7:始動+1章まとめ
「結局、このまま城にいたらまずいからって担当のお医者さんと魔術師さんたちが逃がしてくれたの。その後は自分を鍛えながら隠れてた、知っての通りね」
紗江の乾いた小さな笑い声が夜に溶けていった。
良太が聞いた、紗江が召喚されてからの話はあまりに重く、あまりに酷く、悲しいものだった。
どうしてこの人にそんな仕打ちができるんだ!
憤りの気持ちが溢れてくる。それと同時に、多少は似た境遇の自分にも思うことがある。
どうして自分たちが選ばれた。
どうしてこんな仕打ちを受ける。
勝手に呼んだくせに、人は責任ひとつ取っちゃくれない。
「…帰りたいですね」
自分も、紗江も。
少なくともこの世界より元の世界の方がきっと救われる。
「そうね…あぁ、そういえば秋野くんのペンダント、あれに元の世界への帰り方とか載ってないのかな。すごい知識量みたいだし」
「えっいや…それはどうでしょー…」
ほぼ幽閉に近い状態だった先代たち。
結界術や魔法に関しては膨大な知識があるが、そんな先代たちでもどうにも帰れなかったのだから、ない可能性の方が高いだろう。
それでも一応、ペンダントに魔力を流し、確認に入ってみた。
『地球への帰り方。帰還方法について』
ペンダントはふわりと光るが、なにも言葉が浮かんでこない。
ここで知識があれば、良太も、あっあるな、という感覚がある。
やはり、あるわけがなかった。
「すいません、やっぱな、」
言葉を最後まで言い切らないうちに、ペンダントから一筋の強い光が放たれ、宙に板を作った。
そこには日本語やら英語やらが色々飛び交っている。
かろうじて読めた日本語に、良太は目玉が飛び出る思いをした。
<解除語"地球""帰還"を認識>
<封印解除、データベース展開中>
<地球への帰還方法に関連の可能性ありの勇者遺跡・祝祭群等を表示>
「…これは」
2人の目の前に現れたのは、大陸の地図だった。
赤い点がいくらかあり、どこの国の、何代目の勇者がなにをした、などが側に表示されている。星のマークがついているのは最重要の場所だろうか。
先代たちの地球帰還の執念を感じると共に、いったいこれほどまでのデータベースをどうやって作り上げたのかという謎が浮かぶ。
「秋野くん」
「うす」
「君の先代たちは、みんなとてもいい人だったのね」
「…はい」
亜矢以外にはあったことがないが、心から誇りに思った。
頷いた良太を、紗江は柔らかい笑顔を浮かべて見ている。
「私、あなたと先代さんたちに賭けてみたい」
「え?」
「この星のマークと…赤点もいけそうね、回ってみない?とりあえず、東の端っこの方から」
紗江は不敵に笑っている。
どこかふっきれたようだ。そういう良太もどこかふっきれた。
周りに翻弄され続けるのはおもしろくない。自分から動く時がきたのだ。
「…うん、じゃあ、行きますか!」
<1章完>
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まとめ
▽秋野良太<結界の勇者>
アッシュヴァルの8代目勇者として召喚される。
地球では大学生。
▽井口紗枝<???の勇者>
ブリアードの勇者で、クラスまるごと召喚された。
諸々の不運に見舞われ、いったいどんな特化能力を持った勇者かはわからない。
高位の悪魔にひどく呪われている。
出会った2人は地球帰還のために進み始める。