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プロローグ1

「暑い・・」

 俺は独り言をつぶやきながらウキを見つめる。

 ウキといっても木をただ細長く削ったものだ。

たいして、役には立たない。

頼りになるのは、指先の感覚だけだ。

指先に神経を集中させる。

待つ。

ひたすら待つ。

日差しが強くなってきたようだ。

 ふと、見渡すと相変わらず一面の水平線だ。

ここ一週間ほど自分以外の人間にはあってない。

それが、寂しいとも思わなければ誰かに会いたいと思う事もない。

ようは慣れだ。

ここ3・4年は、そういう生活が続くいている。

 あまりの暑さのため口の中が乾いてくる。

歯に唇の裏側がくっついてくる。

喉には、この生暖かい空気を吸うとき、それが流れ込んでくる感触が伝わる。

水はある。

限界まで喉の渇きを我慢する。

そうして一口だけ口の中に含むのだ。

決して飲むという事はしない、それは祝いのときだけだ。

含んでその水が自然と胃に落ちていくまでずっと待つ。

そうして、水の有難さ、生命の喜びを知る。

水はある。

ただそうするだけだ。

生きてる事を確認し喜びを味わうためにそうする。

 相変わらずウキはぴくりともしない、指先には風が竿をなでていく感覚だけが伝わってくる。

目をつぶる、聞こえるのは風の音だけだ。

肌を刺すような太陽の光を、より敏感に感じ取る。

こうしているとウキなんて必要ないんじゃないか、とさえ思えてくるが、ようは気分の問題だ。

 ほのかな振動。

風とは違う。

もっと違うものだという事は、今までの経験が教えてくれる。

1度目のノックからしばらくして2度目のノックがある。

かすかにウキが沈んだようにみえる。

そして静寂がある。

何も起こらない。

待つ。

1分、2分、竿を握る手に汗がにじんでくるのが分かる。

もう風の音は聞こえない。

 突然ウキが見えなくなった。

竿と一緒に体まで引っ張られる。

思わず立ち上がる。

竿がしなる、折れちまいやしないかと心配になるほどだ。

糸は太い大丈夫だ。

竿を手繰り寄せる。

こういう時は、いつもそうしてきた。

竿を先端まで引き寄せ、さらに糸を握る。

今度はそいつを手繰り寄せる。

ゆっくりと慎重に・・・・

  青に黒の縦縞が一本ある。

名前は知らない。

何度か釣った事のある魚だ。

自分の腕ぐらいの長さだ、大きい魚と言っていいだろう。

頭をかじる。

口の中に塩の味と一緒に液体が流れ込んでくる。

ゆっくりと何回も噛む、何度も何度も噛む。

そうしていると喉の渇きは潤う。

 一時間ほどかけて青い魚を食べた。

これで今日の食事は終わりだ。

 夕方までに釣った魚は開いて家の外に吊るしておく。

一週間前に吊るした魚は干物となり、保存用として家の中の箱にしまう。

 家の中は薄暗く、俺は外にいる方が好きだ。

家の中には箱が二つだけだ。

箱は、椅子にも机にもベットにもなった。

ベットに寝転ぶと目をつぶった。

外で寝る事は家を失う事を示す。

薄暗い家の中はキライだがしょうがない、

丸太の間から入ってくる風を楽しみながら深い眠りに落ちていった・・・・・・




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