入学まで その2
集まった子どもたちが待つ中、試験官らしき集団が現れた。
「はいはい、こちらに注目!」
試験官の中から若い女性が前に出て、軽快な声を上げた。
「私は、今回の入学試験総監督を務めるアマンダといいます。皆さん、よろしくね。解っている子も多いと思うけど、念のため、試験について説明するわね」
アマンダは全員を見渡し、説明を始めた。
「試験は全部で三つ。武力、学力、面接。もちろん学校に入ってから学ぶけれど、全員受け入れるわけにはいかないから。それぞれの試験が百点満点。合格は二百十点。つまり、それぞれ七十点が合格の目安ね」
アマンダはいったん区切り、会場を見渡す。全員真剣な顔で聞いているのを確認して、満足そうに頷いた。
「たとえ僅かでも魔力がある子は、それだけで加点が六十点。つまり魔力持ちは積極的に入って欲しいということね。あと、それぞれ零点から百点の間で採点するけど、武力と学力については、受ける前に放棄すると、三十点とみなします。つまり、残りの二科目でそれぞれ九十点が必要になるわね。おすすめはしないけど、どちらかを放棄して合格できるなら、自身の力量を見極められる点が評価できるとも言えるわ」
ここまでで質問は? とアマンダは問いかけ、ちらほらと手が上がり、質疑応答がやり取りされる。
マリスやカティに質問はなく、黙って待っていると、近くから声がかかった。
「君たち、どこの家の者だい? こんな試験、意味がないのに教師も大変だね」
マリスが顔を向けると、目鼻立ちのすらりとした男の子がにやついている。ねっとりと上から下まで眺める目線に、カティは気持ちが悪いと感じた。
「百九十三番です。こっちの赤い髪の方は、百九十四番」
え? とあっけに取られた男の子に対して、マリスは迫力のある笑顔を向ける。
「試験の前に、家柄は関係ないとお伺いしましたわ。あなたがたとえ、そう、今年受験すると噂の王子殿下だったとしても、名乗りあうのは受験番号で十分です」
言われた直後は、ぽかんとしていたが、すぐに顔を赤くして反論してきた。
「ぶ、無礼者が! そこそこ仕立ての良さそうな服を着ているから、この俺が声をかけてやったというのに!」
「大声を出さないでください。今は質疑応答中ですわ。周りの方のご迷惑になります」
怒鳴り声などどこ吹く風といった風情で、マリスは大声をたしなめた。
「お嬢様、すでに十分ご迷惑です」
カティにため息混じりに言われて、マリスは今気付いたとばかりに周りを見渡し、注目を浴びているのを驚いたような表情を一瞬作ってから、慌てて笑顔を浮かべてお辞儀をする。
「皆様、失礼いたしました。お気になさらず、続けてくださいな」
しかし、男の子は冷静ではいられなかったのだろう、わめきながらマリスに掴みかかってきた。
「ふざけるな! 貴様、許さん!」
「短気。自制力が無さ過ぎる。動きが遅い」
周りに聞こえないようにぼそぼそと駄目出しをしつつ、掴みかかってくる手を逆に掴みながら、体重を乗せている踏み込んだ足を刈ると、男の子は勢いよく転がった。
「これに懲りたら、大人しくしてなさい」
「お嬢様、多分無駄ですよ。怒り心頭といったところですね」
カティが冷静に分析する。聞こえていないのだろう、起き上がって再び襲いかかってきたところを、試験管らしき男が止めに入った。
「そこまでだ。残念ながら、きみは入学するのに適していないようだね。確かにきみにとって意味のない試験になった。お帰りはこちらだよ」
試験官の男は腕をつかむと、無理やり男の子を引きずっていく。
「俺を誰だと思ってるんだ! ダール子爵家の長男だぞ……」
引きずられながら、わめいているが、試験官は頓着せず、部屋から出ていった。
「さて。いくつか面白いことを言ってたわね」
よく通る声で、アマンダが注目を集める。
「試験に意味がないなんて、地位によって合格が買えるつもりだったのかしらね。ここで宣言しておくけど、たとえ誰であろうと、点数が足りなければ不合格よ。たとえ、王子殿下でもね」
アマンダは全体を見渡していながら、王子殿下のくだりでマリスを見てにやりと笑う。マリスは、アマンダ以外からも視線を感じていたが、素知らぬふりでやり過ごす。
「彼は不合格。たとえ戻ってきて試験を受けても、面接で零点になるからね。魔力も無かったし。もちろん、そちらの絡まれた方は気にしなくていいわよ。加点も減点もないから、安心しなさい」
そこでいったん区切り、あらためて全員に確認を取った。
「じゃあ、そろそろ準備はいいかしら」