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銃と魔法と臆病な賞金首  作者: 雪方麻耶
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禁忌の魔法

 後方で影が蠢くのが見えた。


「しゅっ」


 リムは立て続けに二発撃ち込んだ。魔法陣の余韻が拡散して消えるのと、悲鳴が上がるのがほぼ同時だった。まさに目にも留まらぬ早業だ。

 ざざっとバラストに物が落ちる音が響いた。リムのブリッツの弾丸に撃ち抜かれた者たちだ。二発とも命中したということだ。落下した時の衝撃を想像して、光来は思わず奥歯を噛みしめてしまった。

 それにしても……。

 月光で照らされているとはいえ、不安定な列車の上で外れなしとは、改めてリムの腕前に驚嘆させられる。


「汽車が速度を上げる前に、全員落ちてもらう」


 今の銃声が合図であったかのように、向こうからも撃ってきた。銃撃戦の始まりだ。リムとは違って正確な狙いではなかったが、数撃ちゃ当たると考えているのか、頭を上げられないほど激しい乱射だった。

 魔法陣の光からシュラーフだと分かった。喰らったらたちどころに睡魔に襲われ、眠ったが最後、そのまま連れ戻されてしまう。光来の頭に『極刑』の二文字が頭に浮かんだ。冗談じゃない。


「キーラ、こっちっ」

「でも、荷物がっ」

「そんなもの、ほっときなさいっ!」


 リムは叫びながら前の車両に走った。光来も少しだけ躊躇して、後に続いた。二人が飛び乗ったのは有蓋車で、屋根の上には弾除けになる遮蔽物がない。リムが目指しているのは、荷が積まれ、それに身を隠すことができる無蓋車だ。

 リムに引き剥がされまいと、光来は必死に後に続いた。いくつかの車両を移動している間にも、弾丸が掠めていく。恐怖で足が竦みそうだ。


「わああああっ!」


 恥も外聞もなく叫んでいた。チュンッと耳元で空気が切り裂かれた。もうダメだ。恐怖が限界値に達し、理性が麻痺した。息が苦しい。胸が焼けるように熱い。

 なんで俺がこんな目に!

 プチンッ!

 なにかが切れた。氷の塊が下腹部に詰められたような感覚。昼間の決闘の時と同じだと思った。途端に頭が冷め、視野が広がった。あれほど喧しかった鼓動が息を潜め、髪の先まで神経が行き渡った気がした。

 立ち止まり、振り向きざまリムから預かった拳銃を構えた。


「うおおおっ」

「キーラ!?」


 光来が吠えた。その「気」に呼応するかのように銃口から黒い魔法陣が広がり、電流が迸るような輝きが走った。夜の闇よりも深い漆黒。この世の絶望が凝縮されたような、真っ黒な魔法陣がどんどん広がり存在を強調していく。

 瞬間、銃撃が止んだ。銃声に邪魔されて潜んでいた、車輪がレールを掴む音がクリアに聞こえた。まるで時間の流れが止まったかのように、周囲がよく見える。恐怖に顔を歪ませ、光来を凝視している保安官の一人が目についた。

 逃げる相手に銃を撃ちまくっていた奴が怯えるのか。俺を捕まえたいというのなら相手になってやる。まずはお前だ。

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