【2日目・晩】
もう短めとか書く必要ないかもな?笑
「ねえ、こいし」
現在は、夜の八時過ぎ。探索も今日はおやすみで、明日の十四時まではゆっくりとした時間を過ごす事ができる。メイジは先ほどの話をしてから、まだ寝室から出てきていない。ぬえはキッチンに入って、晩御飯を作っている。今、この部屋、この空間には私とフランの二人のみ。
窓から暗くなった外を見つめているフランが、私の名を呼んだ。
普段ならフランに話しかけられた、と喜んで反応するのだが、状況が状況。明るい話であるはずもない。
「どうしたの?フラン」
私は手に持つ紅茶の入ったカップをテーブルに置き、フランの方を見つめた。
フランはこちらを見ておらず、ずっと外を見つめていた。
私だって、日が浅いとはいえフランとは友達の仲だ。フランの仕草や様子で大体の感情は見て取れるようになってきた。
「今頃、みんなは何をしているのかな。私達がいなくなっちゃって心配してるかな?」
そう言うフランの声にはやはり、元気がなかった。
いくら強がっても、いきなりこのような状況に投げ出されては誰だって困惑もするし、家族が恋しくもなる。事実私も、お姉ちゃんに会いたくて仕方がない。
こういう時はどういう返事をすれば良いのだろう?
「さあ…もしかしたら探してくれてるかもね」
結局いい返事が思い付かず、少しの期待も込めてそう言った。
「……そう、かな。そうだと、嬉しいな」
……フランらしくないと思った。
気持ちは理解できるし、私もそれと同じ気持ちだ。
しかし今回は、フランにしてはあまりにも暗すぎる。普段のフランであれば、むしろこうやって落ち込んでいるのを励ます側なのだ。
「……フラン、大丈夫?あんまり、元気じゃないね」
その言葉が意外だったのか、それとも図星だったのか。一瞬フランは動揺した。
「…そう、見える?」
こちらに振り返り、少しだけ右に首を傾げて、少し悲しげな笑顔を浮かべた。
「私ね、昔色々あって地下に幽閉されてた時があったんだ」
「…幽閉?」
「そ、幽閉。…あまりに危険な能力を持って生まれたから、それでね……ほら、幽閉生活って、寂しいじゃない?だからね、お姉様が毎日……とまでは行かないけどたくさん会いにきてくれていたの」
会いにきてくれていたーーーその言葉を聞いた時、私は理解した。
何を勘違いしていたのだろう。フランだって一人の感情ある生き物だ。いつもいつも、前向きで明るく居られるとは限らない。
「それが私は嬉しくって……この人の役に立ちたい、守りたい……ずっと傍に居たいと、そう思って……」
そう言う声はあまりにも悲しく、弱々しかった。
今にも泣き崩れてしまうのではないか、と思わせるほどに。
……今ここにいるのは、誇り高き吸血鬼、紅魔館の第二の主人のフランドールではなく、一人の少女の、妹としてのフランドールなのだろう。
「ごめん、フラン。もう、それ以上話さなくていい」
フランの言葉を遮り、私はそう言った。
「…あはは、ごめんねこいし。変な話しちゃって…」
フランは力のない声でそう言った。
そのまま、去っていこうとする。
私はフランの正面に回り、綺麗な黄金色の髪を揺らすその少女の肩を両手で掴む。
フランは肩を掴まれた時、ほんの少しビクッと体を震わせた。
驚かせてしまったか?しかし、今はそんな事はどうでもいい。
「こ、こいし…?」
「……フラン」
「…?」
「辛い時や、悲しい時や、楽しい時や、嬉しい時に……一緒にいてくれる人の事をなんていうか知ってる?」
「…え?」
こちらを見つめ返すフランが、素っ頓狂な顔をする。
いきなり何を言うのだろうか、と言うような顔だ。
「友達、って言うんだよ」
その言葉を口にした時、フランの表情は大きく変わった。
「…だからね、フラン?辛い時とかがあったら、いーっぱい、私に甘えたり、頼ったり、泣きついたりして欲しいんだ」
「…こいし…」
「前に言ってくれたよね、フラン。『私がいるんだから』って」
今まで誰にも頼る事なく、全てを隠し続け、一人で全てを背負い続けてきた。……そんな事、辛くないわけがない。
だから……
「もう、何も隠さなくていい。何も背負わなくていいんだよ。
私がいるんだから」
「……」
フランは俯いてしまった。体は心なしか震えている。
…しまった、フランの生き方を貶してしまったか。
ーーと、不安な感情を感じていた矢先……。
「…ずっるいなぁ、こいしは……」
「え、何が!?」
その時、フランが私に抱き付いてきた。
「フ、フラ…」
「…そんな事言われちゃったら、甘えるしかないじゃんか…」
ぎゅうぅ…っと、苦しいほどではないが強く私を抱きしめるフラン。そして、この台詞。
「……」(……)
ずるいのはどっちですか。どっちですか!
可愛いなぁ、可愛いなぁ!ほんとに可愛いなぁもう!!




