炎の脅威
やったか? 光来は電流の軌跡を目で追った。車体には少し広がったが、ほとんどが車輪へと移動し、そのままレールに吸い込まれて消えてしまった。光来は戦慄した。この汽車そのものが巨大なアースになってしまっている。
電撃と炎、人体に与えるダメージはどちらが上かは知らないが、戦う場所がまずすぎる。ここでは、こちらの方が圧倒的に不利だ。
リムは、さきほどツキがあると言っていた。しかし、この状況ではその台詞が正しかったのか疑問が湧いてくる。それとも、幸運をケビンに持っていかれたか。
「撃ってこないのか? キーラ。ワタシが姿を見せたというのに。さっき、隣の男に撃つのを遮られたな。ひょっとして、その男は禁忌の魔法を怖れているのではないか? 撃たないのではなく、彼のせいで撃てないとか?」
不敵に微笑む。その笑みは光来の神経を刺激した。
くそっ、ここはハッタリでもいいから銃口を向けてみようか。しかし、そこまでやって撃たなかったら、ケビンの推測が正しいと証明してしまう。
「キーラ、前の車両に逃げるぞっ」
「遅いっ」
再びブレンネンの魔法が炸裂した。今度は貨物ではなく、車両の床に直接命中した。灼熱の炎が襲い掛かってくる。すでにこの車両には可燃物はないが、魔法で生じる炎の威力は爆発と表現してもいいくらいに激しかった。
直に炎に包まれはしなかったが、熱風に煽られ逃げざるを得なかった。前方に避難すれば貨物を遮蔽物として利用できる。しかし、あの威力の前では、あっという間に燃やし尽くされてしまうのは目に見えていた。もはやベニヤ板ほども意味のない盾ではあるが、それでも、二人はその陰に身を隠した。
「あいつ、ひょっとして俺たちを殺すつもりか?」
「馬鹿言わないで。立場上、そんなことあるわけないぜ」
リムも焦っているようで、男言葉と女言葉がごっちゃになって出てくる。
「けど、あんなのが命中したら、黒焦げになって死んじまうよ」
「直に命中させるつもりはないのかも知れない。けど、体の一部を焼いて動けなくするくらいは考えてそうよ。あいつにしてみれば、どんな姿になろうが街に連れ戻せればいいんだから」
「ある意味、そっちの方が怖いよ」
光来は、火傷の痛みに苦しみながら生きながらえるのを想像したが、すぐに頭から追い出した。
今はネットで、どんな画像でも簡単に見ることができる。以前、ちょっとした好奇心で『火傷』と入力して検索したことがある。ちらっと見ただけで後悔した。あんな風には絶対になりたくない。
「自分が正義だと信じて疑わない奴って、信念がある分、悪党より厄介よ」
「リム。水とか氷の魔法は持ってないのか?」
「そんなの都合よく持ってるわけないじゃない。でも、奥の手ならある」
「そんなのあるのか? だったら早く使ってくれ」
「焦らないで。一発しか持ってないんだから、失敗は許されない。うゎっ」
「リムッ!」
弾丸が頭上を掠めた。今度は隠れている貨物ではなく、その奥の荷物が燃え上がった。考える暇もなかった。体が勝手に動き、リムに覆い被さっていた。




