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銃と魔法と臆病な賞金首  作者: 雪方麻耶
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急転直下

「おまっ!?」


 光来が止める間もなく、少女は発砲した。やはり、光の輪が広がって消えた。先程、自分が撃った時にもしやと思ったが、これは魔法陣だ。

 発射の瞬間、銃口から魔法陣が広がり、そして拡散して宙に消えているのだ。


「おまえっ、なんてことをっ」

「アウシュティンよ。これで目覚めるわ」

「なにを言っている? ネィディの仲間かっ!?」

「あなたこそ、なにを言ってるの?」


 光来は捕まえようと飛び掛ったが、少女はなんなくかわした。足がもつれて、ギムの上に覆いかぶさるように倒れこんだ。頬にぐにっとした柔らかい感触が伝わった。

 光来は、まだ経験はなかったが、この心地よい柔らかさは……。

 慌てて顔を離すと、ギムと目が合った。


「…………」


 色んなことがいっぺんに起こったので、整理が追いつかない。しかし、ギムが助かったらしいのだけは、理解できた。


「ギム!」

「なにすんのよっ!」


 リムの容赦ない平手打ちが、光来の頬にクリーンヒットした。

 気持ちよかった柔らかい感触が、衝撃とともに吹っ飛んでしまった。

 ギムは上半身だけ起こし、光来を睨んでいた。胸を押さえ、顔を真っ赤にして震えていた。カウボーイハットが脱げ、長い髪が風になびいている。


「ギム……。君、女の子……?」

「人が眠り込んでいるのをいいことに、なにしようとしてたの? べ、ベルトまで外して」


 ひどい勘違いだが、状況的に言い訳が難しい。どもってしまって言葉が出ない。光来の慌て振りが、ギムの想像を進行させてしまったようだ。ますます頬を赤く染めた。なんとか弁明しなくてはならない。


「ギム、君は気を失っていて、今、女の子が……」

「女の子? どこに?」

「あ、あれ?」


 ギムに弾丸を撃ち込んだ少女は、いつの間にか姿を消していた。周りを見渡しても、見つけることはできなかった。


「と、とにかく、女の子がいきなり君に発砲したんだ。そしたら、目覚めて……」


 光来が拙い説明をしていると、背後からどよめきが上がった。

 反射的に振り返ると、倒れているネィディの周りに、人が集まっていた。

  光来の放った弾丸は、ネィディの額を撃ち抜いたようだ。だが、銃創は見られない。額から煙のような黒いモヤが立ち上っているので、そこに命中したのだと分かったのだ。そして、もう一つ分かったことがある。ネィディは既に事切れている。目は驚愕のまま見開かれ、瞬きもしない。肌の色は青ざめを通り越して白くなっていた。遠目からでも断言できるほど、死んでいることは疑いようがなかった。

 その光景に、ギムは驚愕し目を見開いた。


「あなた……、トートゥの弾丸を使ったの?」

「トートゥ?」


 戸惑っている間にも、畏怖と侮蔑が入り混じった視線が集まっていた。ギムまでも、青ざめた表情で口を押さえている。光来はホルスターに収まっている銃を見た。


「それ……、私の……?」

「さっ、さっきの、やつら……、死んでないよな? これは、これって、麻酔銃じゃ……?」


 慌ててガンベルトを外して、ギムに返した。動揺のあまり、上手く言葉が繋げられない。

 これは、麻酔銃ではなかった? 撃つ瞬間、リボルバーであったことから、もしかしたらと疑念を抱いたが、やはり、これは殺傷能力がある本物の拳銃だったのか?


 人を撃ち殺した……?


 詰まっていた栓を、強引に引き抜き中身をぶちまけたように、頭の中にいきなり現実が襲い掛かってきた。

 体全体が震え始めた。まるで真冬に薄着で外に放り出されたようだ。歯がカチカチと鳴り、立つこともままならない。どんなに力んでも止めることができなかった。


「キーラッ!」


 ケビンが憤怒の形相で近づいてきた。


「ワタシが責任者を務めた決闘で、なんてことをしてくれたんだっ! 勝者なんてとんでもないっ。君は犯罪者だ」


 光来は、事態が飲み込めないのと体の震えで、言葉が出てこなかった。しかし、頭の中では必死の叫びを上げていた。

 犯罪者だって? これは双方納得しての決闘だったはずだ。あんたが声も高らかに宣言した、正式な決闘だ。俺はちゃんとルールを守った。銃に手を掛けたのはコインが着地してからだったし、一発しか撃たなかった。ネィディを殺してしまったが、それは不幸な結果というやつじゃないのか? 


「よりにもよって、トートゥの弾丸を使うとは。いったい、どこで手に入れたんだ」

「……だから」


 やっと声が出た。出たというより、搾り出したといったほうが適切かも知れない。それほど、苦しげな声だった。


「だから、トートゥってなんなんだ? いったいおまえらはなんなんだよっ? 弾丸撃ち込まれて目が覚めたり、普通に死んじまったりっ? わけが分かんねえよっ」

「わけが分からないのは君の方だ。とにかく、保安局まで来てもらおう」


 光来は、保安局というのがどういう場所かは知らなかったが、警察署のようなものを想像した。つまり、今の自分は凶行を犯して警官に連行される犯人と同じということなのか? 改めて、自分の立場を思い知らされ、全身が痺れたような感覚に襲われた。


「こっ、こっ……断るっ!」


 力が入らなかった。しかし、こんなわけの分からない状況で捕まるなんて理不尽過ぎる。笑う膝のまま、無理やり立ち上がった。


「俺はきちんとルールを守ったっ」


 叫ぶと同時に駆け出した。


「あっ」


 ギムが叫んだ。しかし、構っている余裕はなかった。

 さっき、ケビンは犯罪者と言った。このまま連行されたら、捕まってしまうということだ。捕まった後、どうなる? 裁判に掛けられて、監獄行き? そもそも、この世界に裁判なんてあるのか? 問答無用で刑に処せられてしまうんじゃないか?

 人々の驚愕と嫌悪の目に晒されながら、光来は必死に脚を動かした。とにかく、一度身を隠すのだ。どこに行けばいいかなんて、皆目見当もつかなかった。しかし、この場から少しでも離れて、人のいない場所に落ち着きたかった。

 背後で銃声が響いた。


「がっ⁉」


 背中肩甲骨辺りに衝撃が走った。地震が起きたように足元が覚束なくなり、躓いて前のめりに倒れた。今度は受け止めてくれる体もなく、地面に顔面から落ち、したたか打った。不思議と、痛みはそれほど感じなかった。ただ、視界が徐々に暗くなっていくのが、ものすごく怖かった。

 俺、死ぬのか? こんなわけの分からない世界で、わけの分からない状況で……? 誰でもいい。俺を元の世界に帰してくれ。あの、臆病者でも生きていける世界に……。

 薄れゆく意識の中、指先に温もりを感じた。


「うう……」


 顔を上げ、目の前にしゃがんでいる人物を見た。ギム・フォルクだった。ギムが俺の手を握ってくれているのだ。幼い頃に手を引いてくれた母親の手を思い出させる、優しい手だった。


「…………」


 こいつ、いや、この娘に振り回されちゃったな……。

 後悔とも安堵とも言えない、なんとも表現しづらい気持ちが胸中を満たし、光来の意識は完全に途絶えた。

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