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銃と魔法と臆病な賞金首  作者: 雪方麻耶
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二人で戦う!

 光来は集中力を研ぎすませた。ケビンを倒し、この危機を乗り越えることだけを考える。

 奴を撃つ。

 銃を持つ掌が熱くなるような感覚があった。光来自身は気づいていなかったが、銃口を向けてもいないのに、魔法陣が生じ徐々に肥大していった。もう見慣れた感のある黒い魔法陣。トートゥの魔法が生まれつつあった。


「貴様……」


 ケビンの口から声が絞り出された。嫌悪の中に、微かだが怯えを感じ取った。撃つのは今しかない。

 そう考えたのが先か、体が動いたのが先か、自分でも分からなかった。気づいた時には銃口がケビンを捉えていた。

 光来の目に入る全ての物が緩慢に映った。ケビンの目が見開かれ、恐怖に引きつっているのが見えた。彼もアクションを起こしているものの、まだ腕が上がりきっていない。このまま引き鉄を引けば、確実にトートゥの餌食にできる。

 指先に力を伝達し、魔法陣が更に増大した。


「?」


 その時、光来の研ぎ澄まされた聴覚が異音を捉えた。聞き慣れないその音は、一定のリズムを刻みながら徐々に近づいてきた。そして……。


「キーラッ、だめっ」

 

 いきなりのことだったので、一瞬、なにが現れたのか分からなかった。本能的に引き鉄に掛けた指の動きを止めた。

 銃声と同時に、頬を弾丸がかすめ過ぎていった。ケビンが発砲したのだ。

 光来は驚愕した。かすめていった弾丸にではなく、目に飛び込んできた光景にだ。信じられないことに、汽車と並行して、リムが馬に跨っていた。

 あれは、汽車に乗り込む際に見掛けた競走馬だ。リムが蹴り飛ばされた方の車両に積まれていたんだ。引き離された後、あれを駛走させて追いついたのか。なんという娘だ!

 光来は瞬時にリムの台詞を思い出し、胸が熱くなった。

 あなたはワタシが守る。

 ワタシたちは二人で戦っている。それを忘れないで。

 リム・フォスター。彼女のことを考えると勇気が湧いてくる。逃げてばかりの自分が、生まれて初めて勝ちたいと思った。今さっきまで抱えていた、重たい殺意とは全く違う、熱い闘志が漲るのが実感できた。

 さすがのケビンも、急な展開に驚きを隠しきれずにいた。光来とリムのどちらに注意すべきか決めかね、視線を忙しなく動かしている。

 リムが手綱から片手を離して構えた。その手には青白い光を発するナイフが握られている。


「当たってっ!」


 リムは忍者が手裏剣を投げるように、ケビン目掛けてナイフを飛ばした。




 厩務員から馬を奪い、線路と平行して通っている山道をひたすらに駆け抜けた。木の枝葉から月が見え隠れする。いくら拓けているとは言え、草木を除いただけの山道だ。月明かり程度で馬を全力疾走させるのは危険だった。しかし、リムはスピードを落とすことなど考えなかった。いくらトートゥという威嚇を持っていても、あの保安官相手に、いつまでもハッタリが通用するとは思えない。

 瞬く間に背後に流れる景色を横目に、焦りで胸が焦げ付きそうになるのを必死に抑えた。手綱を握る手に力を込める。

 まだ追いつかないの?

 思わず声が出そうになった時、ふっと森が途切れた。いきなり走る蒸気機関車が視野に飛び込んできた。

 捉えたっ!

 リムは視線を走らせ、キーラを探した。汽車の屋根にいるであろう人影を探せばいいので、すぐに見つかった。

 まだシルエットでしか視認できないが、二人の男が先頭車両の屋根で向かい合っていた。

 追い詰められているっ。


「いあっ」


 リムは馬を誘導し、山道から逸れた。巧みに手綱を操り、線路のすぐ横まで近づいた。轟音と突風が身体を貫く。

 列車と並走すると、鉄塊が襲い掛かってくると思ってしまうほどの迫力だ。さすがに冷や汗が出たが、二人に近づくべく、さらに加速した。

 進行方向に背中を向けて立っているのがキーラだとすぐに分かった。彼の手に握られている拳銃から、トートゥの魔法陣が広がり始めていた。

 なんてことっ。キーラはケビンを殺すつもりでいる?


「キーラッ、だめっ」 


 リムは腰に差していたナイフを手に持ち、投てきするために構えた。

 拳銃は砕け、スリーブガンはバーレンに撃ち込んだ。そして、もう一つのスリーブガンは、今はキーラの手元にあり、しかも、それで死の魔法を撃とうとしている。このナイフが、正真正銘、最後の一撃だ。

 自分の相棒に、人殺しなんかさせるわけにはいかない。


「当たってっ!」


 全神経を注ぎ、リムはケビンに向かって投げた。

 ナイフは、弓で放たれたように一直線にケビンに向かっていった。

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