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銃と魔法と臆病な賞金首  作者: 雪方麻耶
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決着

 冷えていく頭の中で、光来は今さっき見た光景を繰り返していた。

 ギムの銃は、おそらく麻酔銃みたいなものだ。撃たれたところで、ネィディが死ぬことはない……と思う。しかし、あいつのはどうだ? ギムはまだ生きているが、あの苦しげな表情。かなり危うい状態なんじゃないのか? ……当たり所が悪ければ死ぬんだよな。

 それでも、心が乱れることはなかった。これから撃ち合うというのに、朝起きたら顔を洗うのと同じように、それがごく自然な行為に感じた。

 光来の落ち着き具合が気に入らないのか、ネィディが舌打ちをした。


「ケビン保安官! さっさと始めようぜ」

「よし、二人とも構えたまえ」


 ネィディが腰を落とし、両足を広げた。さっき、ギムが見せた構えと似ている。しかし、ギムの洗練された構えとは似て非なるもので、美しいとは思わなかった。

 光来も見様見真似で同じように構えた。ネィディの眉間に皺が寄ったが、知ったことではない。こっちは、なりふり構っている余裕などない。


「それでは、これより決闘を開始する。これは双方の同意のうえで成り立つ正式な決闘であり、

どのような結果になろうと、その責任は自らが取る。この場に立ち会ったすべての者は、公平な目で見届け、証人になってもらいたい」


 ケビンが高らかに宣言し、コインを親指で弾いた。キンッと音が響いた。くるくる回転しながら上昇していく。力の限界点に達し、今度は重力に引っ張られて、太陽の光を反射させながら落ちてくる。ひどくゆっくりと落ちてくる。まるで、時間の流れが極端に遅くなったようだ。

 光来は妙な頭の冴えを感じた。そして、突然、一つの疑問が湧き上がった。

 俺が、今腰に収めている銃は麻酔銃だと思ったが、型はリボルバーと呼ばれる回転式拳銃だ。普通、麻酔銃にしろ、テーザー銃にしろ、自動式拳銃のような形をしているはずだ。俺は、なにかとんでもない勘違いをしてるんじゃないのか?

 答えが出る前に、コインが地面に着地した。

 想像していた通りの、乾いた金属の音だ。五百円硬貨をアスファルトで舗装された道に落とした時のような、人々が敏感に反応する音だ。

 響いた金属音を聞いた。聞いたと思ったときには、既に終わっていた。

 ネィディは仰向けになって地面に倒れており、光来の拳銃からは、光の輪の残滓が消えていった。

 光の輪……。やっぱり出た。今度ははっきりと模様が見えた。

 放電なんかじゃない。さっき見たものとは、色も模様もぜんぜん違う。ギムが撃ったときは青白い光が放たれたのに、今のは、漆黒の光だった。黒い光なんてあるのか? なんなんだ? これは……。

 静かだった。時間の流れがおかしくなった次は、音がこの世からなくなってしまったのかと思うくらいの静寂だった。いや、一つの音だけが、耳の穴から脳に直接入り込んでいる。この乾いた金属音……。そうだ、これは、コインが地面に着地して奏でた音だ。残響がはっきりと聞こえた。


「…………」


 うあっと歓声が轟いた。一旦引いた波が再び押し寄せるような、凄まじいエネルギーの流れだった。

 そして、光来にも止まっていた時間が再び流れ、消えていた音が戻ってきた。


「すげえっ! ネィディを倒した!」

「インチキだ! あの野郎、コインが落ちる前に抜きやがった」

「いや、落ちるまではちゃんと構えていた。俺は見ていた」

「ケビン保安官、どうなんだよぉっ」


 まるで蜂の巣をつついたような騒ぎだ。放っておいたら、収拾がつかなくなる騒ぎに発展しそうな勢いだった。


「静かにっ! 静かにぃ!」


 ケビンが両手を掲げて鎮めた。

 まるで訓練されていたかのように、物見高く集まった人々が一斉に口を閉ざした。そして、ケビンの発言を待った。


「キーラは、間違いなくコインが着地してから、銃を抜いた。この目ではっきり確認していた。間違いない。決闘責任者の立場に誓って断言する」


 大声で言った後、「その後は、早すぎてよく見えなかったが」と呟くように付け加えた。


「この勝負、キーラの勝ちとするっ」


 ケビンの高らかな宣言に、人々は再び湧いた。

 周囲の騒ぎをよそに、光来はなかばパニックに陥りかけていた。

 人を撃った。先程までの落ち着きが嘘だったように、心が乱れた。呼吸が苦しく、心臓がやかましいくらい波打った。

 指先が硬直し、銃を離すこともできなかった。まるで他人の手のようだ。感覚が覚束なくなっており、引っぺがすように指を広げた。

 真っ白だった頭に、徐々に思考が回復してきた。

 ……そうだ、ギムを医者に診せなければ。


「なんで、すぐに撃ってあげないの?」


 光来のすぐ脇で声がした。いつの間にか、一人の少女がギムを見下ろして立っていた。この喧騒の中、一人だけ妙に冷めた口振りで、光来は異質なものを感じた。

 驚いたことに、少女はギムに銃を向けていた。

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