プロローグ~中断五日目~
次の日、俺は朝からパチンコ屋に行った。
何しろ一日15万だ。行くに決まっている。
昨晩は耳鳴りが煩くてよく眠れなかった。
ゴウゴウといつまでもホールの騒音は耳に纏わりつき、真っ暗な部屋で目を閉じれば鮮やかな台のピカピカ光が網膜に焼きついていて眩しい。
何より胸の高鳴りが凄かった。早くまたパチンコに行きたい。あの台に座って虎戦士の戦いを応援したい! 明日の事を考えるとウズウズとしてたまらなかった。
こんな気持ちは久しぶりで、朝方になってようやく眠りについた。
そういえば捌かれたカジキが「大当たりぃぃいいいい」と叫んでいる夢をみた。
何故今まで行かなかったのだろうか。
何故義姉はパチンコを禁止にしたのだろうか。
ハンドルを握ってボーっとしてるだけの簡単なお仕事だ。このご時勢、こんなに簡単にお金が手に入るのだから、皆すればいいのだ。パチンコを。
母親には古本屋に行くと言ってある。
朝になり、俺は開店30分前に到着するように家を出て、ガッシャガッシャと自転車を漕いだ。
*
近所のパチンコ屋では既に大勢の人が並んでいた。
どうやらこの店は地域で人気らしく、朝はクジ抽選をして入店する順番を決めるらしい。
自転車を自転車置き場に停め、意気揚々と店員からくじを貰い、列に並んだ。
列にて開店の時間をわくわくと待つ。
昨日は昼からやって15万。今日は朝からなので最低でも20万円程は貰えるだろう。
何を買おうか、とりあえずPSVITAは買っておこう。
そんな事をニヤニヤと考えていた。
が、しかし何かがおかしい。
しばらくして気付いたが列に並んでいる人達、全員目が……死んでいる。
子供の様に目をキラキラと輝かせているのは俺一人だった。
何故20万円も貰えるのに心が躍らないのだろうか…。不思議でたまらなかったが、この人達にとってすでに"これ"は平凡な日常であり、もはや当然の事なのだろう。
俺の前にいるおじさんもその一人で、ため息を何度もつきながら缶コーヒーを両手で握り締めていた。
チラチラと見ていることに気付いたのか、目が合ってしまったので頭を下げて挨拶をし話しかけてみた。
「あのー、おじさんはよく来るんですか?」
「え? ああ、うん。まぁ毎日来てるよ」
常連であった。やはり先輩である。
「最近はねぇ、釘を閉めてるから全然出さないんだよね…」
おじさんはそう呟いた。
なんとこのおじさんは20万では足りないらしい!なんて向上心だ…。
「す、すごいですね…」
そう言うとおじさんは照れて持っていた缶コーヒーをくれた。
*
「あんた運いいねぇ。この番号なら新台に座れるよ。よかったね」
どうやら俺の引いた台は良番らしい。
新台というのはその名の通り最新の台で、当たりやすくなっているようだ。しかし俺は昨日と同じ虎戦士の台に座ろうと思っているので、別にどうでも良かった。
おっさんの初恋の話で盛り上がってると、開店を告げる店員の声が聞こえた。
続々と人の列が店に吸い込まれていく。俺とおっさんも吸い込まれた。
皆、列をなして進む。
きっと向かう先は新台なのだろう。しかし俺は虎戦士の台に座りたいので、皆が右に曲がるところを左に曲がった。
するとおっさんは驚きながら全身で、
(そっちじゃないぞ!!)
というジェスチャーを送ってきた。
新台なぞに興味は無い。なにしろ俺はこの店では新入りだ。あまり調子こくと先輩に絞められる恐れもあるので、今日は新台じゃなくてもいい。それにパチンコの仕組みもよくわかっていないので、もうちょっと知ってから新台にはチャレンジしたいと思った。
(俺はこっちでおk!)
という意味のジェスチャーをおっさんに送り、俺達は別れた。
そして遂に、昨日の虎戦士の台前に辿り着いた。
武者震いが止まらない。
虎戦士のシマは誰も居なかった。
そういえば台が他と比べちょっと汚い。きっとだいぶ前の台なのだ。
席に座って一息つく。
液晶画面には「GARI~XX~」のでもが流れていて、「待っていたぜ」と虎戦士に言われた気がした。
さぁ、始めよう。
俺はハンドルを強く握り、ギュイッ! と玉を飛ばした━━━
*
結果は五万円の勝ちだった。
なんだか今日は虎戦士の調子が悪いようで、最初のモンスターに勝ってもすぐに次のモンスターに負けてしまっていた。
そういえば剣の輝きが昨日に比べて鈍かった気がする…
きっと昨日の閉店後、虎戦士は剣を磨くのを忘れていたのだ。激戦に疲れ、手入れをせずに寝てしまったのだろう。それはしょうがない、また明日頑張ればいい。
キリのいいところで少し早めの夕方に席を立ち、景品を交換して家に帰った。
昨日に比べて少ないが、それでも5万円だ。
財布には昨日と足して20万ものお金が入っている。
二日で20万だ。パチンコとはとても良いものだ。