相棒
身を隠していた貨物が壁の役割を果たしたため、吹き飛ばされずに済んだが、熱風をまともに浴びてしまった。
「うおああっ」
あまりの熱さに悲鳴を上げてしまった。まるで皮膚を力任せに剥がされたような痛みだった。
「キーラッ」
リムが光来の肩を抱き、位置を入れ替えた。口より大きいんじゃないかと思わせるほど、目を見開らいている。顔が近い。見つめ合うのが照れくさく、リムがなにか言う前に戯けてみせた。
「君は女の子だから。顔に火傷を負ったら大変だ」
「…………」
リムが目を伏せた。光来は急に恥ずかしくなってきた。
あれ? 自分としてはかっこよくキメたつもりなんだけど……。ちくしょう。それにしても痛え。熱さを伴う激しい痛みは一瞬だったが、入れ替えにじんじんと体の奥から表面に湧き出す痛みが持続している。絶対に火傷しちまった。見た目が酷いことになってなきゃいいけど、背中だから自分じゃ見られない。
リムが伏せていた目を再び開き、光来を見た。見るというより睨んでいた。その目には闘志が宿っていた。
「キーラ。走れる?」
「大丈夫だ。足はやられてない」
本当はその場にうずくまりたいほど背中が痛かったが、リムの目からなにかを感じ取った。ここで弱音を吐くわけにはいかない。
「あいつは強い。魔法だけじゃない。射撃の腕も精神力も。でもワタシたちは二人で戦っている。それを忘れないで」
「分かってる。俺たちは相棒だ」
リムがにっと歯を見せた。
「あと三両走れば、有蓋車にたどり着く。一気に屋根に登って。そしたら奥の手を使う」
「それって、あいつらを倒せるのか?」
「倒すってのとは違うけど、この危機的状況からは脱出できる」
「なんでもいいや。早いとこ落ち着いて、背中の治療をしたい」
「じゃあ、いくよ」
スターターピストルが鳴ったかのように、二人同時に走りだした。まるで短距離走で競走しているようだ。いや、数々の貨物の上を飛び移りながらだから障害物競走か。
「逃がすなっ」
背後でケビンの声が上がったが、光来は構わず走った。背中をかばいながら走っているので、どうしても動作が鈍ってしまう。しかし、ここで足を止めてはならない。歯を食いしばりながら懸命に体を動かした。その間にも、頭上を、脇を、弾丸が掠める。生きた心地がせず、全身に冷や汗が噴き出る。
恐怖に負けるな。もう少しで有蓋車にたどり着く。リムの言っていた奥の手を信じるんだ。
「しゅあっ!」
リムが振り向きざま射撃した。同時に、悲鳴が聞こえた。追手の一人が被弾したのだ。こんな状況で反撃し、しかも頭数を減らすなんて。光来の目には神業に映った。
くそ。俺も力が欲しい。相手を殺してしまうような過剰な力ではなく、退けられるだけの力が。トートゥではなく、シュラーフに書き換わってくれればいいのに。




