プロローグ2
どしゃ降りの雨で目が覚める。
生暖かい雨だ。
寒くはない。
家の隙間から入ってきて隙間から流れていく。
水に沈まぬように家には無数の隙間がある。
起きてすぐに箱を開ける。
この箱は、水を溜めておく箱だ。
家には食料と道具を入れておく大き目の箱と、この水を入れておく小さ目の2つの箱がある。
この中の水は昨日寝る前に全部捨てておいた。
箱の中の水は1週間はもつ。
しかし、念のため水は毎日のように変える。
毎朝どしゃ降りの雨が降るからだ。
これで毎朝目を覚ます20分ぐらいで雨はやむ。
その後は、太陽が昇りただ暑くなっていく。
外に出ると体の水はすぐに乾く。
玄関はしばらく開けっ放しにしておく。
そうすると1時間ほどで家の中も乾く。
今日は西からの風が強いようだ。
家の中に戻り箱を開ける。
中から青い布とロープを取り出す。
それらを担いで屋根に登る。
30分ほどでがっちりと帆を張ることが出来た。
風の向くまま家は、この世界の上を流れる。
景色は変わらない。
俺を囲む時間もいっしょだ。
家に戻り糸を取り出す。
その糸からさらに針の付いた糸が何個も垂れ下がっている。
その一つ一つの針に、昨日釣った魚の開きをむしり取ってつけていく。
家の風上に立つ。
糸を流していく。
水面に吸い込まれるように糸はどんどん流れていく。
全部流し終わると、糸の端をしっかりと杭に結び付ける。
屋根の上でぼんやりと空を見上げる。
何処までも青い。
1日の内で、何かを考えるって事はほとんどない。
1日の仕事をただこなしていくだけだ。
静かに時間だけが流れていく。
時には、家族の事や友達の事を思い出す。
それは、こうしてボーッとしている時に多い。
7年?8年前だろうか?ずいぶん前から地球の温暖化の話はされていた。
俺もそういった事に多少、感心はあったが「そんなのはずいぶんと先の話だ」とタカをくくっていた。
高校3年の夏休み、俺は受験生活に入る前に高校時代のでっかい思い出を一つ作って置こうと中国へ旅立った。
これといって目的があるわけではなかった。
ただ高校時代のバイトで貯めた貯金では物価の安い中国へしか行けなかったのだ。
初めての海外旅行のため日本に近いからという理由もある。
一人旅は何度かした事があるが国外は初めてである。
パスポートの取得やら何やらと準備は2ヶ月も前からはじめた。
家を出るときは、結構晴れ晴れとした気持ちで出発するが、帰ってくるとひどく懐かしく感じる。
それが旅ってモノだ。
トラベラーズチェックと寝袋というひどい軽装で、俺は家を出た。
その他の荷物や着替えは現地で買う事にした。
それら一つ一つが思い出として残るからだ。
「それじゃ!」
「ほんとに大丈夫なの?飛行機のチケットは持った?羽田まで一人で行ける?」
お袋は、心配のしすぎだ。
さっきからこの調子だ。
別にたった2週間の旅行だ1年2年と向こうに行くわけではない。
「いってらっしゃ~い♪お土産楽しみにしてるね~♪」
妹は素っ気無いもんだ。
まあ、2週間も兄貴がいないって事よりもこいつにとってはお土産の方が気になるらしい。
オヤジはただ俺をじっと見送るだけだ。
夏の暑い日差しの中、俺は中国へ向かって旅立ったんだ。
思い出を作るために・・・