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銃と魔法と臆病な賞金首  作者: 雪方麻耶
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いい女の条件

 改めて観察すると、その体型のせいか腕が異常に長く見える。この見えるというのが曲者だ。誤った知覚は対応を著しく愚鈍化させる。


「どうした? こないのか? こないのなら」

「…………」

「こっちからいくぜっ」


 バーレンが突進してきた。どんっと音が聞こえそうな素早い突撃だった。

 受けるのはまずい。リムは咄嗟に判断し、身を低くしてかわした。風を感じるほどのすれすれを刃が通過した。素早く回りこみ、立ち位置を入れ替えた。

 バーレンの動きも素早かった。右足を軸に体を回転させ、再びリムと向き合った。


「勘がいいのか? それなりに修羅場を経験してきたか? けど、ナイフを持った俺ほど強い奴を相手にしたことはあるか?」


 バーレンの背後で、いきなり積荷が崩れた。まるでバターにナイフを入れたような、滑らかな切り口だった。

 まさか……、シュナイデン?

 バーレンのナイフを見ると、刃の部分は透明に近い青だった。水に濡れているような感じで、艶やかにさえ見える。

 シュナイデンの刃。一般には刃物の切れ味を補強するために使用される魔法だが、強い魔力を用いて形成された刃は、岩だろうが鉄だろうが真っ二つにできる。ここまで鋭い切れ味を発揮するということは、かなり強力な魔力を持った者によって形成された刃なのだろう。

 見るのは初めてではないが、保安官であるはずのこの男が、シュナイデンのナイフを装備しているとは思っていなかった。銃にしろナイフにしろ、捕縛を目的としている彼らにはシュラーフが支給されているはずだ。

 ケビンといい、この男といい、こんな危険な連中が法の番人だと闊歩しているなんて。さっきまで身を置いていた街の裏側を垣間見た気がした。


「なにを驚いているんだ? ナイフってのは切るためのものだろうがっ」


 バーレンが再び攻撃を仕掛けてきた。右に左にと刃が通過する。積荷を盾にするも、シュナイデンの刃の前には障害物にもならない。

 リムもナイフには自信があった。しかし、合間を縫って反撃しても、受け流されたり、ぎりぎりでかわされてしまう。完全に見切られている。バーレンが手強いと言ったのはハッタリではなかった。形勢は防御一方になりつつあった。


「くっ」


 このまま避けてばかりいては、いずれ餌食になってしまう。積荷に刃が当たろうがお構いなしに振り切るので、身を隠すことすらできなくなっていく。

 しかし、背筋が寒くなる程の切れ味を発揮するシュナイデンも魔法だ。積荷が切られる度に魔法陣が小さくなっていく。おそらく、あと数回切れば魔法の効果がなくなるはずだ。

 残り少なくなった積荷を背中にし、振り下ろされるように向かってくるナイフを避けた。


「うっ?」


 バーレンが小さく声を漏らした。切られた積荷が崩れないで、表面だけが切られていた。魔法の効力がなくなってきたのだ。

 勝機っ! リムは弧を描く動きから直進に変え、体ごとぶつかる勢いでナイフを胸に突き立てた。


「うあっ?」


 今度は、勝機を得て仕掛けたはずのリムが声を漏らした。渾身の一撃はあと数ミリのところで止められてしまった。手首をガッチリと掴まれてしまった。すごい力で握られ、逃げることもできない。 


「魔力が切れるのを見計らって仕掛けてくると思ったよ。積荷が崩れなかったのは魔力が切れたからじゃねえ。俺の技術さ」


 バーレンがこれ見よがしにナイフを大きく振りかざした。


「騙されやがって。バカが。ちょこまか動き回られるのも疲れたから、このまま決めさせてもらうぜ。うるさい上司がいてな。殺しゃしないから安心しろ」

「騙された? それは誰のことを言っているんだ?」

「なんだと?」

「自分の腕に絶対の自信を持っているうえに、相手を舐めきっているあんたなら、かわさずに掴むと思ったよ。自信というのは一歩踏み外しただけで過信へと変わる」

「あっ?」


 リムは、掴まれたのとは反対の腕をぶんっと振り下ろした。まるでマジシャンがなにもないところからトランプを出すように、いつの間にかその手には小型の銃が握られていた。

 スリーブガン。袖の下に仕込んである装置で、隠し持っている銃を素早く取り出すことができる。光来に渡した銃も、実はここから取り出したものだった。


「てめえっ?」

「くらえっ‼」


 バーレンがナイフを振り下ろす前に、リムの拳銃が炸裂した。光来に渡したものは二発装填できるタイプだったが、こちらは一発のみの単発銃だ。最後の手段に用いる奥の手で、外せば後がない。

 ブリッツの弾丸が魔法陣を描き、バーレンの体内に吸い込まれる。


「がああっ⁉」


 強烈な電流が駆け巡り、バーレンが悶絶しながら崩れ落ちた。どんな大男だろうと、たとえ獣人だろうと、この衝撃に耐えられる者などいない。


「……きたねえ、野郎だ」


 絞り出すような台詞を吐き出し、バーレンはそのまま気絶した。リムは、もしかしたら最後の反撃が来るかもと構えを解かないでいたが、さすがにそれは無理だったようだ。

 リムは、思わず安堵の吐息を漏らした。


「残念だったわね。男を痺れさせるくらいのいい女を手放すなんて」


 こいつはもう放っておいてもいいだろう。しばらくは動くことすらできない。しかし、念には念をだ。リムは、バーレンが携帯していた手錠を拝借し、彼の手首に掛けた。そして、もう一方の輪は列車に固定されている鉄パイプに繋げた。さらに、鍵を取り上げ、闇の中に放り投げた。これで、この男のことは考えなくてよくなった。

 障害を一つ取り除いたが、これで一息つくわけにはいかない。キーラを追わなければならない。だが、どうすれば?

 考えろ。なにか方法はないか。なにか……。

 リムの頭に閃きが迸った。

 あれなら追いつける。しかし、こっちの車両に積まれただろうか?

 考えるのは後回しだ。今は行動を起こすのが先決だ。

 リムは、勢いをなくして停車しつつあった車両を最後尾に向かって走りだした。

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