跛行的会話
いきなり見ず知らずの世界に飛び込んでしまったこと、自分のいた世界には魔法というエネルギーなど存在しないこと、銃やナイフは魔法を込めることなどできず、単純に弾丸を撃ち出したり物を切る道具に過ぎないことなど、ひとつひとつ説明していった。話している内容は単純なのに、リムが質問を挟んでくるので混乱してくる。
「…………」
「…………」
一通りの説明を終えた後は、お互いに言葉を発することはなく、沈黙の時が流れた。やはりケビンのように怒り出すかと、光来は構えた。
リムは太いため息をついた。
「嘘をつくなら、もう少しリアリティのある嘘を用意することね」
頭がおかしいとは思われなかったようだが、やはり信じてはもらえなかった。しかし、ここですべて作り話でしたなどと言うわけにはいかない。
「嘘じゃない。嘘なら、言われるまでもなくもっとマシな嘘をつくさ」
「あなたは魔法を知らないと言いながら、魔法の存在を認めている。それは矛盾していることにならない?」
「いや、俺の世界にも魔法はあるんだ」
「ほら、矛盾を指摘されたから、もう馬脚を露わした」
「話を最後まで聞いてくれ。あるにはあるが、俺の世界の魔法はお伽話で登場する力で、それが実際には存在しないということはみんな知ってるんだ」
「魔法はあるのに存在しない? 妙な言い回しではぐらかそうっての?」
「違うって。なんて言えばいいのか……、嘘だと分かってるんだけど、夢があるから信じたいっていうか……。ファンタジーだよ」
「わけが分からないこと言わないで。嘘だと断言できる根拠がある。あなたはトートゥの弾丸を持っていた。魔法を知らないはずがないでしょ」
「それは……、さっきも言ったけど俺にも分からないんだ。俺は君の拳銃を使っただけで、弾丸なんて装填していない。元々、入っていたんだ」
「それも嘘だわ。ワタシは普段はブリッツやシュラーフしか装填しない。トートゥの弾丸なんて一度だって使ったことない。そもそも、おいそれと手に入れられるものじゃない。あなた、ワタシに罪を擦り付けるつもり?」
「だから違うんだって。じゃあ、あれだ。俺は魔法なんて使えない。だから、撃ち出した弾丸が、普通の効果を発揮したに過ぎないってことだ。おれの世界では、当たりどころが悪いと死んでしまうんだ」
「撃ち出された弾は、着弾と同時に四散する。当たりどころが悪くて死ぬなんてありえない。魔法そのものは弾丸に定着させているんだから、魔法を精製できなくても関係ない。改めて弾丸を装填してないのが本当だとしたら、あなたが撃った弾はブリッツのはず。それなのに、実際はトートゥの魔法が発動した。あなたが嘘をついているという結論は、当然の帰結だわ」
さっきから嘘を連呼され、光来はさすがにムカムカしてきた。いくら言われたって知らないものは知らないのだ。
「じゃあ、勝手に嘘だと思ってればいい」
光来は、思わず声を大きくしてしまった。リムの目つきがきつくなった。
まずい。怒らせた?
先程の格闘戦を見る限り、勝てる気がしない。女の子相手に情けないと思うが、こっちは銃とも決闘とも無縁の環境で生きてきた身なのだ。
リムは自分の鞄から一冊の本を取り出した。ネィディ・グレアムが決闘を受けさせるために放り投げたものと同じものだった。たしか、ルーザと言っていた。




