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銃と魔法と臆病な賞金首  作者: 雪方麻耶
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囚われて

 鉄格子の窓から星空が見えた。東京では考えられないほどの、満天の星空だ。月が異常に大きかった。これが普段と同じなら、元いた世界で見られた光景なら、首が痛くなるほど見上げているだろう。これだけ星が見えるということは、それだけ空気が澄んでいるということか。日中の街並みの様子を思い出した。人も多くけっこう栄えている街なのに、排気の類は少ないのかも知れない。しかし今は、美しい星空も、文字通り壁一枚隔てた存在だった。

 光来は疲れ果てていた。目を覚ました時には、既にこの建物の中に連れ込まれていた。そして、ケビン保安官と向き合う位置に座らされていた。

 まず光来は、再び目覚めることができたのに驚いた。あの時、自分はもう死んだと思った。生まれてから一度もないくらい、狂喜乱舞した。光来を取り囲む連中が引くほどにだ。しかし、高く上げられた物ほど落下エネルギーが大きくなるように、生きている喜びが過ぎると、今度は人を射殺した記憶が甦り、心が押し潰されそうに重たくなった。

 光来の感情の起伏に、ある者は不気味なものを見たと気味悪がり、またある者は憐憫の眼差しを向けた。ただ一人、ケビンだけは容赦なかった。

 狭い部屋に閉じ込められ、ケビンによる取調べは数時間続いた。光来は、できる限り事実に則して説明したが、まったく受け入れてもらえず、取り付く島もなかった。こことは異なった世界で生きていた話をした時には、説明しながら泣きたくなった。

 ケビンの不機嫌さはだんだん怒りへと姿を変え、最後に吐き出した台詞は、「頭がおかしいフリをすれば、釈放されると思うなよっ!」だった。

 取調べを終えた後は、有無を言わさず牢に閉じ込められた。二時間ほど前の出来事だ。


「これでも食って、元気だせや」


 あの決闘の時、現場に居合わせなかった保安官の一人が食事を差し出してくれた。硬そうなパンとなにが入っているか分からないスープだった。

 貧相なメニューだったが、今の光来には問題ではなかった。食欲がまったく湧かないのだ。 荷物はすべて没収されてしまった。スマートフォンもだ。光来には腕時計をする習慣はなく、時間もスマホで確認していたため、こっちに飛ばされてから何時間が経過したのか知る術もなかった。

 気を失っていたのと、気が遠くなるような取調べを受けたため、今が何時なのか皆目見当もつかない。しかし、感覚的に自分がいた世界とここでの時間差は、殆どないのではないかと思っていた。

 まずそうな食事は傍らにどかしたが、水だけはありがたかった。意識を取り戻してから、もう四~五杯は飲んだ。腹がタプタプになって苦しくても、喉が渇いてしょうがなかった。怪訝な顔をしながらも、ここの人たちは要求しただけコップに水を注いでくれた。

 父さん、母さん、心配しているだろうな……。

 家に帰りたい……。

 何度も繰り返される願いが、再び頭を掠めた。数時間前までは、多少自分を卑下しなければならない時もあったが、美味い飯が食えて、温かい布団で眠れる世界にいた。

 恐ろしかった。いた、という過去形を使わなければならない、今の状況が恐ろしい。

 もと居た世界、自分のいるべき世界に帰れるのか?

 六杯目の水を飲み終わって、大きく息を吐いた。

 不安で押し潰されそうになる感情を無理やり奮起させ、今までに判明している内容を整理することにした。

 先程の取り調べ。ケビンは無駄に時間を使わされたと思っただろうが、光来には色々な情報を取り込める時間になった。

 まず、この世界には魔法という力が存在するらしい。飽くまで推測の域を出ないが、ここでは銃は殺傷を目的とした物ではなく、魔法を発射する道具であるということだ。

 ギムやチンピラ二人が撃たれても死ななかったのは、弾丸に込めた魔法が発動した結果なのだ。そう考えればいくつかの説明はつく。ギムが発射したのは、相手を気絶か麻痺をさせる魔法で、謎の少女がギムに撃ち込んだのは、回復系かなにかの魔法ということになる。

 ……では、なぜ俺が撃った弾丸は、普通にネィディを殺してしまったのか。俺が撃つ前、ギムは二発をチンピラに使った。三発目に種類が異なる弾丸が込められていたのか。ケビンやギムが言っていたトートゥというのも、魔法の一種なのか?

 ……分からない。この問題は後回しだ。

 次に、ここの文明は、現代の日本ほど発展していないということだ。

 移動手段は未だに馬が主流みたいだ。だから、これほど空が澄みきっているのだ。

 スマホのような携帯端末も知らなかった。ケビンが執拗にスマホの使い道を訊いてきたが、異世界の住人である話を信じてもらえない以上、説明するのは危険な気がした。この分だと、人工衛星やインターネットなんて絶対にないだろう。

 どうやら、魔法とやらが発展した分、科学の進歩はおざなりになっているようだ。

 そして、ここには人間となんら変わらない種族の他に、亜人というか、明らかに人間以外の種族が存在し、上手く共存しているらしい。酒場で見掛けたトカゲ頭以外、保安局でもエルフっぽいのやら、尻尾が生えているのやらが居た。

 他は特に変わった様子はなかった。魔法と亜人以外は、光来の世界とほぼ同じだ。もしかしたら、異世界といっても、元の世界からほんのわずかにずれた世界なのかも知れない。

 分かったのは大体こんなところだが、やはり魔法という単語が一番引っ掛かる。いったい、どんな原理で働いているエネルギーなんだ? この世界の住人なら、誰でも使えるものなのだろうか? 俺の世界で使われている電力のように、日常生活に密着している存在なのか?


「…………」


 衝撃的な体験が連続して起きたせいか、疲労感がどっと押し寄せてきた。眠気が我慢できないところまで迫っている。睡魔はどんな場所でも、どんな状況でも襲ってくるものらしい。

 睡魔。……魔。

 魔法……。その不思議な力から、なにかしらの影響を受けて、自分はこんなところに導かれたのだろうか……。まったく無関係ということはなさそうだが……。

 いつしか、まぶたを持ち上げる力も失せ、思考力も途切れ途切れとなっていった。ついに抗うことができなくなり、光来は、今日二度目となる眠り、闇の世界へと落ちていった。

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