サンドウィッチとおしゃべりなウェイトレス
目指すべき場所は分かっている。保安局に連行されたに違いない。当然だ。きちんとした形式の決闘でトートゥを使用したのだ。保安官が犯罪者だと怒り喚いていた通り、許されざる重罪だ。なぜ、多くの街人が見ている中で、そんな行為に至ったのか、リムには理解できなかった。
この街の規模の保安局だと、どの程度の人数が常駐しているのか知らないが、もう少し待とう。真夜中になればチャンスはあるはずだ。機を得られなかった場合は、自分の手で作ってでも侵入するつもりだった。
具体的な計画もないまま突入するのは危険だ。とりあえず、落ち着いて考えごとができる場所の確保をしよう。ついでに今のうちに腹ごしらえをしておくのもいい。
「んっと……」
リムは目に留まった店の前で立ち止まった。一人でも気軽に入れそうな雰囲気だ。ここでいいだろう。ここなら、保安局からも近い。今は女の格好をしている。発見される心配はしていないが、こんな近くにワタシが潜んでいるなどと、考えもしないだろう。灯台下暗しという言葉もある。
決めるが早いが、ドアを開いて入店した。
外観から想像したとおり、いい感じだった。家族連れや恋人たちが楽しそうにテーブルを囲んでいるが、一人で食事をしている者もちらほら見られる。店内は明るく、騒がしすぎず、人々の会話が丁度心地よく響く。いつもなら、情報収集のため、噂好きな連中が集まるがさつな店を選ぶのだが、今日は静かな方がありがたい。ここを選んで正解だった。
ウェイトレスが寄ってきて、水の入ったコップをテーブルに置いた。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
「ああ、そうだな……サンドウィッチとコーヒーを頼む」
「具はなににいたします?」
「そうだな……。ハムとチーズにするよ」
「かしこまりました。少々お待ちください」
しばらくすると、注文した品を載せた盆を持って、ウェイトレスが戻ってきた。
「お待たせしました。ハムとチーズのサンドウィッチとコーヒーです」
コーヒーから芳しい香りが漂った。サンドウィッチは、余計な工夫を凝らしていないシンプルなものだが、食欲が刺激された。この街についてから、初めてのまともな食事だ。
「ありがとう。美味そうだ」
ウェイトレスが、盆を口元に当てて微笑んだ。
「なに?」
「だって、お客さん、男性みたいな話し方なんだもの」
リムは、口元を歪めた。
しまった。つい、いつもの癖で、男っぽく振舞ってしまった。
「いや……ああ、うん。そう。男の兄弟ばかりだったから」
リムの焦る仕草に、ウェイトレスは再び微笑んだ。
「お客さん、見ない顔だけど、旅の方?」
「まあね。気楽な根無し草さ」
「すごいわ。ワタシと同じ女の子なのに。羨ましい。ワタシも、鳥のように自由に旅して生きたい。あ、ワタシ、スモーレっていうの」
ウェイトレスは妙なしなを作った。一見、楽しそうに仕事をしているが、彼女にも色々と事情があるのかも知れない。




