悪魔の微笑み
「うあっ!」
光来は悲鳴に近い声を上げた。
撃たれた!? いや、血が見当たらないから、衝撃で倒れただけか? それにしては、ギムは苦しそうに体を震わせている。
パニックになりそうな頭で、なにをすべきか考えた。
「おいっ! 大丈夫か?」
光来は、蹲るようにして少年を覗き込んだ。少年は、苦しそうな目で光来を見返し、飛ばされた自分の銃を指差した。
「アウシュティンだ。早く……」
なんのことか分からなかったが、銃を拾って欲しいのだと解釈した。思わず、少年の銃を拾って渡そうとした。しかし、ギムはガクッと効果音が聞こえるように崩れ落ちた。医者とか救急車とか、そんな言葉が浮かんだのは、銃を拾ってからだった。
「おい」
背後からの声に、光来は初めて銃撃した男の全容を見た。
そいつは馬に乗っていた。黒を基調とした衣服で細い体を包み、四肢が異常に長く見えた。外見も不気味だったが、それ以上に、男からは正体不明な怖さが伝わってきた。先ほど、ギムを鋭い刃物に例えたが、こいつはなんと表現すればいいのだろう。殺人鬼? 悪魔? 邪悪そのものが人の姿を借りているような、そんなおぞましさだ。
「銃を拾ったということは、そういうことか」
「い、い、医者を……」
「話を逸らすな。おまえは銃を拾った。そして、その銃口は、ちらっと俺のほうを向いてるじゃないか。つまり、そういうことなんだろ」
返事に窮した。「そういうこと」というのは、彼と敵対するという意味だろう。むろん、そんな気は毛頭ない。それなのに、男はやばい方向に話を持っていこうとしている。一方的な殺意を向けられて、身が竦んだ。
しかし、ギムを助けなければならないという意思は消えなかった。
「医者を呼ばないと。彼を治療してやってくれ」
男は話にならないといった態で、大げさに息を吐き、首を振った。
「医者はいらない。自分の心配をしろ」
ついに、男は光来に銃口を向けた。反射的に銃を構えてしまった。男の口元が歪む。悪魔が契約を破った者の魂を奪うときは、こんな笑みを浮かべるのだろうか。