1話 冒険者に、俺は、なる
そして、召喚されてから1ヶ月が経った。1ヶ月の成果としては、日常会話程度の言葉を覚え、飯と寝床の確保ができたことである。
これもひとえに「ドラクロア食堂」のおやっさん、シー・ドラクロアさんのおかげである。
言葉もわからず、後ろだても何もない俺を皿洗いとしての仕事を与えてくれ、見返りに店の残り物を恵んでくれた。
言葉が通じるようになり、意思疎通がはかれるようになると、路上で寝泊まりしていた俺に、店の入り口で寝泊まりできるように便宜を図ってくれた。
もともとドラクロア食堂はおやっさん一人で切り盛りしていて人手が足りなかったため、タイミングとしてはちょうどよかったようである。
ちなみに、名前はこっちで不自然でない名前が良かったため、おやっさんに名前はないとつたえたら、オークスという名前をくれた。
異世界での実家と思えるくらい、この食堂は俺にとって大きなものになっていた。
なんとか恩返しできたらいいな。
「おやっさん、ちょっといい?」
今は夜の営業時間が終わり、店を閉め、二人ともまかないの焼き飯をたべている。
「ん?なんだ、改まって。」
「この1ヶ月、おやっさんにはいろいろよくしてもらったから、すごく感謝してる。おやっさんがいなかったら最悪、餓死してたよ。本当にありがとう。」
「いや、俺の方も人手が足りなくて困っていたところだ。それになかなか物覚えもよくて、1ヶ月でここまでのもんになれたのもオークスが努力したからだろう。」
「それで、ここまで良くしてもらったおやっさんには悪いと思ってるんだが、俺の夢は冒険者なんだ。」
「そうか。冒険者として生活するには、かなりきついとは聞くが・・・・。まあ、お前なら大丈夫だろう。こういうのは、早い方がいい。明日にでもギルドに行ってこい。」
「ありがとう。まだ当分はここで仕事をつづけながら冒険者をすることになると思う。」
「わかった。そういうこころづもりでいるよ。とりあえず、明日は店の方はいいから、ギルドでいろいろきいてきな。」
ちなみに、この世界のことやギルドや冒険者という職業がどんなものかはおやっさんにやお客さんに聞いたりして、情報を得ていた。
この世界には、魔物が存在していて、たまに人々に被害を与えている。
国営のギルドは主に魔物や関連の依頼を斡旋しており、登録料を払い登録すると、斡旋した依頼が受けられたり、魔物の情報が得られる。意外なことに、後見人や市民権は必要ないようである。魔物の対策になりふりかまっていられないということかもしれない。
ギルドに登録し依頼で生計を立てているものを一般に冒険者とよばれているみたいだった。
また、商人ギルドや職人ギルドなど、民営のギルドも存在していて、それらは相互扶助の役割を果たしているという。そのうち、必要にかられたら、お世話になるのもしれない。
「うーん。職業どうしよう。」
おやっさんと話した次の日、俺はギルドの資料室で一人悩んでいた。
おやっさんから登録料を借り登録はもう済ませたのだが、受付の人の話によると、冒険者は職業を決めないと普通はやっていけないらしい。なぜなら、職業による能力上昇の恩恵は多大であり、職業なしでは魔物にたちうち出来ないからである。
この世界でいう職業とは、いわゆる剣士や魔法使い、狩人などがあり、それぞれにレベルがあるそうである。そして、もともとの特性に、レベルに応じた職業の補正がかかり、実力や性質が決まると言われている。
ちなみに今の俺に職業はない。転職するには、ギルドにいる神官に頼むことで、現在転職可能な職業になれるらしい。
神官に聞くと、今俺が転職可能な職業で、冒険者として役立ちそうなものは、剣士、魔法使い、槍使い、弓使い、盗人などたくさんあった。
そして、今悩んでいるのは、魔法使いと盗人である。ファンタジーだから魔法を使いたいのはやまやまだが、素早さに補正がかかる盗人で、敵を翻弄して攻撃するというスタイルも捨てがたい。
「すいません。魔法使いに転職したいです。」
結局、魔法の魅力には勝てず、魔法使いになることにした。まあ、合わなければ一応後で転職することも出来るらしい。
無事、魔法使いに転職することができ、晴れて冒険者の仲間入りをした。
明日は魔法になれることから始めよう。