21:転移と転生
いったんここで書き貯め分が終わりです。
明日には4部終わりまで載せれたらと思います。もう少しおつきあいください。
旅立ちを決意してからちょうど3日後。
リミアスタはようやく、宝物・水鏡で知らべた尋常ではない魔力の持ち主を擁する一行を発見した。
発見、したのだが。
「…」
スライムのようななにかがいる。
プルプルして透けているのでスライムの系統だとは思われる。しかし、足が生えているのだ。
ニョキッと大地に立ち、スライムの体を支えている。
このような魔物は聞いたことも、見たこともない。シェイダも知らないようで、どこか警戒しているようだ。
「あの、どちらさまでしょうか?」
黒髪の青年が声をかけてきた。とてつもなく、警戒されている。
そう、リミアスタとシェイダは、空の高みからこの一行を見つけ、あわててレイデアンをその間近に降下させたのである。不審に思われるのも無理はない。
リミアスタは非礼を詫び、名乗ろうとしたが、金髪の、導師服を着た人物に止められる。
「失礼を。私は聖モードゥック教の導師リオネルと申します。レイデアンに騎乗されているということは、尊き方であらせられますか?」
「あ、その、こちらこそ失礼しました。私はアルサラス第4王子、リミアスタと申します」
そう告げると、なぜかさらに向こうの一行に警戒された。
まずいと思い、リミアスタは慌てて頭を思いっきり下げる。
こういうときは、まず誠実に要件からだ。
「旅の方々、失礼を承知でお願いします!どうか母を助けてください!」
どうやら効いたようだった。
助けるとは?と、警戒されながらも少しこちらの話に興味を持ってくれたようだった。
「我々はしがない旅の者です。王妃さまを救うような力は、」
「あります!あるはずです!」
そんなときだった。
「ほう?」
どこからともなく、この場にそぐわないような不快な声が響く。
それは、がざがざと荒れているようで、虫の羽音のようにも聞こえる音だった。しかしながら人語で、その違和感が不快で恐ろしい。
シェイダが目に見えない速さでリミアスタの前に立つ。
「厚顔無恥の王族が、我らに頭を下げる日がくるとは…面白き世になったものよ」
一体どこから、こんな恐ろしい声が?!
見れば、旅の一行はスライム?を驚愕した顔で見つめている。
まさか。
「どうせ勇者の遺物でも用いて、我らのことを探したのであろう。未だに勇者の残滓に頼りきりとは」
よく血を絶やさずにいられたものよ、脆弱で愚かな一族が。
そう嘲りながら、スライムはプルプルと小刻みに震えている。
そう、嘲ってきているのだ。見た目に合わない、恐ろしい声が頭に直接響いているのを、リミアスタはようやく理解した。
殺される。そう思うに足る威圧だ。
足は震えて使い物にならない。
そして、スライムが何を言っているのかわからなかった。
少なくともリミアスタの父が王位についてからは、国が揺らぐようなひどい事件や汚職といったものは起こっていないはずである。このスライムはなにのことを言っているのだろうか。
いや、しかし。
わからなくても、恥を晒してでも、リミアスタはやらねばならないことがある。
「なんと罵られようと、構いません!なにかしたのなら謝ります!だからどうか、話を聞いてください…!」
頭をもう一度、身体が折れるくらいに下げた。
誰も、なにも反応しない。谷から流れてくる風の音だけが鳴っていた。
「…おかしいと思えば、お前も欠けているな」
「え?」
「リョータ、この小童もおそらくは欠けている。確認せよ、なにか出るやもしれん」
「マジか」
欠けている。
スライムの言葉がわからない。というか、それより強く引っかかる言葉があった。
『リョータ』
その響きは、この世界のものではない。
それがリミアスタにわかるということは、もしかして、もしかすると…だが。
「あなたは、日本人?」
「あ、なんか話早そう」
黒髪の青年が目を丸くしたものの、それなら好都合とばかりに手を叩いた。つまり、日本人らしい。と、なると、こちらの世界の基準からすれば、彼は異世界人で、つまりは勇者である。
「ちょっと護衛の人外して話したいんだけど、どう?」
「ぜひ!」
傍のシェイダに大丈夫だからと伝え、リミアスタは慌てて青年の元へ駆け寄る。すると、青年は少女を連れて一行から離れ、瞬時に高度な結界を構築した。なんの効果があるかはわからないが、なんとなく、害はないという気がする。
「多分、そっちの護衛さんに聞かれるとまずい話もあるだろうから、遮音とか隠蔽の結界貼らせてもらいました」
「あ、ありがとう!」
リミアスタは青年の気遣いに激しく感謝した。だってシェイダは、異世界は日本でいうところの忍者のようなものである。読唇術や遠くの音を聞くのなんて朝飯前なのだ。
「じゃ、自己紹介。おれは秋野良太。良太でいいですよ」
「井口紗枝。紗枝で」
「私はリミアスタ。その、先程言った通り、アルサラスという国の第4王子やってます」
王族の身分をさっさと明かすと、2人の驚き具合はとても少なかった。事前にバレているのもあるが、この2人が異世界人だということもあるだろう。
ほうほう、と頷く良太。
対して紗枝はどこか警戒しているようだった。
「あなたはおれらのこと、日本人ってすぐわかったのはなんでですか」
核心にいきなり触れてきた。リミアスタとしてもそちらの方が話が早くてありがたい。
「えーと、私、日本で生きてた頃の名前は里美っていいました。苗字はまだ思い出せなくて…」
「生きてた?」
怪訝そうな紗枝の声に、リミアスタは気を引き締める。そう何度も向き合いたいことではないが、話す必要がある。
「多分、あっちで死んで、こちらに転生?したみたいで」
え、と声をもらし、2人の日本人は目を丸くした。
「おかげで日本人離れした見た目になっちゃいました」
少しショックが和らぐようにと冗談を交えると、2人は少し落ち着いたようだった。
今度はこちらの番だ。異常に高い魔力を持つ2人は、きっとこの2人に違いない。それを確認して、できれば国へ連れて帰らねばならない。
「2人は、勇者ですよね」
「一応は」
反応がよろしくない。なにかあるのだろうか。
「…おれたちは、ある理由があって、召喚国から抜け出して旅をしてるんですよ」
「え!?」
勇者とは、召喚国のために力を振るう。なので国も最高の保護を行う。
そんなかんじなので、旅行以外で国外になど出ることはない…はずだ。
「帰りたいんですよ、地球に。ってか、日本に。だからその方法を探してる」
あぁ、そうだ。確かに当たり前だ。
リミアスタはおそらく、死んでこちらに生まれ変わっている。未練はあるが、終わったものはどうしようもないので、帰りたい云々はでてこなかった。
しかし、彼らは生者だ。生きたままこちらに来ている。…というか、連れ去られてきている。
リミアスタの思考回路は里美と合一したことで随分と変わってしまった。
先日まで、勇者は召喚国に尽くし、召喚国に骨を埋めるのが当たり前だと思っていただろうが、今は違う。
「そう、ですよね」
「今それ聞いて、あなたはどうします?おれらの召喚国に通報しますか」
おそらくは、影で指名手配されている勇者を。
「いや、できる限り守りましょう。といっても、第4王子だし、この歳だし、できることは少ないけれど…」
「それはどうして?」
紗枝という少女がまっすぐにリミアスタを見ている。まだ疑いを持っているようだった。
「…私は向こうでは多分もう死んでて、未練はあるけどどうにもならない。けど、あなた達は違う。まだ希望がある」
「そう、なりますね」
「私だって、同じなら帰りたいと思うから。誘拐されたら、普通帰りたいと思うのは当たり前です」
紗枝がほうっとため息をついた。
◆
「最初見たとき冗談かと思ったよ」
「でしょう?今でもそう思います」
盛り上がる紗江とリミアスタの2人を置いて、良太はスライムに経緯の説明をする。
スライムはフレンドリーだが、真に言葉をかわすとなると良太に一番食いつきがいいのだ。
今はそこに、王子の代わりにシェイダが参加している。いくらリミアスタの中身が大人でも、魔法知識は年相応である。より詳しい人間のが事は早く進むので参加している。
シェイダから王妃の症状、王子が見たという心臓の魔法刻印について話を聞き、スライムはプルプル震えた。
「詳しいことは見なければわからぬ。推測できる可能性はいくつかあるからな。しかし我らでなんとかできよう」
「我ら、といいますと」
スライムだけではないのかと尋ねるシェイダにプルリと揺れて、スライムが良太の頭の上に飛び乗る。
「どわ!?」
「我が弟子のリョータもなかなかのものでな。まぁ、アルサラスへ着けばそれも自ずと分かるだろう」
「はい」
普通に返事をしたシェイダに、スライムが突然プレッシャーを向ける。
「ちょっ、先生!?」
「愚かなことを繰り返すのならば、二度と祝福はないと思え」
小さな声なのに、聞くだけでこの世の全てが闇に包まれたような、正体不明のものが目の前にいるような―――絶望が、そこにいるような。
身体が底冷える、人のものでない、虫の羽音が嫌に重なったような、不快な声がまた響いた。その声に、シェイダは腰が抜けたようにへたりこむ。
良太はなぜか、それがやばい声であることはわかっているものの、ぜんぜん怖くなかったので平気だった。不思議だ。
「…先生やっぱり魔王じゃね?」
「そうかもしれぬな」
クク、と震えて笑うスライムに良太はため息をつく。
一行は足早にアルサラスの王宮を目指すことになった。




