん。貴女に一体何があったの?」


「……んー、そうねえ。どうせ生かして帰すつもりもありませんし、ここで言ってしまいましょうか。私がどうしてこうなったのかを……と、いうよりは、この学園の真実をね」








大量の死人アンデッドの死骸の前でレミリア達が話している。


「ふーっ、あらかた片付いたわね。さあ、ぬえの援護に…」


「いいや、その前に。第二陣が来るよ」


そういうと、階段の方から大量の死人達が現れる。


「なっ…!どれだけいるのよほんっとに」


その時、レミリアの目に何か赤い物体が見えたような気がした。


「…?」


「レミリア、観察力の高いあんたなら多分もう気付いてると思うけど」


「ん?」


「奥の方に、見えるでしょ。炎を纏った死人」


目を凝らすと、確かにメイジの言う通り。炎を纏った死人が見える。


「…何あいつ」


「妹紅だよ」


「…ん?」


「だから、妹紅」


その時、死人の纏っている炎が一瞬消える。

そして、次の瞬間。


ドンッ!!


「!?」


目の前に群がっていた死人達全員が、一瞬にして消えた。

奥にいる死人によって燃やされてしまったのだ。

そして、奥にいる死人の背中に、炎の翼が生えていた。


「…間違いないわね、確かにあいつはいつぞやの林の案内人だわ」


−これは一筋縄ではいかなさそうね……。


レミリアがグングニルを手に出現させた。


「あいつの相手は私がするわ。貴女達はぬえの援護に……」


「で、でもレミリア。あれって妹紅先生だよね!?そうだよね!?」


「おい、こいし…!」


こいしが声を荒げて言う。

伸介は静止させようとするが、こいしはお構いなしだった。


「ええ、そうね。でも殺さないと私達がやられるわよ」


「…!」


メイジが両手に短剣を持って、ゆっくりと歩いていく。


その時、こいしは何故か、メイジが持つ短剣が普通の短剣ではない事がすぐにわかった。


「その通り。ここで躊躇してたら”間に合わなくなる”」


その時、炎の死人が高速で突進してくる。


「!来たわよ!早く逃げなっ…」


「いいや、その必要はない」


次の瞬間、メイジが姿を消した。


「…え?」





「こんな奴に時間をかけてちゃ、私の目的も果たせないからね」


炎の死人が、切り刻まれていた。


一瞬の出来事だった。メイジは、炎の死人の動きに合わせて素早く切り刻んでいたのだ。

明らかに、そう動いてくる事を予測していたような動きだった。


「…!!」


「…さて」


メイジがゆっくりと歩いて戻ってくる。


「敵は片付いた。さ、ぬえとフランの援護に行こうか」


「…そ、そうね。でもとりあえず休まないと…このまま援護に行っても足手まといになるだけだわ」


「ああ、それもそうか」


その時、こいしが無意識能力を発動させた。


−そんな事してる暇はない…!私はフランの方に…


「でもその前に」





ドスッ


「…えっ…?」


メイジが、こいしの腹部に右手に持つ短剣を刺していた。


「…え」


「なっ…!」


伸介とレミリアは、その光景に驚いた。

こいしは、無意識能力発動中に攻撃された事に驚いた。


メイジが、短剣をこいしから抜いた。


「…何、で……」


メイジが左手の短剣をこいしに突き立て、そのまま頭目掛けて刺そうとする。


「やめなさい!突然どうしたの!!」


レミリアがグングニルでそれを防ぐ。


「…チッ…」


メイジが瞬時に後ろに移動した。


「最大のチャンスを逃すとは……私も焼きが回ったものね」


「質問に答えなさい!どうしてこんな事を!?」


こいしがその場に倒れた。


「こいし…!」


伸介がこいしを抱えて後ろに下がる。


「…この傷なら大丈夫だ。手当すれば助かる」


「そう、よかったわ…!…それより、あんたよ。メイジ」


「何だ?私の裏切りがそんなに予想外だったか?」


メイジが口元を釣りあげて笑みを浮かべる。

その表情には、こいしに対しての明確な殺意が見て取れた。


「…ねえ、メイジ」


「何?」


「……この際だから聞くけど…貴女は一体、何者なの?」


「何だ一体藪から棒に」


「貴女はまるでこの先に起こる事を……未来を知っているかのような動きを見せる時がある。さっきの死人の時もそうだ。


だからこそ、気になっていた。貴女は一体何者なの?」


「…そいつ、気を失ってるかな。なら、いいか。さすがにここまで素性を隠してきたんだ、そろそろ怪しまれると思ってた。


それにそろそろ、私の本当の目的も実行しないとね」


そうすると、メイジは普段被っているフードを取った。

そして、”ある物”を手に出現させる。


「…えっ…」


「…!?」


伸介とレミリアは、その”ある物”を目にして驚愕した。


「ここまで隠してきて、悪かったね。伸介、レミリア」









ドオオオオオオオオオンッ!


爆音が響き渡る。

その中心には、ぬえが立っていた。


「ぐっ…くっ!」


ぬえの右足に一本の刀が刺さっている。


「随分粘る……その部位に刺さるのはそれで三本目だぞ?並みの妖怪であればもう動かさぬはずだが」


ギルガメスがゆっくりと歩み寄ってくる。


「なめ、るなぁ!!」


ぬえが黒い靄を大量に発生させ、それを槍や剣の形にする。

それをギルガメスに向けて放った。


「己が身に凶器を受けようが変わらぬその威勢……往生際の悪さは認めるが、身の程を弁えた方が身の為だぞ。…尤も……


もう手遅れであったな」


それに応えるようにギルガメスの背後から大量の武器が射出される。

ぬえの武器は、相殺するどころかギルガメスの武器に打ち砕かれてしまっていた。


「なっ…!」





「――貴様の敗北は決定した」


「あ、ぎっ……」


ぬえの全身に、大量の武器が刺さっていた。

如何に大妖怪とは言えど、これだけの武器が体に刺さっていては何もできない。


「どうだ?どうあれ死ぬのなら、最後に荷を下ろすというのは。

せっかく遊んでやろうと思い再生不能の武器は使わないでおいてやっているのだ。ここまで来て、こうもあっさりやられてもらっては物足りぬというもの。

この学園の崩壊を危惧していたのは見抜いている。それ故に大技を使わないようにしていた事もな」


ぬえの全身に刺さっていた武器が消えていく。


「全力の貴様なら……まだオレを仕留める余地があるぞ?」


「…!」


−……確かに、奴の言う通りだ。私は全力を出していない。


私が全力ならばこんな奴、簡単に倒せるはずだ。

全力ならば、一瞬で終わらせられるはずだ。

全力ならば……!


――けど、それは出来ない。

私が全力を出せば、辺りが破壊し尽くされてしまう。

それは駄目だ。フランやこいし達が、みんな死んでしまう。

それだけは駄目だ。

だから、私は……!


「…私は…」


ぬえが立ち上がり、ギルガメスの方を睨む。


「……そうか」


ギルガメスが笑みを浮かべる。


「ならばここで――死ぬがいい」


瞬時に金色の波紋が浮き上がり、ぬえに向かって大量の武器が射出される。


−奴から飛ばされる武器には奴の魔力が混ぜられてる。相殺するのはまず不可能と考えていい。


なら自らの手で……!


ぬえが手に持つ槍に魔力を送る。


「叩き落とす!!」


ガキィンッ!


「!」


ぬえがギルガメスの武器を槍で弾く。

そして、武器の乱射が少し落ち着いたところで、ぬえがギルガメスに向かって接近していく。


「…ほう」


楽しそうに笑みを浮かべるギルガメス。

再度武器を射出させる。


「せいっ!」


正面に飛んできた武器を弾く。そして右に逸れて二撃目を回避する。


「はっ!セェッ!!ふっ!」


ガキィンッガキィンッ!


−接近さえすれば……こちらの勝ちだ!!


「うおおおおおおお!!」


「ッハハハ!やるではないか!」


ギルガメスが心底楽しそうに笑う。


「ならば、最大の試練をくれてやる!!」


背後に展開されていた金色の波紋の数が、凄まじい数になっていた。

武器が現れ、それが一斉にぬえに向かって放たれる。


−この感じ、今出現した武器の全てがおそらく再生不能の武器。

でも、あと少し…あと少しだ!


「おおおおお!!」


ぬえはその大量の武器を力の全てを振り絞って弾く。


−後の事を考えるな


奴を仕留める。


それ以外は、何もいらない。


「うおおおおおおおおおお!!」





ドシュッ


「ッぐぅ…」


ぬえの右足に剣が刺さってしまう。

さらに、一瞬の停止のせいで数本武器を体に掠めてしまい、切り傷が増える。


「これで片足!いよいよ後が無くなったな、大妖怪!!」


−…負けられない…!


ここでこいつを倒せば…きっとみんなが助かるんだ。

ここで私が倒せなかったら……みんなはこのままこの地獄に残される


ガキィンッ!


「…!」


ぬえがまた接近し始める。


「…切れ」


ガキィンッ


進め…!


ガキィンッガキィン


切れ!


ガキィンッ!!


進めェ!!!


「オオオオオオオオオオオオ!!!」


「…ふっ」






「…惜しかったな、大妖怪」


ぬえはギルガメスの数メートル手前で倒れている。

ぬえの腹部に、大槍が突き刺さっていた。

全身にも、武器が何本も突き刺さっている。


「全力を出せば、勝ち目はあったものを……所詮は情に流された畜生、決意も覚悟も足りていなかったか」


ギルガメスがぬえへと歩み寄っていく。


「その気迫にもしやと期待していたが……よもやそこまで阿呆とはな」


ぬえの目の前で立ち止まる。

その時だった。


「がぁああぁっ!!」


ぬえが立ち上がり、槍をギルガメスに向けて振るう。

しかし……


ガッ


「!?」


「……」


金色の波紋から出現した謎の鎖によって、ぬえの体が縛られていた。


「…何、だ…これ…!?」


「破壊しようとしても無駄だぞ。尤も、身動きは取れないか」


全身から力が抜けていく。

力を入れようとしても、思うように体が動かない。


「その鎖は特別製だな。一度縛られると、たとえ鬼であろうと神であろうと逃れることはできん。

いや、人外であればあるほど、その鎖の効果は強くなる。要するに対人外用の鎖というわけだ」


「…!!」


「…しかしまあ、随分勇猛果敢に挑んだものだな。

貴様、また奴らと遊びたいだとか、共に在りたいだとか、考えなかったのか?」


「…えっ…」


−『ぬえ!』


ぬえの脳裏に、フラン達との思い出が思い浮かんだ。


−…嫌だ…


嫌だ…!


嫌だ!!


まだ死ねない!私は…私は…!!

こんなところで死ぬわけにはいかない!!


「ウガァアアァああっ!!」


必死に暴れる。鎖から逃れようと、必死に。

全身は風穴だらけ、体が動くのは魔力で無理矢理動かしているだけ。

ここまでやって、ただの一撃も与えられないのか?

そんなのは嫌だ。何も役に立たずに死ぬのだけは嫌だった。


「ああぁあああっ…!!」


「…泣いているのか?…まあ、無理もあるまい。無念であろうな」


「嫌だ…!嫌だぁ!!まだ…まだ死にたくない……!死にたくない!!こんなっ……こんなのって……!!まだ何の役にも立ててないのに!!


私はまだやり残した事があるんだ!!

まだまだみんなと一緒にいたいんだ!!

フランに想いも伝えてないのに…!!お礼も言ってないのに!!」


ギルガメスが少し後ろに下がる。


「痛々しいな……しかしこれが現実だ。


見事だったぞ、貴様の勇猛ぶりは。しかし届かなかったな。

悔やむのならば、至らなかった己が力を悔やむのだな」


金色の波紋が浮き上がる。


「嫌ぁあ!!助けて!助けてぇ!!やだやだやだぁ!!


誰か助けてぇ!!こいし!!聖ぃ!!フラァン!!誰かぁあ!!」


ぬえに向けて、武器が射出された。


「あああああ!!やめてぇぇえ!!嫌ぁああぁあ!!」


ぬえの悲鳴が響き渡る。

大量に射出させる武器は、ぬえの体を次々と貫いていった。


「あぎゃあぁあがぁあああ!!」


「…とどめだ。早々に楽になれ」


巨大な剣が現れる。

その剣は、ぬえの首を狙っている。


「ひっ…!?」


剣が射出された。


「やめっ…やめてぇぇえ!!死にたくない!!死にたくないぃいい!!助けっ」


ぬえの叫び声は、そこで途切れた。


ゴトッ……


重いものが、落ちる音がした。







どんなに勇敢な者でも、死ぬ事は怖いんだと思います。

勇敢な者は、逆に本当に死ぬという状況下に落ちにくいのでしょうね。

だから、本当に死ぬという状況になると、味わった事のない絶望と恐怖に震え上がるんだと思います。

まあ、勝手な見解ですけどね笑

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