13:物理聖職者
このままではらちがあかないので、第3部をガンガン投稿します。
明日までに第3部終わりまであげるので、どうぞおつきあいください。
遅くなって申し訳なす。
導師リオネルは修練の旅で通行中のゾイライント峡谷で、偶然にも年若い少年と少女がモンスターに襲われているのを見かけた。しかもこの地域一帯ではかなり強い部類に入る、ゾイラントツベインと呼ばれる鳥型の魔物である。
あのようなか弱い少年少女が襲われている!
これも神のお導きかとリオネルは心から思い、走って現場に近づきながら戦闘準備を行う。「悩めるもの、病めるもの、困難に立ち向かうものに手を差し伸べよ」と、聖典の一節にもあるし、教義を差し置いてもそういった人々をリオネル自体が助けたいからだ。
おお、聖モードゥック様、彼らを、そして私をお守りください!
心の中で強く祈りながら駆ける。
「逃げろ!」
少年少女に声をかけた。そして法力をもって身体を強化して空へ跳び、魔法詠唱をしながら、ゾイライントツベインの頭めがけて拳を振り落とす!
残念ながら急所の頭は回避され、翼に攻撃が炸裂した。殴った衝撃と共に、ゾイライントツベインの全身に氷の魔法がはじけていく。
「くっ!」
回避されたからか仕留めそこなった。
ゾイライントツベインは通ったダメージのため、ふらふらと高度を下げていく。
その下に佇む影が2つ。少年少女の避難が間に合っていない。
このままでは2人の上に魔物が落ちてしまう!
空中を蹴るという魔法はないので、一旦地面に降り立つまでは同じ位置から宙を落ち続けるままである。
今ゾイライントツベインの脅威をとりさるには遠距離魔法が一番だが、リオネルは遠距離魔法が苦手だった。とてつもなく苦手だった。しかしやらねばならぬ。
間に合えーーー!
そう思って略式詠唱を始める。
「え」
そんなリオネルの見つめる先、ゾイライントツベインが動かなくなった。宙で、身体をばたつかせて固まっている。いくら鳥型の魔物とはいえ、おかしい宙への止まり方だった。
おかしい。
その言葉が頭を駆け巡る頃、突然風の音が聞こえ鳴り響いた。なにかが、高速で射出されるような。
その瞬間、ゾイライントツベインの腹部に小さいとはいえど風穴が開いたのである。そして、間違いなく息絶えたゾイライントツベインは、ふよふよと静かに地上に降下していった。
まるでなにかに乗っているように。
リオネルはそれを監察しつつ、先ほどの少年少女のもとへ降下する。
「あっ、助けていただいてありがとうございました」
少女が慌てたようにこちらへ頭を下げた。
「いえ、当然のことをしたまで。しかし…この分では別に私の助けもいらなかったようですね」
降下後のリオネルが見たのは信じられない光景だった。見目麗しい少年が結界術を使っている。対象はゾイライントツベイン。
しかも、聖モードゥック教でしかるべき教育を受けているリオネルだから正確にわかる、とんでもないレベルのもの。すわ聖モードゥックの再来かと一瞬思ったが、術式等が伝来してるものとかけ離れているので違うだろう。残念なことに。
そして剣を携える少女が、先ほどゾイライントツベインの風穴を開けたのだろう。対空攻撃もできるとなると、それなりの訓練を積んでいるとみる。
見た目15歳前後に見合わない強さだ。
「…お節介だとは思いますが、かなり強いとはいえど、この峡谷に長居しない方がよいでしょう。ここは古の魔王の居城があったとされる場所なので」
よければ近くの街まで共に行こうかと声をかけると、やんわりと断られる。
「ここに用があるので大丈夫です」
「なんと」
それはまた。
しかしこれだけ強ければなんとかなるかもしれないとリオネルが思っていると、ようやくゾイライントツベインを降ろした少年がかけよってきて、少女に魔物の処理を頼む。
少女と少年が交代した。少年はどうやら魔物避けの高度な結界を張ったあと、こちらに声をかけた。
「助けてくれてありがとうございました」
「そう思ってもらえたらなによりです」
「えーと、あなたはどこかの宗教の人…ですか?」
宗教の人という独特の言い回しを不思議に思うが、確かに旅装法衣を纏い、いかにもな聖句や刻印を刻んだナックルガードを装備しているのだから、なにかを信仰していると取られるのは当たり前だろう。
「いかにも。聖モードゥック様にお仕えしている、導師リオネルと申します」
「おぉ…ええと、古くからある教会で…勇者を祀ってるんでしたっけ?」
「おや、よくご存知でしたか」
聖モードゥック教が第一に守ることは、まず迷える民を守り癒すこととされている。なので救いの手を差し伸べるのはよいが、進んで布教を行うこと、政治や商売に関わることはよくないとされている。
その教えを現代まで守り抜いているため、大きな教会ではあるのだが、実は敬遠されがちだ。
そもそも他の教えも相まって、一般の人々には、変な宗教ではないけれど変わっていると思われがちなのが悩みどころである。
こんな年若い少年が接する機会は少ないものなので、知っているとは驚きだった。
「なら古代の…初代勇者の話も詳しいですか?」
「それはもちろん。聖モードゥック様も初代勇者の1人ですからね。興味がおありで?」
こくりと少年が頷き、この魔王城であった古の戦いのことが知りたいのだと話す。
「それだけ古い教えが残ってるのなら、なにか言い伝えもあるかと思って」
「なるほど。ううむ、しかし残念ながら断片的にしか残ってないのです」
「断片的?」
「えぇ。聖モードゥック様は記録を残したがらない人だったとも、記録を消したとも伝えられていまして。数が少ないのですよ。これでも他の初代勇者様方よりはとても多いのですが」
「ほほー」
布教はよくないとされる聖モードゥック教会において、迷える民自らが興味を示してくれるのは嬉しい機会である。思わず熱をこめて語ってしまうリオネルであった。
「そうだ!聖モードゥック様の記録簿には空白部分とともに、不思議な印がいくつか刻まれているのですよ」
「印?」
「そう。魔力をわずかにもっているので、聖モードゥック様の隠されたメッセージが込められているとかなんとか。ただ、模様がどういう意味を持つかは当時から誰も知らないと言われているので解析できていないのです」
その模様を地面に指で描く。四角い図、突き抜ける線を組み合わせた模様。
ほんの少しだけ魔力が込められたそれは、どんな効力を持つのか未だ解明されていない。
なにかの実験とか、ページからページをめくるための省略術式なのでは?などと言われているが、リオネルはそのどれもが違う気がすると個人的に思っている。
「ブホッ!」
「!?」
サリサリと地面に模様を描き終えると、突然少年が吹き出す。見た目に合わない豪快な吹き出しっぷりもそうだが、聖人の遺した模様を見て吹き出すとはなにごとか。
まさか…知っているのか?はるか900年前に記された模様の意味を。
「も、もしやこれは異国では有名な笑える模様で?」
「あ、まぁ、そんなかんじです」
「意味を!意味をわたくしめにお教えください旅の少年よ!」
「や、そ、そんな頭下げないでいいですよ!いやぁしかし…」
少年は、ようやくその笑みを苦笑に変えていた。と、すればこの模様はそこまで深刻な模様でなかったということだろうか。
「い、いったいこの模様はなにを」
「これはね、模様じゃなくて、文字なんですよ」
「も、文字!?」
まるで図形にしか見えない、これが?
「黒歴史と、書いてあります」
「黒歴史!?ま、まさかそれは封印された闇の、」
「いや、そうじゃなくて。ええと、リオネルさんは何歳です?」
「私ですか?今年で28になりますが…」
「大人になって振り返ると、14くらいのときに、若さに任せてかっこつけたり妄想に浸ってめっちゃ恥ずかしいことした記憶は?」
「…まぁ、なくはないというか…」
正直思い出したくないのだが。しかしそれがなんだというのだろう。
「それが黒歴史の指す意味ですよ。空白と一緒にだったら、多分なにか書かれてたのを封じちゃったんじゃないすかね」
実物見ないとわからないけどと言う少年の言葉に、リオネルは撃沈した。まさか聖モードゥック様のはずかし~い記録を隠蔽した模様だったとでもいうのか。
あぁ、聖モードゥックよ…私は教会の皆になんと伝えればよいのですか…。
落ち込むリオネルに、少年は慌てたように声をかけてくる。
「そ、それで!ここ近くの魔王城で聖モードゥックも含めた初代勇者たちが戦ったんすよね!?」
「あ、はい。苛烈を極めたそうでして。記録によれば魔王城自体が魔力生産機となっており、魔王を倒すより先に城を壊す必要があったと伝わっております」
「へぇ」
「だから倒しても倒しても魔物が湧く…そんな状態であったと伝わっていますね。いち早くそのことに気づいた初代勇者様方は、城の核を抜き、魔王を打ち倒したとされています」
「なるほど」
「そしてその後、平和な世界を整え、楽しんだとも」
そう告げると、少年が疑問があるとでもいうように眉をひそめた。
「楽しんだことについて、具体的には残ってないんすか?」
「あぁ。まずは旅行をしたそうです。聖モードゥック様自身の記録より、旅行記の方が実は多いので間違いないと言われています。あとは…異界渡りですね」
「異界渡り!?」
「驚くのも無理はありませんね。もう失われた魔法だそうですから」
「失われているんすか…」
「はい。聖モードゥック様がご存命の頃はその失われた魔法を用いて、ある程度行き来していたそうなのです。現在では不可能とされています」
わなわなと、目の前の少年が震えている。
一体どうしたのだろう。
そう思った矢先、彼は叫んだ。
「紗枝さん!手がかり見つけた!」




