表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銃と魔法と臆病な賞金首  作者: 雪方麻耶
30/52

そして二人は行動を起こす

 二人は時計塔を出る準備を始めた。と言っても、荷解きするほどの荷物なんてないし、その少ない荷物は部屋に入って床に放り投げたままだ。

 リムの提案に従い、とにかくこの街を出ることにした。光来は留置所から脱走した身だし、リムもこの街では情報収集を終えていた。聞けば、次に立ち寄る『ラルゴ』という街こそが当面の目的地とのことだった。

 彼女の話によれば、目ぼしい噂を聞きつけては、それがグニーエに関係ないか確認しながら旅を続けていたとのことだ。今まで空振りばかりだったが、光来の出現は大きな前進だと手応えを掴んでいるらしい。


「待てよ。ということは……」


 光来の頭に、一つの疑問が浮かび上がった。


「酒場でさ。あいつらが言ってたじゃん。街でなにかを嗅ぎ回っているよそもんがいるって。あれって君のことじゃないか?」


 リムはぴくっと肩を震わせたが、無言のままやり過ごそうとした。


「じゃあ、俺は君のせいであんな危なっかしい連中に絡まれたのか? 君はそれを知ってたの?」


 じとっと光来を睨みつける。しかし、光来の口は止まらなかった。


「ひどいな。だったら、それは自分だって名乗り出てくれても……」


 リムが顔を赤くしながら言い返してきた。


「だから、ちゃんと助けたでしょ? 少なくともあの二人組からも、留置所からも。貸し借りはなし」

「そういう問題じゃ……」

「うるさいわね。細かいことをうじうじと。そんなんじゃモテないわよ」


 光来は、自分の気弱な性格を突かれたようで、少しカチンと来た。


「関係ないだろ。これでも、元の世界じゃ黄色い歓声を受けてたんだ」


 ゲーセンでだけだったけど、という台詞は心の中で言った。


「ふーん……。そうは思えないけど。それより、もう準備はできた?」

「できたけど……」


 余計なことを思い出したため、話が逸れ気まずくなった。酒場での出来事なんて、蒸し返さなくても良かったのだ。考えなくちゃならないのは、これからのことだ。仕切り直しの意味も込めて、光来は一つ咳払いをした。


「今、外に出て大丈夫かな?」

「あと一時間は大丈夫」

「さっきもそんなこと言ってたけど、例の眠る魔法を食事に仕込んだんだろう?」

「本当に細かいことに拘る男ね。そんな些細なことはどうでもいいの。大事なのは無事にこの街を出ることなんだから」


 バツの悪そうな顔を見て、光来は自分の推理が当たっていたと確信した。しかし、追求するつもりはない。リムの言う通り、ここは逃げることが優先だ。


「分かってるよ。行こう」


 ドアノブに手を掛ける光来とは逆に、リムが窓枠に手を掛けた。


「え? 窓から出て行くのか?」


 光来の驚いた様子に、リムは「なにを当たり前のことを」という表情を見せた。


「チェックインしてから数十分しか経っていないのよ。当たり前に出て行ったら、何事かと思われるでしょ。不審に思われたら面倒だから、黙って消えるのが一番安全なのよ」

「そっか。そうだよな。ご休憩と思われるのもなんだし……」

「なに? ご休憩って」

「いや、なんでもない。早く行こう」


 リムは少し首を傾げて、窓枠に足を乗っけて身を乗り出した。女の子とは思えない身のこなしだ。しかし、その動きが途中で止まった。


「どうしたの?」

「しっ。黙って」


 リムが慌てて体を引っ込めて、外の様子を伺った。釣られて、光来も横から頭を出した。


「げっ」


 すぐ前の通りに、保安官の姿があった。背筋をピンと伸ばし、いつでも臨戦態勢に入れる緊張感を漂わせている。ただ歩いているのではなく、明らかに不審者を探している動きだ。目を凝らしてよく見てみると、見覚えのある顔だった。間違いない。事務所で眠りこけていたうちの一人だ。


「なんで? あと一時間は大丈夫だって……」

「きっと、誰かが目を覚まさせたのよ。アウシュティンでね」

「誰かって……」

「考えられるとしたら、あのケビンとか言う保安官ね。さっき、保安局にいなかったでしょ」

「あのおっさんか」


 たっぷりと尋問されたことを思い出し、光来の気持ちが重たくなった。どうも、あの男とは相性が悪いようだ。

 街から脱出しようとした矢先に出鼻を挫かれ、光来はツキのなさが続いているのかと不安になった。


「で、どうする?」

「どうするったって……」


 リムはしばらく外に視線をやり、そして決意したように光来を見た。


「とにかく、ここからは出ましょう。街の外に出られる街道は、もう封鎖されていると考えたほうがいいわ。まずこの街から出られないようにして、それから、宿という宿を虱潰しに調べるはずよ」


 言うが早いが、リムは窓枠を思い切り蹴って飛び出した。この部屋は二階だが、まるで猫のような身の軽さで音も立てずに着地した。振り返り、光来にも早く来るように腕を振った。

 ぎええ。

 光来は心の中で悲鳴を上げたが、ここでもたつく訳にはいかない。足を挫かないように用心しながら、リム目掛けて飛び降りた。着地と同時に膝を折り、衝撃を吸収しながら転がった。華麗とはとても言えないが、怪我はしないで済んだことに自分を褒めたくなった。

 どうよと言わんばかりにリムを見たが、彼女は意にも介さないで繁華街に目を向けている。


「早く行きましょう。こんな所にいたんじゃ、見つけてくれって言ってるようなもんだわ」

「とりあえず、どこに向かう?」

「繁華街に行きましょう。人混みに紛れれば、いくらか考えるための時間稼ぎができる。そういえば、ワタシ、夕食食べ損なっちゃんだけど、お腹へってない?」

「そういえば、ペコペコだ」


 二人揃ってにっと笑い、駈け出した。

 光来は不思議に思った。さっきまでは一口も喉を通らなくて、水ばかり飲んでいたのが嘘のように食欲がある。リム。この娘と一緒にいるせいだろうか。リムは俺のことを道標と言ったが、それは自分にも言えるのかもしれない。

 光来はリムと出会えたことに意味を見出しつつあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ